神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました

土広真丘

文字の大きさ
280 / 604
第3章

83.願ってもいない申し出

しおりを挟む
「「守る?」」

 並んで座るフルードとアマーリエが声を合わせた時。

「あ――――っ! 何やってんですか!」

 待ちわびていた声が響く。フレイムが戻って来たのだ。

「フレイム~……」

 ホッとして声を震わせるアマーリエと、表面上は落ち着いて目礼するフルードに微笑みかけ、フレイムはアマーリエの隣に座った。落ち着かせるように頭を撫でてくれる。

「ラミルファが大急ぎで戻って来いって念話して来たから、何が起こったかと思えば……」

 末の邪神が呼んでくれたらしい。こっそり視線を向けると、兄たちには見えない角度でサムズアップを送って来た。

「何か御用ですか?」
「今、その話、しかけてた。我、雛たち守る。だから来た」
「はぁ……?」

 フレイムが葬邪神を見る。山吹色の目が、説明して下さい、と告げていた。

「天界に還った後、コイツに聖威師の解説をしたんだ。そしたら、怖い思いをさせた詫びに守ってやるって言い出してなぁ」
「我、強い。神罰、襲って来る奴、全部返り討ち」

 サンドウィッチを食べていた幼子が、えっへんと胸を張る。小さな手が触れた瞬間、パンと野菜は腐食し、ドロリとした黒いブツに早変わりしていた。それをもぎゅもぎゅと頬張りながら、細い指でピッとアマーリエを指した。

「アマーリエ、もう大丈夫。アレク、守護付いた。――だけど、アマーリエ、アレクの特別ない。アレクの特別、最優先、アリステル。ラミルファも同じ。特別、最優先、フルード。もちろん、アマーリエのこと、とっても大事、思ってる。けど、最優先違う」

 自身の特別にして最優先にして最愛は、葬邪神の場合は息子のアリステルで、ラミルファの場合は宝玉たるフルードなのだ。それは決して覆らない。

 なお、神は分身も可能だが、地上で神威を抑えている際は力の使用範囲に制約があり、分身や分裂などはしてはならないと定められている。過去、神格を持つ者が人の世で力を使いすぎたことで天でも色々と議論され、そのような制限が定められた。

「アリステル、フルード、アマーリエ。全員同時、ピンチなる、優先されるの、アリステルとフルード」

 フレイムとラミルファが考え込むような顔で応じる。

「セインには狼神様やもう一柱の俺がいるし、アリステルにも鬼神様と怨神様がいるが……タイミングや状況の関係でラミルファと葬邪神様が動くしかなかったら、確かにユフィーよりそっちの守護が先になるか」
「そんな状況はまず起こらないと思うが、絶対にないとまでは言い切れないね。同格以上の神が関わることは読み切れないのだし」

 素早く二神で視線を交わし合い、疫神を見る。

「それで、あなたが守ってくれるってワケですか?」
「そう。万一が起きたら、一時的にアレクの代行する。そうしたら安心。レシスのすえ、三人。神も三柱いた方が良い」
《なるほど、一理はある。あくまで臨時の代理ならば、正式な守護神ではないから、支配権を渡すこともない。仮に悪神基準でアマーリエの常識にそぐわないことを無理強いされても、フレイムが守り切れる》

 ラミルファが密かに念話して来た。

《アマーリエ、フレイム。受けるかどうかは君たちが決めれば良い。嫌なら僕から上手く断ってあげよう。――ただ、一意見だが、受けて損はないように思う》
《……被虐趣味の誤解が解けたから、疫神様はもう安全だって言ってたよな?》
《ああ。元々、話が通じない狂神ではないとは思っていた。厨房で僕がセインとヴェーゼとアマーリエを庇った時、雷槍が僕に刺さる寸前で殺傷能力を消していたから》

 神には痛覚がなく、傷を負っても瞬時に完治する。だが、同格以上の神の神威で傷を負わされた場合は、苦痛を感じたり治りが遅くなることもあるのだ。だからこそフレイムは、魔神や疫神の神威を帯びた攻撃を、わざわざ剣で弾いていた。

《あの槍は僕を傷付けなかった。痛みも与えなかったしね。それが分かっていたから、幼女に扮していた一の兄上も動かなかったのだよ。あの時点で、二の兄上が理性も情も持ち合わせていることは感じていた》

 当時を思い出すように視線を宙に向けていたラミルファが、ふと瞳の焦点を揺らした。

《それに……あの騒動の後、二の兄上と幾度か話して、交流もしたよ。それで分かった。二の兄上は確かに暴れ神だが、それだけではない。底知れぬ意思と慈心を持っている。紛れもなく一の兄上と同等の片割れだ》

