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第2章
53.その聖域には立入禁止
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『どうだったのです、兄上』
『いや、参った参った。一言で表せば邪神側のゴタゴタだな。何から話そうか。……まず、邪霊たちには序列があり、最上位は邪霊王だ。これは知っているな?』
フルードとラミルファはそろって頷いた。
『邪霊は邪神の駒となって動くこともある。で、前に邪霊の王が俺に依頼して来たんだ。邪神の力を込めた神器を授けて欲しいと』
確か数千年前くらいだったかなー、はっきりとは覚えておらんが、と、一の邪神は肩を竦めた。
『神命の内容によっては邪霊の力では荷が重く、神の助力が必要になることもある。そうなった時、都度こちらに連絡を取らずとも対応できるよう、あらかじめ神威の欠片を下さいということだった』
神から神器を下賜されるのは、人間ばかりではない。霊獣や精霊、妖魔、もちろん邪霊なども賜ることがある。
『そんでまぁ、頷けん言い分でもなかったから了承したんだ。ただし、条件は付けた。神器に関わる全責任は邪霊側に置く。何か不都合や損害が生じても自己責任だと』
『そうですね。神器を授ける時は、基本的にそういう決まりの下で与えますから』
ラミルファが賛同し、フルードも頷いた。
「邪霊の王が、邪神様の神器を所持しているという話は聞いておりました。そのようなことがあったのですね」
『ああ。今までは何事もなく運用していたらしい』
なお、今回の復讐と懲罰の案件に関しては、専用に神威の欠片を与えていたため、神器は不要だったそうだ。
『ただ、邪霊側で問題が発生したみたいでなぁ。結論から言おう。リーリアに憑いている邪霊は、邪霊たちの王子ゲイルだ』
「つまり、邪霊王の息子ですか」
『そうなるな。末っ子らしいが、これがまぁ相当なロクデナシというかボンクラ息子なんだと。霊威は弱いのだが、自分の立場と身分を盾にして傍若無人に振る舞い、邪霊たちからは爪弾きにされていたそうだ』
この世界では、どれだけ高貴な家に生まれようとも、霊威が弱ければ軽んじられる。人間でも邪霊でもそれは同じだ。そこで自信を失くして卑屈になる者もいれば、めげずに自分の道を模索する者もいる。そして、血筋や家柄を拠り所にして開き直る者も。
『王の尽力で高位の邪霊の娘と婚約するも、その娘の義妹に熱を上げて婚約破棄をかまし、娘を追放。王や側近たちが追いかけ、苦心してどうにか再婚約と結婚にこぎつけても、初夜の場で〝俺がお前を愛することはない〟と娘に宣言して指一本触れずに部屋を出たそうだ』
「……今流行りの展開を詰め込んだような経緯ですね」
『うん? 流行ってるのか?』
「女性を中心にそういう物語が人気なのだそうです。最初の婚約者や夫から手酷い扱いを受けた女主人公が、よりハイスペックな男性に愛されて幸せになるのです。最初の相手は何らかの報復や制裁を受けることが多いと聞きます」
女性の聖威師たちが集まり、茶菓をつまみながら楽しそうに話しているのを垣間見たことがある。なお、オーネリア(御年68歳)と佳良(御年97歳)もシレッと参加していた。小説だけでなく、何やらやたらと薄い本まで持ち出して熱心に覗き込んでいた。
あれは何なのかとライナスに聞いてみたところ、『あそこは女性方の魔窟……ゴホゴホ、憩いの場だから決して足を踏み入れてはいけないし、触れてもいけない。だが君なら……いや、やはり気軽には見ない方が良い』と言われた。
よく分からないが女性の聖威らしい。一度入ってみたいと密かに思っているが。
『おぉ、まさにそんな感じだぞ。結局、邪霊のボンクラ王子と娘は離婚。もちろんボンクラの有責でだ。娘はボンクラの兄王子に見初められて再婚し、溺愛されて幸せな新婚生活を送っているそうだ。一方のボンクラは、熱愛していた義妹が実は下劣な本性を隠し持っていたと知り幻滅、娘とよりを戻したいと望むも無理な話で、父王からも見限られてすっかり落ちぶれたらしい』
娘を二度も振り、王家が苦心して整えた結婚をぶち壊したのはお前だ。今さらよりを戻せると思うな、王子妃に相応しい代わりの妻を自力で探せと、父王から命じられたという。代わりの妻を見付けられなければ廃嫡すると。
唯一持っている身分まで失ってしまうと、大慌てて高位の女邪霊たちにすり寄ったゲイルだが、今までの行いが祟って誰にも見向きもされなかったそうだ。
『で、不貞腐れたボンクラは自暴自棄になり、何と王家に伝わる神器を勝手に持ち出して失踪。俺の神威を込めた例の神器だな。邪霊たちは必死でボンクラを探していたそうだ。ボンクラ自身がどうこうより、持ち出した神器を返せということでな』
『神器が盗まれました、などとは報告できないですから、必死だったでしょう』
『だろうな~。ボンクラもボンクラで、邪霊たちに見付からないよう身を潜めていたようだ。経験豊富な捜索部隊でも見付けられなかったというから、神器の力を使って隠れてたんだろう』
