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第4章
51.迷惑なご先祖様たち
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「エイリスト王家のエイリーさんは公式には死亡扱いだし、葬儀もとっくの昔に済ませてしまっているわ。今後のことは本人の希望も聞きながら決めていくそうだけれど、どうするにしてもそれなりの準備は要るでしょうね」
「本人にはまだ何も言ってねえんだろ?」
「もう少し精神状態が落ち着いたら、少しずつ伝えていくと聞いたわ。エイールさんの方も、自分の母方の系譜を知って衝撃を受けているし、姉妹には時間が必要よ」
自分はサード家先代当主の落胤の子孫で、アマーリエの従姉妹で、大神官の遠戚でもあり、恐ろしい神罰の因子を受け継いでいた。そんな事実が明らかになれば、混乱するのは当たり前だ。今はバルドが側に付いて支えているという。
なお、エイールの祖母の出自やアマーリエと親戚関係にあることは、基本的には公表しない予定だと聞いている。今更そんな事実が明るみになれば、良からぬ輩が寄って来る可能性が高いからだ。必要な者や役職者に報せる程度に留めるつもりだと、主任神官は話していた。
アマーリエ自身は、従姉妹の存在を知っても、血縁者という意味で心を動かされることはなかった。エイール個人のことは好ましく感じるし、力になりたいとも思うが、肉親の情は起こらない。きっと自分は、人間の身内というものに対して酷くドライになっているのだろう。何しろ実家との関係性が悪すぎた。何より、自分の家族は人間ではなく神々であると、魂の認識自体が変わって来ているのかもしれない。
ただし、自身の祖父の所業に関しては相当なショックを受けている。何をやっているんですかお祖父様、あなたはマトモな方だと思っていたのに、と内心で叫んだのは一度や二度ではない。
(お祖父様にしてもレシス家のご先祖様にしても、末裔に迷惑がかかることはしないで欲しいわ)
アマーリエ、エイール、エイリー、フルードにアリステル、全員大変な思いをすることになっている。
(お祖父様の初恋の人だってそうよ。娘のサビーネさんがエイリスト先代王に見初められた時にはもう亡くなっていたらしいけれど。自分は昇天資格を放棄するから、死後は転生して全部忘れられても、あなたの子や孫が徴を発現したら、その子たちは神使として天に召されるのよ。神官の家系に生まれた者ならその可能性には思い至るでしょう)
事実、彼女の孫であるエイールは徴を得て神官となっており、死した後は当然天へ行く。だが、天界には同じく昇天している祖父や初恋相手の実家の者、そして神々がいる。容貌の類似あるいは神の眼で視られるなどすれば、出自が判明してしまうかもしれない。そうなれば、何も聞かされていないエイールは、とても狼狽えたはずだ。
(フレイムが少し過去視してくれたところによると、昇天資格を放棄するという不敬を犯した自分の子孫には、徴が出ることはないと思っていたみたいなのよね。サビーネさんは徴を発現しなかったから、余計に安心してしまったとか)
霊威の強弱は本人の素質で決まるものだ。神の意向で剥奪されることもあるが、そうするか否かは神の御心次第。初恋相手が昇天資格を放棄することを認めた神は、彼女の子孫の霊威に干渉してどうこうすることはしなかった。だが、肝心の彼女は、てっきりされたと思い込んでいたのだろう。
(今回は、事情を知った嵐神様とアシュトン様が協力を申し出て下さったから良かったけれど、使役にそこまで優しくない神に付いていたらどうなっていたか)
将来昇天したエイールが、祖父や祖母の生家の者に素性を知られた場合でも、気まずい思いをしたり八つ当たりされたりしないよう、嵐神とアシュトンが気を配ってくれるそうだ。言い方は悪いが、たかが使役のためにここまでしてくれる面倒見の良い神は、火神やフレイム以外では珍しいという。エイールは大当たりを引き当てたのだ。
