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第1章
39.神の正体②
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フレイムがカッと目を見開いた。
「――ってお前かよ俺を狙撃しやがったのは! マジでふざけんなよ!?」
『僕の生き餌がいる邸の方角に向かって降りて行くから、つい不安になってしまったのだよ』
「そんなもんただの偶然だよ! てかこんな自己中で身勝手な女なんか興味ねえよ、頼まれたって選ばねえわ!」
「「ちょ、ちょっと待って!」」
奇しくも、アマーリエとミリエーナの声がピッタリと重なった。今まで一度もなかった姉妹らしい現象に驚きつつ、アマーリエはフレイムを見上げる。
「ねえ、説明してフ……」
フレイム、と呼びそうになり、慌てて言葉を飲み込む。彼は今、己の素性を伏せて地上に来ている。迂闊に名を呼ばない方がいい。フレイムが焔神の御名だと知っている神官もいるかもしれないのだ。
「……説明して、一体どういうことなの?」
ミリエーナも少年神に向かって聞いていた。
「ねえルファ様、この人は何を言ってるの? えっと……何だったかしら……ラミルファ? 違うわよね、あなたはルファリオン様でしょう?」
(ラミルファ……私も聞いたことがないわ)
アマーリエはこっそりと斎場に視線を走らせた。多くの者が困惑顔で疑問符を飛ばしていたが、何名かの高位神官は妙に強張った面持ちで逃げ腰になっている。もしやラミルファという御名を持つ神を知っているのだろうか。
答えたのは壮年の神だった。
『うむ。我が主は間違いなく運命神ルファリオン様であらせられる』
それにホッとした表情を見せたミリエーナに、フレイムが告げた。
「おい、バカ妹」
「は……誰がバカですって!?」
「ああすまん、いつもの呼び方で言っちまった」
「いつもの呼び方!?」
「細かいことは気にすんな。で、だ。そのオッサンじゃなく、ルファ本人に答えてもらってみろよ。あなたは運命神ルファリオン様ですかって、ルファ自身に聞くんだ」
「え……」
ミリエーナが瞬きし、アマーリエは思わず割り込んだ。
「あの従神が偽りを言っているということ? 昨日はご自身の神性に誓って、主神は運命の神ルファリオン様だと断言なさったのよ。神は偽りを述べることもあるけれど、自らの神性に誓ったことに関しては正しい内容を仰るはずよね」
「ああ、普通の神ならな」
「普通……?」
少年神と壮年の神が笑っている。周囲の従神たちもだ。
楽しそうに、愉しそうに、ニヤニヤと嘲笑って――嗤っている。
それは、どこか不気味な光景だった。
反射的に足を引いたアマーリエに、山吹色の双眸が向けられる。
「このオッサン神はな、アマーリエ。嘘の神なんだよ」
「「うそ?」」
再び、アマーリエとミリエーナの声が二重奏を奏でた。首肯したフレイムが続ける。
「そうだ。だからこのオッサンに関しては、自身の神性に誓った時も偽りを言う。嘘こそがこいつの神性なんだからな。――嘘を司る偽言の神にして悪神の一柱。誤ったことしか言わない神。それがこいつの正体だ」
「偽言……悪神!?」
アマーリエは声を上ずらせた。
邪神や鬼神、妖神などを総称し、悪神という。悪しきものを司り、不幸と災厄をもたらす凶神である。その性格と気質は、非常に冷酷残忍かつ残虐非道。
れっきとした神の一種であり、天に住む高貴にして超越的な存在であるが、その性質から神官の中では畏怖の対象となっていた。話題に取り上げられることが少ない分、一般的な神に比べると個々の御名も知られていない。
そして、悪神にとっての神使や愛し子は、彼らの永久玩具として久遠に嬲られ続ける生き餌と同義だ。
通常の神が相手であれば、神使に選ばれることは比類なき誉れであり、愛し子として見初められることは至上の幸福である。
しかし、悪神相手となれば事情がまるで違ってくる。悪神の神使や愛し子になるくらいならば、最下層の地獄に永久投獄となった方が遥かにマシであるほどの凄惨な扱いを受けるのだ。
アマーリエは生唾を飲み込んだ。この場でフレイムが嘘を言う理由はない。本当だとするならば、悪神が我が主と仰ぐあの少年神は――。
