神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました

土広真丘

文字の大きさ
101 / 602
第1章

101.そして未来へ④

しおりを挟む
《申し訳ありません、いったん失礼いたします》

 短く言い置き、念話網が消失する。同時にフレイムがハッと天井を見上げ、いつもより一段高い声を上げた。

「――?」

 アマーリエが驚いて視線を向けると、彼は上を見たまま微かに瞳を揺らしている。どこからかの念話を受けているのだ。

「な……水神様、どういうことです。いきなり――はい? 迷惑かけるけどごめんねって何ですか!?」
(水神!?)

 唐突に発された単語に愕然となる。四大高位神がフレイムに何の用なのか。

「ちょっ……くそ、切れちまった」

 眉を寄せたフレイムが立ち上がる。

「ユフィー、感じたな? すまんが行くぞ。神が来た」
「分かったわ」

 頷き、テーブル横のボタンを押した。これでビュッフェのスタッフが食器を下げに来てくれる。基本的に飲食物の片付けはセルフだが、個室は打ち合わせ等で使う場合もあるため、スタッフに任せることが可能だ。

「場所は……」

 聖威を発動し、神威が降りた位置を特定しようとするが、フレイムの方が早かった。

「俺と一緒に転移すれば良い」

 台詞と同時に視界が歪み、一瞬後、勧請の間の一つにいた。

 明々と光が灯る広間。奥にある数段高くなった上座。段を上った手前の位置で、ちょうどフルードが膝を付いて叩頭したところだった。彼の方が一足先に駆け付けたらしい。そして上座の奥に佇んでいる人影。

 アマーリエは大急ぎで上座に移動し、フルードの斜め後ろで同じように跪拝する。神がいます段上まで上がれるのは聖威師の特権だ。霊威師であれば、段下で平伏しなければならない。

泡神ほうしん様に降臨いただきましたこと、光栄の極みにございます」

 フルードの言葉に、神は口を開いた。

『聖威師は面を上げ、楽にせよ』

 微かにさざめく水面のような、静かな声だった。フレイムの力強い声とはまた違う。

 許しが出たため、身を起こしたアマーリエはそろりと顔を上げ、その姿を確認する。

 外見は20代の青年。細い眉に切れ長の瞳、冷静さを感じさせる理知的な美貌。白い肌とほっそりした優美な肢体。白に近い水色の長髪はストレートで、腰まで流れている。瞳は少しだけ灰色がかった白色。耳は尖り、瞳孔は縦に裂けていた。ゆるく着付けた神衣は青と水色を基調にしている。

(フレイムとは正反対の神様だわ……)

 アマーリエが思った、次の瞬間。
 青年神の切れ長の双眸が真ん丸になり、ウルウルと潤み始めた。ぶぅぅわぁぁ、と涙が溢れる。

『うぅ……あぁ良かった。パパさんがいる日に合わせたんだ。他の子よりよく知ってるから。ちゃんとパパさんが来てくれて良かった!』

 ガバッとフルードに抱きつき、肩口にスリスリしている。

「パパさん……?」

 思わず声に出して呟いてしまい、しまったと口を押さえて青年を窺う。青年神はくるりと振り向き、赤くなった目元をこちらに向けた。アマーリエと目が合うと、ビクウウゥッ!!! と震えてサササッとフルードの後ろに隠れる。だが彼の方が身長が高い――フレイムと同じくらい長身である――ため、腰を落として体を折り曲げる体勢になっており、やや珍妙な光景だった。

「え? え?」

 アマーリエの方もきょときょと目を瞬く。かつて神々から拒絶された体験が脳裏をよぎり、体が強張りかけるが、フルードの肩から顔を出した青年神が声をかけて来た。

『や、やぁ……はは初めまして。あなたが新しい聖威師か。あ、会えて嬉しいよ……よよよ、よろしく』

 何故そんなにビビるのかと思うような挨拶だった。眉は見事な八の字になっており、淡い白灰色の眼は左右に泳ぎまくっている。

「と、尊き大神にご挨拶いたします。私はアマーリエ・ユフィー・サードと申します。この度はご拝謁の栄誉を賜り恐悦至極に存じます」
『う、うん』

 コクンと小さく頷くと、青年の整った顔はフルードの肩下に沈んでいった。

(ええぇ……?)

