神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました

土広真丘

文字の大きさ
110 / 602
第2章

7.夜勤明けの朝食は最高

しおりを挟む
「ほれ、できたぞー」

 フレイムが大きなプレートを二枚浮かせて運んで来た。乗っている各料理を適温に保たせる霊具が付いているので、熱いものと冷たいものを一緒に盛り付けていても問題ない。

「よっと」

 プレートを揺らさないよう、そっとアマーリエとフルードの前に着地させる。乗っているのは、パンとサラダ、肉類、飲み物。だが、両者で内容が異なる。

 アマーリエはぷるぷるのパンケーキ。トッピングはホイップクリームとメイプルシロップ、チョコレートソースとストロベリー、チキンとベビーリーフの三種類だ。
 それに、キャベツとコーンとパプリカのサラダ。カリカリのベーコン。ふわふわのスクランブルエッグ。トマトの酸味が効いた豆類たっぷりのミネストローネ。砂糖入りの紅茶。デザートはシャーベット。

 フルードはこんがりと焼き目が付いたトースト。トッピングはピーナッツバターとマーマレードジャム、とろけるチーズとロースハム、ツナと玉ねぎの三種類。
 それから、トマトとレタスとブロッコリーのサラダ。肉汁あふれるソーセージ。半熟のオムレツ。ムール貝とマッシュルーム入りのクラムチャウダー。薄切りのレモンを浮かべた紅茶。デザートはプディング。

 間違いなく、双方の好みを熟知した上でのメニューだ。

「二人ともいっぱい食べるんだぞ」
(朝から贅沢すぎるわ……!)

 自身の大好物ばかりを前にしたアマーリエは、湧き上がる生唾をこっそり飲み込む。今まで話していたことは、綺麗に頭から吹き飛んだ。

 猫のようにソファベッドで身繕いしていたラミルファが、料理を指差した。

「僕の分は?」
「あるわけねえだろ、バカかお前は!」

 瞬時に笑顔を剥ぎ取ったフレイムが一刀両断するが、まるで堪えた様子もなくふぁ~と欠伸をしている。

「では追加で用意するがいい。僕はもう一眠りするから、支度が整ったら起こしてくれ」
「はぁ? 何言ってんだ……」
「いや、その前にアーリーモーニングティーが先だな。あっさりした種類の茶葉が良い。抽出温度は96度。供する時の温度は67度。濃い味が良いから、蒸らす時間はベストタイムより多めで。ストレートティーにシナモンをマドラースプーン2杯分だけ振ってくれ。菓子はノンシュガーのボンボンショコラを2つほど。カカオ100%のチョコレートを使って、中のフィリングはウイスキーとスモークピーナツで良い」
「注文細かいなオイ! つか悪神なんだから、味覚も普通とは逆じゃねえのかよ。腐ったモンとか丸焦げになった失敗作とかを美味しく感じるんじゃないのか?」
「そういう悪神もいるが、僕は食の嗜好に関しては通常の神寄りだ。ということでよろしく。お休み」
「よろしくじゃねえ! 出涸らしのティーバッグでも飲んどけ! そもそも神は飯も睡眠も要らねえだろ!」
「せっかく人間のフリをしているのだから、人間らしい生活を楽しみたいのだよ」
「じゃあ自分で作れよ!」

 言い合う二神の声を聞き流し、アマーリエはホイップクリームとメイプルシロップのパンケーキを一口食べた。

(あああ、おいしい~!)

 しっとり焼き上げたふわふわの生地に甘いシロップが染み込み、とろける濃厚なクリームと舌の上で混ざり合う。美味しすぎて本気で涙が出る。

「幸せすぎるわ……空の上まで飛んで行けそう……」

 半ば独り言のように呟くと、ラミルファとの掛け合いをやめたフレイムが、蕩ける甘い眼差しで言った。

「そしたら俺が抱いて天に連れて行ってやるよ。早く天界で一緒に暮らしたいしな。俺の神域に閉じ込めてどこへも出したくない」
(ええぇ?)

