神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました

土広真丘

文字の大きさ
234 / 605
第3章

37.魔神顕現

しおりを挟む
 よく見てみれば、蠢く顔の中に見知ったものがある。

「……ワイマーさん……?」
(どうして彼が……まさか、魔神様が変化していたの!?)

 直後、花瓶からゴポリと黒い水が噴き上がり、無数の顔が咲く元スノーボールを包み込んだ。そのままボコボコと鳴動し、光と共にパァンと大きく弾ける。
 一見気を抜いていたように見えたフレイムとラミルファが、瞬きするよりも早く結界を張ってアマーリエたちを防御した。

『そんなに警戒するでない。もう何もせぬぞ~』

 漆黒の雫がポタポタと降り注ぐ中、顕現した青年が麗しく微笑む。黒色がかった濃青の長髪に、瞳孔が避けた暗い紫紺の瞳。尖った耳に口元から覗く牙。忘我するほどの凄絶な美貌。銀糸で刺繍がなされた黒い神衣と外套。

『雛たちの姿を真似てみた。これでどうじゃ』
『あー良いんじゃないっすか』
『ふふ、お似合いですよ』

 いかにも適当といった風情で頷くフレイムと、小さく笑うラミルファ。防御の結界が解かれ、フルードとアリステルが動きを合わせて拝礼した。
「「魔神様、お目覚めおよび御来駕ごらいがを賜わり恐悦至極にございます」」

 ピタリと唱和する声。事前に念話で打ち合わせていたのかもしれないが、それにしても息が合っている。当人たちの心情はどうあれ、彼らは紛うかたなき兄弟なのだ。
 アマーリエも大神官たちの背後で跪きながら、その言動の一つ一つを脳裏に刻み付ける。今は彼らの後ろに付いて真似をしていれば良いが、いずれ自分がランドルフと共にこの立ち位置を引き継ぐのだから。

『楽にせい』

 ゆるりと告げた魔神が、フッと邪神の真横に移動した。白い腕を伸ばし、未だ持っていたチョコレートを取り上げる。ずっと手中にあったにも関わらず、全く溶けていない。神の体温は人間のそれとは異なるのかもしれない。

『おくれ』
『どうぞ』

 端的な了承を得て茶色の粒を口に含んだ太古の神は、ふむ、と呟いて一つ頷く。

『不味い。しかるに、食せなくはない』

 肩を竦めて呟いた次の瞬間、ラミルファと向き合う位置にある椅子にかけた状態で、再度スッと現れる。この神は歩くという動作をしないのだろうか。

『僕とは夢で一度だけお会いしましたね。いつからお目覚めだったのですか、魔神様?』
『何故ユフィーを襲ったんです?』

 隠すつもりもないのか、魔神は婉然とした笑みで答えた。

『うむ。目覚めたのは……照覧祭とかいうものをしている最中じゃった。存外静々しずしずと目が覚めてのう、誰も此方こなたの起床に気付いておらなんだ』

 流麗な仕草で口元を袖で覆い、悪戯めいた声で続ける。

『皆を驚かせてやろうと思うての~、こっそり己が領域を出て、気配を殺して周りを窺ってみたのじゃ。そうしたら、やれ驚き。えらく様子が様変わりしておった』

 少し眠っただけというに、目覚めてみればすっかり変わり果てた別世界よと、古の神は肩を震わせた。

『神威で探ってみたところ、下では人間なる生物が暮らしており、神は上に集まっておった。興味を持って人間を注視する内、下にも神の雛たちがおることに気付いた。しかし、その大部分は何やら面妖な――神でありながら神性を抑えておる。実に不可思議』

 アマーリエは大神官兄弟と目配せをした。要するに、その面妖な神とやらが聖威師だ。

『あれは何じゃと気になってのう、密かに見に来たのじゃ。せっかく観察しているゆえ、人間の姿を取っての。ほれ、ちょうど照覧祭とやらで世界中から人がたくさん来ておったに、その中に混ざった』

 暗さを帯びた一対の紫紺が、スゥとアマーリエに向けられる。

『あの時、そちと目が合った。可愛らしく笑いかけてくれたのお』

 訝しげな顔をしているフレイムやフルードたちに、アマーリエはこっそり念話を送った。

《照覧祭の時、聖威師と対面したい神官たちが大勢並んでいましたよね。あの中にご老人がいたのです。同じ容貌が、先ほどスノーボールに浮き出ていた顔の中にありました》
《んじゃ、魔神様はあの長蛇の列にいたってことか。……ちっ、気付かなかったな。自分を神だって認識できねえように目眩しでもかけてたんだろう》
《僕たちは神威を抑えていたから、まんまとそれに惑わされてしまったようだ》

