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第2章
51.末の邪神は移り気
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一つ頷き、葬邪神はあっけらかんと言った。
『俺にも分からんのだなぁ~』
シンと沈黙が落ちる。カップを揺らして波打つ水面を見つめていたラミルファと、ピスタチオのチョコに指を伸ばしていたフルードが動きを止めた。
『兄上、何と言いました?』
『分からんのだ。何でリーリアまで邪霊に取り込まれたかさっぱりだ。少なくとも俺は指示しておらん。というか、リーリアの背後に視える邪霊は、今回の件で駒として献上された奴ではない』
手足として使う邪霊は、邪神側が適当に声をかけることもあれば、邪霊たちの王に命じて有能な者を見繕わせ、献上させることもあるという。今回は後者だったらしい。
『しかし、兄上の神威を纏っていましたよ』
『そう言われても、知らんモンは知ら~ん!』
一の邪神が堂々と宣言する。ラミルファが一気に興味を失った表情になった。
『ふぅん。ならもう良いか。僕はガルーンの真相を知りたかっただけです。万々が一にでも、ガルーンが本当に聖威師になったならば、全力でセインを守らなくてはと思っていましたから』
フルードが再びあの壮絶な虐待地獄に落とされないよう、選ばれし神の全権限を駆使し、地上でも天界でも常に絶対防御を敷いておくつもりだった。
『だが、ガルーンは偽聖威師だったから懸念は杞憂に終わったし、セインの心も落ち着かせることができた』
呟くラミルファは、フルードの邸に泊まり込んでいる間、焔の神器と共にずっと己の宝玉の側に付いて励ましていた。ガルーンの真相がどうであれ、自分は徹頭徹尾フルードの味方であり、必ず守り抜くから心配は要らないと言い続けた。その甲斐あって、フルードは認証の日までに精神を安定させることができた。
なお、ラミルファが早朝に特別降臨してから一日両日の間は、まだ現状が何も分からなかったことから、フルードを側で守ることを最優先にして様子見をしていた。大まかにでも状況が読め次第、ガルーンが聖威師になったことに関して、フレイムや他の聖威師たちに報告をするつもりでいた。
だが、その前にガルーンが直訴状を神官府に送って自己申告して来たのだ。主神が方針を変え、もう言って良いと許可したからと。オーネリアがそれを読み、緊急でフルードに連絡をした。同時刻、マキシム侯爵家からオーブリーが見初められたという報が上がり、アシュトンがアマーリエに念話した。
『オーブリーも偽物だったから、アマーリエの方も心配ない。ヴェーゼの復讐も順調。リーリアのことは興味ないから、兄上にも分からないならそれで良い。……うん、これ以上気になることは無いな。はい、終わり』
一件落着とばかりに紅茶を飲むラミルファに、フルードが両手を合わせて頼んだ。
「僕はリーリアの件も真相を知りたいのです。もう少しだけお力を貸していただけませんか?」
『良いよ良いよ、君の頼みならリーリアのことも気になって来た』
一瞬で平然と前言撤回する末の邪神。その変わり身の早さは、いっそ爽快なほどだ。
『では、過去視をしてあげよう。そうすれば、リーリアの邪霊に何があって彼女に憑いたのか分かる』
『それが良いな。よ~し、俺が視るか』
弟につられて乗り気になった葬邪神が、軽く手をかかげる。過去視の神威を発動するつもりなのだろう。だが、パチンと指を鳴らそうとした、その寸前。
『……おやぁ?』
おもむろに瞳を和ませ、動きを止めて首を傾げる。フレイムがフルードを見る時の目と酷似した、優しい眼差し。
「葬邪神様?」
『ヴェーゼから念話だ。育ての親への復讐は終わったと。合流した焔神様からリーリアの件について聞かれたので、邪霊に確認を取ったそうだ。それで報告したいことがあると言ってる。ではヴェーゼから聞けば良いな。ちょっと待っておれ、話を聞いてみる』
そう言い置き、脳裏でアリステルと会話を始めたらしく、ふんふんと頷いている。
『これはベストタイミングだ』
「アリステルの復讐は終わったのですね」
『めでたいことだ。あの子の悲願達成は僕たち悪神が待ち望んでいた果報でもある』
嬉しそうに灰緑の目を煌めかせたラミルファが、ご機嫌で茶を飲む。
「ラミ様は相変わらず紅茶をストレートで飲まれるのですね。僕の邸ではブラックコーヒーもお飲みでした」
『僕は辛党なのだよ。甘いものが苦手というわけではないがね』
「お兄様と一緒です。お兄様もストレートでお飲みですから」
『フレイムとおそろいか。何だか嫌だな。ミルクを入れよう』
秀麗な顔をしかめ、ミルクが入った陶器のポットから少しだけ注いでいる。茶菓子の中から、野菜のチップスとアーモンドフライを取り分けたフルードが、笑顔で皿を差し出した。
「これなら甘くないですよ」
『そうだな』
笑み崩れたラミルファは瞬時に受け取ると、細い指を伸ばして香ばしいフライを一粒つまむ。少しの間、カラリと揚がった表面を眺めてから言った。
