神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました

土広真丘

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第3章

54.生来の荒神たち

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『この前の嵐。アマーリエとリーリア、人間たくさん助けた。我もあの時のこと、知ってる。人間、互い突き飛ばして、我先に避難してた。他人の荷物開けて、食べ物盗んでた。水取り合ってた。それが本性』
「そういう人ばかりではありません。高齢者を背負って逃げる人、怪我人がいれば手当てする人、子どもに食べ物を譲る人、毛布を交代で分け合う人もいます」

 アマーリエが反射的に反論すると、荊で簀巻きにされたままの疫神は、ブラブラと体を揺すった。まるで蓑虫のようだ。

『自分、助かればそれで良い。そう考える人間、もっと大勢。親、友達、平気で見捨てる。自分の子だけ助ける、他の子置いてく』
『二の兄上、それは僕たち神も同じですよ。同胞のことは何がなんでも守るが、それ以外は何の躊躇も未練もなく切り捨てる』

 涼やかに言い切った灰緑の双眸が見上げる宇宙に、光はない。この星を――聖威師を守るため、葬邪神もラミルファもフレイムも、迷わず他の輝きを切り捨てた。そのことを後悔もしていなければ、偲んでもいない。破砕された星々は、跡形すら残っていない。

『うん。それ、神の本質。当然。いつでも変わらない。人間、いざとなった時、態度変わる。家族、親しい者、押しのける、自分助かろうとする。それ、人間の本質。危機的事態、化けの皮剥がれる。本性見える』
『そんなの当たり前ですよ』

 フレイムがぴしゃりと言い返した。

『人間は神とは違う。思考も価値基準も、精神構造も存在も、全部違う。しかも大半の奴は、専用の訓練を受けてる特殊隊員でもない。いつもと違う事態になった時に、いつもと同じ思考なんかできない』

 山吹色の眼が深い光を放つ。かつて精霊であった彼は、小さくて弱い立場の者の心にも寄り添える。

『焦った時には余裕のない言動をする。イラついた時はトゲのある、弱った時は後ろ向きな言動をしますよ。同じように、嬉しい時は前向きな、満ち足りた時は優しい言動をする。当たり前の話です。どれも嘘偽りじゃない、ソイツの持ってる姿です』

 一人の人間が、己の内に数え切れないほど多くの自分を持っている。それこそが人という生き物の多面性であり可能性だ。

『人間の心は常に移り変わる。意思も感情もない人形じゃない。中には、咄嗟の状況に置かれても、自分が危機に瀕していても、他者への思いやりや優しさを失わない奴だっている』

 自分の欠片を集めて並べて組み立てて、万華鏡のように模様を変える。一度作った表情と全く同じ顔は、二度と浮かべることはない。

『一部の姿だけを切り取って、これがソイツの素で本当の姿なんだと勝手に決め付ける。何様ですか、あなたは』
『神様』

 ユラユラ、ケラケラ。体を揺らして疫神が嗤う。

『何様、何様。お前は何様? ――神様、神様。我、神様』

 ブチブチィと音を立て、一瞬で荊が引き千切られた。猛る神威が溢れ出る。

『話、つまらない。遊ぼ、遊ぼ。荒神で遊ぼ』

 束縛から自由になった疫神は、ギュルルンと瞳を回した。

(先程から出て来る荒神とはどういう意味なの……? 誰も荒れていないわよね。疫神様も遊びたいだけで、怒っているわけではないのだし)

 内心で呟くと、何と日香から応答があった。

《アマーリエちゃん、まだ念話繋がっててね、今の声聞こえちゃった。独り言で呟いたつもりだったんだろうけど、ごめんね。でも聞こえちゃったから答えるね。ええと、神には和神わしんと荒神、二つの状態があるでしょ》

 神々は和神の状態を常としており、悲憤や興奮等で気が昂ぶった際に荒神となる。荒神化した時の神威は、強さ、大きさ、荒々しさ、攻撃力が通常時とは比較にならないくらい跳ね上がるのだ。

《だけど、。数は多くないんだけどね》
《荒神が……通常状態ですか!?》

 あぁ~と老人くさい声を上げてゴキュゴキュと肩を回している疫神は、外見だけ見ればほんの小柄な神だ。その内に秘める神威はフレイムたちが相殺してくれていたため、こちらにはほとんど届いていない。ゆえに、真価が分からない。

《そう。で、生まれながらの荒神は、平時からめちゃくちゃ強力な御稜威を放ってて、キレた時は荒神の状態からまた荒神化するんだよ。言ってみれば二重の荒神化だね》
《通常時ですら手を焼く荒神が、さらに荒神化する。それが高位の神となれば、例えようもない脅威だ。神格が上がるほど神威も強大さを増すのだからな》

 秀峰も説明してくれた。選ばれし神であり生来の荒神である疫神。彼が通常の状態からさらに荒れれば、天威師でさえ神威を受け切れないという言葉が蘇った。

《ちなみに、お義父様……橙日上帝様も、生まれながらの荒神だよ。私たち普通の天威師が全員束になってかかっても、全然敵わないの。今回はお義父様が一緒に祖神の神威を受けて下さってるから、どうにか持ち堪えられてるんだけどね》
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