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第7章
49.神官という存在
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「愛し子の誓約を撤回していただけるなら、最悪は免れるかな」
「悪神の生き餌と神罰牢は回避できそうですね」
当利と祐奈が光明を見たような顔で呟き、同じ表情をしたランドルフとルルアージュ、リーリアも同意している。もちろんアマーリエもだ。
(元聖威師に片っ端から声をかけた件と、神々に侵入確認の手間を取らせた件は、ランドルフ君たちとリーリア様がお詫び巡りをして神々の御機嫌を取ってくれているわ)
派手さはなくとも、彼らが今まで地道にこなし続けてくれていた行動は、とても大切で重要なものだ。聖威師とて神官であり、神官とは文字通り神に仕える官だ。神に寄り添い、神を最優先に行動することが基本中の基本。目立たずとも、日々コツコツとそれらを継続することで、紡がれていく交流の糸は確固たる信頼となる。
ランドルフたちは、神官にとって最も必要なことは何か、第一にやるべきことは何かを、正しく理解している。それは高位の主神の力に頼る一発逆転や、有色の聖威を駆使した力業ではないことも。もしも彼らを何もしていない役立たずと感ずる者がいれば、その者は神官とは何たる存在であるかの本質を理解していないのだ。
だが、仮に無能と思われていたとしても、当のランドルフたちはそれを歯牙にもかけないだろう。彼らが心を向けるのは思慕する神々に対してなので、人間にどう評価されていようと気に留めることはないからだ。
(聖威師を襲撃したことに関しては、私たちが主神を宥めれば良いもの。神鎮めも聖威師の務めの一つよ。狼神様の神域に被害を出したことは、今回に限り見ないことにして下さっているのだし)
むろん、どれも無罪放免になるはずはない。天にも規律がある以上、少なくない罰が与えられるはずだ。
だが、神罰牢行きだとか悪鬼邪霊に引き渡されて地下行きだとか、そこまではいかないだろう。戦神と闘神の反応を見る限り、神々の多くは失笑しているだけでそもそも相手にしていない。当波や佳良たち先達神が怒っているのは、元聖威師であり神官の在り方をよく知っているからこそだ。
(天界に踏み入ったことも、毒神様が自身の御神慮で門を開かれたのだから、無断侵入ではなく神に招かれたと解釈ができるわ。強引に天への臨時通路に乗り込んだことは、地上で起きたことだから神官府で処罰を決めると申し出れば……)
天界に踏み入った後、元聖威師に声をかけまくったのは明確な落ち度だが、それも先述のように聖威師たちが尻拭いをしている。
(神器も勝手に毒神様の物を持ち出したのではなく、下賜された品を使っただけだと言うし。これなら……いけるかもしれないわ。人間の常識の範疇に収まる刑罰で留められるかもしれない。けれど、後一つ大きな問題があるわ)
アマーリエの思考を読み取ったように、リーリアが些か血色の良くなった美貌を向けて来た。
「これは予想外に穏当な解決ができるかもしれませんわね。厳しい罰を与えることは確定とはいえ、あまりに酷すぎる内容は如何なものかと案じておりましたのよ。13歳といえば、成年相当を経験した私の感覚では準大人ですが……世間一般ではまだ子どもですものね」
そう告げた彼女は、しかし、すぐに声のトーンを落とす。
「ただ、神の愛し子を騙った咎が残っておりますが……」
「ええ。問題はそこよ、リーリア様」
(こればかりは、勝手に御名を使われた花神様のご心証次第で沙汰が決まるわ。相手にする価値なしと取り合わない神もいるけれど、自分はそうではないとご自身が仰せだったのだし)
神格持ちを詐称することは禁忌だ。無視して捨て置くか、激怒して罰を与えるかは、個々の神の気質によって異なる。だが、仮に前者のスルー対応を受けられたとしても、禁忌を犯した事実が消えるわけではないため、死後は高確率で地獄行きとなる。
