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第8章
37.シルファールの真相 前編
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◆◆◆
『何故私に呼ばれたか分かるか』
『あなたの子どものことでしょう。私は当然のことをしただけですが、何か?』
氷柱を投擲するがごとき鋭さで放たれたアルシオの言葉を、ウォーロックがハッと笑って受け流した。
『ここで開き直るのかよ……』
『これは誤魔化せないと悟ったのだろうね』
傍観者と化しているフレイムがボヤき、ラミルファが忍び笑いを漏らした。フレイムは腕組みして壁にもたれかかり、ラミルファは両手を頭の後ろで組んでいる。
《ところでフレイム、君の視聴覚はアマーリエと共有しているのだろう》
《ああ。ユフィーもこっちの状況を知りたいだろうからな》
《では君の瞳に僕をたくさん映しておくれ。一番カッコよく見える角度から》
《何でだよこの場の主役はお前じゃねえだろ、つか気持ち悪い言い方すんなよな、おい何ポーズなんか取ってんだよ!》
二神が念話でぎゃあぎゃあ言い合っている間に、アルシオたちの話は進んでいる。
『この子が……シルファールが我が儘な姿を見せていたのは演技だった。私はそれを見抜けなかった。何一つ気付いてやれなかった。この子が置かれていた状況にも、お前が暗躍していたことにも』
忸怩たる声音で呻くアルシオに続き、ミスティーナと手を繋いでいたシルファールが口を開く。母譲りの目は眠たげに垂れ下がっていた。得たばかりの神格が魂に馴染んでいないため、少しでも気を抜けば寝入ってしまいそうになるのだ。
『私は――あなたに脅されていたのです、叔父様。お母様と、私と仲の良い精霊たちを盾に取られ、あなたの命令に逆らえなかった』
シルファールが物心付いた時から、息子を通じて大精霊にとり入ろうとする奸物たちが周囲に蠢いていた。それでも、敬愛する父母の姿を心に刻み、甘やかしの中でも自分を保っていた。母ミスティーナからは言葉で、父アルシオからは行動で授けられた教えを、しっかりと受け取っていた。
その歯車が狂い出したのは、二年前。8歳のシルファールは、精霊の茶会に招かれた。母親と、シルファールと親交がある精霊の子どもたちも一緒だった。それが罠だった。
『二年前、私は精霊の茶会に出席しました。出された茶菓には寄生虫が仕込まれていた。私は知らない間にそれを摂取させられました。お母様も、他の参加者もです。茶会の後、主催者から個別に呼ばれた私だけが、そのことを知らされました』
その時点のシルファールはまだ知らなかったものの、茶会の主催者はウォーロックの息がかかった配下だった。寄生虫はウォーロックの神威により創生されたもので、摂取した者たちの体内を密かに巡り、心臓に取り付いていた。また、意思と知能を持ち、創生主の意向を忠実に反映し、自律思考と自己判断をして動く存在でもあった。
『私はその場で、寄生虫を暴れさせられました。心臓を食らっては即回復させ、宿主を死なないようにしながら激痛を与える虫に体内を食いちぎられ、泣きながら床を転がり回った……』
当時を思い出しているのか、幼い声が僅かに揺らぎを帯びる。ミスティーナが息子の手を握る力を強め、ウォーロックを睥睨していたアルシオも気にかけるようにそちらを顧みる。だが、10歳の精霊は自力で心を持ち直した。大丈夫だと言うように両親に頷き、先を続ける。
『死んだ方がマシなほどの苦痛を体験させられた後、私は茶会の主催者に言われました。自分たちの命令に従え、逆らえばまた私の寄生虫を暴れさせる。それだけでなく、何も知らないお母様と他の参加者の心臓に巣食った寄生虫も動かして、同じ苦痛を与えると。……私は逆らえませんでした』
それでも、必死で反論はした。そんなことをすれば、他の使役たちが異変に気付く。使役にはろくに注意を向けない神々とて、こちらが悶絶して苦しむ様を見ればさすがにおかしいと思い、神威で視るかもしれない。そう言い返した。
だが、主催者は動じず、淡々とシルファールの言い分を潰した。
曰く、自分たちの背後に付いている黒幕は、神から特段の指示がない限り精霊の担当場所を采配する権限を持っている。ゆえに、寄生虫を宿させた者たちは、適当な理由を付けて神の目に触れない裏方の任務に回し、自分たちが掌握している場の担当としてひとところに集める。宿舎もこちらが用意したものに変えさせる。つまり、苦痛に喘いでいても誰にも助けてもらえない、気付いてもらえないと言われてしまったのだ。
『何故私に呼ばれたか分かるか』
『あなたの子どものことでしょう。私は当然のことをしただけですが、何か?』
氷柱を投擲するがごとき鋭さで放たれたアルシオの言葉を、ウォーロックがハッと笑って受け流した。
『ここで開き直るのかよ……』
『これは誤魔化せないと悟ったのだろうね』
傍観者と化しているフレイムがボヤき、ラミルファが忍び笑いを漏らした。フレイムは腕組みして壁にもたれかかり、ラミルファは両手を頭の後ろで組んでいる。
《ところでフレイム、君の視聴覚はアマーリエと共有しているのだろう》
《ああ。ユフィーもこっちの状況を知りたいだろうからな》
《では君の瞳に僕をたくさん映しておくれ。一番カッコよく見える角度から》
《何でだよこの場の主役はお前じゃねえだろ、つか気持ち悪い言い方すんなよな、おい何ポーズなんか取ってんだよ!》
二神が念話でぎゃあぎゃあ言い合っている間に、アルシオたちの話は進んでいる。
『この子が……シルファールが我が儘な姿を見せていたのは演技だった。私はそれを見抜けなかった。何一つ気付いてやれなかった。この子が置かれていた状況にも、お前が暗躍していたことにも』
忸怩たる声音で呻くアルシオに続き、ミスティーナと手を繋いでいたシルファールが口を開く。母譲りの目は眠たげに垂れ下がっていた。得たばかりの神格が魂に馴染んでいないため、少しでも気を抜けば寝入ってしまいそうになるのだ。
『私は――あなたに脅されていたのです、叔父様。お母様と、私と仲の良い精霊たちを盾に取られ、あなたの命令に逆らえなかった』
シルファールが物心付いた時から、息子を通じて大精霊にとり入ろうとする奸物たちが周囲に蠢いていた。それでも、敬愛する父母の姿を心に刻み、甘やかしの中でも自分を保っていた。母ミスティーナからは言葉で、父アルシオからは行動で授けられた教えを、しっかりと受け取っていた。
その歯車が狂い出したのは、二年前。8歳のシルファールは、精霊の茶会に招かれた。母親と、シルファールと親交がある精霊の子どもたちも一緒だった。それが罠だった。
『二年前、私は精霊の茶会に出席しました。出された茶菓には寄生虫が仕込まれていた。私は知らない間にそれを摂取させられました。お母様も、他の参加者もです。茶会の後、主催者から個別に呼ばれた私だけが、そのことを知らされました』
その時点のシルファールはまだ知らなかったものの、茶会の主催者はウォーロックの息がかかった配下だった。寄生虫はウォーロックの神威により創生されたもので、摂取した者たちの体内を密かに巡り、心臓に取り付いていた。また、意思と知能を持ち、創生主の意向を忠実に反映し、自律思考と自己判断をして動く存在でもあった。
『私はその場で、寄生虫を暴れさせられました。心臓を食らっては即回復させ、宿主を死なないようにしながら激痛を与える虫に体内を食いちぎられ、泣きながら床を転がり回った……』
当時を思い出しているのか、幼い声が僅かに揺らぎを帯びる。ミスティーナが息子の手を握る力を強め、ウォーロックを睥睨していたアルシオも気にかけるようにそちらを顧みる。だが、10歳の精霊は自力で心を持ち直した。大丈夫だと言うように両親に頷き、先を続ける。
『死んだ方がマシなほどの苦痛を体験させられた後、私は茶会の主催者に言われました。自分たちの命令に従え、逆らえばまた私の寄生虫を暴れさせる。それだけでなく、何も知らないお母様と他の参加者の心臓に巣食った寄生虫も動かして、同じ苦痛を与えると。……私は逆らえませんでした』
それでも、必死で反論はした。そんなことをすれば、他の使役たちが異変に気付く。使役にはろくに注意を向けない神々とて、こちらが悶絶して苦しむ様を見ればさすがにおかしいと思い、神威で視るかもしれない。そう言い返した。
だが、主催者は動じず、淡々とシルファールの言い分を潰した。
曰く、自分たちの背後に付いている黒幕は、神から特段の指示がない限り精霊の担当場所を采配する権限を持っている。ゆえに、寄生虫を宿させた者たちは、適当な理由を付けて神の目に触れない裏方の任務に回し、自分たちが掌握している場の担当としてひとところに集める。宿舎もこちらが用意したものに変えさせる。つまり、苦痛に喘いでいても誰にも助けてもらえない、気付いてもらえないと言われてしまったのだ。
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