神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました

土広真丘

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第3章

55.終焉の神託

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《えっ……フレイムもですか!?》

 カラリと明るい笑顔を向けてくれるフレイム。普段の彼から、荒々しさや猛々しさを感じたことはない。

《ああ。ただ、彼は元が精霊であるゆえ、言葉通りの意味での〝生まれながら〟ではない。神格を得、神として顕現した時に荒神として顕れた、という意味で生来の荒神と同義となる》
《生まれながらの荒神は強大な御稜威を自在に使いこなすから、細かい作業が得意な神が多いんだよね。料理とか裁縫とか工芸とか。それに直感が異様に鋭くて、勘が予知能力並に当たりまくるの。あと、情理を保ったまま荒れてるから、二重荒神にならない限り大半は温厚な性格なんだよ。……疫神はちょっと違うみたいだけど》

 疫神はある意味で本来の荒神らしい荒神であり、悪神らしい悪神なのだ。

《疫神は暴れ神にして太古の眠り神だ。世界に合わせて己を加減することを知らぬ》

 秀峰の言葉と同時に、疫神がと笑った。真っ暗な空を見上げ、歌うように告げる。

『はい。プレウォーミングアップ、終わり~。今から、普通のウォーミングアップ~』

 腐敗した藻の色をした神威が炸裂する。葬邪神とラミルファ、フレイムがまとめて薙ぎ払われた。辛うじて聖威師たちと地上は守ったものの、桁違いの神威を正面から食らって倒れ込む。

「フレイム!」

 血相を変えるアマーリエの横で、フルードとアリステルも叫ぶ。

「ラミ様、お兄様!」
「父上っ」

 アリステルは葬邪神と親子の契りを結んでいるらしい。親子兄弟姉妹の契りは愛し子や包珠の契りに等しいため、きっと彼らにも互いとの絆を紡いだ物語があるのだろう――などと悠長に考えている余裕はない。

「フレイム、フレイム!」

 地面を削って吹き飛んだ夫に駆け寄ろうと、神威の重しを乗せたまま足を引きずるようにして近付いていく。

『ユフィ……来る、な……』

 切れ切れに制止するフレイムの声を断ち切り、荘厳な御稜威が奔流となって満ち満ちた。アマーリエの膝が折れ、体が地にへばりつく。視線を巡らせると、フルードとアリステルも大地に伏せていた。

 土を舐めるようにして振り仰げば、暴れる神が浮かんでいる。指の一本も動かさず、一瞥すら向けぬまま、この場にいる者たちを瞬殺で蹂躙した神が。空っぽの暗夜を従え、天高く君臨する気は、まさしく選ばれし超越存在に相応しい。

 小柄な姿が光り輝き、長身に変貌した。精緻に整った美貌、少しだけうねりのかかったストレートの長髪。葬邪神と似通った容姿を持つ青年が、ゆったりと天弓に滞空していた。男らしい逞しさと色香を持つ葬邪神よりも若干細身で、中性的な艶を放っている。

『ふむ、この姿で良いか。双子なのだし』

 己のなりを確かめるように両の手の指を動かしながら、誰にともなく発された呟きが、不思議と耳に刺さる。

《あああぁぁまずいまずいまずい、というか私たちの方もまずい、疫神の神威が上乗せされて一気に限界近くなった……受け切れないかも……おぇ、重っ……》
《これでもまだ平時の状態だ、二重の荒神化はしていない。どうにか……疫神を……鎮め……》

 日香と秀峰の声が遠くなる。神威の圧が強まり、念話が維持できなくなったのだ。天威師でさえそうならば、出力と耐久力で劣る聖威師はどうしようもない。アシュトンたちも動けないだろう。

(うぅ……もう駄目……これ以上は無理……潰される)

 大地に伸びているアマーリエの耳に、終わりを宣告する神託が響き渡る。葬邪神よりも幾分か高い声。

『我は最古神ディスシェル。永久とこしえに巡る流転るてんの渦の中、このそらに一体幾万の星々が生まれ消えゆくのを見たことだろう』

 神衣に包まれた両腕がゆっくりと広がった。森羅万象を制するがごとく、泰然と。
 その神圧の前では全てが無力。ラミルファとフレイムも動けない。

「…………」

 アマーリエを構成する全てが硬直した。頭頂から足の爪先、体内の臓腑に精神の端々まであまねく巡るのは、悟りと後悔。それらに苛まれながら、心の底から恥じ入る。
 ――どうにかして神威を封じたりできないか、などと見当違いの算段を積み上げていた、己の愚かさを。分かっていなかった。自分は何も分かっていなかったのだ。

 魂が告げる。そんなことができるはずがない、この相手はどうしようもない。どうこうできる存在ではない。次元が――次元が違う、完全に。

 宇宙次元の創生より遥か以前に顕現した、最初期の神。
 最高神たる親神の権能を受け継ぐ、神々の頂点。
 世界への容赦も慈悲も加減も知らぬ神。

 その姿と御稜威は、あまりにも壮大で美し過ぎた。

(ああ……)

 吐息が漏れ、意識の全てが持って行かれる。呼吸すら忘れた体は感覚を失くし、震えすらも起こらない。だが、不思議と恐怖や絶望は感じない。ただただ圧倒的で絶対的な超越存在に対する、魂の奥底からの畏敬と感銘だけがあった。

『人の世などほんの瞬きほどの夢幻。取るに足らぬ些細な泡沫。我が心を砕く必要など無し。さあ不要なものは消し、果て無き時を戯れよう――我が同胞たちよ』

 地獄の釜が開いたように、暴威の権化ごんげが顕現した。
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