横目で花神を窺うと、彼の女神は満開の笑顔を浮かべ、仲裁の礼を述べるフロースと話していた。そこにアシュトンも加わり、三神で楽しげに会話をしている。機嫌は非常によろしそうに見えるが、それは同胞とお喋りしているためだろう。エアニーヌたちに対してどのように出るかは分からない。
胸の中でわだかまる不安を抱きつつ、アマーリエはエアニーヌと慧音に歩み寄った。未だ体の時間停止を解かれていない2人は、ただ固まっている。
「聞きなさい、神官エアニーヌ・スージー・アウスト、神官楷園慧音」
ピクリとも動かない――動けない両者を眺める。まだ子どもの域から脱していない、細い体。育った環境が良くなかったために、思考が歪んでしまった若人たち。健全に育っていれば、彼らの行く手には限り無い未来と希望が広がっていたはずなのに。
(せめてもう少し、更生施設に入る時期が早ければ。もしくは、再教育を受ける期間があと少し長ければ……)
思っても詮無いことを、それでも考えてしまう。自我が芽生え育つ乳幼児期と少年期に置かれていた環境の要因は大きい。幼子にとって親や周囲の大人は絶対の存在だ。子どもは彼らの庇護なしでは生きていけないのだから。そんな大人たちにそろって甘やかされ、肯定されまくりながら成長すれば、こうもなるだろう。
……一応、どれだけ虐待されようとも自分というものを揺らがず確立し、己を見失わなかったフルードとアリステルという例外もいるが。不動の狼神と中立の葬邪神をも虜にした彼らは、常人と同枠で考えてはいけない異次元の化け物なので、また別だ。
「あなたたちが花神だと言っていた神は、悪神よ。毒の花を司る女神、毒華神様なの。神官ならばこの意味が分かるわね。あなたたちは愛し子ではなく生き餌なのよ」
二対の瞳が大きく揺らぐ。今までの会話からいい加減察知していたはずだが、それでもこうして断言されるとショックが大きいはずだ。もし彼らが動ける状態であったなら、大粒の涙を流しているだろうと感じた。
「悪神の生き餌と神罰牢は回避できそうですね」
当利と祐奈が光明を見たような顔で呟き、同じ表情をしたランドルフとルルアージュ、リーリアも同意している。もちろんアマーリエもだ。
(元聖威師に片っ端から声をかけた件と、神々に侵入確認の手間を取らせた件は、ランドルフ君たちとリーリア様がお詫び巡りをして神々の御機嫌を取ってくれているわ)
派手さはなくとも、彼らが今まで地道にこなし続けてくれていた行動は、とても大切で重要なものだ。聖威師とて神官であり、神官とは文字通り神に仕える官だ。神に寄り添い、神を最優先に行動することが基本中の基本。目立たずとも、日々コツコツとそれらを継続することで、紡がれていく交流の糸は確固たる信頼となる。
ランドルフたちは、神官にとって最も必要なことは何か、第一にやるべきことは何かを、正しく理解している。それは高位の主神の力に頼る一発逆転や、有色の聖威を駆使した力業ではないことも。もしも彼らを何もしていない役立たずと感ずる者がいれば、その者は神官とは何たる存在であるかの本質を理解していないのだ。
だが、仮に無能と思われていたとしても、当のランドルフたちはそれを歯牙にもかけないだろう。彼らが心を向けるのは思慕する神々に対してなので、人間にどう評価されていようと気に留めることはないからだ。
(聖威師を襲撃したことに関しては、私たちが主神を宥めれば良いもの。神鎮めも聖威師の務めの一つよ。狼神様の神域に被害を出したことは、今回に限り見ないことにして下さっているのだし)
むろん、どれも無罪放免になるはずはない。天にも規律がある以上、少なくない罰が与えられるはずだ。
だが、神罰牢行きだとか悪鬼邪霊に引き渡されて地下行きだとか、そこまではいかないだろう。戦神と闘神の反応を見る限り、神々の多くは失笑しているだけでそもそも相手にしていない。当波や佳良たち先達神が怒っているのは、元聖威師であり神官の在り方をよく知っているからこそだ。
