272 / 602
第3章
75.変質する神罰
しおりを挟む
「そうだよ。……アマーリエには説明しなくては。これはセインたちのために神罰を調べていた時に分かったことだが、神罰に選ばれた者同士は共鳴を起こす。誰かの身辺で異変が起こった時に近くにいると、その変事を直感や胸騒ぎなどの形で察知するのだよ。天誅の神威が及ぼした思わぬ副作用だろう」
ゆえに、フルードが持つ滞留書の異変を察知できる可能性は、アマーリエにもあった。メイン指導者であるフルードに付いて、彼のすぐ側にいたのだから。
「だが、共鳴はそれだけじゃねえんだ。自分は、あるいはコイツも、呪われてる神罰を受けてるって認識した瞬間、神罰が何倍にも膨れ上がってソイツらを襲う。悪神の守護を受けてるか、自分が悪神になれば大丈夫なんだが、ユフィーはどっちも満たしてねえ」
つまり、アマーリエ本人か、同類の共鳴を持つフルードあるいはアリステルが、アマーリエも神罰に選ばれた者だと認知した時点で、共鳴が起こってしまう。不幸が数倍に増加して、まだ守りのないアマーリエに遅いかかっていた。
(だから疫神様が私の神罰について触れた時、必死で止めようとしていたのね)
あの時はどうにか、共鳴をラミルファが食い止めていたという。だが、守護できる対象は一人だけであるため、長くは保たず、葬邪神の守護神就任があと少し遅ければ危なかったそうだ。
「そう言えば、疫神様は私たちを視ただけで神罰のことを見抜かれていましたね」
フレイムやラミルファたちは、かなり調べなければ分からなかったようだが。
「二の兄上は、神威を抑えている割合が僕たちより圧倒的に低かった。世界への配慮など全くしていなかったしね。力を多く出していた分、色々と視えたのだろう」
フルードとアリステルが苦い顔で目を見交わした。
「神罰の存在が明らかになった時、私たち以外にもレシスの子孫がいないか、聖威で視たのです。もし他にもいるならば、彼らのことも助けなくてはと思いましたので」
「だが、調べ方を間違えた。本来の神罰の対象だった子ども――遊運命神様の怒りを直に受けた子どもの血を継ぐ子孫が、私たち以外にはいないかという調べ方をしてしまった」
「当時の私たちは、例の第三子は死んだものだと思っていましたから。第三子から続く子孫がいるか、レシス全体の子孫が私たち以外にいるかという方向からは調べませんでした。それでサード家の存在を見落としてしまったのでしょう」
「私たちの実の親は死んでいるから、他に生きているレシスの血筋は、私の育ての父親だけだと思った。アイツは復讐対象だったから、聖威でこっそり生殖機能を奪っておき、間違っても他に血を繋げないようにした上で時が来るまで泳がせていたんだ」
ほんの少しアプローチの角度を変えただけで、見えなくなってしまうものもある。フルードもアリステルも、自分たちの代でこの呪われた血は終わると安心していた。フレイムが宥めるような声を上げた。
「俺たちも第三子の生存は把握してなかった。ユフィーの中に神罰があるのを見付けた時、どういうことなんだって過去視をして分かったんだよ」
「そういうことだな。アマーリエの内に隠れている因子を見付けた僕は、フレイムに念話しながら状態を確認した。そうしたら、セインやヴェーゼと比べればとても小さく弱いものだったから、これなら悪神の守護なしでも大丈夫だと感じたのだよ」
「ラミルファが去り際に玉をくれただろ。ずっと身に付けてろって。あれが守りの代わりであり、神罰への抑えだ。それでイケるレベルだったんだよ……あの時はまだ」
フレイムが眉を顰めて言葉を紡ぐ。アマーリエは衣越しに、胸元の玉に触れた。星降の儀の後祭でラミルファから賜ったものだ。この玉は、魔神がけしかけた牛に結界を貫かれかけた時にも光っていた。