 天界の神に気配を察知されず、かつフレイムたちの目をごまかせる出力に調整して、目眩しを使ったようだ。
 特にあの時のフレイムとラミルファは、人間の従者に変化していたため、一層強く力を抑え込んでいた。そういった制限を課していない天の神が本気で隠蔽しようとすれば、見抜くことは難しいという。

《実を言うと、そのご老人とは今日も一般公開エリアで会ったのよ。私用で中央本府に来たと言っていたわ。少し話をして、この前の嵐の時に家族を救われたとお礼を言ってくれたけれど……正体が魔神様だったのなら、作り話だったのね》

 すっかり騙されたと思いながら、アマーリエは古代神を見た。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

なぜ、私に関係あるのかしら?

シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」 彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。 そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。 「…レオンハルト・トレヴァントだ」 非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。 そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。 「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」 この判断によって、どうなるかなども考えずに… ※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。 ※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、 ※ 画像はAIにて作成しております

腹違いの妹にすべてを奪われた薄幸の令嬢が、義理の母に殴られた瞬間、前世のインテリヤクザなおっさんがぶちギレた場合。

灯乃
ファンタジー
十二歳のときに母が病で亡くなった途端、父は後妻と一歳年下の妹を新たな『家族』として迎え入れた。 彼らの築く『家族』の輪から弾き出されたアニエスは、ある日義母の私室に呼び出され――。 タイトル通りのおっさんコメディーです。

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!

夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。 しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。 ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。 愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。 いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。 一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ! 世界観はゆるいです! カクヨム様にも投稿しております。 ※10万文字を超えたので長編に変更しました。

幻獣保護センター廃棄処理係の私、ボロ雑巾のような「ゴミ幻獣」をこっそり洗ってモフっていたら、実は世界を喰らう「終焉の獣」だった件について

いぬがみとうま🐾
ファンタジー
「魔力なしの穀潰し」――そう蔑まれ、幻獣保護センターの地下で廃棄幻獣の掃除に明け暮れる少女・ミヤコ。 実のところ、その施設は「価値のない命」を無慈悲に殺処分する地獄だった。 ある日、ミヤコの前に運ばれてきたのは、泥と油にまみれた「ボロ雑巾」のような正体不明の幻獣。 誰の目にもゴミとしか映らないその塊を、ミヤコは放っておけなかった。 「こんなに汚れたままなんて、かわいそう」 彼女が生活魔法を込めたブラシで丹念に汚れを落とした瞬間、世界を縛る最凶の封印が汚れと一緒に「流されてしまう。 現れたのは、月光を纏ったような美しい銀狼。 それは世界を喰らうと恐れられる伝説の災厄級幻獣『フェンリル・ヴォイド』だった……。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

悪女の針仕事〜そのほころび、見逃しません!〜

陰陽@4作品商業化(コミカライズ他)
ファンタジー
公爵令嬢として生まれながら、子ども時代からメイドや周囲の陰謀で、次々と濡れ衣を着せられ、「悪女」扱いされてきたミリアム。 第3王子との婚約を聖女に奪われ、聖女への嫌がらせの冤罪で国外追放された後、平民として生き延びる中で、何度も5年前へのロールバック(逆行)を繰り返すことに。 生計をたてる為に、追放後の平民生活で極めた針仕事が、ロールバックが繰り返されることで、針仕事の能力だけは引き継がれ、天才的な実力を手に入れる。 その時女神「アテナ」の加護を得て、2つの力を手にすることに。 「加護縫い」 (縫った布に強力な祝福を込められる) 「嘘のほころびを見抜く力」 (相手の嘘を布のほころびとして視覚的に捉え、引き抜く、または繕うことで、真実を暴いたり修正したりする) を手にしたミリアムは、5歳の幼女時代まで遡り、2つの力で悪評をぬりかえ、仲違いしていた家族も、加護の力を与えることで協力な味方へと変貌。 さらに、女神から可愛いしもべ「アリアドネ」を授かり、元婚約者と聖女にザマァを狙う中、加護縫いの能力が最も高い人間を王太子妃に迎える決まりのある大国、ルーパート王国の王太子が近付いて来て……?

処理中です...