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第3章
83.願ってもいない申し出
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「「守る?」」
並んで座るフルードとアマーリエが声を合わせた時。
「あ――――っ! 何やってんですか!」
待ちわびていた声が響く。フレイムが戻って来たのだ。
「フレイム~……」
ホッとして声を震わせるアマーリエと、表面上は落ち着いて目礼するフルードに微笑みかけ、フレイムはアマーリエの隣に座った。落ち着かせるように頭を撫でてくれる。
「ラミルファが大急ぎで戻って来いって念話して来たから、何が起こったかと思えば……」
末の邪神が呼んでくれたらしい。こっそり視線を向けると、兄たちには見えない角度でサムズアップを送って来た。
「何か御用ですか?」
「今、その話、しかけてた。我、雛たち守る。だから来た」
「はぁ……?」
フレイムが葬邪神を見る。山吹色の目が、説明して下さい、と告げていた。
「天界に還った後、コイツに聖威師の解説をしたんだ。そしたら、怖い思いをさせた詫びに守ってやるって言い出してなぁ」
「我、強い。神罰、襲って来る奴、全部返り討ち」
サンドウィッチを食べていた幼子が、えっへんと胸を張る。小さな手が触れた瞬間、パンと野菜は腐食し、ドロリとした黒いブツに早変わりしていた。それをもぎゅもぎゅと頬張りながら、細い指でピッとアマーリエを指した。
「アマーリエ、もう大丈夫。アレク、守護付いた。――だけど、アマーリエ、アレクの特別ない。アレクの特別、最優先、アリステル。ラミルファも同じ。特別、最優先、フルード。もちろん、アマーリエのこと、とっても大事、思ってる。けど、最優先違う」
自身の特別にして最優先にして最愛は、葬邪神の場合は息子のアリステルで、ラミルファの場合は宝玉たるフルードなのだ。それは決して覆らない。
なお、神は分身も可能だが、地上で神威を抑えている際は力の使用範囲に制約があり、分身や分裂などはしてはならないと定められている。過去、神格を持つ者が人の世で力を使いすぎたことで天でも色々と議論され、そのような制限が定められた。
「アリステル、フルード、アマーリエ。全員同時、ピンチなる、優先されるの、アリステルとフルード」
フレイムとラミルファが考え込むような顔で応じる。
「セインには狼神様やもう一柱の俺がいるし、アリステルにも鬼神様と怨神様がいるが……タイミングや状況の関係でラミルファと葬邪神様が動くしかなかったら、確かにユフィーよりそっちの守護が先になるか」
「そんな状況はまず起こらないと思うが、絶対にないとまでは言い切れないね。同格以上の神が関わることは読み切れないのだし」
素早く二神で視線を交わし合い、疫神を見る。
「それで、あなたが守ってくれるってワケですか?」
「そう。万一が起きたら、一時的にアレクの代行する。そうしたら安心。レシスの裔、三人。神も三柱いた方が良い」
《なるほど、一理はある。あくまで臨時の代理ならば、正式な守護神ではないから、支配権を渡すこともない。仮に悪神基準でアマーリエの常識にそぐわないことを無理強いされても、フレイムが守り切れる》
ラミルファが密かに念話して来た。
《アマーリエ、フレイム。受けるかどうかは君たちが決めれば良い。嫌なら僕から上手く断ってあげよう。――ただ、一意見だが、受けて損はないように思う》
《……被虐趣味の誤解が解けたから、疫神様はもう安全だって言ってたよな?》
《ああ。元々、話が通じない狂神ではないとは思っていた。厨房で僕がセインとヴェーゼとアマーリエを庇った時、雷槍が僕に刺さる寸前で殺傷能力を消していたから》
