神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました

土広真丘

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第3章

4.悪神が纏う色

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「ラミルファ様の神器ですか?」
「ちょうどフルードからも頼まれていたのだよ。悪神の神器を鎮める訓練も必要だから、機会を見て君に神器を貸してやって欲しいと」

 新米は覚えることが多くて大変だと、わざとらしい同情の目線を送って寄越す邪神。ジトッと睨んでいたフレイムが、不承不承といった程で頷いた。

「地上にある悪神の神器は、数が少ないからな。アリステルは神性を抑えてるから神器を創れねえし。聖威師が修練する時は、どっかの悪神と交信して神器を借りるんだ」
「ヴェーゼが昇天したら、悪神の神器の暴走は通常の聖威師が鎮めなければならない。だが、一般的な神の神器とは放つ波動が違うから、今から鎮静化のコツを掴んでおいた方が良いだろう」
「違うといえば……ラミルファ様の神威は赤黄ですけれど、操る炎や剣は黒いですよね。フレイムは紅蓮色の神威で、同じ色の炎と武器なのに」

 以前から気になっていたことを告げると、邪神はあっさりと首肯した。

「悪神ならではの特徴だ。特定の神が共通して持つ色もあるのだよ。例えば天威師を含めた至高神は、ご自身の色に加え、鮮やかな濃い虹色も纏っていらっしゃる。それと同様に、悪神は黒を帯びる。ドロリとした鈍い漆黒を」

 悪神ではない高位神の中にも、黒系統の神威を持つ神はいる。例えば、皇国の先々代皇帝は、清廉さを帯びた艶やかなくろ色の神威を有していた。だが悪神の場合は、もっとドス黒い色なのだという。

「色持ちの悪神が、単に神という面を強く出したい時は、通常の神と同じく自身の神威の色をそのまま発現させる」

 ラミルファが右手をかざすと、掌中に炎が灯った。暗い赤黄色の揺らめきが部屋を照らす。

「だが、悪神という面……一般的な神ではない悪~い神という面を強調する場合は、神威を黒で覆う」

 輝く暗赤黄の炎が、瞬く間に黒に塗り潰された。何度か見たことがある漆黒の炎。だが、それでもなお崇高に輝いているのは、悪神もまた神である証左だ。

「どちらを使うかはケースバイケースだが、基本的には黒に染めることが多い。悪神は自身が悪神であることに誇りを持っている。フレイムが火神一族の一員であることに矜持を抱くように、悪神にも悪神の自負がある」

 パッパと手を振ると、黒き炎は吹き消されたようにあっさりと消えた。

「ただ、何か理由があるとかちょっとした気紛れなどで、通常の神と同じように神威を現象させることもあるから、一概には言えないがね」

 僕も時々は神威の色をそのまま出すこともある、と補足し、邪神は話を戻した。

「まぁとにかく、悪神は災禍や混乱を好む。だから、地上に下賜される悪神の神器の大半は、人間の基準で考えれば真っ当な用途を持っていない。争いや憎悪、不幸を引き起こすような物がほとんどだ」

 中には、葬邪神が邪霊に与えた神器のように、きちんとした目的で授けられたまともなな物もあるが、それはごく少数なのだという。

「大抵はろくでもない使い道のために下賜される。使用のたびに災いをばら撒いたり、持ち主から代償を奪っていく物もある。そしてそういう物は、普通の鎮静化では上手く対処できないこともあるのだよ。通常の神器とは、創造の意図やプロセス、内部の構造などが大きく異なるから」

 だからこそ暴走が起きた際は、できれば同じ悪神である奇跡の聖威師が対応するのが望ましい。通常の聖威師でも対処は可能だが、別途で悪神の神器用の鎮静化訓練をしておく必要がある。

「フルードが聖威師の修行をしていた時、練習用にと創ってあげた神器が幾つかある。それを貸してあげよう。ふふ、喜ぶが良いよ。全て、とびきりのアンハッピーパワーが満載のスペシャル品だ」
「全っ然嬉しくないです……」

 遠い目で答えるアマーリエ。こちらが神格を得たことで見違えるように親切になったが、目の前の神はれっきとした悪神なのだ。

「ほら、まずは易しい物からにしよう」

 ポンッと黒い短杖ステッキが出現した。それをクルクルと回しながら、邪神がニヤリと嗤う。

「これはただ置いているだけで災厄を招き、使用時は一際大きな不運を呼ぶ。それだけでなく、破損時と鎮静化、正常化の際にも災いを撒き散らす。転んでもタダでは起きない優秀な神器なのだよ」
「どこが優秀なんですかハタ迷惑なだけです!」
(復元する時まで災いを呼ぶの!? 壊れてるのに!?)

 声なき悲鳴を知る由もなく、少年の細い指が神器を撫でる。

「壊れる際と修復、再起動の際には注意することだ。悪神の神威が禍事を引き寄せる。といっても、この神器は初心者用だ。最大でも、せいぜい帝都消滅くらいの凶事しか招かない。それらも聖威でいなしながら対応しろ」
「帝都が消滅したら大問題ですって!」

 神の力は強大だ。最下位の神格しか持たない――言い換えれば最も弱い神ですら、その気になれば地上などいとも容易く消し飛ばせる。神はそれほどの存在だ。だからこそ簡単には動かないのだが。

 涙目になっているアマーリエを見て、ラミルファがふと口調を和らげた。

「何、心配は無用だ。君には頼もしい夫がいるじゃないか」

 その台詞に被せるように、フレイムが口を開いた。

「ユフィー、もしもの時は俺がフォローする。神器が放つ禍事を抑えながら鎮めてみな」
「初回の大サービスと同胞への特別待遇で、万々々々が一の時は神器を停止させてあげよう。だから安心してやってみるが良い」

 何だかんだ言っても、身内には甘い邪神だ。アマーリエは唾を飲み込んで頷いた。

「では壊す。聖威を練り上げて準備しろ」

 白い細指が神器を締め上げた。同時にビキビキと不穏な音が響き、重い音を立てて短杖が真っ二つに折れた。
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