580 / 601
第8章
20.トライコーンの供述
しおりを挟む
「つ、角を切る!?」
アマーリエが瞠目して反芻し、フレイムの山吹色の眼が剣呑さを帯びる。ランドルフが顎に手を当てた。
「ユニコーンやバイコーンの角は、不治の難病に効く妙薬の素材として高値で取り引きされていますねー。上位種であるトライコーンの角になれば、死者を蘇らせる秘薬も作れると言われていますー」
「一角獣と二角獣は、角を取られそうになったら興奮状態が誘発されて、攻撃性が増すのではなかった? 反射的に臨戦態勢に入る上、理性も飛んでしまうから話もできなくなると習ったわ」
(自分から角を差し出すのは、神格を持つ者か自分が認めた者に対してだけなのよね。強引に角を奪おうとした場合は激怒すると聞いたわ。角自体は、切られても抜かれてもすぐに生えて来るから、取られても不都合が生じるわけではないようだけれど)
『お前の話を真実だと仮定するなら、お前がここに駆け込んだのは、角を守ろうとする本能に理性を呑まれたのが理由のようだな』
フレイムが嘆息した。無我夢中で突っ走っている内に森を抜けて神々の共有領域に入り、門が開いていたフレイムの神域に飛び込んだということだろうか。
黙って成り行きを見守っていた聖獣たちが、二頭で顔を見合わせている。その双眸から警戒の色が薄れていた。トライコーンのことを、アマーリエを害そうとする敵だと認識していたものの、どうやら違うようだと思い直したらしい。
『お前の言い分通りだとすれば、最初に押し入って来たのは精霊たちの方だったってことか。けど、何で精霊がそんなことするんだ。神に命令されたのか……いや、地神様の飼い獣だぜ。そもそも、神がトライコーンの角を欲することなんかねえだろうし』
三角獣は強大な力を持つが、それは人間基準での話だ。神の基準で考えれば、ただの繊弱な霊獣でしかない。角の治癒能力にしても、神々の御稜威に及ぶはずもない。死者蘇生ごとき、最下位の神でも造作無くできる芸当だ。わざわざトライコーンの角を求めたりしない。
『仮に何かの理由で角が必要だったとしても、無理矢理奪う必要はない。トライコーンは、神には無条件で角を差し出すんだからな』
「神々は関与も関知もしていない、精霊側の事情が何かあったんじゃないですかねー?」
『俺もそう思うぜ。あくまでコイツの話を鵜呑みにするなら、だが』
『神に対して嘘を申し上げることなどございません。偽りを述べたとしても、神威で視られれば全て分かってしまうのですから』
『分かってる分かってる、お前を疑ってるわけじゃねえよ。けど、嘘は言ってなくても記憶違いとか思い込みとか、精霊側との認識の差異とかはあるかもだろ。精霊の方の話も聞かねえとな』
懸命に言い募るトライコーンを片手を振って宥め、フレイムは右目をキラリと光らせた。
『今、お前の記憶を少しだけ覗いた。角を取られそうになったってのは本当みたいだな。襲った精霊たちの顔も確認した。ビドスとコリール、センディアとトウキだ。俺の従神と精霊たちに話を聞いて来させる』
そう言葉を発すると、従神の一柱が動いた。『ちっす、えーと次どうするんすか?』と軽妙な口調でおちゃらけている常の姿とは打って変わり、鋭い表情で精霊数体に目配せを送ると、やはり即応した彼らを伴ってかき消える。
「名前が四つ出て来たけれど……四体がかりで襲ったの?」
『記憶を視た限りではな。チラッと過去も視たが、間違いなさそうだ。アイツらが素直に聞き取りに応じてくれれば良いんだが』
記憶や過去を全て視てしまわないのは、トライコーンの時と同様、精霊たちに自分の口で自供して欲しいからだろう。
「フレイムの従神も行っているのだから、ごまかしたくても無理よ。この子も言っていた通り、言い逃れようとしたところで、神威で全部見透かされてしまうもの」
『だな。全員気弱で従順な性格だから、神に逆らうことはしないだろう』
(気が弱くておとなしい精霊たちが、寄ってたかってトライコーンを押さえ付けて角を取ろうとしたの? 一体どうして……)
アマーリエは首を捻るが、今まさに、フレイムの従神たちがそれを確認しに行っている。きっと間もなく概要が分かるだろう。所在無げに佇む霊獣に、山吹色の流し目が送られた。
『お前はとりあえず、俺の領域に拘留だ。まだ事実確認の最中だからな。攻撃の意思や害意は感じられねえから体の拘束はしないが、処置を待つ身だということは覚えておけ』
『はい』
アマーリエが瞠目して反芻し、フレイムの山吹色の眼が剣呑さを帯びる。ランドルフが顎に手を当てた。
