神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました

土広真丘

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第3章

82.ドアを開けたら

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「何だ、皆リラックス中か」

 タイミングを合わせたように、スタスタとラミルファが戻って来る。手には包みを持ち、周囲にはティーセットと三段のスタンドが浮遊していた。

「まぁ、素敵ですね」

 スタンドに乗ったプチケーキやスコーン、カナッペに一口サンドイッチなどを見て歓声を上げるアマーリエ。

「ほら、君の分だ。こちらは甘くないケーキとスコーンにしているから、安心して食べると良い」
「ありがとうございます」

 包みを渡されたアリステルが礼を言って受け取る。

「今度、皆でお茶をしませんか。リーリア様と金木犀きんもくせいのお茶会をしようと話しているのです。フルード様とアリステル様もご一緒にいかがですか? フレイムとラミルファ様にもお越しいただきたいと思っていますし」

 アマーリエが提案すると、二人の大神官は同じ顔で微笑んだ。

「ええ、ぜひ」
「今度は共に」

 一方、そんなレシスの兄弟を見て僅かに瞠目した邪神は、ふっと唇を緩めた。

「そうか。仕方ないから僕も参加してあげよう。……ありがとう、アマーリエ」
「それでは、私はこれで」

 アリステルが再度ラミルファに叩頭し、転移でかき消える。

 目礼して見送ったアマーリエは、テーブルに置かれたスイーツに視線を移した。

(イチゴが輝いているわ)

 プチケーキに乗ったツヤツヤのストロベリーを見て目を光らせていると、目の前のカップに芳醇な紅茶が注がれる。

「あ、ラミルファ様、私が……」
「アマーリエは座っていなさい。まだ本調子ではないのだろう」

 慌てて腰を浮かせかけたアマーリエだが、サラリと制されてしまう。隣で動こうとしていたフルードもだ。

(チョコチップのスコーンがあるわ、美味しそう。カナッペに乗っているのはハムと……クリームチーズかしら)

 マナー違反にならない程度にスタンドを物色していると、アマーリエとフルードの茶を注ぎ終えたラミルファはさっさと上手に腰掛けた。

「ほら、召し上がれ」
「いただきます」

 さっそく紅茶を一口、とカップに手を伸ばしたところで、ドアがコンコンとノックされた。アマーリエたちは一斉に顔を上げる。

「誰かしら。しばらくは客人が来ても通さないよう、形代に指示してあるのですが」
「急用の神官かもしれません。何故でしょう、気配が読みづらいですね」

 遠視か透視を使おうと考える前に、フルードの言葉に被せる形で、ラミルファが音もなくドアの前に転移した。

「僕が出よう」

 ドアを開けると、ピンクのふりふりワンピースを着た幼女と、零れ落ちそうに大きな瞳をした子どもが仲良く立っていた。

「ご機嫌よう、可愛い可愛いクラーラちゃんよ~。うふっ」
「おはよう。我、また来た!」

 頰に拳を添えてぶりっ子ポーズを決めたクラーラと、元気よく手を上げる幼児。

「間に合ってます」

 その鼻先でピシャリとドアを閉めようとするラミルファだが、クラーラが慌てて腕を差し込んで阻止する。

「待て待て待て、冗談だ冗談! 入れてくれ~!」
「…………」

 シラッとしたような困ったような面白そうな嬉しそうな愉しそうな噴き出しそうな顔を全てミックスさせた末の邪神が、アマーリエを見る。どうする、とその目が問いかけていた。

「……お入り下さい……」

 天の神を追い返せるわけがない。平穏なティータイムが音を立てて壊れていく気配を感じつつ、絞り出すように言うアマーリエ。二神の姿を見た瞬間、フルードと共に凍り付いていた。

(フレイムー、早く戻って来て!)

 心の中で念じつつ、フリーズした体を無理矢理動かし、ソファから立ち上がると恭しく礼をする。

「貴き神々の御来駕を賜り、私ども一同至福の極みにございます」

 口上に合わせ、フルードも優雅に低頭した。

「うん、楽にしてくれ」

 刹那で青年の姿に変じた葬邪神が、悠然とソファの上手に腰かけた。まるで元々この部屋の主だったかのような貫禄だ。

「兄上方、どうなさったのです」

 ラミルファがいそいそと長兄の隣に座る。何だかんだで兄が来たのが嬉しいようだ。葬邪神が大きな手で末弟の背を優しく撫でた。ついでにカナッペを一つ摘み、ゆったりと口に運んでいる。その無造作な仕草に、えもいわれぬ品位のようなものが滲み出ていた。

「…………」

 幼児姿の疫神はパチパチと瞬きしてそれを見ている。

「二の兄上、こちらへ……」

 ラミルファが空いている自身の片側を示そうとした。だが言い終える前に、疫神はふいと動き、片割れと弟の間に小さな体をねじ込ませる形で座った。

「アレク、邪魔。どく」

 スンとした顔で言い放ち、打って変わって柔らかな垂れ目になると、ラミルファの背を撫で撫でする。どうやら自分も末弟を可愛がりたいらしい。せっせと手を動かしながら、クルリとアマーリエたちの方を見た。

「我、雛たち、守りに来た」
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