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第8章
1.いつかどこかの場所で、誰かが
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◆◆◆
コロン、と二十面体のダイスが転がった。広さのある室内を、湿った笑声が席巻する。
『どれ、儂はこっちに賭けようかの。勝ち確というやつじゃよ』
『では私はこちらに。一番の安全牌ですからね』
『おや、良い駒を取られてしもうた。仕方ない、大穴でこちらにするか』
『老爺はこの前大勝ちしたではございませぬか。今回はこちらに譲って下さいよ』
円卓に集う影が身を揺らすたび、あっはっはっはという声が大気に参じる。
『いつもながら愉しいのぅ』
『しがない隠居の身となれば、これくらいしか娯楽がない』
『じゃが、最近はとんとマンネリ化しておる』
顔を付き合わせて囁く者たちがいる部屋の奥には、豪奢な座が設えられている。主のいない空っぽの席。
『そうじゃ、あちらの賭けはどうなっておるかの。ほれ、例の兄弟の……』
『兄優位に決まっておりますでしょう』
『ちっ、使えん弟よのぅ。ほんに中途半端じゃ。あの兄弟はどちらも根が情深い』
『さて、このまま順当に行くか、最後にどんでん返しが起こるか』
手の中でダイスを弄びながら、卓上を見つめて目を輝かせる影たち。だが、その中の一つがつと黙り込み、小さく呟いた。思わず言葉がまろび出てしまったとでも言うように。
『……これで終われるだろうか』
全員の顔から笑いが消えた。その眼に宿るのは、濃い疲労感の滲む静謐な意思。数拍の黙の後、別の影が応える。
『ああ。この面子がそろった今ならば、きっと。だから最後の最後まで愉しもう』
頷き合った影たちが、再びヘラヘラと笑い出す。束の間だけ垣間見せた凛烈さが霧散し、享楽の気配に転じた。
重苦しさと異様な熱気を孕んだ暗部の溜まり場では、今日も密やかな賭博が行われている。
◆◆◆
『たっだいまー。おー、天界だぁ。なっつかしい我が家よ~。ま、懐かしいってもー、ちみっと200年ぶりくらいなんだけどぉ?』
ひょこひょこ、ぴょんぴょん。
細身の体が軽やかに跳ねるたび、頭頂にピコッと立つ一条の浮き毛が左右になびく。浮き毛の先端には、一枚の薄羽が斜めに乗っかっていた。少年と青年の淡いにある面差しが、美しい顔を彩っている。
『あーあーぁ~』
神秘的な輝きに満たされた周囲をグルリと見渡し、痩躯の影が盛大に肩を竦めた。大きく口を開いて嘆息すると、鋭い牙が覗く。
『うっわー、なーんか気配がゴチャゴチャじゃーん。そっか、眠り神が結構起きたんだっけ。それも関係あるのかな。何年か前には超天がマジ荒れしてたしー、そのせいもある? でもでもー、何かスッキリもしてる感じ? えー、なーにこの状態、面白すぎっしょー』
んん~、と伸びをし、グルグル肩を回しながら準備運動のように体を動かす。その動きに合わせ、羽織っていた片掛けの外套――ペリースが風に煽られて揺れた。
『ま、ちょーっと悪戯してガス抜きしとくかぁ。あっ、もちろんあの子たちのこともちゃんとヨシヨシして見送ってあげるんだぁ。そのために還って来たんだから。……そうとも、最後まで己が務めを全うした同胞を見捨てはせぬ』
つかの間低くなった声は、しかし、次の瞬間ポーンと跳ねた。
『ふふ、まずはかわいーかわいー愛し子に会うんだぁ。ぎゅーってしてあげてー、連絡ありがとって言わないと。それからー、父上にもご挨拶しないとダメっしょ。アレク兄上は……宇宙次元を八割消し去ったコト話したらぜーったい怒られるしぃ、後でいっか。ディス兄上もー、何回か神威感じたから起きてるはずだけどー……うん、こっちも後回し。ツォルとラミにはいつ会いに行こーかなー』
指折り数え、やることを列挙しながら、ウンウンと頷く。
『さーて、いっくぞー』
煌めく大地を蹴り、高く舞い上がる。痩身が宙を翔け、閃光と化して瞬く間にかき消えた。