全くもう、と内心で嘆息していると、フレイムが肩を竦めた。
「時間、か。エイールはそれで良いとして、エイリーの方は寿命が先に来ちまうかもな。何も処置をしなかったら、20歳まで生きられねえぞ」
「そこをどうするかも、エイリーさんの意向を聞きながら決めていくそうよ。延命を望むなら治療するって」
聖威師や天威師が動けずとも、中央本府の主任神官や副主任神官など高位の霊威師ならば、寿命を延ばしてやることができる。
「ただ、本人の希望が一番とはいえ、全部を彼女に選ばせるのは酷な気がするわ」
アマーリエやフルード、アリステルは、自身をかけがえなく愛してくれる者たちに恵まれ、聖威師になったおかげで神々の鉄壁のフォローにも守られている。
エイールは神罰の因子が薄く、神使という立場ではあるが情の篤い嵐神の傘下に入っており、何よりバルドがいてくれる。
だが、エイリーには何もない。赤子の頃に売り飛ばされ、8歳で娼館に入れられ、外の世界を知らずに生きて来て、たった一人で脱走し、神罰に選ばれてしまった。
そんな彼女に、教えることは教えたから後は自分で判断して自己責任で選べというのは、無茶な話ではないだろうか。
「エイリーさんの精神力が未知数だから、今はまだ何とも言えないけれどね」
フルードもエイリーのことを気にしている。陰からでも力になれないかと、アマーリエ共々こっそり動こうとしたが、これ以上の干渉は良くないと天から警告を出されてしまった。
『レシスの血統は遊運命神様に疎まれています。神罰を落とした先祖だけでなく、レシスという一族の血筋そのものが嫌悪されているのだと思います』
フルードが自虐的に呟いた言葉を思い出す。
『言ったでしょう、私もまた、神に嫌われたものの高位神に愛された神官だと』
フルードとアリステル、そしてアマーリエの場合、神格を得たので特別に同胞枠に入れてもらえるだろう。だがそれは、遊運命神がしゃっきり覚醒してからの話だ。
彼の神が覚醒する兆しを見せたこと、寝起きの悪さについて聞かされた時は、目の前が暗くなりそうだった。せめてもの救いは、エイールとエイリーが目を付けられる可能性はほぼ無いということくらいだ。何しろ運命を司る神、それも最高神に届き得る選ばれし神に疎まれれば終わりだ。しかも悪神である。
「本人にはまだ何も言ってねえんだろ?」
「もう少し精神状態が落ち着いたら、少しずつ伝えていくと聞いたわ。エイールさんの方も、自分の母方の系譜を知って衝撃を受けているし、姉妹には時間が必要よ」
自分はサード家先代当主の落胤の子孫で、アマーリエの従姉妹で、大神官の遠戚でもあり、恐ろしい神罰の因子を受け継いでいた。そんな事実が明らかになれば、混乱するのは当たり前だ。今はバルドが側に付いて支えているという。
なお、エイールの祖母の出自やアマーリエと親戚関係にあることは、基本的には公表しない予定だと聞いている。今更そんな事実が明るみになれば、良からぬ輩が寄って来る可能性が高いからだ。必要な者や役職者に報せる程度に留めるつもりだと、主任神官は話していた。
アマーリエ自身は、従姉妹の存在を知っても、血縁者という意味で心を動かされることはなかった。エイール個人のことは好ましく感じるし、力になりたいとも思うが、肉親の情は起こらない。きっと自分は、人間の身内というものに対して酷くドライになっているのだろう。何しろ実家との関係性が悪すぎた。何より、自分の家族は人間ではなく神々であると、魂の認識自体が変わって来ているのかもしれない。
ただし、自身の祖父の所業に関しては相当なショックを受けている。何をやっているんですかお祖父様、あなたはマトモな方だと思っていたのに、と内心で叫んだのは一度や二度ではない。