 とんでもない台詞に引きつっていると、フルードがにこやかに口を挟んだ。

「その時は迷わず逃げて下さい。焔神様を突き飛ばしても構いません」

 フレイムとアマーリエはそろって言葉を失った。夫を――というか、神を突き飛ばす。神官としてあるまじき発言である。

「そんなことをして良いのでしょうか。聖威師とはいえ神官なのに……」

 ドン引きするアマーリエだが、フルードはシレッとした顔で答える。

「そういう時は躊躇してはいけないと教わりました。必要なら顔面平手打ちだろうが飛び蹴りだろうが何でもして良いそうです。主神は絶対に愛し子を傷付けないので、その特権を思う存分使えと。使わなければ損で、下手に遠慮したらその時点で負けだそうです」

 一体何の勝負をしているのだろうか。

「ちょっと待て、俺はそんな方法教えてねえぞ。誰だよ、そんなやり方伝授したのは!?」

 大事な弟には強く出られないフレイムが頭を抱える。

「ふふ、良いじゃないか。権利は使ってこそ輝くものだ。持ちぐされにするのは馬鹿馬鹿しい」

 ラミルファが毛布をポイと放り捨て、ソファベッドから降りた。どうやら起きる気になったらしい。

「邪神様、お茶をお淹れいたしましょうか」

 先ほどモーニングティーを所望していたからだろう、フルードが声をかけた。アマーリエもつられて身じろぎする。

「いや、茶菓も朝食も不要だ。もう飲食したい気分ではなくなった。君たちは僕に構わず朝食を摂るが良い」

 少し前までと言っていることが違う。まさしく気分屋だ。フルードとアマーリエは一礼してプレートに向き直った。

「それよりフレイム、泡神様はまだ寝ているのか。昨日降臨した後、疲れたと言ってもてなしの茶菓も断って引きこもったきりだが」
「ああ。けど、寝静まった気配がするのにピリピリ感が漂ってる。寝ながら緊張してるんだぜ、きっと」
「実を言えば、神官府のことを細部まで把握しておこうと、昨夜からずっと微睡みの中で府内を探っていたのだよ。だが、泡神様の神威がブクブクブクブクとバブルガンの如く漂っていて、何も視聴できない」

 やれやれと金髪をかき上げた邪神が苦笑いする。これでは神官たちが遠視や透視を使おうとしても阻害されるので、表向きには神器の出力調整による一時的な神威の放出という説明をしている。

「泡神様はこれでも御稜威みいつを抑えているのだろうが、その条件は僕も同じだ。神威を抑制した状態ではあの泡カーテンを突破できない。力押しでこじ開けることはできるが、大事な同胞相手に強引な真似はしたくない。さて、どうしたものか」
「あー、それでずっとゴロ寝してたのか、お前。悪かったよ、ちゃんと仕事してたんだな」
「僕は勤勉なのさ。しかし泡神様には困ったものだ。初めからこの調子では先が思いやられる」
「まーな。愛し子探しとか言ってたが――部下に化けてとはいえ、初対面の奴と対峙できるのか?」

 クスクス笑うラミルファと、眉間に皺を寄せるフレイム。

「いっそ開き直って正体を顕し、公募でもかけてみれば良いのではないかな」
「はっ、お前もやってみたらどうだ。悪神の愛し子、募集しま~すぅってな」
「ふふ、それも面白いな。神官が震撼しんかんする」
「下らんシャレは要らねえよ! しかし、マジで大丈夫なのかよ。今みたいに急用の神官がいきなり駆け込んで来たりもするだろうし」
「ビックリして心臓麻痺でも起こして、ポックリと天界に帰還することになるかもしれないよ」
「超絶にかっこ悪い還り方だな……神は心臓麻痺なんて起こさねえよってのは置いといて……」
「そうしたら指差して笑ってやるとも」

 もう一柱の神がいる続き部屋――そちらには仮眠用のベッドがある――を見ながら、二神はボソボソと言葉を交わしている。
 音を立てずにオムレツを切り分けるフルードが、微かに呟いた。

「……後祭であなた方があらわれて、驚きで心臓が止まりかけたのは僕の方ですよ」

 だが、あまりに小さな声だったため、誰にも届かない。最も近くにいるアマーリエも、絶品朝食をいただくのに夢中だ。

(ああもう、最っっ高だわ)

 ボリュームたっぷりの料理が、あっという間に口の中に消えていく。気が付けばデザートまで綺麗に完食していた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

結婚十年目の夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。彼は「送り間違えた」というけれど、それはそれで問題なのでは?

