神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました

土広真丘

文字の大きさ
235 / 602
第3章

38.ワイマーの正体

しおりを挟む
「ワイマーさんはあなただったのですか。エイリスト王国の神官というのは――」
『照覧祭に紛れる際、参加者たちの情報をざっと視たのじゃ。どうやら多様な国から神官という者たちが集っておるようであったゆえ、此方も適当な国の神官のフリをした。入口では身分証確認なるものをされたが、そこは応対した者の認識を神威で歪めて通過したぞ』

 世界が変わったと言いつつ、何だかんだで柔軟に対応している魔神である。口に当てた神衣の袂から覗く眼が、艶麗な弧を描く。

『そこで面妖な雛たちを直に見たのじゃが、何故わざわざ神格を抑えておるのか謎じゃった。神威で見通せば分かるであろうが、それではつまらぬ。此方は考えるのが好きなのじゃ。さっさと正解を調べては面白うない。そこで、しばし雛たちを観察することにした』
『いや、サクッと神威で調べて下さいよ……観察なんかしなくて良いですって』
『僕は魔神様の気持ちが分かるがね。悪神は一足飛びに答えを知るより、愉しみながら思考を巡らせるのが好きなのだよ』

 げんなりと呻くフレイムに、ラミルファが含み笑いで返した。

『並行して、地上の状況や人間についても調べたのじゃ~。その最中に発生した嵐は、そちともう一柱の女雛めびなが鎮めておったのう』
(もう一柱の女雛……リーリア様のことだわ)

 魔神がアマーリエに視線を注ぐ。緩やかな動作で腕を下ろし、思い出すように告げる。

『照覧祭の折、雛たちが落ち着き払っておる中、一柱のみ慌てふためいておったそちのことは印象に残っておった。表情もじゃ。他の雛たちは完璧に整えた笑顔であったが、そちだけは素のままの笑みを寄越してくれた。ゆえ、今一度見えたいと思うておった』
(うっ……)

 お前だけオタオタしてたぞ、と言われ、胸を抑えるアマーリエ。あの場で動揺していたことをしっかり見抜かれていた。すぐさま方々からフォローが飛んで来る。

《気にすんなユフィー、お前は美人だから焦ってる顔も可愛いんだぜ!》
《狼狽えるのも無理はありません。あなたはまだ場数が少ない身なのですから》
《作り物の笑顔ではないとお褒めいただいたのだから、良いではないか》
《確かに少々潰れ顔になっていたが、些細な変化だ。一般の神官たちは気付かなかっただろう》

 まさに四者四様でやんやと慰めてくれる。一柱寂しく念話から外されている魔神は、それを知る由もなく続ける。

『此方は再度同じ神官に成りすまし、そちに会いに行った。何かしら理由がなくては不自然ゆえ、過日の嵐の際に救われたことにして、被害を受けた国におる人間の声をそちに届けたのじゃ。都合の良きことに、仮の出自として使ったエイリスト王国は被災地であったでのう』

 アマーリエは小さく息を飲んだ。

「では、神官府の庭園でお会いした時のお言葉は――」
『実際にあの嵐で家族や友人を救われた人間たちが、そちに伝えたいと思っている台詞じゃ。とても多くの人間が、そちともう一柱の女雛に感謝しておる』
(作り話ではなかったのね……)

 ふと気が付けば、フレイムたちがこちらに優しい目を向けている。アマーリエは無言で目線を下げた。純粋な嬉しさと面映さ、そしてそれ以上に、助けられなかった命への申し訳なさ。様々な感情が溢れそうになるのを堪えていると、麗しい魔神は続けた。

『とまれ、小さき雛たちを観察したことで答えは分かった。何故に神性を抑えておるのか――雛たちは被虐趣味なのじゃろ』
『『「「は?」」』』

 自信満々に告げられた回答に、アマーリエたちの目が点になる。

『痛め付けられるのが大好きな雛たちが、あえて神格を抑制して難儀の中に身を置き、神器の暴走やら荒れ神の鎮撫やらを積極的に行なって傷だらけになり、真価を抑えた状態でどこまで耐えられるか限界を試しながら己の嗜好を満たしている。どうじゃ、正解であろ?』
『んなわけねーでしょ!? 勝手にストーリーを捏造しないで下さいよ!』

 フレイムが叫んだ。もはや想像の域を超えた妄想である。魔神の精緻な美貌が驚愕に染まった。

『何っ、違うと申すか!?』
「違います違います、全然違います!」

 問いかけるように注視されたアマーリエは、全力で両手を振って否定した。続けて目を向けられたフルードとアリステルも、顔面蒼白で首を横に振っている。

『そうじゃと思うたゆえに、そちに喜んでもらおうと三度も魔物をけしかけたのに……』
「ちょっとまって下さい全然嬉しくなかったですよ私! むしろ本気で恐怖を感じましたけれど!?」
(……って、三度? 牛と怪鳥と……あと一つは?)
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

結婚十年目の夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。彼は「送り間違えた」というけれど、それはそれで問題なのでは?

