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第3章
69.受けろ
数瞬後、ボソッと呟いた葬邪神が、おもむろに表情を改めてアマーリエに手を差し伸べた。
『聞け、聖威師アマーリエ・ユフィー・サード。汝が誠心は我が魂の深奥に触れたり。その心が織り成す光輝、我が腕にて守らん』
(……はい?)
いきなり何が始まったのか。ぽかんと見つめるアマーリエの前で、大気が鳴動する。赤黄の神威に鈍い漆黒が被さり、精緻な神紋が虚空に描かれた。紋が回転し、中に複雑な模様が次々と現れては消えていく。
『我が神性において、汝が人の生を終える瞬間までその心身を守護することを誓おう』
(あの……何を仰っているの? というか何の話? 誰か――って、ええぇ!?)
意味が分からず、助けを求めるように周囲を見回したアマーリエは、視界に映った光景にギョッとした。
いつの間にか、全員がじぃぃっとこちらを凝視している。フレイム、ラミルファ、フロース、狼神、聖威師、果ては未だ上空に浮いていた天威師まで。ただ一人、状況が分からないらしく戸惑っているリーリアを除けば、皆がアマーリエを見つめ、ありとあらゆる方法で伝えていた。
〝受けろ〟
《承諾しろアマーリエ、迷うな》
《これは大チャンスだ。今ここで了承の返事をするんだよ》
《アマーリエちゃんすごくない!? 葬邪神を射止めるとかスーパーミラクルプレーすぎでしょ!》
《受けろ! これは最高以上の大当たりだ!》
ラミルファとフロース、日香と秀峰が立て続けに念話を送って来る。オルディスやクレイス、高嶺、月香などの天威師たちは、〝受けろ、受けろ〟というジェスチャーを連発していた。アシュトンや佳良たちも、念話や唇の動きで一斉に同じことを伝えてくる。
「アマーリエ、お受けするのです!」
「お願いしますと言え! こんな好機はもう二度と来ない!」
フルードとアリステルに至っては、常にない必死さで直に声を張り上げた。
(な、何だというのよ皆して!? 一体何よ、どういうことなの?)
訳が分からないアマーリエは、さらに視線を巡らせ、ワインレッドの髪を探した。誰よりも信を置く存在。彼の言葉なら、彼の意思なら、他の誰の言葉より信じられる。
(フレイム――)
吸い込まれるような山吹色の眼差しが、確かな熱と意思を宿してこちらを見ていた。視線が絡み合うと、瞳には僅かの揺らぎも見せぬまま、整った美貌がはっきりと頷く。
その瞬間、アマーリエの中から困惑や逡巡、躊躇が消えた。一の邪神の掌に、そっと自分の手を乗せる。思いのほか温かい手だった。
「矮小な身には畏れ多いことながら、葬邪神様のお慈悲とご守護をお受けいたします。どうかよろしくお願い申し上げます」
神紋の回転が止まり、漆黒を纏う赤黄色の輝きが眩く煌めいた。
『承諾はなされた。これより俺はお前の守護に付く』
葬邪神が宣言した途端、歓声と快哉が溢れた。大神官兄弟が脱力したように膝を折り、聖威師たちが安堵の笑顔を浮かべて胸を撫で下ろしている。
「ユフィー、良かった……これでもう安心だ……もう大丈夫……」
(フレイム……?)
愁眉を開いたフレイムが、アマーリエを包み込む。温かな腕に抱きしめられると、体から力が抜けた。
「葬邪神様、ありがとうございます」
「アマーリエに心労をかけたことは事実だ。何かの形で詫びは必要だろう。それに……俺の判断だけじゃないんだなぁ。ラミが強く頼んで来たんだ」
『聞け、聖威師アマーリエ・ユフィー・サード。汝が誠心は我が魂の深奥に触れたり。その心が織り成す光輝、我が腕にて守らん』
(……はい?)
いきなり何が始まったのか。ぽかんと見つめるアマーリエの前で、大気が鳴動する。赤黄の神威に鈍い漆黒が被さり、精緻な神紋が虚空に描かれた。紋が回転し、中に複雑な模様が次々と現れては消えていく。
『我が神性において、汝が人の生を終える瞬間までその心身を守護することを誓おう』
(あの……何を仰っているの? というか何の話? 誰か――って、ええぇ!?)
意味が分からず、助けを求めるように周囲を見回したアマーリエは、視界に映った光景にギョッとした。
いつの間にか、全員がじぃぃっとこちらを凝視している。フレイム、ラミルファ、フロース、狼神、聖威師、果ては未だ上空に浮いていた天威師まで。ただ一人、状況が分からないらしく戸惑っているリーリアを除けば、皆がアマーリエを見つめ、ありとあらゆる方法で伝えていた。
〝受けろ〟
《承諾しろアマーリエ、迷うな》
《これは大チャンスだ。今ここで了承の返事をするんだよ》
《アマーリエちゃんすごくない!? 葬邪神を射止めるとかスーパーミラクルプレーすぎでしょ!》
《受けろ! これは最高以上の大当たりだ!》
ラミルファとフロース、日香と秀峰が立て続けに念話を送って来る。オルディスやクレイス、高嶺、月香などの天威師たちは、〝受けろ、受けろ〟というジェスチャーを連発していた。アシュトンや佳良たちも、念話や唇の動きで一斉に同じことを伝えてくる。
「アマーリエ、お受けするのです!」
「お願いしますと言え! こんな好機はもう二度と来ない!」
フルードとアリステルに至っては、常にない必死さで直に声を張り上げた。
(な、何だというのよ皆して!? 一体何よ、どういうことなの?)
訳が分からないアマーリエは、さらに視線を巡らせ、ワインレッドの髪を探した。誰よりも信を置く存在。彼の言葉なら、彼の意思なら、他の誰の言葉より信じられる。
(フレイム――)
吸い込まれるような山吹色の眼差しが、確かな熱と意思を宿してこちらを見ていた。視線が絡み合うと、瞳には僅かの揺らぎも見せぬまま、整った美貌がはっきりと頷く。
その瞬間、アマーリエの中から困惑や逡巡、躊躇が消えた。一の邪神の掌に、そっと自分の手を乗せる。思いのほか温かい手だった。
「矮小な身には畏れ多いことながら、葬邪神様のお慈悲とご守護をお受けいたします。どうかよろしくお願い申し上げます」
神紋の回転が止まり、漆黒を纏う赤黄色の輝きが眩く煌めいた。
『承諾はなされた。これより俺はお前の守護に付く』
葬邪神が宣言した途端、歓声と快哉が溢れた。大神官兄弟が脱力したように膝を折り、聖威師たちが安堵の笑顔を浮かべて胸を撫で下ろしている。
「ユフィー、良かった……これでもう安心だ……もう大丈夫……」
(フレイム……?)
愁眉を開いたフレイムが、アマーリエを包み込む。温かな腕に抱きしめられると、体から力が抜けた。
「葬邪神様、ありがとうございます」
「アマーリエに心労をかけたことは事実だ。何かの形で詫びは必要だろう。それに……俺の判断だけじゃないんだなぁ。ラミが強く頼んで来たんだ」
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