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第7章
48.これで解決したから
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(うっ……)
見た目は粘度の高いスライムといったところだ。玉の中でダプンと波打つそれは、あまりに醜悪だった。浄化の炎を駆使するフレイムが創った玉の中に入れられているので、まだ抑えられている方なのだろうが。横目で見遣れば、リーリアも顔色を失くしている。ランドルフたちが一切動揺を見せていないのはさすがだ。
『ああ、これだよ!』
イデナウアーが安堵の声を上げた。玉の中を矯めつ眇めつし、愁眉を開いて頷く。
『幸福の――いや、不幸の神器で間違いない。良かった、きちんと回収してくれたんだ。ありがとう』
「アマーリエ大神官の聖獣たちは優秀ですねー」
「今度お礼にお肉を持って行きますわ」
ランドルフとルルアージュが喜色を浮かべている。フルードとアリステルも肩の力を抜いていた。レシスの血を持つ者として気にしていたのだろう。
なお、彼らが案じるばかりで何もしなかったわけではない。昇天したフルードたちは地上のことには不干渉の身になっており、ランドルフたちは神々への謁見をしていたため、動きたくても動けなかっただけだ。あの時すぐに行動を起こすことができたのは、ド下手な仮病で寝込み、フリーになっていたアマーリエだけだった。
「私もホッとしております。イデナウアー様、これでご懸念は解決しました。と言いますのも、不幸の神器だけでなく、神罰についても対処はできているのです」
アマーリエはレシスの末裔たちを取り巻く状況を説明した。
フルードとアリステルは既に昇天し、ランドルフとルルアージュは神罰から解放されている。アマーリエには守護神が付き、エイリーは守護の玉で処置が完了しており、エイールとサード家の面々は潜伏期間なので実害はない。次世代も胎児の内に神罰の因子を消してしまうという方法を見付け出している。
「ですので、イデナウアー様は何もご心配なさることはございません」
『そう……』
イデナウアーが、つと力を抜いて呟いた。
『じゃあボクの心配は杞憂だったわけかぁ。眠っている間も気になって気になって仕方なかったんだ。シュナ様のお怒りが深くて、ボクが頼んでも神罰を取り消して下さらなかったから……』
遊運命神と同格の主神を頼ろうと思っても、毒神は当時の時点で入眠していた。愛し子が呼べば覚醒してくれるだろうが、このような用件で叩き起こすわけにもいかない。他の神に取りなしを願ったとしても、遊運命神の怒りには頷ける理由があるため、むしろそちらの味方をされかねない。
思い悩んだ末に精神的負担が溜まったイデナウアーは、そのまま入眠した。人間で例えれば、泣き疲れて眠ってしまったようなものだという。神の眠りは人間のそれとは意味も位置付けも異なるため、あくまで例えだが。
「畏れながら大神様に申し上げます」
ここが正念場だ。アマーリエは腹に力を入れて声を発した。
「御身の御懸案事項は解消いたしました。この事実をもちまして、神官エアニーヌと神官慧音を、生き餌から解放願えませんでしょうか」
迂遠な言い回しではなく、ズバリと切り込む。神格を抑えている聖威師が、天の神を相手に、それもアマーリエと同格の神位を持つ相手に腹の探り合いをして勝てるはずがない。無意味な行為は最初からしない方が得策だ。ランドルフたちもアマーリエと動きを合わせて低頭する。
(悪神の生き餌だけはどうにか免除できれば……)
『んー、そうしても良いよ』
返事はあっさりとしたものだった。
『この子たちがどこまで堕ちてくか愉しみで、好きにやらせてたけど……当代の聖威師たちを攻撃する様子を見て、これは駄目だと思ったんだ。神器はあげた物だから、自由意思で使うこと自体は問題ないけど、同胞に刃を向ける行為は論外だってね』
駒としてすら不要、他を探すことにしようと思っていたと、玉を転がすような声が語った。さらに言えば、懸念していた不幸の神器の件が解決したため、代わりの駒を探す必要自体がなくなったという。
「大神様におかれましては御気色よろしからぬご様子、神官たちの醜行を深くお詫び申し上げます」
アマーリエは棒読みで陳謝した。何故に襲撃された側の自分が謝罪せねばならないのかと思うものの、この場には主任神官も副主任神官もいないのだから仕方がない。天の神と聖威師、両者の間に横たわる明確な力関係と立場の差を、如実に実感する。
『だーからー、駄目だと思うならその時点で止めてくれっての』
『ふふふ、悪神に正論を言っても無駄だがね。生き餌の愚挙を眺めて楽しむことと、同胞を攻撃したことを不快に思うのは別なのだから』
『どこが別だよガッツリ繋がってんだろ!?』
『だから悪神に理屈を並べても無意味なのだよ。はぁ……いい加減に学習してくれ、フレイム』
『何で正論言ってんのに説教されなきゃなんねーんだよ!』
馬鹿にした目でこれ見よがしに溜め息を吐く邪神に喰ってかかるフレイム。
『え、焔神様、邪神様……』
『はいはい、二神ともそれくらいにしましょうね』
双方の間でオロオロするフロースを見かねたか、花神が仲裁に入る。フルードとアリステル、アシュトンは慣れた様子で傍観しており、毒神とイデナウアーは何がおかしいのかケラケラ笑っている。聖威師たちはシラッとした顔で愛想笑いを貼り付けていた。
