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第1章
100.そして未来へ③
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◆◆◆
「まあ、すごい!」
目の前の皿を見て、アマーリエは思わず前のめりになった。
ビュッフェのデザートコーナーから取ったプディングやソフトクリーム、ベリー類、キウイにバナナなどが綺麗に盛り付けられ、即席のプリンアラモードが完成している。
(これからは料理関係のことはフレイムに頼るのが正解ね。私もずっと家事全般を担って来たから、それなりにやれるとは思うけれど)
とは言っても、自分だってフレイムに手料理を振る舞いたい。彼に負けないくらい料理上手にならなければ――と、変な方向に張り切る。
「いっぱい飲んで食えよ」
フレイムがせっせと紅茶に砂糖を入れてかき混ぜてくれる。
「ミルクはどうする?」
「うーん……ソフトクリームがあるからとりあえず要らないわ。欲しくなったら後で足せばいいもの」
ここはビュッフェの個室なので、人目を気にせず話せる。個室にした理由は、まだ人が少ない時間とはいえ、誰かに見付かって付きまとわれるのが嫌だからだ。
現在、聖威師やフレイムも神官たちの売り込みに合っている。他の皆はさらりとかわせるが、アマーリエはまだそのスキルがない。
困った時には聖威師の権限ではっきり拒絶し、相手に下がれと命じるよう言われている。どうにもならない時は念話でヘルプすれば誰かが助けに来てくれることになっていた。
「うん、美味しいわ」
紅茶を一口飲み、プリンアラモードを頬張って頷くものの、やはりフレイムが作る料理の方が格段に美味しい。
(まだ親の支配下にあった頃の私が聞いたら、贅沢だと驚くでしょうね)
だが今は、愛される幸福を知ってしまった。甘やかされる喜びを知ってしまった。大切にされる嬉しさを知ってしまった。もう、知らなかった頃には戻れない。きっと自分は、これからどんどん欲張りになっていくだろう。
『おぅ、ねだれねだれ。いくらでもねだれ』そう言って両手を広げて応えてくれる、目の前の優しい神の胸に抱かれて。
そんなことを考えながらプリンアラモードを食べ終わり、紅茶を飲む。今はまだ夜勤の勤務時間内だ。このお茶休憩はフルードの厚意によるもの。早く戻った方がいい。
《大神官、遅くなって申し訳ありません。もうすぐ戻ります》
念話すると、すぐに返事があった。
《私から言い出したことなのでもっとゆっくりしても良いのですよ。焔神様はもうお帰りになられましたか?》
《いいえ、まだおります》
アマーリエの目の前で、美味そうにホットコーヒーとチップスをつまんでいる。
《そうですか。では、少し念話を繋ぎます》
次の瞬間、アマーリエとフレイム、フルードを対象に念話網が張られた。
《おー、どうした?》
すぐに気付いたフレイムが、柔らかな声音で話しかける。
《風神様と地神様の神器暴走の経緯が分かりました》
フルードが静かに答える。フレイムをこのような形で巻き込んだ以上、伝えておくべきと思ったのだろう。
《もう照覧祭が近いでしょう。どうにか自分を神使に選んでいただきたいと思った属国の神官の一人が、四大高位神の神器の力で自分の波動や霊威を底上げしようと思ったようなのです。そして、人が少ない夜明け前の神官府で機会を窺い、まんまと持ち出そうとしたところ、暴走したと》
思いもよらない動機に、アマーリエは目を見張った。腕組みしたフレイムの目が剣呑に細まる。
《つまり、天の目をごまかそうとしたってことか》
《そういうことになります。神使選定を行なっているのは使役……先達の神使です。神ではない彼らは神威を持たない。今回の選定のように特別な神命を授かっている場合などは、神威の欠片を与えられて聖威を使えるようになることはありますが。しかし、それでも神ではないので、四大高位神の神器ならば確実に効くと思ったようです》
神の遣いを馬鹿にした思考回路だ。不機嫌な舌打ちが響く。
《呆れた奴だな。後でそいつの情報を教えろ。こいつだけは選ばねえ方がいいと使役たちに通達を出しておく。……だが、それはそれとして。その属国の管理体制はどうなってんだ。最高格の神器を誰でもほいほい持ち出せるのか?》
《四大高位神の神器は強力な結界の中に安置されていたそうです。結界解除には複雑な手順が必要になります》
万一盗まれるか破損でもすれば一大事だ。当然の措置である。
《しかし、災害や大事故など突発的な出来事で、どうしてもすぐに神器を持ち出す必要が生じるかもしれません。ですので、主任神官と副主任神官には、一発で結界を解除できる特別な呪文が伝えられていました》