同じタイミングで魔牛が動きを鈍らせたのは、これ以上は危ないと魔神が止めたからか。クラーラに扮した葬邪神が、やり過ぎだと背後から牽制したからか。もしくは――守りの代わりだというこの玉が発動してくれたのか。あるいは複数の理由が合わさっていたのか。
「次に事態が動いたのは、オーブリーが聖威師になった報が入り、アマーリエが憔悴した時だった。君を見て内心愕然としたよ。神罰の因子が別物のように肥大化しているのだから。ほんの半日前までは、そのような兆候すら無かったのに」
邪神が告げた言葉に、またハッとした。あの時、ラミルファはわざわざアマーリエの両手を握って励ましの言葉をかけた。あれはもしや、神罰の状態を詳しく探っていたのだろうか。ワイマーに変化した魔神も、同じ方法で聖威師の耐久限界を確認したと言っていた。
「このままでは、授けた玉では対応し切れなくなる。正式に悪神の守護を付けなければならない。そう思い、ガルーンの件で動揺していたセインを支えながら、並行して密かに君の神罰を解析して調べまくったのだよ」
またしても調べまくってくれた邪神である。そろそろ神罰をテーマにした論文が書けそうだ。……などと現実逃避をするアマーリエだが、話は進む。
「そうしたら戦慄するような事実が分かった。サード家に伝わる神罰の因子は、本来の形から大きく変質している。十何代にも渡って息を潜め、血から血へと繋がっていき、やがてどこかで覚醒する。そうなると一気に膨張し、大爆発を起こすのだよ」
数百年越しにもなる、長期的なトラップである。なお、ダライとミリエーナもサード家の血を引いているが、彼らの中にある因子はまだ潜伏期間が続いており、今代で覚醒はしないらしい。
「覚醒した因子が刻まれている者は、神罰に選ばれた扱いとなり、不幸と絶望のどん底に突き落とされる。セインやヴェーゼのような、本家本元の呪われし子と同等なまでに酷い環境に」
そんな本家本元、全く嬉しくない。レシスの兄弟がそろって複雑な顔を浮かべた。
ゆえに、フルードが持つ滞留書の異変を察知できる可能性は、アマーリエにもあった。メイン指導者であるフルードに付いて、彼のすぐ側にいたのだから。
「だが、共鳴はそれだけじゃねえんだ。自分は、あるいはコイツも、呪われてる神罰を受けてるって認識した瞬間、神罰が何倍にも膨れ上がってソイツらを襲う。悪神の守護を受けてるか、自分が悪神になれば大丈夫なんだが、ユフィーはどっちも満たしてねえ」
つまり、アマーリエ本人か、同類の共鳴を持つフルードあるいはアリステルが、アマーリエも神罰に選ばれた者だと認知した時点で、共鳴が起こってしまう。不幸が数倍に増加して、まだ守りのないアマーリエに遅いかかっていた。
(だから疫神様が私の神罰について触れた時、必死で止めようとしていたのね)
あの時はどうにか、共鳴をラミルファが食い止めていたという。だが、守護できる対象は一人だけであるため、長くは保たず、葬邪神の守護神就任があと少し遅ければ危なかったそうだ。
「そう言えば、疫神様は私たちを視ただけで神罰のことを見抜かれていましたね」
フレイムやラミルファたちは、かなり調べなければ分からなかったようだが。
「二の兄上は、神威を抑えている割合が僕たちより圧倒的に低かった。世界への配慮など全くしていなかったしね。力を多く出していた分、色々と視えたのだろう」
フルードとアリステルが苦い顔で目を見交わした。
「神罰の存在が明らかになった時、私たち以外にもレシスの子孫がいないか、聖威で視たのです。もし他にもいるならば、彼らのことも助けなくてはと思いましたので」
「だが、調べ方を間違えた。本来の神罰の対象だった子ども――遊運命神様の怒りを直に受けた子どもの血を継ぐ子孫が、私たち以外にはいないかという調べ方をしてしまった」