見た目は粘度の高いスライムといったところだ。玉の中でダプンと波打つそれは、あまりに醜悪だった。浄化の炎を駆使するフレイムが創った玉の中に入れられているので、まだ抑えられている方なのだろうが。横目で見遣れば、リーリアも顔色を失くしている。ランドルフたちが一切動揺を見せていないのはさすがだ。
『ああ、これだよ!』
イデナウアーが安堵の声を上げた。玉の中を矯めつ眇めつし、愁眉を開いて頷く。
『幸福の――いや、不幸の神器で間違いない。良かった、きちんと回収してくれたんだ。ありがとう』
「アマーリエ大神官の聖獣たちは優秀ですねー」
「今度お礼にお肉を持って行きますわ」
ランドルフとルルアージュが喜色を浮かべている。フルードとアリステルも肩の力を抜いていた。レシスの血を持つ者として気にしていたのだろう。
なお、彼らが案じるばかりで何もしなかったわけではない。昇天したフルードたちは地上のことには不干渉の身になっており、ランドルフたちは神々への謁見をしていたため、動きたくても動けなかっただけだ。あの時すぐに行動を起こすことができたのは、ド下手な仮病で寝込み、フリーになっていたアマーリエだけだった。
「私もホッとしております。イデナウアー様、これでご懸念は解決しました。と言いますのも、不幸の神器だけでなく、神罰についても対処はできているのです」
アマーリエはレシスの末裔たちを取り巻く状況を説明した。
フルードとアリステルは既に昇天し、ランドルフとルルアージュは神罰から解放されている。アマーリエには守護神が付き、エイリーは守護の玉で処置が完了しており、エイールとサード家の面々は潜伏期間なので実害はない。次世代も胎児の内に神罰の因子を消してしまうという方法を見付け出している。
「ですので、イデナウアー様は何もご心配なさることはございません」
『そう……』
イデナウアーが、つと力を抜いて呟いた。
『じゃあボクの心配は杞憂だったわけかぁ。眠っている間も気になって気になって仕方なかったんだ。シュナ様のお怒りが深くて、ボクが頼んでも神罰を取り消して下さらなかったから……』
遊運命神と同格の主神を頼ろうと思っても、毒神は当時の時点で入眠していた。愛し子が呼べば覚醒してくれるだろうが、このような用件で叩き起こすわけにもいかない。他の神に取りなしを願ったとしても、遊運命神の怒りには頷ける理由があるため、むしろそちらの味方をされかねない。
思い悩んだ末に精神的負担が溜まったイデナウアーは、そのまま入眠した。人間で例えれば、泣き疲れて眠ってしまったようなものだという。神の眠りは人間のそれとは意味も位置付けも異なるため、あくまで例えだが。
「畏れながら大神様に申し上げます」
ここが正念場だ。アマーリエは腹に力を入れて声を発した。
「御身の御懸案事項は解消いたしました。この事実をもちまして、神官エアニーヌと神官慧音を、生き餌から解放願えませんでしょうか」
迂遠な言い回しではなく、ズバリと切り込む。神格を抑えている聖威師が、天の神を相手に、それもアマーリエと同格の神位を持つ相手に腹の探り合いをして勝てるはずがない。無意味な行為は最初からしない方が得策だ。ランドルフたちもアマーリエと動きを合わせて低頭する。
(悪神の生き餌だけはどうにか免除できれば……)
『んー、そうしても良いよ』
返事はあっさりとしたものだった。
『この子たちがどこまで堕ちてくか愉しみで、好きにやらせてたけど……当代の聖威師たちを攻撃する様子を見て、これは駄目だと思ったんだ。神器はあげた物だから、自由意思で使うこと自体は問題ないけど、同胞に刃を向ける行為は論外だってね』
駒としてすら不要、他を探すことにしようと思っていたと、玉を転がすような声が語った。さらに言えば、懸念していた不幸の神器の件が解決したため、代わりの駒を探す必要自体がなくなったという。
「大神様におかれましては御気色よろしからぬご様子、神官たちの醜行を深くお詫び申し上げます」
アマーリエは棒読みで陳謝した。何故に襲撃された側の自分が謝罪せねばならないのかと思うものの、この場には主任神官も副主任神官もいないのだから仕方がない。天の神と聖威師、両者の間に横たわる明確な力関係と立場の差を、如実に実感する。
『だーからー、駄目だと思うならその時点で止めてくれっての』
『ふふふ、悪神に正論を言っても無駄だがね。生き餌の愚挙を眺めて楽しむことと、同胞を攻撃したことを不快に思うのは別なのだから』
『どこが別だよガッツリ繋がってんだろ!?』
『だから悪神に理屈を並べても無意味なのだよ。はぁ……いい加減に学習してくれ、フレイム』
『何で正論言ってんのに説教されなきゃなんねーんだよ!』
馬鹿にした目でこれ見よがしに溜め息を吐く邪神に喰ってかかるフレイム。
『え、焔神様、邪神様……』
『はいはい、二神ともそれくらいにしましょうね』
双方の間でオロオロするフロースを見かねたか、花神が仲裁に入る。フルードとアリステル、アシュトンは慣れた様子で傍観しており、毒神とイデナウアーは何がおかしいのかケラケラ笑っている。聖威師たちはシラッとした顔で愛想笑いを貼り付けていた。
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