『邪霊の生贄たち……ガルーンや老夫婦、オーブリーを助けに行かないのか』
「行きません」
『俺にも分からんのだなぁ~』
シンと沈黙が落ちる。カップを揺らして波打つ水面を見つめていたラミルファと、ピスタチオのチョコに指を伸ばしていたフルードが動きを止めた。
『兄上、何と言いました?』
『分からんのだ。何でリーリアまで邪霊に取り込まれたかさっぱりだ。少なくとも俺は指示しておらん。というか、リーリアの背後に視える邪霊は、今回の件で駒として献上された奴ではない』
手足として使う邪霊は、邪神側が適当に声をかけることもあれば、邪霊たちの王に命じて有能な者を見繕わせ、献上させることもあるという。今回は後者だったらしい。
『しかし、兄上の神威を纏っていましたよ』
『そう言われても、知らんモンは知ら~ん!』
一の邪神が堂々と宣言する。ラミルファが一気に興味を失った表情になった。
『ふぅん。ならもう良いか。僕はガルーンの真相を知りたかっただけです。万々が一にでも、ガルーンが本当に聖威師になったならば、全力でセインを守らなくてはと思っていましたから』
フルードが再びあの壮絶な虐待地獄に落とされないよう、選ばれし神の全権限を駆使し、地上でも天界でも常に絶対防御を敷いておくつもりだった。
『だが、ガルーンは偽聖威師だったから懸念は杞憂に終わったし、セインの心も落ち着かせることができた』
呟くラミルファは、フルードの邸に泊まり込んでいる間、焔の神器と共にずっと己の宝玉の側に付いて励ましていた。ガルーンの真相がどうであれ、自分は徹頭徹尾フルードの味方であり、必ず守り抜くから心配は要らないと言い続けた。その甲斐あって、フルードは認証の日までに精神を安定させることができた。
なお、ラミルファが早朝に特別降臨してから一日両日の間は、まだ現状が何も分からなかったことから、フルードを側で守ることを最優先にして様子見をしていた。大まかにでも状況が読め次第、ガルーンが聖威師になったことに関して、フレイムや他の聖威師たちに報告をするつもりでいた。
だが、その前にガルーンが直訴状を神官府に送って自己申告して来たのだ。主神が方針を変え、もう言って良いと許可したからと。オーネリアがそれを読み、緊急でフルードに連絡をした。同時刻、マキシム侯爵家からオーブリーが見初められたという報が上がり、アシュトンがアマーリエに念話した。
『オーブリーも偽物だったから、アマーリエの方も心配ない。ヴェーゼの復讐も順調。リーリアのことは興味ないから、兄上にも分からないならそれで良い。……うん、これ以上気になることは無いな。はい、終わり』
一件落着とばかりに紅茶を飲むラミルファに、フルードが両手を合わせて頼んだ。
「僕はリーリアの件も真相を知りたいのです。もう少しだけお力を貸していただけませんか?」
『良いよ良いよ、君の頼みならリーリアのことも気になって来た』
一瞬で平然と前言撤回する末の邪神。その変わり身の早さは、いっそ爽快なほどだ。
『では、過去視をしてあげよう。そうすれば、リーリアの邪霊に何があって彼女に憑いたのか分かる』
『それが良いな。よ~し、俺が視るか』
弟につられて乗り気になった葬邪神が、軽く手をかかげる。過去視の神威を発動するつもりなのだろう。だが、パチンと指を鳴らそうとした、その寸前。
『……おやぁ?』
おもむろに瞳を和ませ、動きを止めて首を傾げる。フレイムがフルードを見る時の目と酷似した、優しい眼差し。
「葬邪神様?」
『ヴェーゼから念話だ。育ての親への復讐は終わったと。合流した焔神様からリーリアの件について聞かれたので、邪霊に確認を取ったそうだ。それで報告したいことがあると言ってる。ではヴェーゼから聞けば良いな。ちょっと待っておれ、話を聞いてみる』
そう言い置き、脳裏でアリステルと会話を始めたらしく、ふんふんと頷いている。
『これはベストタイミングだ』
「アリステルの復讐は終わったのですね」
『めでたいことだ。あの子の悲願達成は僕たち悪神が待ち望んでいた果報でもある』
嬉しそうに灰緑の目を煌めかせたラミルファが、ご機嫌で茶を飲む。
「ラミ様は相変わらず紅茶をストレートで飲まれるのですね。僕の邸ではブラックコーヒーもお飲みでした」
『僕は辛党なのだよ。甘いものが苦手というわけではないがね』
「お兄様と一緒です。お兄様もストレートでお飲みですから」
『フレイムとおそろいか。何だか嫌だな。ミルクを入れよう』
秀麗な顔をしかめ、ミルクが入った陶器のポットから少しだけ注いでいる。茶菓子の中から、野菜のチップスとアーモンドフライを取り分けたフルードが、笑顔で皿を差し出した。
「これなら甘くないですよ」
『そうだな』
笑み崩れたラミルファは瞬時に受け取ると、細い指を伸ばして香ばしいフライを一粒つまむ。少しの間、カラリと揚がった表面を眺めてから言った。
『邪霊の生贄たち……ガルーンや老夫婦、オーブリーを助けに行かないのか』
「行きません」
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