「当時の私たちは、例の第三子は死んだものだと思っていましたから。第三子から続く子孫がいるか、レシス全体の子孫が私たち以外にいるかという方向からは調べませんでした。それでサード家の存在を見落としてしまったのでしょう」
「私たちの実の親は死んでいるから、他に生きているレシスの血筋は、私の育ての父親だけだと思った。アイツは復讐対象だったから、聖威でこっそり生殖機能を奪っておき、間違っても他に血を繋げないようにした上で時が来るまで泳がせていたんだ」
ほんの少しアプローチの角度を変えただけで、見えなくなってしまうものもある。フルードもアリステルも、自分たちの代でこの呪われた血は終わると安心していた。フレイムが宥めるような声を上げた。
「俺たちも第三子の生存は把握してなかった。ユフィーの中に神罰があるのを見付けた時、どういうことなんだって過去視をして分かったんだよ」
「そういうことだな。アマーリエの内に隠れている因子を見付けた僕は、フレイムに念話しながら状態を確認した。そうしたら、セインやヴェーゼと比べればとても小さく弱いものだったから、これなら悪神の守護なしでも大丈夫だと感じたのだよ」
「ラミルファが去り際に玉をくれただろ。ずっと身に付けてろって。あれが守りの代わりであり、神罰への抑えだ。それでイケるレベルだったんだよ……あの時はまだ」
フレイムが眉を顰めて言葉を紡ぐ。アマーリエは衣越しに、胸元の玉に触れた。星降の儀の後祭でラミルファから賜ったものだ。この玉は、魔神がけしかけた牛に結界を貫かれかけた時にも光っていた。
同じタイミングで魔牛が動きを鈍らせたのは、これ以上は危ないと魔神が止めたからか。クラーラに扮した葬邪神が、やり過ぎだと背後から牽制したからか。もしくは――守りの代わりだというこの玉が発動してくれたのか。あるいは複数の理由が合わさっていたのか。
「次に事態が動いたのは、オーブリーが聖威師になった報が入り、アマーリエが憔悴した時だった。君を見て内心愕然としたよ。神罰の因子が別物のように肥大化しているのだから。ほんの半日前までは、そのような兆候すら無かったのに」
邪神が告げた言葉に、またハッとした。あの時、ラミルファはわざわざアマーリエの両手を握って励ましの言葉をかけた。あれはもしや、神罰の状態を詳しく探っていたのだろうか。ワイマーに変化した魔神も、同じ方法で聖威師の耐久限界を確認したと言っていた。
「このままでは、授けた玉では対応し切れなくなる。正式に悪神の守護を付けなければならない。そう思い、ガルーンの件で動揺していたセインを支えながら、並行して密かに君の神罰を解析して調べまくったのだよ」
またしても調べまくってくれた邪神である。そろそろ神罰をテーマにした論文が書けそうだ。……などと現実逃避をするアマーリエだが、話は進む。
「そうしたら戦慄するような事実が分かった。サード家に伝わる神罰の因子は、本来の形から大きく変質している。十何代にも渡って息を潜め、血から血へと繋がっていき、やがてどこかで覚醒する。そうなると一気に膨張し、大爆発を起こすのだよ」
数百年越しにもなる、長期的なトラップである。なお、ダライとミリエーナもサード家の血を引いているが、彼らの中にある因子はまだ潜伏期間が続いており、今代で覚醒はしないらしい。
「覚醒した因子が刻まれている者は、神罰に選ばれた扱いとなり、不幸と絶望のどん底に突き落とされる。セインやヴェーゼのような、本家本元の呪われし子と同等なまでに酷い環境に」
そんな本家本元、全く嬉しくない。レシスの兄弟がそろって複雑な顔を浮かべた。
16
あなたにおすすめの小説
結婚十年目の夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。彼は「送り間違えた」というけれど、それはそれで問題なのでは?