神には痛覚がなく、傷を負っても瞬時に完治する。だが、同格以上の神の神威で傷を負わされた場合は、苦痛を感じたり治りが遅くなることもあるのだ。だからこそフレイムは、魔神や疫神の神威を帯びた攻撃を、わざわざ剣で弾いていた。
《あの槍は僕を傷付けなかった。痛みも与えなかったしね。それが分かっていたから、幼女に扮していた一の兄上も動かなかったのだよ。あの時点で、二の兄上が理性も情も持ち合わせていることは感じていた》
当時を思い出すように視線を宙に向けていたラミルファが、ふと瞳の焦点を揺らした。
《それに……あの騒動の後、二の兄上と幾度か話して、交流もしたよ。それで分かった。二の兄上は確かに暴れ神だが、それだけではない。底知れぬ意思と慈心を持っている。紛れもなく一の兄上と同等の片割れだ》
親交を温めた時のことを回想しているのか、その眼差しは茫洋としている。だが、すぐに思考を切り替えるように頭を振り、アマーリエたちに向き直った。
《悪神の物差しでアマーリエが困ることを強要しかねない点さえなければ、守護神としては一の兄上に匹敵するほど適任だ》
つまり、今の申し出は願ってもないことなのだ。
《…………》
フレイムが無言で考え込む。静かにそれを見守るフルードも、おそらくこの念話網に加えられているのだろう。
その間にも、小さな神は上機嫌で言葉を紡いでいる。
「それから、他の雛たちも守る。他の雛たちの主神、泡神様以外、降臨してない。守り、ちょっと手薄」
むしろそちらの方が普通なのだが。天の神は原則地上に関わらない。フレイムとフロース、ラミルファの特別降臨は例外的な状況だ。
だが、自身の主神やそれに等しい神がすぐ側にいるアマーリエたちと比べれば、アシュトンや当真たちがやや無防備であるという言い分自体は正しい。
「だから、我、守る。守護対象、限定しない。雛たち、まんべんなく守る。特に、フルードとアリステル、迷惑かけたから、いっぱい守る。特に特に、アマーリエ、泣かせちゃったから、いっぱいいっぱいいっぱい守る」
どうやらアマーリエを一番重点的に守ってくれるようだ。全てを見透かす双眸でじっと疫神を見ていたフレイムが、ふと眼差しを和らげた。
並んで座るフルードとアマーリエが声を合わせた時。
「あ――――っ! 何やってんですか!」
待ちわびていた声が響く。フレイムが戻って来たのだ。
「フレイム~……」
ホッとして声を震わせるアマーリエと、表面上は落ち着いて目礼するフルードに微笑みかけ、フレイムはアマーリエの隣に座った。落ち着かせるように頭を撫でてくれる。
「ラミルファが大急ぎで戻って来いって念話して来たから、何が起こったかと思えば……」
末の邪神が呼んでくれたらしい。こっそり視線を向けると、兄たちには見えない角度でサムズアップを送って来た。
「何か御用ですか?」
「今、その話、しかけてた。我、雛たち守る。だから来た」
「はぁ……?」
フレイムが葬邪神を見る。山吹色の目が、説明して下さい、と告げていた。
「天界に還った後、コイツに聖威師の解説をしたんだ。そしたら、怖い思いをさせた詫びに守ってやるって言い出してなぁ」
「我、強い。神罰、襲って来る奴、全部返り討ち」
サンドウィッチを食べていた幼子が、えっへんと胸を張る。小さな手が触れた瞬間、パンと野菜は腐食し、ドロリとした黒いブツに早変わりしていた。それをもぎゅもぎゅと頬張りながら、細い指でピッとアマーリエを指した。
「アマーリエ、もう大丈夫。アレク、守護付いた。――だけど、アマーリエ、アレクの特別ない。アレクの特別、最優先、アリステル。ラミルファも同じ。特別、最優先、フルード。もちろん、アマーリエのこと、とっても大事、思ってる。けど、最優先違う」
自身の特別にして最優先にして最愛は、葬邪神の場合は息子のアリステルで、ラミルファの場合は宝玉たるフルードなのだ。それは決して覆らない。
