神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました

土広真丘

文字の大きさ
247 / 602
第3章

50.降り注ぐ神威

しおりを挟む
 先代の皇帝は、上皇じょうこうおよび上帝じょうていと称する。通常は譲位すれば数年以内に昇天する天威師だが、橙日上帝レイティは未だ地上に残ってくれている。歴代最強の天威師であり、彼に鎮められぬ神はいないとまで言わしめた存在だ。

(ええと、それから……生まれながらの荒神? 天威師でも手に負えないってどういうこと? 疫神様ってそんなにとんでもない神様なの?)

 だが、口に出して聞いている時間は無かった。クレイスがまとめに入る。

《それに賭けるしかないねー。アマーリエ、フルード、焔神と骸邪神にも葬邪神への助太刀を頼んでくれるかな》
《はい、紺月帝様》
《は、はい》

 フルードが即答し、アマーリエも慌てて追随する。

《じゃあ始めようか。また皆で朝を迎えられることを祈ってるよ》

 軽い口調で締めくくり、念話が切れた。

『皆、起きた。嬉しい、嬉しい』

 疫神が手を叩いて笑う。呼応するように、体中にズンと威圧がかかった。膝が砕けそうになるのを堪え、アマーリエは奥歯を食いしばる。

(神威が来たんだわ!)

 自分の部屋に行くと言っていたが、もうここで受けるしかない。

『お前たちは神威を受けることに集中しろ。アイツの相手は俺がやる』

 葬邪神が言い、膨大な神威を全身で受けているフルードがラミルファを見た。

「どうか疫神様をお止め下さい。お願いします」
『――我が宝玉の望みならば応えよう』

 アマーリエもフレイムに視線を送る。

「お願いフレイム、葬邪神様と一緒に疫神様を鎮めて」
(どうにかして疫神様を抑えられないかしら。一時的にでも神威を封じるとか、弱めるとか……)

 そんな芸当は望み薄だろうと思いつつ、言葉を続けた。

「私は聖威師よ。地上を守りたいの」
『お前の願いはどんなことだって叶える』

 朗らかに快諾が投げ返される。山吹色の瞳が、決して薄れも揺らぎもしない熱を帯びてこちらを見つめ返した。そして一つ頷くと逸らされ、小さな神に向き直る。

『そぉ~れぇ~』

 間の抜けた甲高い声。ドォン、と深緑の神威が爆発し、ドス黒い雷撃が爆散した。美しい森林の色ではない。汚臭を放つ腐った藻のような、暗い緑だ。

 神官府の本棟や敷地内の森が一撃で粉微塵になり、地面に敷かれていた石畳が一斉に剥がれ飛ぶ。本来であれば帝国と皇国の全領土ごと塵にしていたであろう攻撃。この程度で済んだのは、葬邪神が自身の神威を放って威力を中和したからだ。

(て、天威師と他の聖威師たちは無事かしら……神官府のどこかで神威を受けているはずだけれど)
「アマーリエ、リーリア、自身のことに集中しなさい! 仮眠中に神官府が消し飛び、きりもみ状態で対応を行うことくらい、聖威師にはよくあるでしょう! 皆、これしきのことでどうにかなる者たちではありません!」
「そ、そうでしたね!」
「分かりましたわ!」

 フルードが恐ろしい勤務実態を高らかに叫び、すっかり中央本府の色に染まったアマーリエとリーリアが力強く答える。なお、そういう事態が発生した時の一般神官の防御や退避は主任神官や聖威師が行う。高位神官も色々と大変なのである。

『ひーえぇー、此方は上に還るのじゃ。雛たちよ、襲ってしもうた詫びはするでな~』

 どこか間延びした悲鳴を上げながら、魔神がかき消えた。天界に避難したらしい。

『こっちは任せろ!』

 フレイムが言い、アマーリエたちから暴神を遠ざけるように上へと跳躍した。

『追いかけっこ? 待て待てー!』

 踊り出さんばかりの勢いで、疫神が追いかける。疫神、葬邪神、骸邪神、そして焔神。四柱の神が一斉に空へと飛翔し、稲妻の嵐に身を躍らせた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

結婚十年目の夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。彼は「送り間違えた」というけれど、それはそれで問題なのでは?