「ユニコーンやバイコーンの角は、不治の難病に効く妙薬の素材として高値で取り引きされていますねー。上位種であるトライコーンの角になれば、死者を蘇らせる秘薬も作れると言われていますー」
「一角獣と二角獣は、角を取られそうになったら興奮状態が誘発されて、攻撃性が増すのではなかった? 反射的に臨戦態勢に入る上、理性も飛んでしまうから話もできなくなると習ったわ」
(自分から角を差し出すのは、神格を持つ者か自分が認めた者に対してだけなのよね。強引に角を奪おうとした場合は激怒すると聞いたわ。角自体は、切られても抜かれてもすぐに生えて来るから、取られても不都合が生じるわけではないようだけれど)
『お前の話を真実だと仮定するなら、お前がここに駆け込んだのは、角を守ろうとする本能に理性を呑まれたのが理由のようだな』
フレイムが嘆息した。無我夢中で突っ走っている内に森を抜けて神々の共有領域に入り、門が開いていたフレイムの神域に飛び込んだということだろうか。
黙って成り行きを見守っていた聖獣たちが、二頭で顔を見合わせている。その双眸から警戒の色が薄れていた。トライコーンのことを、アマーリエを害そうとする敵だと認識していたものの、どうやら違うようだと思い直したらしい。
『お前の言い分通りだとすれば、最初に押し入って来たのは精霊たちの方だったってことか。けど、何で精霊がそんなことするんだ。神に命令されたのか……いや、地神様の飼い獣だぜ。そもそも、神がトライコーンの角を欲することなんかねえだろうし』
三角獣は強大な力を持つが、それは人間基準での話だ。神の基準で考えれば、ただの繊弱な霊獣でしかない。角の治癒能力にしても、神々の御稜威に及ぶはずもない。死者蘇生ごとき、最下位の神でも造作無くできる芸当だ。わざわざトライコーンの角を求めたりしない。
『仮に何かの理由で角が必要だったとしても、無理矢理奪う必要はない。トライコーンは、神には無条件で角を差し出すんだからな』
「神々は関与も関知もしていない、精霊側の事情が何かあったんじゃないですかねー?」
『俺もそう思うぜ。あくまでコイツの話を鵜呑みにするなら、だが』
『神に対して嘘を申し上げることなどございません。偽りを述べたとしても、神威で視られれば全て分かってしまうのですから』
『分かってる分かってる、お前を疑ってるわけじゃねえよ。けど、嘘は言ってなくても記憶違いとか思い込みとか、精霊側との認識の差異とかはあるかもだろ。精霊の方の話も聞かねえとな』
懸命に言い募るトライコーンを片手を振って宥め、フレイムは右目をキラリと光らせた。
『今、お前の記憶を少しだけ覗いた。角を取られそうになったってのは本当みたいだな。襲った精霊たちの顔も確認した。ビドスとコリール、センディアとトウキだ。俺の従神と精霊たちに話を聞いて来させる』
そう言葉を発すると、従神の一柱が動いた。『ちっす、えーと次どうするんすか?』と軽妙な口調でおちゃらけている常の姿とは打って変わり、鋭い表情で精霊数体に目配せを送ると、やはり即応した彼らを伴ってかき消える。
「名前が四つ出て来たけれど……四体がかりで襲ったの?」
『記憶を視た限りではな。チラッと過去も視たが、間違いなさそうだ。アイツらが素直に聞き取りに応じてくれれば良いんだが』
記憶や過去を全て視てしまわないのは、トライコーンの時と同様、精霊たちに自分の口で自供して欲しいからだろう。
「フレイムの従神も行っているのだから、ごまかしたくても無理よ。この子も言っていた通り、言い逃れようとしたところで、神威で全部見透かされてしまうもの」
『だな。全員気弱で従順な性格だから、神に逆らうことはしないだろう』
(気が弱くておとなしい精霊たちが、寄ってたかってトライコーンを押さえ付けて角を取ろうとしたの? 一体どうして……)
アマーリエは首を捻るが、今まさに、フレイムの従神たちがそれを確認しに行っている。きっと間もなく概要が分かるだろう。所在無げに佇む霊獣に、山吹色の流し目が送られた。
『お前はとりあえず、俺の領域に拘留だ。まだ事実確認の最中だからな。攻撃の意思や害意は感じられねえから体の拘束はしないが、処置を待つ身だということは覚えておけ』
『はい』
10
あなたにおすすめの小説
結婚十年目の夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。彼は「送り間違えた」というけれど、それはそれで問題なのでは?
