神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました

土広真丘

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第3章

67.邪神兄弟の密談 後編

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 きっっっっったなくて大馬鹿で不幸な娘だから悪いのだと、ラミルファはひとりごちた。

『被虐趣味の誤解が解けた後の二の兄上は、守護神としてはあなたと並んで最強かつ最適な存在に変貌しました。僕も本気で驚いたものです。……しかし唯一、人間基準の配慮をするという点で不足している』

 それは致命的な欠陥だった。アマーリエを大切に想う者にとっては、決して譲れない部分だ。全くもって惜しい。その一点さえ基準値に達していれば、迷わず長兄と並べて第一候補に上げていたのに。

『二の兄上が再び彼女に手を伸ばした時、真っ向から否を返せるのは同格の神だけです。その中で悪神で、なおかつ守護対象を尊重してくれるのは一の兄上しかいません。これで是が非でも一の兄上に守護をお願いしなくてはならなくなってしまいました』
『……確かに、格下の悪神なら、アイツにアマーリエの守護役を譲れと言われれば逆らえんな。かといって、アイやセラでは配慮が足りん。お前は既にフルードを守護している。守護対象にできるのは、悪神一柱につき一人だけ。となれば――なるほど、俺しかいないな』

 黙って聞いていた葬邪神が言葉を放った。先ほどとは打って変わって柔らかい声。手に持っていた漆黒の鞭が消え、空間を満たす神威が霧散した。

『そうだったのか。すまん、まずちゃんと理由を聞くべきだった。いつもはそうしてるんだが、何しろ今回は驚きが先走ってしまってなぁ』

 そう言うなり、顕現したての雛である末弟に向かって、躊躇なく深々と頭を下げた。

『いきなりお仕置きしようとして本当に悪かった。ごめんなぁ。お兄ちゃん絶賛反省中だ』
『……そういうあなただから、アマーリエを頼めるのです』

 長兄が有する悪神としての酷薄さと苛烈さ、惨虐さは、疫神に匹敵する。だが、それらを覆い尽くしてしまう程に強大な優しさと寛容さ、慈愛、そして何より、相手の価値基準に寄り添い尊重する心を持っている。後半が向けられるのは神限定だが。

『付け加えれば、セインとヴェーゼがアマーリエを同類と認識してしまいました。今は僕が抑えていますが、このままではが起こってしまいます。もう時間がありません。どうかアマーリエを守護していただけませんか』
『…………すまんなぁ』

 幾ばくかの沈黙の後、降りたのは断りの返事だった。だが、想定内であるため、落胆も動揺もない。

『理由が足りませんか?』
『ああ。先ほども言ったが、彼女は俺の〝大切〟ではあるが、〝特別〟ではない。繰り返すが、大勢いる同胞の一柱にすぎない。それでも、俺が守護する以外に手段がないなら、考えたかもしれんが……そうじゃないだろう。神に戻るという方法が残っている』
『そうしたら、彼女は地上にいられない。真実を知った彼女がどのような選択をするかは分かりませんが、それでも聖威師でいたいと望むかもしれません』
『だがそれは、言い方は厳しいがアマーリエのエゴだ。助かる方法があるのに、それを自ら撥ね退けて使わんのだからな。彼女の意思は尊重するが、その結果苦境に陥るなら、それは自己責任ではないかなぁ』
『なるほど。正論ですね』

 ラミルファはあっさり認めた。悪神とは思えぬ理の通った言い分だ。

『悪いな。親子の契りを結んでいるヴェーゼの守護だったら、一も二もなく引き受けてたんだが。というか俺の方から、どうか守らせておくれと懇願するんだが。何しろ愛しい我が子だからな』
『ヴェーゼは奇跡の聖威師。悪神ですから守護は必要ありません。そのおかげで、あなたが空いているという幸運が発生したのですがね』

 肩を竦め、灰緑の眼が兄を見上げた。

『では、理由を足しましょう。そもそもの話、アマーリエがあなたにとって特別ではないから、わざわざ守るまではいかないということでしたね。ならば……僕が、あなたの弟が、あなたの〝特別〟が、アマーリエを守って欲しいと切に願い出ている。これならどうですか』

 そして、一筋の光明もない暗い空間に両膝を付く。最悪の場合、アマーリエが辿り着く先がここになりかねないのだ。光が全くないこの暗黒は、悪神にとっては心安らぐ安寧の場だが、アマーリエにとっては苦痛だろう。きっっっっったないあの子は悪神ではなく、輝く火の女神なのだから。

 ならば、彼女をここには来させない。絶対に。

『我が偉大なる長兄、葬邪神アレクシード様。あなた様の末弟たる骸邪神ラミルファが、ここに伏してお願い申し上げます。どうか、アマーリエ・ユフィー・サードをお守り下さい』

 足元の見えない虚空に座り、両手を付いて額が突くほど深く平伏する。皇国で言う土下座の体勢だ。

『…………』

 闇に塗り潰された黙の中、兄が言葉を失くしている気配が伝わって来る。悠久にも等しい時を在り、滅多なことでは本気で驚かない長兄が、今は心底絶句していた。

『……立ちなさい』

 ややあって、とても優しい声が響いた。微かな足音が鳴り、よっこいしょ~、と明るい掛け声と共に、温かな腕に抱えられて上体を引き起こされる。座ったラミルファの前に、目線を合わせるように片膝を付いて背を屈め、深くしゃがみ込んだ葬邪神が微笑む。

『俺にそんなことしなくて良いんだ。……あの娘をそんなに守りたいのか』
『はい』
『あんなにきっっっっったないのにか』
『きっっっっったなくてもです』

 確認し合う邪神兄弟は大真面目だ。悪神の基準では、アマーリエの澄んだ魂は論外級にとんでもない代物である。

『そうか。いや、実はな、お前の様子を見ていて所々でビックリしてはいたんだ。そうか――そこまで……愛する弟がそこまで言うなら、お兄ちゃんちょっと前向きに考えちゃうぞ』

 頷いた葬邪神が、そーれとラミルファを立たせた。サラリとした白髪をわしゃわしゃ撫でる。

『だが、守護役を受ける前にアマーリエと少し話をさせてくれ。守護対象にする者なら、少しくらい親睦を深めてみんとな。元の場所に戻ろう。あっちでは瞬き一つの時間も立っておらんからな』
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