神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました

土広真丘

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第3章

36.顔がたくさんあると大変

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(きゃあああああ!)

 アマーリエは内心で絶叫した。音に出さなかっただけ努力した方である。星降の儀の後祭でラミルファが骸骨に転じるところを目の当たりにしたり、照覧祭の折にアリステルのホラー人形劇を見たことで、耐性が付いたのかもしれない。

 アマーリエの横から身を乗り出したフルードが、異形と化した花を凝視する。

「な……これは……っ!」
『出るなセイン、下がってろ』

 フレイムが弟を背に隠そうとするが、美貌の大神官は蒼白な顔で口元に手を当てた。

「こんなにたくさんお顔があるのなら、紅茶のカップが幾つあっても足りないではないですか……!」

 ズコッとフレイムがコケた。その脇で、アマーリエとアリステルがハッとする。

『ちょ、ちょっと待て、何の心配をしてるんだお前は?』
「何のと言いますか、神がいらして下さったならおもてなしをしなくては」
「そ、そうですね! ミニカップをたくさん準備しないといけませんね!」
「茶菓子はどうする。特小のものを大量に用意するのか?」
『おーい、ユフィー、アリステル……』

 ひらひら手を振るフレイムを無視し、アマーリエはフルードとアリステルと輪になって話し始めた。

『フルード様、カップの色や模様はどうしましょう。老若男女いらっしゃいますから、分けた方が良いのでしょうか?』
『ええ、誰がどのカップか一目で分かる方が良いしれません』
『けれど、聖威で作るにしてもそんなにバリエーションが思い付きません!』
『三人で考えればきっと大丈夫です。アリステルも一緒に考えて下さい』
『顔によって好みが違うかもしれないだろう。砂糖とミルク、レモンの有無も確認しなくては』
『魔神様は悪神ですし、腐った茶葉と泥水で淹れた方が良いかも……ああ!』

 大事なことに思い至り、アマーリエは声を上げた。

『そもそもの話、顔はたくさん生えていますが手がありませんよ! どうやってお茶を飲まれるのでしょうか!?』

 神威でカップを浮かせて飲むのだろうか。大神官兄弟が仲良く腕を組んだ。

『今までの経験上、飲食の際は人型を取られる神が多いのですが……もしや顔ごとに分離されるのでは』
『そうなると椅子も大量にいるのではないか? 具体的にどれくらい用意したら良いんだ。顔は幾つおありになられるのか。こっそり数えた方が良いのだろうか』

 そして、アマーリエと共に元スノーボールに目を向け……そろって瞬きした。

 いつの間にか闘気を収めたラミルファがテーブルに着席し、花瓶の横に置いてあったキャンディポットから中身を摘んでいる。ただし、入っているのはキャンディではなくチョコレートだ。

『うわ、甘っ』

 一つ口に放り込んで顔をしかめると、これまたいつの間にやら移動していたフレイムがテーブルの縁に軽く体をもたせかけて言う。

『ユフィー仕様だからな』
『もっとビターな物も用意しておけ、気が利かないな君は』
『何で俺が文句言われなきゃなんねーんだよ!』
『仕方がないだろう、アマーリエに不満を言うのは可哀想だから君しかいない』
『じゃなくて自分の菓子くらい自分で調達しろよ!』

 二神がぎゃあぎゃあ言い合う眼前で、すっぱり無視された形になった無数の顔が、悲しそうな目をしてションボリと下を向いている。気のせいか、茎ごと萎れて垂れ下がっているようにも見えた。

 そこで、フレイムとラミルファがこちらに気付く。

『よぉ、話は終わったのか?』
「ええと、フレイム、ラミルファ様、何をしているんですか?」
「お二方が魔神様に対応して下さっている間に、おもてなしの段取りを決めておこうとしていたのですが」
「魔神様とお話が可能な状態になれば、フルードとアマーリエと共にお相手を引き継ごうかと……」
『そうかい。いや、君たちのやり取りを聞いていたら何だか力が抜けてしまったのだよ』

 シラッとした雰囲気で言うラミルファが、別のチョコレートを取った。一番甘いスイートミルクチョコレートだ。それをフレイムに差し出す。甘い物が得意ではないフレイムが『要らん、要らん!』とガードしている。

『まぁ魔神様も本気で傷付けるつもりではなかったようだから、これ以上は仕掛けて来ないだろうと思ってね。君たちの話が終わるまで待つことにした』
「声をかけて下されば良かったのに」

 ねぇ、と頷き合うアマーリエたちは、至って真剣だった。もてなしが気に食わなければ怒る神もいるのだ。

 と、しょぼくれていた無数の顔がざわめき、次々に口を開いた。

『久しぶりに目覚めたら、人間なる生き物ができていた』
『この星の様子も随分と変わったみたいねぇ、うふふ』
『観察がてら、こちらも人っぽい姿に化けてみようと思うたのじゃ』
『いーっぱい考えごとをするから頭をたーくさん付けたんだよ~』
『でも、それだと多すぎて同胞が困っちゃうのよね?』
『だったらどれか一人になれば良いってことじゃん!』
『やれ、そうだ。一人になろう。そして、先ほどのようにもっと人間に近く……』

 ザワザワ、ザワザワ。数多の小さな顔が百面相を繰り広げる。

(先ほどのように?)
「――あっ……!」

 青年の声が漏らした言葉を聞き咎めたアマーリエは、ひゅっと息を吸い込んだ。
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