ぽんた
恋愛
レミ・マカリスター侯爵夫人は、夫と政略結婚をして十周年。侯爵夫人として、義父母の介護や領地経営その他もろもろを完ぺきにこなしている。そんなある日、王都に住む夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。義弟を通じ、夫を追求するも夫は「送り間違えた。ほんとうは金を送れというメモを送りたかった」という。レミは、心から思った。「それはそれで問題なのでは?」、と。そして、彼女の夫にたいするざまぁがはじまる。
※ハッピーエンド確約。ざまぁあり。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。
幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。
灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。
曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。
婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。
前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。
君といるのは疲れると言われたので、婚約者を追いかけるのはやめてみました
水谷繭
恋愛
メイベル・ホワイトは目立たない平凡な少女で、美人な姉といつも比べられてきた。
求婚者の殺到する姉とは反対に、全く縁談のなかったメイベル。
そんなある日、ブラッドという美少年が婚約を持ちかけてくる。姉より自分を選んでくれたブラッドに感謝したメイベルは、彼のために何でもしようとひたすら努力する。
しかしそんな態度を重いと告げられ、君といると疲れると言われてしまう。
ショックを受けたメイベルは、ブラッドばかりの生活を改め、好きだった魔法に打ち込むために魔術院に入ることを決意するが……
◆なろうにも掲載しています
最初からここに私の居場所はなかった
kana
恋愛
死なないために媚びても駄目だった。
死なないために努力しても認められなかった。
死なないためにどんなに辛くても笑顔でいても無駄だった。
死なないために何をされても怒らなかったのに⋯⋯
だったら⋯⋯もう誰にも媚びる必要も、気を使う必要もないでしょう?
だから虚しい希望は捨てて生きるための準備を始めた。
二度目は、自分らしく生きると決めた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
いつも稚拙な小説を読んでいただきありがとうございます。
私ごとですが、この度レジーナブックス様より『後悔している言われても⋯⋯ねえ?今さらですよ?』が1月31日頃に書籍化されることになりました~
これも読んでくださった皆様のおかげです。m(_ _)m
これからも皆様に楽しんでいただける作品をお届けできるように頑張ってまいりますので、よろしくお願いいたします(>人<;)
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
侯爵令嬢ソフィアの結婚
今野綾
恋愛
ソフィアは希少なグリーンアイを持つヴィンセントと結婚したが、これは金が欲しいソフィアの父の思惑と高い爵位が欲しいヴィンセントの思惑が一致したからに過ぎない
そもそもヴィンセントには美しい恋人がいる
美男美女と名高いヴィンセントとその恋人は身分に大きな差があるために結婚することは叶わないのだ
その事をソフィアも耳にしており、この結婚が形ばかりのものであることを知っていた
結婚して早々、ソフィアは実家から連れてきた侍女夫婦とあばら家に住むように言われて…
表紙はかなさんです✨
ありがとうございます😊
2024.07.05
『外見しか見なかったあなたへ。私はもう、選ぶ側です』
鷹 綾
恋愛
「お前のようなガキは嫌いだ」
幼く見える容姿を理由に、婚約者ライオネルから一方的に婚約を破棄された
公爵令嬢シルフィーネ・エルフィンベルク。
その夜、嫉妬に狂った伯爵令嬢に突き落とされ、
彼女は一年もの間、意識不明の重体に陥る――。
目を覚ました彼女は、大人びた美貌を手に入れていた。
だが、中身は何ひとつ変わっていない。
にもかかわらず、
かつて彼女を「幼すぎる」と切り捨てた元婚約者は態度を一変させ、
「やり直したい」とすり寄ってくる。
「見かけが変わっても、中身は同じです。
それでもあなたは、私の外見しか見ていなかったのですね?」
静かにそう告げ、シルフィーネは過去を見限る。
やがて彼女に興味を示したのは、
隣国ノルディアの王太子エドワルド。
彼が見ていたのは、美貌ではなく――
対話し、考え、異論を述べる彼女の“在り方”だった。
これは、
外見で価値を決められた令嬢が、
「選ばれる人生」をやめ、
自分の意思で未来を選び直す物語。
静かなざまぁと、
対等な関係から始まる大人の恋。
そして――
自分の人生を、自分の言葉で生きるための物語。
---
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる