神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました

土広真丘

文字の大きさ
242 / 601
第3章

45.耐えなければならない

しおりを挟む
 フルードがアマーリエとリーリアを見た。

「天威師と他の聖威師も、帝都及び皇都の中央本府で各自配置に付いてくれています。全員が一つの部屋に固まる必要はありません。本件に関しては、中央本府のどこかにいてくれれば、同じ場所に集結していることになりますので」

 帝城及び皇宮は隣り合って建てられており、その内にある両国の中央本府も隣接している。実質的には一つの大きな施設のような物だ。

「中央本府内ならばどこでも構いません。自分が少しでも力を安定させやすい場所で神威を受け止めて下さい」
「アシュトンと恵奈から報告の念話があったが、神官府も含めた帝城と皇宮の者たちは、全員転移させて避難済みとのことだ。国王たちも別地の離宮に退避している。天威師と聖威師しかいないから、人目は気にしなくて良い」

 大神官たちが交代で言葉を紡ぐ。アリステルの言う帝城と皇宮の者たちとは、夜勤の神官や官吏、女官たちのことだろう。

「皆には何と説明して退避させましたの?」
「緊急の神事だと通達したらしい。天の神威がざわついている気配がするため、天威師と聖威師が確認を行い、必要であれば対応をする。今宵はその儀式に集中するので、人間たちは念のために城宮から出ていろと」

 三千年の歴史の中で、そういった処置が行われた前例はある。神への信仰が根付く世界ということもあり、皆は疑問も特に感じず、粛々と従ったそうだ。
 国王や王族には本当の事情を話しているが、厳しい話、人間でしかない彼らにできることはない。静観するように伝え、離宮に移ってもらったという。

 なお、現在も続いている神使選定のために降りている使役たちも、この状況なので一時的に天へ還ったそうだ。

(任意の場所……一番リラックスできるのは自分の執務室かしら。庭も良いけれど、今は暗いから昼間とは雰囲気が違うものね)

 アマーリエはどこに行くかを検討しながら、そういえばと思い付いてリーリアを見る。

「リーリア様、こんな時にごめんなさい。リーリア様の邸には転移霊具は置いているかしら? クラーラちゃんがこちらに戻って来てしまったの」

 何か知らないかと問うと、緑色の双眸が見開かれた。

「あの子がアマーリエ様の所に? 全く気が付きませんでしたわ」

 フロースと水神の説得に集中していたためか、別室に寝かせたクラーラの気配が消えたことを察せなかったようだ。

「非常用の転移霊具はありますが、普段は別棟にしまっておりますの。基本的には自分の聖威を使って転移できますから」
「それはそうよね……。クラーラちゃん、どうやって来たのかしら。私の邸でお風呂に入れて着替えさせたから、自分の霊具を持っていたわけではないでしょうし。まさか夜道を走って来たのかしら」

 それにしては服も髪も綺麗なままだった。

「そもそも、あの子は朝まで目が覚めないように眠らせたつもりでしたのに。力の加減を間違えてしまいましたかしら」

 解せないという風情でリーリアが眉を顰める。

「緊急時にこんな話をしてごめんなさい。明日クラーラちゃんに聞いてみるわ」
(無事に明日を迎えられればの話だけれどね……)

 神威を受け止め切れなければ、地上は壊滅する。自分たち聖威師は天に昇り、ニコニコ顔の神々に迎え入れられるだけで済むが、人間たちは終焉を迎えることになるだろう。当然、クラーラの命の灯火も儚く吹き消える。そんな結末はあってはならない。

(いいえ、そんなことを考えては駄目。きっと耐えられる、耐えなければいけないの)

 慌てて頭を振り、不吉な考えを飛ばすと、フレイムを省みた。

「フレイム、私の部屋に行くわ。一緒にいてくれる?」

 山吹色の瞳が優しく細まる。いつでもアマーリエを照らしてくれる、頼もしく温かな篝火だ。

『当たり前だろ。不安なら手でも何でも握ってやるよ。抱きしめてやっても良いし、ずっと耳元でダジャレ言っといてやろうか?』
「やめて、お願い……」

 想像するだけで脱力する光景だ。フレイムなりに緊張を解いてくれようとしているのだろうが。

『フルード、君はどこを選ぶ?』

 ラミルファが聞いた。一緒に行くつもりなのだろう、ピタリと横に寄り添っている。

「神官府の裏庭にある四阿あずまやの陰にします」
『……ふぅん。分かった』

 何故か一瞬だけジト目でフレイムを見た邪神が、すぐに笑顔に戻って言った。

(あんなジメジメした所を選ばれるのね。昼間でも薄暗いし、霊威灯も少ないのに)

 意外だと思いながらフレイムを見上げると、彼の目は驚くほど優しい色を帯びていた。

『大神官の正装は着るのかい?』
「それに関しては悩んだのですが、眠り神方が降臨なさるわけではなく、神威の余波の受け止めなので、正装までは不要かと。通常の神官衣でいきます」

 大神官の正装。アマーリエは、星降の儀で見たフルードを思い出した。
 精緻な紋章が入った長い外套、一目見て極上品であることが分かるブレスレットと首飾り、髪飾り。それらを纏った姿は溜め息すら出ないほど麗しかった。
 だが……何故か、美しい拘束衣に豪奢な手枷と首枷を付けられているようにも感じた。

『気を付けろよ、セイン。んじゃ行くか、ユフィー』

 アマーリエの胸中など知らないフレイムがくるりと振り返り、手を差し出す。ハッと意識を切り替えたアマーリエが、その手を取ろうとした時だった。

『行く、ダーメ』

 甲高い声が場を切り裂き、フレイムとラミルファが一瞬で気配を変えた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

結婚十年目の夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。彼は「送り間違えた」というけれど、それはそれで問題なのでは?

ぽんた
恋愛
レミ・マカリスター侯爵夫人は、夫と政略結婚をして十周年。侯爵夫人として、義父母の介護や領地経営その他もろもろを完ぺきにこなしている。そんなある日、王都に住む夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。義弟を通じ、夫を追求するも夫は「送り間違えた。ほんとうは金を送れというメモを送りたかった」という。レミは、心から思った。「それはそれで問題なのでは?」、と。そして、彼女の夫にたいするざまぁがはじまる。 ※ハッピーエンド確約。ざまぁあり。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。

婚約破棄から50年後

あんど もあ
ファンタジー
王立学園の卒業パーティーで、王子が婚約者に婚約破棄を宣言した。王子は真に愛する女性と結ばれ、めでたしめでたし。 そして50年後、王子の孫の王子は、婚約破棄された女性の孫と婚約する事に。そこで明かされた婚約破棄の真実とは。

できない子に転生しましたが、家族と食卓があれば十分です ―人間不信だった私が、ゆっくり育つ異世界生活―

愛朱ひいろ
ファンタジー
人の顔色ばかり伺い、心を壊した26歳の会社員女性。 彼女は死後、異世界で「できない子」として転生する。 魔法は使えない。 体は不器用で、成長も人より遅い。 前世の記憶のせいで、人と関わることが少し怖い。 けれどこの世界には、 見守り支えてくれる両親と、 あたたかい食卓があった。 泣いて、つまずいて、できないことに落ち込みながら、 彼女は少しずつ「できないままでも、生きていていい」と知っていく。 これは、 最強でもチートでもない主人公が、 家族と食事に支えられながら、ゆっくり育ち直す 生活密着型・異世界転生×成長×グルメファンタジー。 ……の、予定です。 毎日更新できるように執筆がんばります!

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。

灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。 曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。 婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。 前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。

ローザリンデの第二の人生

梨丸
恋愛
伯爵令嬢、ローザリンデの夫はいつも彼女より仕事を優先させ、彼女を無碍にしている。 彼には今はもういない想い人がいた。 私と結婚したことにいい思いをしていないことは知っていた。 けれど、私の命が懸かっていた時でさえも、彼の精神は変わらなかった。 あなたが愛してくれないのなら、私は勝手に幸せになります。 吹っ切れたローザリンデは自分自身の幸せのために動くことにした。 ※投稿してから、誤字脱字などの修正やわかりにくい部分の補足をすることがあります。(話の筋は変わらないのでご安心ください。) 1/10 HOTランキング2位、ありがとうございます。

侯爵令嬢ソフィアの結婚

今野綾
恋愛
ソフィアは希少なグリーンアイを持つヴィンセントと結婚したが、これは金が欲しいソフィアの父の思惑と高い爵位が欲しいヴィンセントの思惑が一致したからに過ぎない そもそもヴィンセントには美しい恋人がいる 美男美女と名高いヴィンセントとその恋人は身分に大きな差があるために結婚することは叶わないのだ その事をソフィアも耳にしており、この結婚が形ばかりのものであることを知っていた 結婚して早々、ソフィアは実家から連れてきた侍女夫婦とあばら家に住むように言われて… 表紙はかなさんです✨ ありがとうございます😊 2024.07.05

なぜ、私に関係あるのかしら?

シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」 彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。 そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。 「…レオンハルト・トレヴァントだ」 非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。 そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。 「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」 この判断によって、どうなるかなども考えずに… ※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。 ※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、 ※ 画像はAIにて作成しております

処理中です...