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第1章
102.そして未来へ⑤
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広間に沈黙が落ちる。ややあって、フレイムが呟いた。
「……何言ってんだお前?」
『ウェイブは愛し子を得てから変わった。前は気難しくてほとんど笑わなくていつもしかめっ面をしていたのが、愛し子ができてからは嘘みたいに丸くなり、明るく笑うようになった』
チラとフルードの方を見ているのは、波神の愛し子だというフルードの息子に意識を馳せているからか。
『嵐神様だってそうだ。あの勝気で負けん気が強くて攻撃的で、神威に棘を生やしているみたいだった嵐神様が、愛し子を持ったらすっかりメロメロになって、性格も神威も柔らかくなった』
ここでもフルードに視線を向けているのは、嵐神の愛し子がアシュトン……フルードの妻だからだろう。
『焔神様だってきっと変化があるはずだ。だから、高位神をも変える愛し子に興味があるんだ。もし愛し子を見つけたら私はどうなるのか、どこがどれくらいどのように変化するのか、それを知りたい』
「あー……そういやお前、興味があることや気になったことには全力投球の研究者肌だったな」
頰をかいたフレイムが苦笑いする。
『それで頑張って降臨した。父神や兄神、姉神たちは心配していたが、何かあれば今は焔神様が地上にいるから頼れと言われた。焔神様なら大抵のことは燃やしまくって何とかしてくれるだろうと』
「俺は便利屋じゃねーよ!」
突っ込むフレイムだが、意外にもフルードとアマーリエが賛同した。
「そうですね、焔神様は割と何でも燃やして下さいますね。サツマイモから金属から神器から運命や未来まで何でも」
「人間も燃やしますよ。私の家系図上の両親と妹のことも何度も燃やそうとしていましたもの。ついでに妹の婚約者も」
「ちょっと待て、セイン、ユフィー……」
『うん、そうだろう! ということだから頼んだ、焔神様』
「何をだよ!」
そこでフロースは、思案するように顎に手を当てた。いつの間にやら、最初の怯えた態度が鳴りを潜めている。気を許した者の前では、普通に話せるようになるのだろう。
『私が降臨していることは、ひとまず焔神様と聖威師たち以外には伏せておく。公表したら皆が挨拶に来てしまう。だけど、焔神様が言う通り私はかなりのあがり症で臆病者だ。人間たちの前で威厳ある態度を取り続けるのは精神的に負担だ』
そんな情けないことを堂々と言っていいのだろうか。神なのに。アマーリエは虚ろな目になった。
『素性を伏せて神官たちを見て回るしかないが、よく知らない場所を供もなく歩き回るのは怖い』
今回は、使役や従神の同行は認められなかったのだという。
「お、お前……そんなんでよく愛し子を探しに来ようとか思えたな」
フレイムが唖然と呟いた。
「天界から地上を視て探した方が……いや、今は天界ではあんまり神威を使うなってお達しが出てるんだったか」
ラミルファが後祭の時に話していた情報だ。
『うん。広範囲にいる不特定多数を長時間視るのはやめておいた方がいいと思う』
「じゃあその状況が落ち着くまで待つか、範囲や時間を多少限定してコツコツ視ていけよ。それか、神威を極力使うなってのはあくまで努力義務だろうから、思い切って無視しちまうとか。悪いこと言わねえから、普通に天界から視た方が良いと思うぜ』
「だけど、父神や兄姉神に頑張って来いと送り出してもらったのに、こんなにすぐに還るなんてできない』
「んー……なら……どうするつもりなんだ? 地上のどっかに引きこもって、遠視で神官府を眺めて良さそうな奴を絞るのか? 神使を選定する使役にもそういうやり方をしてる奴はいるみたいだが』
効率的なやり方ではある。フレイムも火神の神使を探している時、遠視を併用していた。
ただ、二つ目の密命があったこと、直接見て分かることもあること、聖威には厳重な使用制限があること、体を動かしていた方が性に合うという自身の性格等々により、積極的に神官府に足を運んでいた。そういう使役も多い。
『その件だが……パパさん。それにアマーリエも。二人に協力して欲しいことがある』
この瞬間、アマーリエは嫌な予感が走り、ブルッと震えた。フルードが恭しく問いかける。
「どのようなことでしょうか」
『あなたたちは、日々多くの神官と接しているだろう。変装した私を、部下か何かのフリをして側に控えさせて欲しい』
嫌な予感的中である。とんでもないことを言い出した泡神に、聞いているアマーリエは戦慄した。フルードとフレイムが呆気に取られている。
『そうすれば、あなたたちの後ろに隠れて神官たちを直に確認できる。私自身が対応するのではなく見ているだけなら、負担も少ない』
フロースはその神格の通り、泡のように掴み所のない笑みを浮かべた。
『これからしばらくの間、日替わりや時間替わりで二人に付かせてもらえれば助かる』
僅かに灰色がかった白い双眸が、フルードとアマーリエを順繰りに見た。
『ねぇ、協力してくれるだろう?』
一応疑問形を取ってはいるが、実質的には命令だ。天の神の意志を聖威師は拒めない。
「承知いたしました」
「仰せのままに」
フルードとアマーリエは低頭して答える。それ以外の選択肢がなかった。フレイムが天井を仰いでやれやれと呟く。
――その時だった。
『それは良きアイデアだ』
いきなり空間が割れ、裂け目から絶世の美少年が顔を覗かせた。
「……何言ってんだお前?」
『ウェイブは愛し子を得てから変わった。前は気難しくてほとんど笑わなくていつもしかめっ面をしていたのが、愛し子ができてからは嘘みたいに丸くなり、明るく笑うようになった』
チラとフルードの方を見ているのは、波神の愛し子だというフルードの息子に意識を馳せているからか。
『嵐神様だってそうだ。あの勝気で負けん気が強くて攻撃的で、神威に棘を生やしているみたいだった嵐神様が、愛し子を持ったらすっかりメロメロになって、性格も神威も柔らかくなった』
ここでもフルードに視線を向けているのは、嵐神の愛し子がアシュトン……フルードの妻だからだろう。
『焔神様だってきっと変化があるはずだ。だから、高位神をも変える愛し子に興味があるんだ。もし愛し子を見つけたら私はどうなるのか、どこがどれくらいどのように変化するのか、それを知りたい』
「あー……そういやお前、興味があることや気になったことには全力投球の研究者肌だったな」
頰をかいたフレイムが苦笑いする。
『それで頑張って降臨した。父神や兄神、姉神たちは心配していたが、何かあれば今は焔神様が地上にいるから頼れと言われた。焔神様なら大抵のことは燃やしまくって何とかしてくれるだろうと』
「俺は便利屋じゃねーよ!」
突っ込むフレイムだが、意外にもフルードとアマーリエが賛同した。
「そうですね、焔神様は割と何でも燃やして下さいますね。サツマイモから金属から神器から運命や未来まで何でも」
「人間も燃やしますよ。私の家系図上の両親と妹のことも何度も燃やそうとしていましたもの。ついでに妹の婚約者も」
「ちょっと待て、セイン、ユフィー……」
『うん、そうだろう! ということだから頼んだ、焔神様』
「何をだよ!」
そこでフロースは、思案するように顎に手を当てた。いつの間にやら、最初の怯えた態度が鳴りを潜めている。気を許した者の前では、普通に話せるようになるのだろう。
『私が降臨していることは、ひとまず焔神様と聖威師たち以外には伏せておく。公表したら皆が挨拶に来てしまう。だけど、焔神様が言う通り私はかなりのあがり症で臆病者だ。人間たちの前で威厳ある態度を取り続けるのは精神的に負担だ』
そんな情けないことを堂々と言っていいのだろうか。神なのに。アマーリエは虚ろな目になった。
『素性を伏せて神官たちを見て回るしかないが、よく知らない場所を供もなく歩き回るのは怖い』
今回は、使役や従神の同行は認められなかったのだという。
「お、お前……そんなんでよく愛し子を探しに来ようとか思えたな」
フレイムが唖然と呟いた。
「天界から地上を視て探した方が……いや、今は天界ではあんまり神威を使うなってお達しが出てるんだったか」
ラミルファが後祭の時に話していた情報だ。
『うん。広範囲にいる不特定多数を長時間視るのはやめておいた方がいいと思う』
「じゃあその状況が落ち着くまで待つか、範囲や時間を多少限定してコツコツ視ていけよ。それか、神威を極力使うなってのはあくまで努力義務だろうから、思い切って無視しちまうとか。悪いこと言わねえから、普通に天界から視た方が良いと思うぜ』
「だけど、父神や兄姉神に頑張って来いと送り出してもらったのに、こんなにすぐに還るなんてできない』
「んー……なら……どうするつもりなんだ? 地上のどっかに引きこもって、遠視で神官府を眺めて良さそうな奴を絞るのか? 神使を選定する使役にもそういうやり方をしてる奴はいるみたいだが』
効率的なやり方ではある。フレイムも火神の神使を探している時、遠視を併用していた。
ただ、二つ目の密命があったこと、直接見て分かることもあること、聖威には厳重な使用制限があること、体を動かしていた方が性に合うという自身の性格等々により、積極的に神官府に足を運んでいた。そういう使役も多い。
『その件だが……パパさん。それにアマーリエも。二人に協力して欲しいことがある』
この瞬間、アマーリエは嫌な予感が走り、ブルッと震えた。フルードが恭しく問いかける。
「どのようなことでしょうか」
『あなたたちは、日々多くの神官と接しているだろう。変装した私を、部下か何かのフリをして側に控えさせて欲しい』
嫌な予感的中である。とんでもないことを言い出した泡神に、聞いているアマーリエは戦慄した。フルードとフレイムが呆気に取られている。
『そうすれば、あなたたちの後ろに隠れて神官たちを直に確認できる。私自身が対応するのではなく見ているだけなら、負担も少ない』
フロースはその神格の通り、泡のように掴み所のない笑みを浮かべた。
『これからしばらくの間、日替わりや時間替わりで二人に付かせてもらえれば助かる』
僅かに灰色がかった白い双眸が、フルードとアマーリエを順繰りに見た。
『ねぇ、協力してくれるだろう?』
一応疑問形を取ってはいるが、実質的には命令だ。天の神の意志を聖威師は拒めない。
「承知いたしました」
「仰せのままに」
フルードとアマーリエは低頭して答える。それ以外の選択肢がなかった。フレイムが天井を仰いでやれやれと呟く。
――その時だった。
『それは良きアイデアだ』
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