 親交を温めた時のことを回想しているのか、その眼差しは茫洋としている。だが、すぐに思考を切り替えるように頭を振り、アマーリエたちに向き直った。

《悪神の物差しでアマーリエが困ることを強要しかねない点さえなければ、守護神としては一の兄上に匹敵するほど適任だ》

 つまり、今の申し出は願ってもないことなのだ。

《…………》

 フレイムが無言で考え込む。静かにそれを見守るフルードも、おそらくこの念話網に加えられているのだろう。

 その間にも、小さな神は上機嫌で言葉を紡いでいる。

「それから、他の雛たちも守る。他の雛たちの主神、泡神様以外、降臨してない。守り、ちょっと手薄」

 むしろそちらの方が普通なのだが。天の神は原則地上に関わらない。フレイムとフロース、ラミルファの特別降臨は例外的な状況だ。
 だが、自身の主神やそれに等しい神がすぐ側にいるアマーリエたちと比べれば、アシュトンや当真たちがやや無防備であるという言い分自体は正しい。

「だから、我、守る。守護対象、限定しない。雛たち、まんべんなく守る。特に、フルードとアリステル、迷惑かけたから、いっぱい守る。特に特に、アマーリエ、泣かせちゃったから、いっぱいいっぱいいっぱい守る」

 どうやらアマーリエを一番重点的に守ってくれるようだ。全てを見透かす双眸でじっと疫神を見ていたフレイムが、ふと眼差しを和らげた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

なぜ、私に関係あるのかしら?

シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」 彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。 そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。 「…レオンハルト・トレヴァントだ」 非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。 そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。 「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」 この判断によって、どうなるかなども考えずに… ※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。 ※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、 ※ 画像はAIにて作成しております

腹違いの妹にすべてを奪われた薄幸の令嬢が、義理の母に殴られた瞬間、前世のインテリヤクザなおっさんがぶちギレた場合。

灯乃
ファンタジー
十二歳のときに母が病で亡くなった途端、父は後妻と一歳年下の妹を新たな『家族』として迎え入れた。 彼らの築く『家族』の輪から弾き出されたアニエスは、ある日義母の私室に呼び出され――。 タイトル通りのおっさんコメディーです。

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

『外見しか見なかったあなたへ。私はもう、選ぶ側です』

鷹 綾
恋愛
「お前のようなガキは嫌いだ」 幼く見える容姿を理由に、婚約者ライオネルから一方的に婚約を破棄された 公爵令嬢シルフィーネ・エルフィンベルク。 その夜、嫉妬に狂った伯爵令嬢に突き落とされ、 彼女は一年もの間、意識不明の重体に陥る――。 目を覚ました彼女は、大人びた美貌を手に入れていた。 だが、中身は何ひとつ変わっていない。 にもかかわらず、 かつて彼女を「幼すぎる」と切り捨てた元婚約者は態度を一変させ、 「やり直したい」とすり寄ってくる。 「見かけが変わっても、中身は同じです。 それでもあなたは、私の外見しか見ていなかったのですね?」 静かにそう告げ、シルフィーネは過去を見限る。 やがて彼女に興味を示したのは、 隣国ノルディアの王太子エドワルド。 彼が見ていたのは、美貌ではなく―― 対話し、考え、異論を述べる彼女の“在り方”だった。 これは、 外見で価値を決められた令嬢が、 「選ばれる人生」をやめ、 自分の意思で未来を選び直す物語。 静かなざまぁと、 対等な関係から始まる大人の恋。 そして―― 自分の人生を、自分の言葉で生きるための物語。 ---

身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」 魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。 鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。 (な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?) 実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。 レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。 「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」 冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。 一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。 「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」 これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!

夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。 しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。 ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。 愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。 いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。 一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ! 世界観はゆるいです! カクヨム様にも投稿しております。 ※10万文字を超えたので長編に変更しました。

できない子に転生しましたが、家族と食卓があれば十分です ―人間不信だった私が、ゆっくり育つ異世界生活―

愛朱ひいろ
ファンタジー
人の顔色ばかり伺い、心を壊した26歳の会社員女性。 彼女は死後、異世界で「できない子」として転生する。 魔法は使えない。 体は不器用で、成長も人より遅い。 前世の記憶のせいで、人と関わることが少し怖い。 けれどこの世界には、 見守り支えてくれる両親と、 あたたかい食卓があった。 泣いて、つまずいて、できないことに落ち込みながら、 彼女は少しずつ「できないままでも、生きていていい」と知っていく。 これは、 最強でもチートでもない主人公が、 家族と食事に支えられながら、ゆっくり育ち直す 生活密着型・異世界転生×成長×グルメファンタジー。 ……の、予定です。 毎日更新できるように執筆がんばります!

処理中です...