ぽんた
恋愛
レミ・マカリスター侯爵夫人は、夫と政略結婚をして十周年。侯爵夫人として、義父母の介護や領地経営その他もろもろを完ぺきにこなしている。そんなある日、王都に住む夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。義弟を通じ、夫を追求するも夫は「送り間違えた。ほんとうは金を送れというメモを送りたかった」という。レミは、心から思った。「それはそれで問題なのでは?」、と。そして、彼女の夫にたいするざまぁがはじまる。 ※ハッピーエンド確約。ざまぁあり。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。

君といるのは疲れると言われたので、婚約者を追いかけるのはやめてみました

水谷繭
恋愛
メイベル・ホワイトは目立たない平凡な少女で、美人な姉といつも比べられてきた。 求婚者の殺到する姉とは反対に、全く縁談のなかったメイベル。 そんなある日、ブラッドという美少年が婚約を持ちかけてくる。姉より自分を選んでくれたブラッドに感謝したメイベルは、彼のために何でもしようとひたすら努力する。 しかしそんな態度を重いと告げられ、君といると疲れると言われてしまう。 ショックを受けたメイベルは、ブラッドばかりの生活を改め、好きだった魔法に打ち込むために魔術院に入ることを決意するが…… ◆なろうにも掲載しています

幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。

灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。 曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。 婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。 前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。

愛してもいないのに

豆狸
恋愛
どうして前と違うのでしょう。 この記憶は本当のことではないのかもしれません。 ……本当のことでなかったなら良いのに。 ※子どもに関するセンシティブな内容があります。

『外見しか見なかったあなたへ。私はもう、選ぶ側です』

鷹 綾
恋愛
「お前のようなガキは嫌いだ」 幼く見える容姿を理由に、婚約者ライオネルから一方的に婚約を破棄された 公爵令嬢シルフィーネ・エルフィンベルク。 その夜、嫉妬に狂った伯爵令嬢に突き落とされ、 彼女は一年もの間、意識不明の重体に陥る――。 目を覚ました彼女は、大人びた美貌を手に入れていた。 だが、中身は何ひとつ変わっていない。 にもかかわらず、 かつて彼女を「幼すぎる」と切り捨てた元婚約者は態度を一変させ、 「やり直したい」とすり寄ってくる。 「見かけが変わっても、中身は同じです。 それでもあなたは、私の外見しか見ていなかったのですね?」 静かにそう告げ、シルフィーネは過去を見限る。 やがて彼女に興味を示したのは、 隣国ノルディアの王太子エドワルド。 彼が見ていたのは、美貌ではなく―― 対話し、考え、異論を述べる彼女の“在り方”だった。 これは、 外見で価値を決められた令嬢が、 「選ばれる人生」をやめ、 自分の意思で未来を選び直す物語。 静かなざまぁと、 対等な関係から始まる大人の恋。 そして―― 自分の人生を、自分の言葉で生きるための物語。 ---

できない子に転生しましたが、家族と食卓があれば十分です ―人間不信だった私が、ゆっくり育つ異世界生活―

愛朱ひいろ
ファンタジー
人の顔色ばかり伺い、心を壊した26歳の会社員女性。 彼女は死後、異世界で「できない子」として転生する。 魔法は使えない。 体は不器用で、成長も人より遅い。 前世の記憶のせいで、人と関わることが少し怖い。 けれどこの世界には、 見守り支えてくれる両親と、 あたたかい食卓があった。 泣いて、つまずいて、できないことに落ち込みながら、 彼女は少しずつ「できないままでも、生きていていい」と知っていく。 これは、 最強でもチートでもない主人公が、 家族と食事に支えられながら、ゆっくり育ち直す 生活密着型・異世界転生×成長×グルメファンタジー。 ……の、予定です。 毎日更新できるように執筆がんばります!

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

ねぇ、それ、誰の話?

春風由実
恋愛
子爵家の三男であるアシェル・イーガンは幼い頃から美しい子どもとして有名だった。 その美貌により周囲の大人たちからは、誰からも愛されて育つ幸福な子どもとして見られてきたが、その実態は真逆。 美しいが故に父親に利用され。 美しいが故に母親から厭われて。 美しいが故に二人の兄から虐げられた。 誰も知らない苦悩を抱えるアシェルは、家族への期待をやめて、早く家を出たいと望んでいたが。 それが叶う日は、突然にやって来た。 ウォーラー侯爵とその令嬢ソフィアが、アシェルを迎えに現れたのだ。 それは家に居場所のないアシェルの、ちょっとした思い付きから始まった行いが結んだ縁だった。 こうして王都を離れ侯爵領でのびのびと健やかに成長していったアシェルは、自分が美しいことも忘れていたくらいだったから、自身の美貌の余韻が王都の社交界にて壮大な物語を創生していたことに気付けなかった。 仕方なく嫌々ながら戻ってきた王都にて、大事な人を傷付けられて。 アシェルは物語を終わらせるとともに、すっかり忘れ去っていた家族たちとも向き合うことにした。 そして王都に新しい物語が創生する。それは真実に則った愛の物語──。 ※さくさく更新して完結します。

処理中です...