ぽんた
恋愛
レミ・マカリスター侯爵夫人は、夫と政略結婚をして十周年。侯爵夫人として、義父母の介護や領地経営その他もろもろを完ぺきにこなしている。そんなある日、王都に住む夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。義弟を通じ、夫を追求するも夫は「送り間違えた。ほんとうは金を送れというメモを送りたかった」という。レミは、心から思った。「それはそれで問題なのでは?」、と。そして、彼女の夫にたいするざまぁがはじまる。 ※ハッピーエンド確約。ざまぁあり。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。

幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。

灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。 曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。 婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。 前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。

君といるのは疲れると言われたので、婚約者を追いかけるのはやめてみました

水谷繭
恋愛
メイベル・ホワイトは目立たない平凡な少女で、美人な姉といつも比べられてきた。 求婚者の殺到する姉とは反対に、全く縁談のなかったメイベル。 そんなある日、ブラッドという美少年が婚約を持ちかけてくる。姉より自分を選んでくれたブラッドに感謝したメイベルは、彼のために何でもしようとひたすら努力する。 しかしそんな態度を重いと告げられ、君といると疲れると言われてしまう。 ショックを受けたメイベルは、ブラッドばかりの生活を改め、好きだった魔法に打ち込むために魔術院に入ることを決意するが…… ◆なろうにも掲載しています

愛してもいないのに

豆狸
恋愛
どうして前と違うのでしょう。 この記憶は本当のことではないのかもしれません。 ……本当のことでなかったなら良いのに。 ※子どもに関するセンシティブな内容があります。

『外見しか見なかったあなたへ。私はもう、選ぶ側です』

鷹 綾
恋愛
「お前のようなガキは嫌いだ」 幼く見える容姿を理由に、婚約者ライオネルから一方的に婚約を破棄された 公爵令嬢シルフィーネ・エルフィンベルク。 その夜、嫉妬に狂った伯爵令嬢に突き落とされ、 彼女は一年もの間、意識不明の重体に陥る――。 目を覚ました彼女は、大人びた美貌を手に入れていた。 だが、中身は何ひとつ変わっていない。 にもかかわらず、 かつて彼女を「幼すぎる」と切り捨てた元婚約者は態度を一変させ、 「やり直したい」とすり寄ってくる。 「見かけが変わっても、中身は同じです。 それでもあなたは、私の外見しか見ていなかったのですね?」 静かにそう告げ、シルフィーネは過去を見限る。 やがて彼女に興味を示したのは、 隣国ノルディアの王太子エドワルド。 彼が見ていたのは、美貌ではなく―― 対話し、考え、異論を述べる彼女の“在り方”だった。 これは、 外見で価値を決められた令嬢が、 「選ばれる人生」をやめ、 自分の意思で未来を選び直す物語。 静かなざまぁと、 対等な関係から始まる大人の恋。 そして―― 自分の人生を、自分の言葉で生きるための物語。 ---

ローザリンデの第二の人生

梨丸
恋愛
伯爵令嬢、ローザリンデの夫はいつも彼女より仕事を優先させ、彼女を無碍にしている。 彼には今はもういない想い人がいた。 私と結婚したことにいい思いをしていないことは知っていた。 けれど、私の命が懸かっていた時でさえも、彼の精神は変わらなかった。 あなたが愛してくれないのなら、私は勝手に幸せになります。 吹っ切れたローザリンデは自分自身の幸せのために動くことにした。 ※投稿してから、誤字脱字などの修正やわかりにくい部分の補足をすることがあります。(話の筋は変わらないのでご安心ください。) 1/10 HOTランキング2位、ありがとうございます。

できない子に転生しましたが、家族と食卓があれば十分です ―人間不信だった私が、ゆっくり育つ異世界生活―

愛朱ひいろ
ファンタジー
人の顔色ばかり伺い、心を壊した26歳の会社員女性。 彼女は死後、異世界で「できない子」として転生する。 魔法は使えない。 体は不器用で、成長も人より遅い。 前世の記憶のせいで、人と関わることが少し怖い。 けれどこの世界には、 見守り支えてくれる両親と、 あたたかい食卓があった。 泣いて、つまずいて、できないことに落ち込みながら、 彼女は少しずつ「できないままでも、生きていていい」と知っていく。 これは、 最強でもチートでもない主人公が、 家族と食事に支えられながら、ゆっくり育ち直す 生活密着型・異世界転生×成長×グルメファンタジー。 ……の、予定です。 毎日更新できるように執筆がんばります!

最初からここに私の居場所はなかった

kana
恋愛
死なないために媚びても駄目だった。 死なないために努力しても認められなかった。 死なないためにどんなに辛くても笑顔でいても無駄だった。 死なないために何をされても怒らなかったのに⋯⋯ だったら⋯⋯もう誰にも媚びる必要も、気を使う必要もないでしょう? だから虚しい希望は捨てて生きるための準備を始めた。 二度目は、自分らしく生きると決めた。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ いつも稚拙な小説を読んでいただきありがとうございます。 私ごとですが、この度レジーナブックス様より『後悔している言われても⋯⋯ねえ?今さらですよ?』が1月31日頃に書籍化されることになりました~ これも読んでくださった皆様のおかげです。m(_ _)m これからも皆様に楽しんでいただける作品をお届けできるように頑張ってまいりますので、よろしくお願いいたします(>人<;)

処理中です...