神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました

土広真丘

文字の大きさ
243 / 601
第3章

46.暴れる神、来臨

しおりを挟む
われ、遊ぶ。相手必要。お前たち、相手する』
『ユフィー、リーリア、俺の後ろに!』
『下がれセイン、ヴェーゼ』

 二神が聖威師たちを庇って一点を見据える。視線の先にあるのは、庭園の散策道だ。裏庭とは違い、何本もの街灯霊具に照らされている。
 その照明の中に、と転がるように落ちて来たのは、小さな少年だった。ウェイブよりもさらに幼い。クラーラと同じくらいの――まだ7歳ほどに見える。そして、もう一柱。

『うぅ~すまぬのぅ、雛たちよ。説明はしたのじゃが』

 先ほどまで話していた魔神だ。濃青の長髪をかき上げ、黒みを帯びた紫紺の瞳を少年に向けて困った顔をしている。

『この御仁ごじんに遊んでいたつもりはなかったようでの。此方こなたの手伝いをしただけだと仰せなのじゃ~』
『そうそう。我、遊ぶない。我がしたの、クロウの手伝い。我、遊ぶのこれから』

 地面を幾度かコロコロした子どもが、フワリと浮き上がった。可愛らしい顔立ち。ぷにぷにした頰。そして、零れ落ちそうに大きな瞳。

「あっ……!」

 数瞬の既視感の後、アマーリエは息を飲んだ。脳裏に閃光が走り、記憶の残像が結ばれる。

「あなた――……」
『クロウ、人間化ける。面白そう。我、真似っこ』

 少年が丸い目をくりくりさせ、無邪気に手を叩く。

『面白い、面白い。ああ面白い。我、愉しいこと好き。退屈、嫌い』

 空中でクルンと回転し、ケラケラ笑う幼子が、ふと笑みを曇らせた。

『でも、すぐ飽きた。人のフリ、そんなに愉しくなかった。もう飽きた。別の遊び、する。痛いの大好きな雛たち、我と遊ぶ』
『違いますよ二の兄上、この子たちは被虐趣味ではありません。痛いことも嫌いですよ。魔神様からお聞きになられませんでしたか? ……ほら、君たちは焔神様の所に行きなさい』

 小さな手を差し出してにっこり笑う少年に、同じく笑顔のラミルファが足を踏み出した。だが、その目は怖いほど真剣だ。二番目の兄を見つめたまま、フルードとアリステルをフレイムの方へと押しやる。

『おお、弟よ!』

 幼児がギュルンと目玉を回した。比喩表現ではなく、本当に眼球が白目の中で回転していた。

『お前、我が弟。神威でわかる』
『はい。禍神が末子、ラミルファと申します』

 ラミルファが、兄の注意を自分に引き付けるように前に出る。

『弟。我の弟。可愛い、可愛い。さっき見付けてから、話したかったよ』

 おいでおいで、と、小さな手がヒラヒラ揺らされる。

『神格、何? ……邪神か』

 じっとラミルファを視て、一瞬双眸を翳らせたが、すぐに明るさを取り戻す。

『いいや、違う。お前、アイツ違う。アイツ、葬邪神。お前、骸邪神。邪神でも違う。なら良い。あぁ可愛い』

 近付いた弟の頭をよぉしよぉしと撫でながら、小さな神の大きな眼がグルグルと場を一巡した。

『可愛い同胞たち。焔神フレイム様。濁縁神だくえんしんアリステル・ヴェーゼ・レシス。清縁神せいえんしんフルード・セイン・レシス。燁神ようしんアマーリエ・ユフィー・サード。雫神なしんリーリア・レアナ・ファルム。……最後の雛、一度名前変わってる。前、アヴェント』
「貴き神にお答え申し上げます。故あって家名が変わりましてございます」

 リーリアが滑らかに応じるが、その声は明らかな緊張を孕んでいる。

 アヴェント家から除籍されたリーリアの父ヘルガは、自身で新たな家を立てることが認められた。長年神官として勤め続け、テスオラ神官府の主任を背負っていることを鑑みての処置だった。彼が興したのがファルム家だ。

 なお、ヘルガが廃嫡された時、彼の妻であるリーリアの母もまとめてアヴェント家から除籍された。夫婦で再出発することもできると提案したヘルガだが、彼女は自身の生家に戻る道を選択したため、そのまま離縁となった。一方のリーリアは、父と同じ姓になることを選んだ。

『そう。ま、人間の家名、どうでも良い。さあ、遊ぼう。痛いこと、たくさんしてあげる。嬉しいだろ』

 聖威師たちが一斉に首を横に振った。魔神が困り果てた顔で子どもを見ている。

『ああ、違う違う。ダメダメダメ、それ違う』

 少年神がちっちっちと指を振る。

『お前たち、被虐趣味』
「「違います!」」

 魔神がそろりと幼子に声をかける。

『ほれこの通り、違うと申しておるのですから……』

 だが、甲高い声はあっけらかんと切り捨てる。

『違うない。我の言葉、真理』

 フレイムが眉間に皺を寄せて言った。

『つまり……自分がお前たちは被虐趣味なんだって言ったら、当事者が否定しようが事実がどうだろうが関係なく、それが正解で真実になると?』
『そう。焔の雛、賢い。偉い偉い』

 とんだ自己中野郎である。言葉を失くすアマーリエたちに、小さな神が嗤う。

『痛いのが好きな同胞たち、生まれたばかり。とってもとっても小さな雛。まだ決まり、分かってない。小さいから仕方ない。教えれば良い。教える、年長者の役目』

 ウンウンと頷き、ピッと自分を指差す。

『うたた寝中に考えた。我、理性ある。会話通じる。いきなり暴れる、良くない。我、ちょっぴり反省済み』

 そして、今度はアマーリエたちを指す。

『神で大事なの、何? ――神格。神格が全て。優劣、上下、強弱、高低……全部神格一つで決まる。他の要素、関係ない』
『フレイムは自分より神格が低い妻や弟に全く頭が上がりませんがね』
『お前だってセインにはかしずく勢いだろ!』

 婉曲に反論するフレイムとラミルファだが、幼い神は気にも留めない。

『それ、焔神様とラミルファの温情。温情、任意。かけるかけない、自由。焔神様とラミルファ、かける。我、かけない』

 まろい頰が笑みをたたえて揺れる。魔神が少年より一歩下がり、聖威師たちを見つめると、口の動きだけで言葉を伝えて来た。


 ――逃げろ。逃げろ


『痛いの大好きな雛たち。我、お前たちより神格上。つまりお前たち、拒否権ない。一切ない。我が黒と言えば黒、白と言えば白。被虐趣味と言えば被虐趣味。分かった? もちろん、はい以外の答え、禁止』

 とんでもない神だ。ラミルファが小さく舌打ちし、フレイムが頰をヒクつかせてアマーリエたちを背後に庇う。

《おい、コイツやべえぞ。マジでやべえ。何が話はできるだよ、狼神様のホラ吹きめ》
《ああ、悪神らしい悪神だ。まるで善性部分を一切合切いっさいがっさい取っ払った一の兄上だよ。僕など足元にも及ばない》
《ユフィーたちは逃げろ、俺とラミルファが引き付けて……》

 ダン、と音が響いた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

結婚十年目の夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。彼は「送り間違えた」というけれど、それはそれで問題なのでは?

ぽんた
恋愛
レミ・マカリスター侯爵夫人は、夫と政略結婚をして十周年。侯爵夫人として、義父母の介護や領地経営その他もろもろを完ぺきにこなしている。そんなある日、王都に住む夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。義弟を通じ、夫を追求するも夫は「送り間違えた。ほんとうは金を送れというメモを送りたかった」という。レミは、心から思った。「それはそれで問題なのでは?」、と。そして、彼女の夫にたいするざまぁがはじまる。 ※ハッピーエンド確約。ざまぁあり。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。

婚約破棄から50年後

あんど もあ
ファンタジー
王立学園の卒業パーティーで、王子が婚約者に婚約破棄を宣言した。王子は真に愛する女性と結ばれ、めでたしめでたし。 そして50年後、王子の孫の王子は、婚約破棄された女性の孫と婚約する事に。そこで明かされた婚約破棄の真実とは。

できない子に転生しましたが、家族と食卓があれば十分です ―人間不信だった私が、ゆっくり育つ異世界生活―

愛朱ひいろ
ファンタジー
人の顔色ばかり伺い、心を壊した26歳の会社員女性。 彼女は死後、異世界で「できない子」として転生する。 魔法は使えない。 体は不器用で、成長も人より遅い。 前世の記憶のせいで、人と関わることが少し怖い。 けれどこの世界には、 見守り支えてくれる両親と、 あたたかい食卓があった。 泣いて、つまずいて、できないことに落ち込みながら、 彼女は少しずつ「できないままでも、生きていていい」と知っていく。 これは、 最強でもチートでもない主人公が、 家族と食事に支えられながら、ゆっくり育ち直す 生活密着型・異世界転生×成長×グルメファンタジー。 ……の、予定です。 毎日更新できるように執筆がんばります!

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。

灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。 曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。 婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。 前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。

ローザリンデの第二の人生

梨丸
恋愛
伯爵令嬢、ローザリンデの夫はいつも彼女より仕事を優先させ、彼女を無碍にしている。 彼には今はもういない想い人がいた。 私と結婚したことにいい思いをしていないことは知っていた。 けれど、私の命が懸かっていた時でさえも、彼の精神は変わらなかった。 あなたが愛してくれないのなら、私は勝手に幸せになります。 吹っ切れたローザリンデは自分自身の幸せのために動くことにした。 ※投稿してから、誤字脱字などの修正やわかりにくい部分の補足をすることがあります。(話の筋は変わらないのでご安心ください。) 1/10 HOTランキング2位、ありがとうございます。

侯爵令嬢ソフィアの結婚

今野綾
恋愛
ソフィアは希少なグリーンアイを持つヴィンセントと結婚したが、これは金が欲しいソフィアの父の思惑と高い爵位が欲しいヴィンセントの思惑が一致したからに過ぎない そもそもヴィンセントには美しい恋人がいる 美男美女と名高いヴィンセントとその恋人は身分に大きな差があるために結婚することは叶わないのだ その事をソフィアも耳にしており、この結婚が形ばかりのものであることを知っていた 結婚して早々、ソフィアは実家から連れてきた侍女夫婦とあばら家に住むように言われて… 表紙はかなさんです✨ ありがとうございます😊 2024.07.05

なぜ、私に関係あるのかしら?

シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」 彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。 そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。 「…レオンハルト・トレヴァントだ」 非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。 そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。 「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」 この判断によって、どうなるかなども考えずに… ※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。 ※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、 ※ 画像はAIにて作成しております

処理中です...