ぽんた
恋愛
レミ・マカリスター侯爵夫人は、夫と政略結婚をして十周年。侯爵夫人として、義父母の介護や領地経営その他もろもろを完ぺきにこなしている。そんなある日、王都に住む夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。義弟を通じ、夫を追求するも夫は「送り間違えた。ほんとうは金を送れというメモを送りたかった」という。レミは、心から思った。「それはそれで問題なのでは?」、と。そして、彼女の夫にたいするざまぁがはじまる。
※ハッピーエンド確約。ざまぁあり。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。
婚約破棄から50年後
あんど もあ
ファンタジー
王立学園の卒業パーティーで、王子が婚約者に婚約破棄を宣言した。王子は真に愛する女性と結ばれ、めでたしめでたし。
そして50年後、王子の孫の王子は、婚約破棄された女性の孫と婚約する事に。そこで明かされた婚約破棄の真実とは。
できない子に転生しましたが、家族と食卓があれば十分です ―人間不信だった私が、ゆっくり育つ異世界生活―
愛朱ひいろ
ファンタジー
人の顔色ばかり伺い、心を壊した26歳の会社員女性。
彼女は死後、異世界で「できない子」として転生する。
魔法は使えない。
体は不器用で、成長も人より遅い。
前世の記憶のせいで、人と関わることが少し怖い。
けれどこの世界には、
見守り支えてくれる両親と、
あたたかい食卓があった。
泣いて、つまずいて、できないことに落ち込みながら、
彼女は少しずつ「できないままでも、生きていていい」と知っていく。
これは、
最強でもチートでもない主人公が、
家族と食事に支えられながら、ゆっくり育ち直す
生活密着型・異世界転生×成長×グルメファンタジー。
……の、予定です。
毎日更新できるように執筆がんばります!
侯爵令嬢ソフィアの結婚
今野綾
恋愛
ソフィアは希少なグリーンアイを持つヴィンセントと結婚したが、これは金が欲しいソフィアの父の思惑と高い爵位が欲しいヴィンセントの思惑が一致したからに過ぎない
そもそもヴィンセントには美しい恋人がいる
美男美女と名高いヴィンセントとその恋人は身分に大きな差があるために結婚することは叶わないのだ
その事をソフィアも耳にしており、この結婚が形ばかりのものであることを知っていた
結婚して早々、ソフィアは実家から連れてきた侍女夫婦とあばら家に住むように言われて…
表紙はかなさんです✨
ありがとうございます😊
2024.07.05
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。
灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。
曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。
婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。
前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。
ローザリンデの第二の人生
梨丸
恋愛
伯爵令嬢、ローザリンデの夫はいつも彼女より仕事を優先させ、彼女を無碍にしている。
彼には今はもういない想い人がいた。
私と結婚したことにいい思いをしていないことは知っていた。
けれど、私の命が懸かっていた時でさえも、彼の精神は変わらなかった。
あなたが愛してくれないのなら、私は勝手に幸せになります。
吹っ切れたローザリンデは自分自身の幸せのために動くことにした。
※投稿してから、誤字脱字などの修正やわかりにくい部分の補足をすることがあります。(話の筋は変わらないのでご安心ください。)
1/10 HOTランキング3位、ありがとうございます。
なぜ、私に関係あるのかしら?
シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」
彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。
そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。
「…レオンハルト・トレヴァントだ」
非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。
そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。
「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」
この判断によって、どうなるかなども考えずに…
※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。
※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、
※ 画像はAIにて作成しております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる