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第1章
48.邪神の事情①
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「「――え?」」
アマーリエとフレイムの声が重なった。
『9年前のあの時――君の気がおぞましすぎてすぐ天界に戻ったものの、少し考えるところはあったのだよ。君たちの反応を思い返すと、僕たちのことを悪神だと認識していなかった気がした。もしアクシデントで僕たちを喚んでしまっただけならば、あの言い方では君が誤解されると思って』
そう告げたラミルファは、さらりと続けた。
『だから、勧請を受けた邸に神託を下ろしておいた。あの時の僕は絶賛上機嫌だったから、特別にサービスしてあげたわけだ。とは言っても、ストレートに僕が悪神であるとは書かなかったが』
シレッと付け足された言葉に、フレイムが即座に噛み付いた。
「いや書けよ! それが一番大事なとこだろ!」
『何故そこまで親切に教えてやらねばならない? 悪神だと言わずとも、趣旨が伝わる内容にすれば良いだろう』
「んなわけあるか――」
なおも言い返そうとするフレイムを押し留め、アマーリエは聞いた。
「その神託とは……どのような内容を書いて下さったのでしょうか?」
『まず、僕が先ほど降臨した高位神であると書いた。それから、神にはそれぞれ美醜の基準があるから、くれぐれも僕たちの反応だけで勧請者のことを決め付けないように記した。勧請者の気を美しいと認める神もいるだろうから、今後は神官府の儀に積極的に参加させ、複数の神に目通りさせて気の清濁を問うてみよと』
「「ええ!?」」
アマーリエの声が、今度は少し離れた所から上がったものと重なった。声を上げたのはダライだ。
「そ、そのような神託が届いたなど聞いておりませんぞ!? ネイーシャ、お前の実家から何か連絡があったか!?」
「し、知らないわ! 私も何も聞いていないわよ!」
『神託はきちんと下ろした。我が神性に誓おう。僕は嘘の神ではないから、神性に誓った時は真実しか言わないよ』
自信たっぷりに言い切るラミルファ。だが、ダライとネイーシャも嘘を吐いているようには見えない。フレイムが考え込むように眉間にしわを寄せて言う。
「ラミルファ。お前の言い方からすると、下ろしたのは声を届ける形式の神託じゃねえな。筆記式で神文を送るやつか」
『そうだよ。天界で神告文をしたためて、あの邸の神託箱に転送した』
託宣は神官府だけでなく神官に個別に届けられることもある。そのため、神官を輩出している家は、ほぼ確実に神託箱を設置している。声を下ろすのではなく、筆記で神意を送って来る神もいるからだ。ネイーシャの生家も属国の神官の家系なので、当然神託箱を置いているはずだ。
(では、ちゃんとフォローして下さっていたということ?)
どういうことかと全員の視線を浴びたダライとネイーシャが、知らないと必死で首を横に振る。
「お、仰った神託が届いたという連絡は受けておりません!」
「誓って本当ですわ!」
『……嘘は言っていないね』
両親をじっと見つめたラミルファが呟いた。
『先ほども言った通り、ずっと気になっていたのだよ。君たちの態度が』
アマーリエ、ダライ、ネイーシャ、そして茫然自失の状態で転がっているミリエーナを順に見遣り、緑の双眸が瞬いた。
『僕の方の事情を話しておこうか。僕は少し前、地上を視ている時にレフィーを発見し、これは僕好みだと目を付けた。だが、レフィーの様子を確認して驚いた。何しろレフィーの姉は、9年前のあの醜悪な気を持つ娘だったのだから』
これは想定外の展開だった、と、整った容貌が苦笑を帯びた。
『かつて僕が神託を下ろしたことだし、レフィーの姉はあれ以降、神官府で他の神たちに目通りしただろう。その時はそう考えた』
(いえ、逆にお前は出て来るなと奥に引っ込められていたわよ。だってその神託が届いていなかったのだもの)
アマーリエが内心で否定していると、ラミルファがチラリとこちらに視線を向け、『うわ汚っ』と言わんばかりにさっと逸らす。ここまで忌避されると逆に清々しい。
『一般的な神はレフィーの姉の気を見て、とても美しいと褒めたはずだ。それが幾度も続けば、神によって美醜の基準が違うというより、むしろ僕の基準が他の神と違っているのだということに思い至り、僕たちが普通の神ではなかったと勘付かれているかもしれないと思った』
もしそうであれば、ミリエーナは愛し子の誓約を持ちかけられても、安易には受けなかっただろう。相手は悪神の可能性があるのだ。
『レフィーはあの勧請の場にいなかったが、両親から当時の話や僕の容姿、神威の色を聞かされているかもしれない。僕があの時の神かもしれないと察せば、誓約を断るだろう。そう思った。ならば9年前とは別の姿で降臨し、同じ神だと気付かれないようにした方がいいかと考えたのだが……』
腕組みをしたラミルファは軽く首を傾げる。
『けれど、レフィーとその周囲の様子をさらに視ているうちに、妙なことに気が付いた。醜い気を持つ姉が、無能だ無能だと家族からひたすら罵倒され虐げられているのだよ』