アマーリエは嫌な予感がした。フレイムも同様だったらしく、神妙な顔になっている。
《おい、それって……》
《今回神器を持ち出したのは、副主任神官の息子です。酒に弱い父親を酔わせて呪文を聞き出したのだそうです。副主任神官は自白防止の霊具を持っていますが、自宅の中で家族だけになっている時は外していたそうです》
《あーあー……》
何とも言えない空気が場に満ちた。これは身内の罠というやつだろうか。
《ただ、暴走した神器は、過去の属国の王が〝私利私欲には使わず、国益や公のためにのみ使う〟と四大高位神に約束して下賜されたものでした。〝もしも私情で使おうと考えてこの神器を手にした場合、禁忌を犯された神器は狂い、周囲のものに牙を剥く〟と条件を付けられての下賜だったそうです》
《今回はまさしく私情で使ったから暴走したわけか》
《はい。まず風神様と地神様の神器を両手に持ったところで暴走したので、触れられなかった火神様と水神様の神器は無事で済んだようです》
それが神器暴走の簡単な経緯だそうだ。
《件の神官と副主任については、当該属国の神官府で厳重に処分を検討するそうです》
説明するフルードの声が硬い。
《このような思考の者がいずれ昇天して神使になるとは》
選定で見出されずとも、死後は自動的にいずれかの神には割り振られるのだ。フレイムが宥めるように言った。
《霊威の強弱は本人の資質で決まる。人格や神の寵愛は関係ないから、ダメダメな奴が徴を発現して神官になることもあるしな》
性格が悪くとも、何かの分野で突出した才能を持っている者がいるのと同じだ。立派な精神を持っていなくても強い霊威を持つこともある。
《ま、そういう奴は変な神にしか付かせてもらえねえから。悪神まではいかなくても、性格や性癖に難ありの神に当てられる。今回のダメ神官もそうなるだろうから、それが罰になる》
《そうですね》
フルードが気を取り直した声で応じる。
《改めまして、焔神様におかれましては本日はご足労をおかけし……っ》
おそらく締めと思われる言葉が、途中で途切れた。アマーリエの頭頂から足先まで戦慄が駆け抜ける。全身の毛穴が一斉に開くような感覚。
直感が告げる。
――これは降臨だ。
(神が降りたんだわ!)
「まあ、すごい!」
目の前の皿を見て、アマーリエは思わず前のめりになった。
ビュッフェのデザートコーナーから取ったプディングやソフトクリーム、ベリー類、キウイにバナナなどが綺麗に盛り付けられ、即席のプリンアラモードが完成している。
(これからは料理関係のことはフレイムに頼るのが正解ね。私もずっと家事全般を担って来たから、それなりにやれるとは思うけれど)
とは言っても、自分だってフレイムに手料理を振る舞いたい。彼に負けないくらい料理上手にならなければ――と、変な方向に張り切る。
「いっぱい飲んで食えよ」
フレイムがせっせと紅茶に砂糖を入れてかき混ぜてくれる。
「ミルクはどうする?」
「うーん……ソフトクリームがあるからとりあえず要らないわ。欲しくなったら後で足せばいいもの」
ここはビュッフェの個室なので、人目を気にせず話せる。個室にした理由は、まだ人が少ない時間とはいえ、誰かに見付かって付きまとわれるのが嫌だからだ。
現在、聖威師やフレイムも神官たちの売り込みに合っている。他の皆はさらりとかわせるが、アマーリエはまだそのスキルがない。
困った時には聖威師の権限ではっきり拒絶し、相手に下がれと命じるよう言われている。どうにもならない時は念話でヘルプすれば誰かが助けに来てくれることになっていた。
「うん、美味しいわ」
紅茶を一口飲み、プリンアラモードを頬張って頷くものの、やはりフレイムが作る料理の方が格段に美味しい。
(まだ親の支配下にあった頃の私が聞いたら、贅沢だと驚くでしょうね)
だが今は、愛される幸福を知ってしまった。甘やかされる喜びを知ってしまった。大切にされる嬉しさを知ってしまった。もう、知らなかった頃には戻れない。きっと自分は、これからどんどん欲張りになっていくだろう。
『おぅ、ねだれねだれ。いくらでもねだれ』そう言って両手を広げて応えてくれる、目の前の優しい神の胸に抱かれて。
そんなことを考えながらプリンアラモードを食べ終わり、紅茶を飲む。今はまだ夜勤の勤務時間内だ。このお茶休憩はフルードの厚意によるもの。早く戻った方がいい。
《大神官、遅くなって申し訳ありません。もうすぐ戻ります》
念話すると、すぐに返事があった。
《私から言い出したことなのでもっとゆっくりしても良いのですよ。焔神様はもうお帰りになられましたか?》