なお、神は分身も可能だが、地上で神威を抑えている際は力の使用範囲に制約があり、分身や分裂などはしてはならないと定められている。過去、神格を持つ者が人の世で力を使いすぎたことで天でも色々と議論され、そのような制限が定められた。
「アリステル、フルード、アマーリエ。全員同時、ピンチなる、優先されるの、アリステルとフルード」
フレイムとラミルファが考え込むような顔で応じる。
「セインには狼神様やもう一柱の俺がいるし、アリステルにも鬼神様と怨神様がいるが……タイミングや状況の関係でラミルファと葬邪神様が動くしかなかったら、確かにユフィーよりそっちの守護が先になるか」
「そんな状況はまず起こらないと思うが、絶対にないとまでは言い切れないね。同格以上の神が関わることは読み切れないのだし」
素早く二神で視線を交わし合い、疫神を見る。
「それで、あなたが守ってくれるってワケですか?」
「そう。万一が起きたら、一時的にアレクの代行する。そうしたら安心。レシスの裔、三人。神も三柱いた方が良い」
《なるほど、一理はある。あくまで臨時の代理ならば、正式な守護神ではないから、支配権を渡すこともない。仮に悪神基準でアマーリエの常識にそぐわないことを無理強いされても、フレイムが守り切れる》
ラミルファが密かに念話して来た。
《アマーリエ、フレイム。受けるかどうかは君たちが決めれば良い。嫌なら僕から上手く断ってあげよう。――ただ、一意見だが、受けて損はないように思う》
《……被虐趣味の誤解が解けたから、疫神様はもう安全だって言ってたよな?》
《ああ。元々、話が通じない狂神ではないとは思っていた。厨房で僕がセインとヴェーゼとアマーリエを庇った時、雷槍が僕に刺さる寸前で殺傷能力を消していたから》
神には痛覚がなく、傷を負っても瞬時に完治する。だが、同格以上の神の神威で傷を負わされた場合は、苦痛を感じたり治りが遅くなることもあるのだ。だからこそフレイムは、魔神や疫神の神威を帯びた攻撃を、わざわざ剣で弾いていた。
《あの槍は僕を傷付けなかった。痛みも与えなかったしね。それが分かっていたから、幼女に扮していた一の兄上も動かなかったのだよ。あの時点で、二の兄上が理性も情も持ち合わせていることは感じていた》
当時を思い出すように視線を宙に向けていたラミルファが、ふと瞳の焦点を揺らした。
《それに……あの騒動の後、二の兄上と幾度か話して、交流もしたよ。それで分かった。二の兄上は確かに暴れ神だが、それだけではない。底知れぬ意思と慈心を持っている。紛れもなく一の兄上と同等の片割れだ》
親交を温めた時のことを回想しているのか、その眼差しは茫洋としている。だが、すぐに思考を切り替えるように頭を振り、アマーリエたちに向き直った。
《悪神の物差しでアマーリエが困ることを強要しかねない点さえなければ、守護神としては一の兄上に匹敵するほど適任だ》
つまり、今の申し出は願ってもないことなのだ。
《…………》
フレイムが無言で考え込む。静かにそれを見守るフルードも、おそらくこの念話網に加えられているのだろう。
その間にも、小さな神は上機嫌で言葉を紡いでいる。
「それから、他の雛たちも守る。他の雛たちの主神、泡神様以外、降臨してない。守り、ちょっと手薄」
むしろそちらの方が普通なのだが。天の神は原則地上に関わらない。フレイムとフロース、ラミルファの特別降臨は例外的な状況だ。
だが、自身の主神やそれに等しい神がすぐ側にいるアマーリエたちと比べれば、アシュトンや当真たちがやや無防備であるという言い分自体は正しい。
「だから、我、守る。守護対象、限定しない。雛たち、まんべんなく守る。特に、フルードとアリステル、迷惑かけたから、いっぱい守る。特に特に、アマーリエ、泣かせちゃったから、いっぱいいっぱいいっぱい守る」
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