「じゃあ……じゃあ、あのルファという神は?」
「邪神ラミルファ。悪神の長、禍神の末御子だ」
「――ってお前かよ俺を狙撃しやがったのは! マジでふざけんなよ!?」
『僕の生き餌がいる邸の方角に向かって降りて行くから、つい不安になってしまったのだよ』
「そんなもんただの偶然だよ! てかこんな自己中で身勝手な女なんか興味ねえよ、頼まれたって選ばねえわ!」
「「ちょ、ちょっと待って!」」
奇しくも、アマーリエとミリエーナの声がピッタリと重なった。今まで一度もなかった姉妹らしい現象に驚きつつ、アマーリエはフレイムを見上げる。
「ねえ、説明してフ……」
フレイム、と呼びそうになり、慌てて言葉を飲み込む。彼は今、己の素性を伏せて地上に来ている。迂闊に名を呼ばない方がいい。フレイムが焔神の御名だと知っている神官もいるかもしれないのだ。
「……説明して、一体どういうことなの?」
ミリエーナも少年神に向かって聞いていた。
「ねえルファ様、この人は何を言ってるの? えっと……何だったかしら……ラミルファ? 違うわよね、あなたはルファリオン様でしょう?」
(ラミルファ……私も聞いたことがないわ)
アマーリエはこっそりと斎場に視線を走らせた。多くの者が困惑顔で疑問符を飛ばしていたが、何名かの高位神官は妙に強張った面持ちで逃げ腰になっている。もしやラミルファという御名を持つ神を知っているのだろうか。
答えたのは壮年の神だった。
『うむ。我が主は間違いなく運命神ルファリオン様であらせられる』
それにホッとした表情を見せたミリエーナに、フレイムが告げた。
「おい、バカ妹」
「は……誰がバカですって!?」
「ああすまん、いつもの呼び方で言っちまった」
「いつもの呼び方!?」
「細かいことは気にすんな。で、だ。そのオッサンじゃなく、ルファ本人に答えてもらってみろよ。あなたは運命神ルファリオン様ですかって、ルファ自身に聞くんだ」
「え……」
ミリエーナが瞬きし、アマーリエは思わず割り込んだ。
「あの従神が偽りを言っているということ? 昨日はご自身の神性に誓って、主神は運命の神ルファリオン様だと断言なさったのよ。神は偽りを述べることもあるけれど、自らの神性に誓ったことに関しては正しい内容を仰るはずよね」
「ああ、普通の神ならな」
「普通……?」
少年神と壮年の神が笑っている。周囲の従神たちもだ。
楽しそうに、愉しそうに、ニヤニヤと嘲笑って――嗤っている。
それは、どこか不気味な光景だった。
反射的に足を引いたアマーリエに、山吹色の双眸が向けられる。
「このオッサン神はな、アマーリエ。嘘の神なんだよ」
「「うそ?」」
再び、アマーリエとミリエーナの声が二重奏を奏でた。首肯したフレイムが続ける。
「そうだ。だからこのオッサンに関しては、自身の神性に誓った時も偽りを言う。嘘こそがこいつの神性なんだからな。――嘘を司る偽言の神にして悪神の一柱。誤ったことしか言わない神。それがこいつの正体だ」
「偽言……悪神!?」
アマーリエは声を上ずらせた。
邪神や鬼神、妖神などを総称し、悪神という。悪しきものを司り、不幸と災厄をもたらす凶神である。その性格と気質は、非常に冷酷残忍かつ残虐非道。
れっきとした神の一種であり、天に住む高貴にして超越的な存在であるが、その性質から神官の中では畏怖の対象となっていた。話題に取り上げられることが少ない分、一般的な神に比べると個々の御名も知られていない。
そして、悪神にとっての神使や愛し子は、彼らの永久玩具として久遠に嬲られ続ける生き餌と同義だ。
通常の神が相手であれば、神使に選ばれることは比類なき誉れであり、愛し子として見初められることは至上の幸福である。
しかし、悪神相手となれば事情がまるで違ってくる。悪神の神使や愛し子になるくらいならば、最下層の地獄に永久投獄となった方が遥かにマシであるほどの凄惨な扱いを受けるのだ。
アマーリエは生唾を飲み込んだ。この場でフレイムが嘘を言う理由はない。本当だとするならば、悪神が我が主と仰ぐあの少年神は――。
「じゃあ……じゃあ、あのルファという神は?」
「邪神ラミルファ。悪神の長、禍神の末御子だ」
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