(天界に踏み入ったことも、毒神様が自身の御神慮で門を開かれたのだから、無断侵入ではなく神に招かれたと解釈ができるわ。強引に天への臨時通路に乗り込んだことは、地上で起きたことだから神官府で処罰を決めると申し出れば……)
天界に踏み入った後、元聖威師に声をかけまくったのは明確な落ち度だが、それも先述のように聖威師たちが尻拭いをしている。
(神器も勝手に毒神様の物を持ち出したのではなく、下賜された品を使っただけだと言うし。これなら……いけるかもしれないわ。人間の常識の範疇に収まる刑罰で留められるかもしれない。けれど、後一つ大きな問題があるわ)
アマーリエの思考を読み取ったように、リーリアが些か血色の良くなった美貌を向けて来た。
「これは予想外に穏当な解決ができるかもしれませんわね。厳しい罰を与えることは確定とはいえ、あまりに酷すぎる内容は如何なものかと案じておりましたのよ。13歳といえば、成年相当を経験した私の感覚では準大人ですが……世間一般ではまだ子どもですものね」
そう告げた彼女は、しかし、すぐに声のトーンを落とす。
「ただ、神の愛し子を騙った咎が残っておりますが……」
「ええ。問題はそこよ、リーリア様」
(こればかりは、勝手に御名を使われた花神様のご心証次第で沙汰が決まるわ。相手にする価値なしと取り合わない神もいるけれど、自分はそうではないとご自身が仰せだったのだし)
神格持ちを詐称することは禁忌だ。無視して捨て置くか、激怒して罰を与えるかは、個々の神の気質によって異なる。だが、仮に前者のスルー対応を受けられたとしても、禁忌を犯した事実が消えるわけではないため、死後は高確率で地獄行きとなる。
横目で花神を窺うと、彼の女神は満開の笑顔を浮かべ、仲裁の礼を述べるフロースと話していた。そこにアシュトンも加わり、三神で楽しげに会話をしている。機嫌は非常によろしそうに見えるが、それは同胞とお喋りしているためだろう。エアニーヌたちに対してどのように出るかは分からない。
胸の中でわだかまる不安を抱きつつ、アマーリエはエアニーヌと慧音に歩み寄った。未だ体の時間停止を解かれていない2人は、ただ固まっている。
「聞きなさい、神官エアニーヌ・スージー・アウスト、神官楷園慧音」
ピクリとも動かない――動けない両者を眺める。まだ子どもの域から脱していない、細い体。育った環境が良くなかったために、思考が歪んでしまった若人たち。健全に育っていれば、彼らの行く手には限り無い未来と希望が広がっていたはずなのに。
(せめてもう少し、更生施設に入る時期が早ければ。もしくは、再教育を受ける期間があと少し長ければ……)
思っても詮無いことを、それでも考えてしまう。自我が芽生え育つ乳幼児期と少年期に置かれていた環境の要因は大きい。幼子にとって親や周囲の大人は絶対の存在だ。子どもは彼らの庇護なしでは生きていけないのだから。そんな大人たちにそろって甘やかされ、肯定されまくりながら成長すれば、こうもなるだろう。
……一応、どれだけ虐待されようとも自分というものを揺らがず確立し、己を見失わなかったフルードとアリステルという例外もいるが。不動の狼神と中立の葬邪神をも虜にした彼らは、常人と同枠で考えてはいけない異次元の化け物なので、また別だ。
「あなたたちが花神だと言っていた神は、悪神よ。毒の花を司る女神、毒華神様なの。神官ならばこの意味が分かるわね。あなたたちは愛し子ではなく生き餌なのよ」
二対の瞳が大きく揺らぐ。今までの会話からいい加減察知していたはずだが、それでもこうして断言されるとショックが大きいはずだ。もし彼らが動ける状態であったなら、大粒の涙を流しているだろうと感じた。
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