87 / 603
第1章
87.彼らの現在②
しおりを挟む
重く長い溜め息を吐き出したフレイムは、ソファに背を預けて呟いた。
「アイツら、俺が懇々と説教した内容分かってんのか?」
ミリエーナは未だに邪神の寵から逃れられてはおらず、ダライとネイーシャも神使として狙われている。
フレイムは先日、それぞれの場所で拘束されているダライたちに面会し、経緯を説明した上で忠告していた。
『俺の浄化の火は、お前らの魂の表層を覆っただけだ。中身を綺麗にするのはお前ら自身の努力でやれ』
『火の効力は10年保つ。お前らは今後10年で、死ぬ気で自省し努力しろ。死に物狂いで自分を変えるんだ。火がなくなっても心が清浄さを保っていれば、ラミルファはお前らを切り捨てる。愛し子の誓約を解除し、神使に取り立てることもない』
『普通の神は、一度愛し子にした相手は何があっても見捨てねえし誓約解除もしねえが、悪神は別だ。悪神にとっての愛し子は都合のいい玩具で生き餌だから、気に入らなくなれば切り捨てる』
『ただし、10年経ってもお前の性根がねじ曲がったままだったら、切り捨てるどころか大喜びで天に連れて行かれるだろう。穢れしかない悪神の領域に引っ張り込まれたら終わりだ。二度と清浄さは取り戻せねえ』
『後10年の間に、清濁どちらにも転べる人界にいる間に、血反吐を吐きまくってでも自分を叩き直せ』
『いいか、これが最後のチャンスだ。10年後、もう一度浄化の火をかけて延長することはしてやらねえからな。一度きりの機会だと思えよ』
『それから――ラミルファだって何かしてくるかもしれねえ。お前らを誘惑し唆し、穢れの神威を振りかけて、邪魔な浄化の火を中和しようとするかもな。助かりたいなら、意地でもそれを撥ね退けて俺の火を絶やすな。悪神に見限られるくらいに性根が矯正されるまでは』
強い口調でそう警告したはずだが――届いたのはこの書簡である。この調子では、浄化の火は10年も保たず、5年くらいで消えてしまうかもしれない。
「一度は情けをかけてやったんだ。それでも駄目だったなら、二度目は見捨てる」
冷たく言ったフレイムは、いそいそとチョコレートをつまんでいるフルードを見た。
「そういや、バカ妹のバカ婚約者――いや、元婚約者か――はどうだ? お前が処分を任されてたろ」
「神託を独断破棄した罪で投獄いたしましたが、『こんなはずじゃなかった。アマーリエが全て悪い。最底辺はアイツだ、俺じゃない! 俺は悪くない!』と叫んでおります。本件により、グランズ家は自主的に爵位を返上しました」
「あーあー……」
余談だが、属国にあるネイーシャの生家は、サッカの葉のサンプルを適切に提出しなかった咎と、神託をきちんと読まず別の神官に丸投げした罪で裁かれている。特に神託の件は、破り捨てて隠蔽したシュードンに比べればマシとはいえ、十分に大問題だ。貴族籍の剥奪はもちろんのこと、長期に渡る過酷な労役など相当な厳罰が下されることになっていた。
「で、お前はバカ婚約者をどうするつもりなんだ?」
「神官府で生涯に渡って重労働に従事させます。死亡時――つまり昇天時より後の処遇は、四大高位神様方にお任せいたします。改心と更生の度合いにより、適切な神の使いに割り当てて下さるでしょう」
神託を勝手に廃棄するような者を神使に選び出す神などいない。いずれの神にも見出されなかった神官は、死後に四大高位神により適当と思われる神の使いに割り振られる。
だが、繰り返しになるが、シュードンは神の意を破り棄て完全無視した無礼者だ。まともな神に割り当ててはもらえないだろう。厳しく神使に当たる神の元に追いやられ、未来永劫こき使われることになる。これはネイーシャの実家の者にも当てはまるかもしれないが。
「全っ然改心してなかったら、悪神が引き取りに来るかもな」
現在の悪神たちは、神託を隠蔽されたことでシュードンを嫌悪している。だが、仮に数十年もの時を反省せずに過ごし、最期までそれを貫いたとしたら。その時は禍神が動くかもしれなかった。
「可愛さ余って憎さ百倍の逆バージョンだな。救いようのない馬鹿さ加減が一周回って愛おしい、みたいな感じか」
「その点も言い含めておきます。それでも考えを改めなければ自己責任ですので」
「何とか助かるには、今生できっちりしっかりがっつり改心するしかねえな。別人になるレベルで。そしたら比較的マシな神の使いにしてもらえるかもしれねえ」
彼が助かるには、自身を根本から更生するという茨の道を乗り越えるしかないのだ。
「バカ婚約者だけじゃく、バカ四強は全員、その道に賭けるしかないだろう。……俺はバカ家族の処断権を持っているが、お前と同じ方針にしようと考えてる」
後半は渋々の台詞だった。フルードを見ながら内心でひとりごちる。
(本音を言えば、それじゃ全然不足なんだが……ユフィーには強力な味方が付いてるみたいだからな)
対フレイム兵器としては、アマーリエと双璧をなす味方だ。フレイムは決してこの子を傷付けない。
(ったく、厄介なことになりやがって)