ぽんた
恋愛
レミ・マカリスター侯爵夫人は、夫と政略結婚をして十周年。侯爵夫人として、義父母の介護や領地経営その他もろもろを完ぺきにこなしている。そんなある日、王都に住む夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。義弟を通じ、夫を追求するも夫は「送り間違えた。ほんとうは金を送れというメモを送りたかった」という。レミは、心から思った。「それはそれで問題なのでは?」、と。そして、彼女の夫にたいするざまぁがはじまる。 ※ハッピーエンド確約。ざまぁあり。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。

幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。

灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。 曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。 婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。 前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。

君といるのは疲れると言われたので、婚約者を追いかけるのはやめてみました

水谷繭
恋愛
メイベル・ホワイトは目立たない平凡な少女で、美人な姉といつも比べられてきた。 求婚者の殺到する姉とは反対に、全く縁談のなかったメイベル。 そんなある日、ブラッドという美少年が婚約を持ちかけてくる。姉より自分を選んでくれたブラッドに感謝したメイベルは、彼のために何でもしようとひたすら努力する。 しかしそんな態度を重いと告げられ、君といると疲れると言われてしまう。 ショックを受けたメイベルは、ブラッドばかりの生活を改め、好きだった魔法に打ち込むために魔術院に入ることを決意するが…… ◆なろうにも掲載しています

愛してもいないのに

豆狸
恋愛
どうして前と違うのでしょう。 この記憶は本当のことではないのかもしれません。 ……本当のことでなかったなら良いのに。 ※子どもに関するセンシティブな内容があります。

『外見しか見なかったあなたへ。私はもう、選ぶ側です』

鷹 綾
恋愛
「お前のようなガキは嫌いだ」 幼く見える容姿を理由に、婚約者ライオネルから一方的に婚約を破棄された 公爵令嬢シルフィーネ・エルフィンベルク。 その夜、嫉妬に狂った伯爵令嬢に突き落とされ、 彼女は一年もの間、意識不明の重体に陥る――。 目を覚ました彼女は、大人びた美貌を手に入れていた。 だが、中身は何ひとつ変わっていない。 にもかかわらず、 かつて彼女を「幼すぎる」と切り捨てた元婚約者は態度を一変させ、 「やり直したい」とすり寄ってくる。 「見かけが変わっても、中身は同じです。 それでもあなたは、私の外見しか見ていなかったのですね?」 静かにそう告げ、シルフィーネは過去を見限る。 やがて彼女に興味を示したのは、 隣国ノルディアの王太子エドワルド。 彼が見ていたのは、美貌ではなく―― 対話し、考え、異論を述べる彼女の“在り方”だった。 これは、 外見で価値を決められた令嬢が、 「選ばれる人生」をやめ、 自分の意思で未来を選び直す物語。 静かなざまぁと、 対等な関係から始まる大人の恋。 そして―― 自分の人生を、自分の言葉で生きるための物語。 ---

最初からここに私の居場所はなかった

kana
恋愛
死なないために媚びても駄目だった。 死なないために努力しても認められなかった。 死なないためにどんなに辛くても笑顔でいても無駄だった。 死なないために何をされても怒らなかったのに⋯⋯ だったら⋯⋯もう誰にも媚びる必要も、気を使う必要もないでしょう? だから虚しい希望は捨てて生きるための準備を始めた。 二度目は、自分らしく生きると決めた。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ いつも稚拙な小説を読んでいただきありがとうございます。 私ごとですが、この度レジーナブックス様より『後悔している言われても⋯⋯ねえ?今さらですよ?』が1月31日頃に書籍化されることになりました~ これも読んでくださった皆様のおかげです。m(_ _)m これからも皆様に楽しんでいただける作品をお届けできるように頑張ってまいりますので、よろしくお願いいたします(>人<;)

ローザリンデの第二の人生

梨丸
恋愛
伯爵令嬢、ローザリンデの夫はいつも彼女より仕事を優先させ、彼女を無碍にしている。 彼には今はもういない想い人がいた。 私と結婚したことにいい思いをしていないことは知っていた。 けれど、私の命が懸かっていた時でさえも、彼の精神は変わらなかった。 あなたが愛してくれないのなら、私は勝手に幸せになります。 吹っ切れたローザリンデは自分自身の幸せのために動くことにした。 ※投稿してから、誤字脱字などの修正やわかりにくい部分の補足をすることがあります。(話の筋は変わらないのでご安心ください。) 1/10 HOTランキング2位、ありがとうございます。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

処理中です...