 挨拶してくれたところを見ると、嫌われているわけではなさそうだが。呆然としていると、フルードが口を開いた。

「アマーリエ。この御方はあわの神。泡神フロース様であらせられます。水神様の御子神にして分け身。選ばれし高位神の一柱です。そして……私の息子に寵を与えて下さっている波浪はろうの神、波神はしん様の双子神でもあられます」

 その言葉に驚くと、再び青年――フロースが、フルードの後ろから頭と目だけを出した。

『そ、そう……ウェイブは私の双子神で兄神なんだ。あちらの方が幼い姿をしているけど……』
「もしかして、だからパパさんと呼んでおられたのでしょうか」

 アマーリエが返した瞬間、泡神は長い髪を翻して大神官の背後に消えた。か細い声だけが聞こえて来る。

『う、う、うん……ウェイブが、こ、この子をパパさんと呼んでいるから……』
「そ、そうでございますか」

 もしや自分は相当怖い顔をしているのかと、アマーリエは両手で頰をつまんでムニムニ動かしてみた。

「何をしているのです、アマーリエ」

 変なものを見たような声音でフルードが言い、それを聞いてみたび顔を覗かせたフロースも瞬きしている。

「いえ、私の顔が何か変なので泡神様を驚かせてしまったのかと思いまして」

 えっ、とフロースが小さく呟く。

「気にすんなユフィー」

 声を発したのは、今まで口を挟まず静観していたフレイムだった。

「泡神様はちょっとあがり症で引っ込み思案なんだよ。けどそれだけだし、悪い奴じゃねえから。もちろんお前を嫌ってるとか疎んでるとかもねえ」
「そうなの? ――何だ、ただ大人しくて優しい神様なだけだったのね』

 白灰色の双眸が小さく見開かれた。それに気付かず、アマーリエは安堵を込めて続ける。

「嫌な思いをさせているのでなくて良かったわ」

 胸を撫で下ろしていると、数呼吸ほどの間こちらをじぃっと見つめたフロースが、そろーりとフルードの背から出て来た。フルードとフレイムが驚いたようにそれを見る。

「お、珍しいな。初対面の同胞にはビビリまくりのお前が、どういう風の吹きまわしだ?」

『もう大丈夫だ。アマーリエは良い子だと分かったから。……アマーリエ、私の態度のせいで不安にさせて申し訳なかった』

 口調を滑らかにしておずおずと笑いかける顔は、初見で与える理知的な印象よりもずっと柔らかいものだった。

『いきなりの降臨で驚かせたと思う。すまなかった。私の神威は、焔神様と神官府にいる聖威師にしか感じ取れないようにしている。一般の神官は降臨に気付いていないから、騒ぎにはなっていないはずだ』

 フレイムが首を傾げる。

「滅多に自分の領域から出ないお前が、何で地上に来た? しかも供も付けず単独で。さっき水神様から念話があって、うちのをよろしく頼むよとか何とか仰ってたが……」

 すると、フロースは何故かポッと頰を赤らめた。

『探しに来たんだ』
「探しに……何をだ?」
『私の愛し子を』
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

結婚十年目の夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。彼は「送り間違えた」というけれど、それはそれで問題なのでは?

ぽんた
恋愛
レミ・マカリスター侯爵夫人は、夫と政略結婚をして十周年。侯爵夫人として、義父母の介護や領地経営その他もろもろを完ぺきにこなしている。そんなある日、王都に住む夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。義弟を通じ、夫を追求するも夫は「送り間違えた。ほんとうは金を送れというメモを送りたかった」という。レミは、心から思った。「それはそれで問題なのでは?」、と。そして、彼女の夫にたいするざまぁがはじまる。 ※ハッピーエンド確約。ざまぁあり。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。

幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。

灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。 曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。 婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。 前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。

君といるのは疲れると言われたので、婚約者を追いかけるのはやめてみました

水谷繭
恋愛
メイベル・ホワイトは目立たない平凡な少女で、美人な姉といつも比べられてきた。 求婚者の殺到する姉とは反対に、全く縁談のなかったメイベル。 そんなある日、ブラッドという美少年が婚約を持ちかけてくる。姉より自分を選んでくれたブラッドに感謝したメイベルは、彼のために何でもしようとひたすら努力する。 しかしそんな態度を重いと告げられ、君といると疲れると言われてしまう。 ショックを受けたメイベルは、ブラッドばかりの生活を改め、好きだった魔法に打ち込むために魔術院に入ることを決意するが…… ◆なろうにも掲載しています

愛してもいないのに

豆狸
恋愛
どうして前と違うのでしょう。 この記憶は本当のことではないのかもしれません。 ……本当のことでなかったなら良いのに。 ※子どもに関するセンシティブな内容があります。

『外見しか見なかったあなたへ。私はもう、選ぶ側です』

鷹 綾
恋愛
「お前のようなガキは嫌いだ」 幼く見える容姿を理由に、婚約者ライオネルから一方的に婚約を破棄された 公爵令嬢シルフィーネ・エルフィンベルク。 その夜、嫉妬に狂った伯爵令嬢に突き落とされ、 彼女は一年もの間、意識不明の重体に陥る――。 目を覚ました彼女は、大人びた美貌を手に入れていた。 だが、中身は何ひとつ変わっていない。 にもかかわらず、 かつて彼女を「幼すぎる」と切り捨てた元婚約者は態度を一変させ、 「やり直したい」とすり寄ってくる。 「見かけが変わっても、中身は同じです。 それでもあなたは、私の外見しか見ていなかったのですね?」 静かにそう告げ、シルフィーネは過去を見限る。 やがて彼女に興味を示したのは、 隣国ノルディアの王太子エドワルド。 彼が見ていたのは、美貌ではなく―― 対話し、考え、異論を述べる彼女の“在り方”だった。 これは、 外見で価値を決められた令嬢が、 「選ばれる人生」をやめ、 自分の意思で未来を選び直す物語。 静かなざまぁと、 対等な関係から始まる大人の恋。 そして―― 自分の人生を、自分の言葉で生きるための物語。 ---

最初からここに私の居場所はなかった

kana
恋愛
死なないために媚びても駄目だった。 死なないために努力しても認められなかった。 死なないためにどんなに辛くても笑顔でいても無駄だった。 死なないために何をされても怒らなかったのに⋯⋯ だったら⋯⋯もう誰にも媚びる必要も、気を使う必要もないでしょう? だから虚しい希望は捨てて生きるための準備を始めた。 二度目は、自分らしく生きると決めた。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ いつも稚拙な小説を読んでいただきありがとうございます。 私ごとですが、この度レジーナブックス様より『後悔している言われても⋯⋯ねえ?今さらですよ?』が1月31日頃に書籍化されることになりました~ これも読んでくださった皆様のおかげです。m(_ _)m これからも皆様に楽しんでいただける作品をお届けできるように頑張ってまいりますので、よろしくお願いいたします(>人<;)

ローザリンデの第二の人生

梨丸
恋愛
伯爵令嬢、ローザリンデの夫はいつも彼女より仕事を優先させ、彼女を無碍にしている。 彼には今はもういない想い人がいた。 私と結婚したことにいい思いをしていないことは知っていた。 けれど、私の命が懸かっていた時でさえも、彼の精神は変わらなかった。 あなたが愛してくれないのなら、私は勝手に幸せになります。 吹っ切れたローザリンデは自分自身の幸せのために動くことにした。 ※投稿してから、誤字脱字などの修正やわかりにくい部分の補足をすることがあります。(話の筋は変わらないのでご安心ください。) 1/10 HOTランキング2位、ありがとうございます。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

処理中です...