「アイツら、俺が懇々と説教した内容分かってんのか?」
ミリエーナは未だに邪神の寵から逃れられてはおらず、ダライとネイーシャも神使として狙われている。
フレイムは先日、それぞれの場所で拘束されているダライたちに面会し、経緯を説明した上で忠告していた。
『俺の浄化の火は、お前らの魂の表層を覆っただけだ。中身を綺麗にするのはお前ら自身の努力でやれ』
『火の効力は10年保つ。お前らは今後10年で、死ぬ気で自省し努力しろ。死に物狂いで自分を変えるんだ。火がなくなっても心が清浄さを保っていれば、ラミルファはお前らを切り捨てる。愛し子の誓約を解除し、神使に取り立てることもない』
『普通の神は、一度愛し子にした相手は何があっても見捨てねえし誓約解除もしねえが、悪神は別だ。悪神にとっての愛し子は都合のいい玩具で生き餌だから、気に入らなくなれば切り捨てる』
『ただし、10年経ってもお前の性根がねじ曲がったままだったら、切り捨てるどころか大喜びで天に連れて行かれるだろう。穢れしかない悪神の領域に引っ張り込まれたら終わりだ。二度と清浄さは取り戻せねえ』
『後10年の間に、清濁どちらにも転べる人界にいる間に、血反吐を吐きまくってでも自分を叩き直せ』
『いいか、これが最後のチャンスだ。10年後、もう一度浄化の火をかけて延長することはしてやらねえからな。一度きりの機会だと思えよ』
『それから――ラミルファだって何かしてくるかもしれねえ。お前らを誘惑し唆し、穢れの神威を振りかけて、邪魔な浄化の火を中和しようとするかもな。助かりたいなら、意地でもそれを撥ね退けて俺の火を絶やすな。悪神に見限られるくらいに性根が矯正されるまでは』
強い口調でそう警告したはずだが――届いたのはこの書簡である。この調子では、浄化の火は10年も保たず、5年くらいで消えてしまうかもしれない。
「一度は情けをかけてやったんだ。それでも駄目だったなら、二度目は見捨てる」
冷たく言ったフレイムは、いそいそとチョコレートをつまんでいるフルードを見た。
「そういや、バカ妹のバカ婚約者――いや、元婚約者か――はどうだ? お前が処分を任されてたろ」
「神託を独断破棄した罪で投獄いたしましたが、『こんなはずじゃなかった。アマーリエが全て悪い。最底辺はアイツだ、俺じゃない! 俺は悪くない!』と叫んでおります。本件により、グランズ家は自主的に爵位を返上しました」
「あーあー……」
余談だが、属国にあるネイーシャの生家は、サッカの葉のサンプルを適切に提出しなかった咎と、神託をきちんと読まず別の神官に丸投げした罪で裁かれている。特に神託の件は、破り捨てて隠蔽したシュードンに比べればマシとはいえ、十分に大問題だ。貴族籍の剥奪はもちろんのこと、長期に渡る過酷な労役など相当な厳罰が下されることになっていた。
「で、お前はバカ婚約者をどうするつもりなんだ?」
「神官府で生涯に渡って重労働に従事させます。死亡時――つまり昇天時より後の処遇は、四大高位神様方にお任せいたします。改心と更生の度合いにより、適切な神の使いに割り当てて下さるでしょう」
神託を勝手に廃棄するような者を神使に選び出す神などいない。いずれの神にも見出されなかった神官は、死後に四大高位神により適当と思われる神の使いに割り振られる。
だが、繰り返しになるが、シュードンは神の意を破り棄て完全無視した無礼者だ。まともな神に割り当ててはもらえないだろう。厳しく神使に当たる神の元に追いやられ、未来永劫こき使われることになる。これはネイーシャの実家の者にも当てはまるかもしれないが。
「全っ然改心してなかったら、悪神が引き取りに来るかもな」
現在の悪神たちは、神託を隠蔽されたことでシュードンを嫌悪している。だが、仮に数十年もの時を反省せずに過ごし、最期までそれを貫いたとしたら。その時は禍神が動くかもしれなかった。
「可愛さ余って憎さ百倍の逆バージョンだな。救いようのない馬鹿さ加減が一周回って愛おしい、みたいな感じか」
「その点も言い含めておきます。それでも考えを改めなければ自己責任ですので」
「何とか助かるには、今生できっちりしっかりがっつり改心するしかねえな。別人になるレベルで。そしたら比較的マシな神の使いにしてもらえるかもしれねえ」
彼が助かるには、自身を根本から更生するという茨の道を乗り越えるしかないのだ。
「バカ婚約者だけじゃく、バカ四強は全員、その道に賭けるしかないだろう。……俺はバカ家族の処断権を持っているが、お前と同じ方針にしようと考えてる」
後半は渋々の台詞だった。フルードを見ながら内心でひとりごちる。
(本音を言えば、それじゃ全然不足なんだが……ユフィーには強力な味方が付いてるみたいだからな)
対フレイム兵器としては、アマーリエと双璧をなす味方だ。フレイムは決してこの子を傷付けない。
(ったく、厄介なことになりやがって)
53
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
なぜ、私に関係あるのかしら?
シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」
彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。
そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。
「…レオンハルト・トレヴァントだ」
非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。
そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。
「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」
この判断によって、どうなるかなども考えずに…
※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。
※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、
※ 画像はAIにて作成しております
腹違いの妹にすべてを奪われた薄幸の令嬢が、義理の母に殴られた瞬間、前世のインテリヤクザなおっさんがぶちギレた場合。
灯乃
ファンタジー
十二歳のときに母が病で亡くなった途端、父は後妻と一歳年下の妹を新たな『家族』として迎え入れた。
彼らの築く『家族』の輪から弾き出されたアニエスは、ある日義母の私室に呼び出され――。
タイトル通りのおっさんコメディーです。
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
『外見しか見なかったあなたへ。私はもう、選ぶ側です』
鷹 綾
恋愛
「お前のようなガキは嫌いだ」
幼く見える容姿を理由に、婚約者ライオネルから一方的に婚約を破棄された
公爵令嬢シルフィーネ・エルフィンベルク。
その夜、嫉妬に狂った伯爵令嬢に突き落とされ、
彼女は一年もの間、意識不明の重体に陥る――。
目を覚ました彼女は、大人びた美貌を手に入れていた。
だが、中身は何ひとつ変わっていない。
にもかかわらず、
かつて彼女を「幼すぎる」と切り捨てた元婚約者は態度を一変させ、
「やり直したい」とすり寄ってくる。
「見かけが変わっても、中身は同じです。
それでもあなたは、私の外見しか見ていなかったのですね?」
静かにそう告げ、シルフィーネは過去を見限る。
やがて彼女に興味を示したのは、
隣国ノルディアの王太子エドワルド。
彼が見ていたのは、美貌ではなく――
対話し、考え、異論を述べる彼女の“在り方”だった。
これは、
外見で価値を決められた令嬢が、
「選ばれる人生」をやめ、
自分の意思で未来を選び直す物語。
静かなざまぁと、
対等な関係から始まる大人の恋。
そして――
自分の人生を、自分の言葉で生きるための物語。
---
身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜
しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」
魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。
鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。
(な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?)
実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。
レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。
「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」
冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。
一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。
「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」
これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。
いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!
夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。
しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。
ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。
愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。
いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。
一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ!
世界観はゆるいです!
カクヨム様にも投稿しております。
※10万文字を超えたので長編に変更しました。
できない子に転生しましたが、家族と食卓があれば十分です ―人間不信だった私が、ゆっくり育つ異世界生活―
愛朱ひいろ
ファンタジー
人の顔色ばかり伺い、心を壊した26歳の会社員女性。
彼女は死後、異世界で「できない子」として転生する。
魔法は使えない。
体は不器用で、成長も人より遅い。
前世の記憶のせいで、人と関わることが少し怖い。
けれどこの世界には、
見守り支えてくれる両親と、
あたたかい食卓があった。
泣いて、つまずいて、できないことに落ち込みながら、
彼女は少しずつ「できないままでも、生きていていい」と知っていく。
これは、
最強でもチートでもない主人公が、
家族と食事に支えられながら、ゆっくり育ち直す
生活密着型・異世界転生×成長×グルメファンタジー。
……の、予定です。
毎日更新できるように執筆がんばります!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる