神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました

土広真丘

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第8章

5.ある過去の情景 中編

 この世界の神様は、とてつもなく理不尽で不公平で身勝手だ。それはもう際限がないほどに。同じ内容の案件であっても、そこに関わっている相手によって態度や判断をコロリと変える。何をしたか、されたかという『行為自体』も重視するが、『誰が』ということも同じくらい重んじる。

 そして、それが身内であれば大抵のことは許され、全力で守られる。逆に言えば、同族が傷付いていれば総力を挙げて慰め、その原因を叩き潰すのだ。
 大精霊以外でフレイムを虐げていた精霊たちも、こぞって冷徹な神の下に付かされた。害していた相手が神になったことで、慌てて離れた場所への配置転換を願い出たためだが、それ以前にフレイムを加虐した時点で先は潰えていたのだ。

 前面に広がる舞台で、冷めた目を段下の者に注いでいたブレイズが唇を開いた。呼応するがごとく迸った神威に煽られ、赤い長髪が後ろ髪を引かれるように翻る。それは咎者へ抱く最後の情なのかもしれない。

『我が身内たちに問う。この者は我らの同胞か。それとも、ただの神使か』

 凛烈な声で問われ、有色の高位神たちが顔を見合わせた。舞台の下、広間の中にひしめく色無しの神々も。全員の目に宿るのは、底無しに広がる冷徹さと、その中に一雫だけ混ざった迷いと憐憫。
 段下に這い蹲る彼も、箔付けとはいえ神格を持っている以上、広義では神族に含まれるのだ。ゆえに神の性分として、最後の情が捨て切れない。

『そのようなもの、決まっているでしょう』

 寸の間だけ膠着した場、その殻をあっさりと割ったのは明朗な声だった。色持ちの神々の一角に陣取る巨大な狼が発した声だ。フサフサした灰銀の毛並みが揺れる。

『コレが神格を持つとはいえ、所詮は箔付けの限定的なもの。最終的な立場も神使であり、正式な神ではない』

 堂々たる体躯と、空色がかった灰銀の双眸を煌めかせ、古き神狼が飄々と笑う。だが、その目に他の神のような慈悲はない。皆無ではないのかもしれないが、表面には見えないほど薄い。

『翻って、焔神様は如何いかがです。正真正銘の神格を持つ正規の神。紛う方なき我らの同族。その焔神様に苦痛を抱かせている元凶がコレなのです。しかも加害行為をするに至った理由は、単に相手の存在が気に入らぬからという身勝手な八つ当たり。ならば話は単純ですな』
『その通りだ。たかが使役ごときが、得手勝手な嗜虐心から行った愚挙で、現在も我らが同族うからの心を傷付けている。許し難いことだ』

 追随したのは時空神だ。今日も今日とて目を閉じている。

『俺もそう思う。この神使にまだ情はあるけど、義弟君の方がずっと大切だから』

 天珠の世話を中断してやって来た運命神も同調し、最古の神々は狼神に倣う姿勢を見せた。それに触発されたように、色持ちと色無しを含めた神々が一斉に賛意を示す。

《おやおヤ、狼神様は随分ト君の肩を持ツ。気に入らレているよウだな》

 良きことではないか、と含み笑いを漏らす骸骨を無視し、巨狼に視線を向ける。あの神には、自分が精霊だった頃から幾度か目通りをしたことがある。

 焔神の神格を得た後であの神と鉢合わせ、これまでの条件反射で平伏した際は、向こうも前脚を折って地に腹を付け、頭を下げて来た。奇跡の神が何故そのようなことをなさるのかと狼狽えていると、尊き焔神様を一方的に跪かせるわけには参りませんからなぁ、とうそぶかれた。

 それからは、何かに付けて狼神から助言やお小言を頂戴していた。主に高位神たる者の所作や気構えについて。彼の神に言わせれば、自分は色持ちの神としての自覚が全く足りないらしい。

《ほら、結論ガ出たようダ》

 白骨の指がガシャンと前を指す。居並ぶ神々は一様に冷ややかな気配を醸して段下の影を見ていた。

《お前だって高位神だろ。あっちに行って意見表明をしなくて良いのか?》
《必要ナい。この場ニおける僕ノ表決権は、一の兄上に委任シている》
《何でだよ。自分で決定に参加すりゃ良いじゃねえか》
《親友たる君ト久闊きゅうかつじょしたカったのだよ》
《だから親友じゃねえわ、つか久闊って使い方おかしいだろ、ちょっと前に会ったばっかだぜ!》

 噛み付いた時、ブレイズの高らかな宣誓が神殿を駆け抜けた。

『審判はなされた。この者は我らが同族に非ず。ゆえにこれより神逐を行う』

 縮れた髪を乱し、舞台の下に蹲る影がボロボロと泣きながら首を横に振る。嫌だと叫んでいるであろう声は、猿轡のせいで明確な単語にはならない。

《やハりこうなッたか。いよイよ神逐――神格剥奪ノ時間だ》

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