コロン、と二十面体のダイスが転がった。広さのある室内を、湿った笑声が席巻する。
『どれ、儂はこっちに賭けようかの。勝ち確というやつじゃよ』
『では私はこちらに。一番の安全牌ですからね』
『おや、良い駒を取られてしもうた。仕方ない、大穴でこちらにするか』
『老爺はこの前大勝ちしたではございませぬか。今回はこちらに譲って下さいよ』
円卓に集う影が身を揺らすたび、あっはっはっはという声が大気に参じる。
『いつもながら愉しいのぅ』
『しがない隠居の身となれば、これくらいしか娯楽がない』
『じゃが、最近はとんとマンネリ化しておる』
顔を付き合わせて囁く者たちがいる部屋の奥には、豪奢な座が設えられている。主のいない空っぽの席。
『そうじゃ、あちらの賭けはどうなっておるかの。ほれ、例の兄弟の……』
『兄優位に決まっておりますでしょう』
『ちっ、使えん弟よのぅ。ほんに中途半端じゃ。あの兄弟はどちらも根が情深い』
『さて、このまま順当に行くか、最後にどんでん返しが起こるか』
手の中でダイスを弄びながら、卓上を見つめて目を輝かせる影たち。だが、その中の一つがつと黙り込み、小さく呟いた。思わず言葉がまろび出てしまったとでも言うように。
『……これで終われるだろうか』
全員の顔から笑いが消えた。その眼に宿るのは、濃い疲労感の滲む静謐な意思。数拍の黙の後、別の影が応える。
『ああ。この面子がそろった今ならば、きっと。だから最後の最後まで愉しもう』
頷き合った影たちが、再びヘラヘラと笑い出す。束の間だけ垣間見せた凛烈さが霧散し、享楽の気配に転じた。
重苦しさと異様な熱気を孕んだ暗部の溜まり場では、今日も密やかな賭博が行われている。
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『たっだいまー。おー、天界だぁ。なっつかしい我が家よ~。ま、懐かしいってもー、ちみっと200年ぶりくらいなんだけどぉ?』
ひょこひょこ、ぴょんぴょん。
細身の体が軽やかに跳ねるたび、頭頂にピコッと立つ一条の浮き毛が左右になびく。浮き毛の先端には、一枚の薄羽が斜めに乗っかっていた。少年と青年の淡いにある面差しが、美しい顔を彩っている。
『あーあーぁ~』
神秘的な輝きに満たされた周囲をグルリと見渡し、痩躯の影が盛大に肩を竦めた。大きく口を開いて嘆息すると、鋭い牙が覗く。
『うっわー、なーんか気配がゴチャゴチャじゃーん。そっか、眠り神が結構起きたんだっけ。それも関係あるのかな。何年か前には超天がマジ荒れしてたしー、そのせいもある? でもでもー、何かスッキリもしてる感じ? えー、なーにこの状態、面白すぎっしょー』
んん~、と伸びをし、グルグル肩を回しながら準備運動のように体を動かす。その動きに合わせ、羽織っていた片掛けの外套――ペリースが風に煽られて揺れた。
『ま、ちょーっと悪戯してガス抜きしとくかぁ。あっ、もちろんあの子たちのこともちゃんとヨシヨシして見送ってあげるんだぁ。そのために還って来たんだから。……そうとも、最後まで己が務めを全うした同胞を見捨てはせぬ』
つかの間低くなった声は、しかし、次の瞬間ポーンと跳ねた。
『ふふ、まずはかわいーかわいー愛し子に会うんだぁ。ぎゅーってしてあげてー、連絡ありがとって言わないと。それからー、父上にもご挨拶しないとダメっしょ。アレク兄上は……宇宙次元を八割消し去ったコト話したらぜーったい怒られるしぃ、後でいっか。ディス兄上もー、何回か神威感じたから起きてるはずだけどー……うん、こっちも後回し。ツォルとラミにはいつ会いに行こーかなー』
指折り数え、やることを列挙しながら、ウンウンと頷く。
『さーて、いっくぞー』
煌めく大地を蹴り、高く舞い上がる。痩身が宙を翔け、閃光と化して瞬く間にかき消えた。
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