ついに邪神までが、邸内でアマーリエに行われていた虐待を暴露した。
アマーリエとフレイムの声が重なった。
『9年前のあの時――君の気がおぞましすぎてすぐ天界に戻ったものの、少し考えるところはあったのだよ。君たちの反応を思い返すと、僕たちのことを悪神だと認識していなかった気がした。もしアクシデントで僕たちを喚んでしまっただけならば、あの言い方では君が誤解されると思って』
そう告げたラミルファは、さらりと続けた。
『だから、勧請を受けた邸に神託を下ろしておいた。あの時の僕は絶賛上機嫌だったから、特別にサービスしてあげたわけだ。とは言っても、ストレートに僕が悪神であるとは書かなかったが』
シレッと付け足された言葉に、フレイムが即座に噛み付いた。
「いや書けよ! それが一番大事なとこだろ!」
『何故そこまで親切に教えてやらねばならない? 悪神だと言わずとも、趣旨が伝わる内容にすれば良いだろう』
「んなわけあるか――」
なおも言い返そうとするフレイムを押し留め、アマーリエは聞いた。
「その神託とは……どのような内容を書いて下さったのでしょうか?」
『まず、僕が先ほど降臨した高位神であると書いた。それから、神にはそれぞれ美醜の基準があるから、くれぐれも僕たちの反応だけで勧請者のことを決め付けないように記した。勧請者の気を美しいと認める神もいるだろうから、今後は神官府の儀に積極的に参加させ、複数の神に目通りさせて気の清濁を問うてみよと』
「「ええ!?」」
アマーリエの声が、今度は少し離れた所から上がったものと重なった。声を上げたのはダライだ。
「そ、そのような神託が届いたなど聞いておりませんぞ!? ネイーシャ、お前の実家から何か連絡があったか!?」
「し、知らないわ! 私も何も聞いていないわよ!」
『神託はきちんと下ろした。我が神性に誓おう。僕は嘘の神ではないから、神性に誓った時は真実しか言わないよ』
自信たっぷりに言い切るラミルファ。だが、ダライとネイーシャも嘘を吐いているようには見えない。フレイムが考え込むように眉間にしわを寄せて言う。
「ラミルファ。お前の言い方からすると、下ろしたのは声を届ける形式の神託じゃねえな。筆記式で神文を送るやつか」
『そうだよ。天界で神告文をしたためて、あの邸の神託箱に転送した』
託宣は神官府だけでなく神官に個別に届けられることもある。そのため、神官を輩出している家は、ほぼ確実に神託箱を設置している。声を下ろすのではなく、筆記で神意を送って来る神もいるからだ。ネイーシャの生家も属国の神官の家系なので、当然神託箱を置いているはずだ。
(では、ちゃんとフォローして下さっていたということ?)
どういうことかと全員の視線を浴びたダライとネイーシャが、知らないと必死で首を横に振る。
「お、仰った神託が届いたという連絡は受けておりません!」
「誓って本当ですわ!」
『……嘘は言っていないね』
両親をじっと見つめたラミルファが呟いた。
『先ほども言った通り、ずっと気になっていたのだよ。君たちの態度が』
アマーリエ、ダライ、ネイーシャ、そして茫然自失の状態で転がっているミリエーナを順に見遣り、緑の双眸が瞬いた。
『僕の方の事情を話しておこうか。僕は少し前、地上を視ている時にレフィーを発見し、これは僕好みだと目を付けた。だが、レフィーの様子を確認して驚いた。何しろレフィーの姉は、9年前のあの醜悪な気を持つ娘だったのだから』
これは想定外の展開だった、と、整った容貌が苦笑を帯びた。
『かつて僕が神託を下ろしたことだし、レフィーの姉はあれ以降、神官府で他の神たちに目通りしただろう。その時はそう考えた』
(いえ、逆にお前は出て来るなと奥に引っ込められていたわよ。だってその神託が届いていなかったのだもの)
アマーリエが内心で否定していると、ラミルファがチラリとこちらに視線を向け、『うわ汚っ』と言わんばかりにさっと逸らす。ここまで忌避されると逆に清々しい。
『一般的な神はレフィーの姉の気を見て、とても美しいと褒めたはずだ。それが幾度も続けば、神によって美醜の基準が違うというより、むしろ僕の基準が他の神と違っているのだということに思い至り、僕たちが普通の神ではなかったと勘付かれているかもしれないと思った』
もしそうであれば、ミリエーナは愛し子の誓約を持ちかけられても、安易には受けなかっただろう。相手は悪神の可能性があるのだ。
『レフィーはあの勧請の場にいなかったが、両親から当時の話や僕の容姿、神威の色を聞かされているかもしれない。僕があの時の神かもしれないと察せば、誓約を断るだろう。そう思った。ならば9年前とは別の姿で降臨し、同じ神だと気付かれないようにした方がいいかと考えたのだが……』
腕組みをしたラミルファは軽く首を傾げる。
『けれど、レフィーとその周囲の様子をさらに視ているうちに、妙なことに気が付いた。醜い気を持つ姉が、無能だ無能だと家族からひたすら罵倒され虐げられているのだよ』
ついに邪神までが、邸内でアマーリエに行われていた虐待を暴露した。
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