神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました

土広真丘

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第1章

58.焔神降臨

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「…………っ!!」

 その場に集う皆の視線を一身に集めるアマーリエが、跪拝した体勢のままフレイムを見上げた。

「――――」

 フレイムの脳裏に、星が舞ったかと錯覚するほどの衝撃が走る。こちらをヒタと見据えるのは、初めて会った時と同じ……否、あの時よりも覚悟を決め、強さを増し、遥かに美しくなった双眸だった。

「最高神が一、火神の分け身にして申し子たる焔の大神。どうか御身の貴き神威をもって、我が家族たる霊獣をお救い下さいませ」

 一片の濁りもなく澄み切った、青い青い――ただひたすらに青い瞳。どこまでも真っ直ぐで透明な、天界に流れ落ちる清水の一滴がそのままはまり込んだような色。
 その意思の輝きの、何と眩いことか。
 例えようもないほどの好ましさと慕わしさと共に、尊さすらも湧き上がる。そして、それらの想いが極まり、より高く大きく深い感情に昇華されていく。

(違う)

 唐突に、フレイムは自身の思い違いを悟った。

(お前は俺の神使に相応しい奴じゃない。神使なんて……

 心が歓喜に戦慄わなないている。己にとって、何にも代え難い存在を見つけた感動で。

(俺にかしずくのではなく、隣に立って共に在るべき者だ)

 無意識に唇の端が持ち上がる。自然とあふれる笑みが抑えられない。

(ああそうだ。お前は俺の――)

 フレイムは濁流のごとく放出された愛しさと共に、ずっと抑え込んでいた神威を解放した。

 ◆◆◆

「紅蓮の大神よ、大いなる慈悲と御心の下、我が声を聞き届けよ。神官アマーリエ・ユフィー・サードの名において、焔神フレイムを勧請いたします」
(勧請する。神使としてのフレイムではなく、焔神としてのフレイムを)

 神に対する請願の動作を取ったアマーリエは、覚悟を決めて頭を垂れた。

(フレイムが自分の意思で神格を出してしまったら、規律違反で即座に天に強制送還になる。……けれど、神官が正規の手順にのっとって、神としてのフレイムを勧請したとしたら? 天にも認められている、神と人が交信する正しい作法で招請しょうせいしたのなら――降臨が認められるかもしれない)

 勝率が高いとは言えない賭けだ。フレイムは特殊な任務の最中なのだから、どのような形であれ神格を出した時点で駄目ということであれば、完全に詰みとなる。

(でも、これしか思い付かない。他にも方法はあるかもしれないけれど、今思い付いて実行できるのはこの方法しかないのよ)

 自分の貧弱な霊威で、サッカの葉や霊玉などの補助具も無く高位神を勧請するなど、無謀に等しい。そもそも、ラミルファの力により霊威が使えなくされている今、勧請自体ができるのかも怪しい。……だが、それでもやらなければ大切な家族を守れない。

 顔を上げ、フレイムを見据える。ラモスとディモス以外で、初めて自分の味方になってくれた優しい神。お前はできると、何度も何度も言ってくれた。無能でも役立たずでもない、優秀でとても綺麗だと、繰り返し言い続けてくれた。その言葉と暖かな眼差しに、一体どれだけ救われたことか。

 心から頼れるのは、迷わず信じられるのは、家族を救ってくれと懇願できるのは――目の前の彼しかいない。

「最高神が一、火神の分け身にして申し子たる焔の大神。どうか御身の貴き神威をもって、我が家族たる霊獣をお救い下さいませ」
(助けて、フレイム。お願い、助けて。信じている――あなたを信じている)

 信じている。
 慕っている。
 ――愛している。

 あらん限りの信頼と想いを全て乗せ、アマーリエはフレイムと視線を合わせ続けた。

 こちらを向いたまま見開かれた山吹色の双眸が、やがて不思議な色を帯びていく。どこか夢見心地のような、熱に浮かされたような、熱く深く限りない感情を宿した目。同じ色をどこかで見たことがある。どこだったかと考えた時、視界の端にフルードが映った。

(……あ)

 ふと思い出す。

(狼神様や鷹神様と同じだわ)

 己の聖威師を見つめる神々の瞳も、今のフレイムとよく似た熱を帯びていた。そう考えた瞬間、フレイムが相好を崩した。今までに見たどれよりも嬉しそうで、楽しそうで、幸福に満ちた笑み。

 灼熱の神威が炸裂し、爆風が駆け抜けた。鮮やかな赤みを帯びた輝きが噴き上がり、場を制圧していたラミルファの力を押し返す。紅蓮色の火柱が天に届くほど高くそそり立った。

「きゃあ!」

 反射的に目を閉じた時、頭上から瓏々ろうろうたる声が降り注いだ。

『己を誇れ、アマーリエ』

 吹きすさぶ風に耐えながら恐る恐る目を開けると、ワインレッドの髪を躍らせたフレイムが見下ろしていた。神々しさを宿した双眸が、夜明けを示す明星みょうじょうのごとく輝いている。舞い踊る神威の波動は、揺らめく炎の花弁となって周囲を彩っていた。

 ただ幻想的で神秘的な光景の中、凛とした天啓が響く。

『その濁りなき心で、天のほむらを射止めたことを』
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