《いいえ、まだおります》
アマーリエの目の前で、美味そうにホットコーヒーとチップスをつまんでいる。
《そうですか。では、少し念話を繋ぎます》
次の瞬間、アマーリエとフレイム、フルードを対象に念話網が張られた。
《おー、どうした?》
すぐに気付いたフレイムが、柔らかな声音で話しかける。
《風神様と地神様の神器暴走の経緯が分かりました》
フルードが静かに答える。フレイムをこのような形で巻き込んだ以上、伝えておくべきと思ったのだろう。
《もう照覧祭が近いでしょう。どうにか自分を神使に選んでいただきたいと思った属国の神官の一人が、四大高位神の神器の力で自分の波動や霊威を底上げしようと思ったようなのです。そして、人が少ない夜明け前の神官府で機会を窺い、まんまと持ち出そうとしたところ、暴走したと》
思いもよらない動機に、アマーリエは目を見張った。腕組みしたフレイムの目が剣呑に細まる。
《つまり、天の目をごまかそうとしたってことか》
《そういうことになります。神使選定を行なっているのは使役……先達の神使です。神ではない彼らは神威を持たない。今回の選定のように特別な神命を授かっている場合などは、神威の欠片を与えられて聖威を使えるようになることはありますが。しかし、それでも神ではないので、四大高位神の神器ならば確実に効くと思ったようです》
神の遣いを馬鹿にした思考回路だ。不機嫌な舌打ちが響く。
《呆れた奴だな。後でそいつの情報を教えろ。こいつだけは選ばねえ方がいいと使役たちに通達を出しておく。……だが、それはそれとして。その属国の管理体制はどうなってんだ。最高格の神器を誰でもほいほい持ち出せるのか?》
《四大高位神の神器は強力な結界の中に安置されていたそうです。結界解除には複雑な手順が必要になります》
万一盗まれるか破損でもすれば一大事だ。当然の措置である。
《しかし、災害や大事故など突発的な出来事で、どうしてもすぐに神器を持ち出す必要が生じるかもしれません。ですので、主任神官と副主任神官には、一発で結界を解除できる特別な呪文が伝えられていました》
アマーリエは嫌な予感がした。フレイムも同様だったらしく、神妙な顔になっている。
《おい、それって……》
《今回神器を持ち出したのは、副主任神官の息子です。酒に弱い父親を酔わせて呪文を聞き出したのだそうです。副主任神官は自白防止の霊具を持っていますが、自宅の中で家族だけになっている時は外していたそうです》
《あーあー……》
何とも言えない空気が場に満ちた。これは身内の罠というやつだろうか。
《ただ、暴走した神器は、過去の属国の王が〝私利私欲には使わず、国益や公のためにのみ使う〟と四大高位神に約束して下賜されたものでした。〝もしも私情で使おうと考えてこの神器を手にした場合、禁忌を犯された神器は狂い、周囲のものに牙を剥く〟と条件を付けられての下賜だったそうです》
《今回はまさしく私情で使ったから暴走したわけか》
《はい。まず風神様と地神様の神器を両手に持ったところで暴走したので、触れられなかった火神様と水神様の神器は無事で済んだようです》
それが神器暴走の簡単な経緯だそうだ。
《件の神官と副主任については、当該属国の神官府で厳重に処分を検討するそうです》
説明するフルードの声が硬い。
《このような思考の者がいずれ昇天して神使になるとは》
選定で見出されずとも、死後は自動的にいずれかの神には割り振られるのだ。フレイムが宥めるように言った。
《霊威の強弱は本人の資質で決まる。人格や神の寵愛は関係ないから、ダメダメな奴が徴を発現して神官になることもあるしな》
性格が悪くとも、何かの分野で突出した才能を持っている者がいるのと同じだ。立派な精神を持っていなくても強い霊威を持つこともある。
《ま、そういう奴は変な神にしか付かせてもらえねえから。悪神まではいかなくても、性格や性癖に難ありの神に当てられる。今回のダメ神官もそうなるだろうから、それが罰になる》
《そうですね》
フルードが気を取り直した声で応じる。
《改めまして、焔神様におかれましては本日はご足労をおかけし……っ》
おそらく締めと思われる言葉が、途中で途切れた。アマーリエの頭頂から足先まで戦慄が駆け抜ける。全身の毛穴が一斉に開くような感覚。
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――これは降臨だ。
(神が降りたんだわ!)
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