『いや、参った参った。一言で表せば邪神側のゴタゴタだな。何から話そうか。……まず、邪霊たちには序列があり、最上位は邪霊王だ。これは知っているな?』
フルードとラミルファはそろって頷いた。
『邪霊は邪神の駒となって動くこともある。で、前に邪霊の王が俺に依頼して来たんだ。邪神の力を込めた神器を授けて欲しいと』
確か数千年前くらいだったかなー、はっきりとは覚えておらんが、と、一の邪神は肩を竦めた。
『神命の内容によっては邪霊の力では荷が重く、神の助力が必要になることもある。そうなった時、都度こちらに連絡を取らずとも対応できるよう、あらかじめ神威の欠片を下さいということだった』
神から神器を下賜されるのは、人間ばかりではない。霊獣や精霊、妖魔、もちろん邪霊なども賜ることがある。
『そんでまぁ、頷けん言い分でもなかったから了承したんだ。ただし、条件は付けた。神器に関わる全責任は邪霊側に置く。何か不都合や損害が生じても自己責任だと』
『そうですね。神器を授ける時は、基本的にそういう決まりの下で与えますから』
ラミルファが賛同し、フルードも頷いた。
「邪霊の王が、邪神様の神器を所持しているという話は聞いておりました。そのようなことがあったのですね」
『ああ。今までは何事もなく運用していたらしい』
なお、今回の復讐と懲罰の案件に関しては、専用に神威の欠片を与えていたため、神器は不要だったそうだ。
『ただ、邪霊側で問題が発生したみたいでなぁ。結論から言おう。リーリアに憑いている邪霊は、邪霊たちの王子ゲイルだ』
「つまり、邪霊王の息子ですか」
『そうなるな。末っ子らしいが、これがまぁ相当なロクデナシというかボンクラ息子なんだと。霊威は弱いのだが、自分の立場と身分を盾にして傍若無人に振る舞い、邪霊たちからは爪弾きにされていたそうだ』
この世界では、どれだけ高貴な家に生まれようとも、霊威が弱ければ軽んじられる。人間でも邪霊でもそれは同じだ。そこで自信を失くして卑屈になる者もいれば、めげずに自分の道を模索する者もいる。そして、血筋や家柄を拠り所にして開き直る者も。
『王の尽力で高位の邪霊の娘と婚約するも、その娘の義妹に熱を上げて婚約破棄をかまし、娘を追放。王や側近たちが追いかけ、苦心してどうにか再婚約と結婚にこぎつけても、初夜の場で〝俺がお前を愛することはない〟と娘に宣言して指一本触れずに部屋を出たそうだ』
「……今流行りの展開を詰め込んだような経緯ですね」
『うん? 流行ってるのか?』
「女性を中心にそういう物語が人気なのだそうです。最初の婚約者や夫から手酷い扱いを受けた女主人公が、よりハイスペックな男性に愛されて幸せになるのです。最初の相手は何らかの報復や制裁を受けることが多いと聞きます」
女性の聖威師たちが集まり、茶菓をつまみながら楽しそうに話しているのを垣間見たことがある。なお、オーネリア(御年68歳)と佳良(御年97歳)もシレッと参加していた。小説だけでなく、何やらやたらと薄い本まで持ち出して熱心に覗き込んでいた。
あれは何なのかとライナスに聞いてみたところ、『あそこは女性方の魔窟……ゴホゴホ、憩いの場だから決して足を踏み入れてはいけないし、触れてもいけない。だが君なら……いや、やはり気軽には見ない方が良い』と言われた。
よく分からないが女性の聖威らしい。一度入ってみたいと密かに思っているが。
『おぉ、まさにそんな感じだぞ。結局、邪霊のボンクラ王子と娘は離婚。もちろんボンクラの有責でだ。娘はボンクラの兄王子に見初められて再婚し、溺愛されて幸せな新婚生活を送っているそうだ。一方のボンクラは、熱愛していた義妹が実は下劣な本性を隠し持っていたと知り幻滅、娘とよりを戻したいと望むも無理な話で、父王からも見限られてすっかり落ちぶれたらしい』
娘を二度も振り、王家が苦心して整えた結婚をぶち壊したのはお前だ。今さらよりを戻せると思うな、王子妃に相応しい代わりの妻を自力で探せと、父王から命じられたという。代わりの妻を見付けられなければ廃嫡すると。
唯一持っている身分まで失ってしまうと、大慌てて高位の女邪霊たちにすり寄ったゲイルだが、今までの行いが祟って誰にも見向きもされなかったそうだ。
『で、不貞腐れたボンクラは自暴自棄になり、何と王家に伝わる神器を勝手に持ち出して失踪。俺の神威を込めた例の神器だな。邪霊たちは必死でボンクラを探していたそうだ。ボンクラ自身がどうこうより、持ち出した神器を返せということでな』
『神器が盗まれました、などとは報告できないですから、必死だったでしょう』
『だろうな~。ボンクラもボンクラで、邪霊たちに見付からないよう身を潜めていたようだ。経験豊富な捜索部隊でも見付けられなかったというから、神器の力を使って隠れてたんだろう』
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