(お祖父様にしてもレシス家のご先祖様にしても、末裔に迷惑がかかることはしないで欲しいわ)
アマーリエ、エイール、エイリー、フルードにアリステル、全員大変な思いをすることになっている。
(お祖父様の初恋の人だってそうよ。娘のサビーネさんがエイリスト先代王に見初められた時にはもう亡くなっていたらしいけれど。自分は昇天資格を放棄するから、死後は転生して全部忘れられても、あなたの子や孫が徴を発現したら、その子たちは神使として天に召されるのよ。神官の家系に生まれた者ならその可能性には思い至るでしょう)
事実、彼女の孫であるエイールは徴を得て神官となっており、死した後は当然天へ行く。だが、天界には同じく昇天している祖父や初恋相手の実家の者、そして神々がいる。容貌の類似あるいは神の眼で視られるなどすれば、出自が判明してしまうかもしれない。そうなれば、何も聞かされていないエイールは、とても狼狽えたはずだ。
(フレイムが少し過去視してくれたところによると、昇天資格を放棄するという不敬を犯した自分の子孫には、徴が出ることはないと思っていたみたいなのよね。サビーネさんは徴を発現しなかったから、余計に安心してしまったとか)
霊威の強弱は本人の素質で決まるものだ。神の意向で剥奪されることもあるが、そうするか否かは神の御心次第。初恋相手が昇天資格を放棄することを認めた神は、彼女の子孫の霊威に干渉してどうこうすることはしなかった。だが、肝心の彼女は、てっきりされたと思い込んでいたのだろう。
(今回は、事情を知った嵐神様とアシュトン様が協力を申し出て下さったから良かったけれど、使役にそこまで優しくない神に付いていたらどうなっていたか)
将来昇天したエイールが、祖父や祖母の生家の者に素性を知られた場合でも、気まずい思いをしたり八つ当たりされたりしないよう、嵐神とアシュトンが気を配ってくれるそうだ。言い方は悪いが、たかが使役のためにここまでしてくれる面倒見の良い神は、火神やフレイム以外では珍しいという。エイールは大当たりを引き当てたのだ。
全くもう、と内心で嘆息していると、フレイムが肩を竦めた。
「時間、か。エイールはそれで良いとして、エイリーの方は寿命が先に来ちまうかもな。何も処置をしなかったら、20歳まで生きられねえぞ」
「そこをどうするかも、エイリーさんの意向を聞きながら決めていくそうよ。延命を望むなら治療するって」
聖威師や天威師が動けずとも、中央本府の主任神官や副主任神官など高位の霊威師ならば、寿命を延ばしてやることができる。
「ただ、本人の希望が一番とはいえ、全部を彼女に選ばせるのは酷な気がするわ」
アマーリエやフルード、アリステルは、自身をかけがえなく愛してくれる者たちに恵まれ、聖威師になったおかげで神々の鉄壁のフォローにも守られている。
エイールは神罰の因子が薄く、神使という立場ではあるが情の篤い嵐神の傘下に入っており、何よりバルドがいてくれる。
だが、エイリーには何もない。赤子の頃に売り飛ばされ、8歳で娼館に入れられ、外の世界を知らずに生きて来て、たった一人で脱走し、神罰に選ばれてしまった。
そんな彼女に、教えることは教えたから後は自分で判断して自己責任で選べというのは、無茶な話ではないだろうか。
「エイリーさんの精神力が未知数だから、今はまだ何とも言えないけれどね」
フルードもエイリーのことを気にしている。陰からでも力になれないかと、アマーリエ共々こっそり動こうとしたが、これ以上の干渉は良くないと天から警告を出されてしまった。
『レシスの血統は遊運命神様に疎まれています。神罰を落とした先祖だけでなく、レシスという一族の血筋そのものが嫌悪されているのだと思います』
フルードが自虐的に呟いた言葉を思い出す。
『言ったでしょう、私もまた、神に嫌われたものの高位神に愛された神官だと』
フルードとアリステル、そしてアマーリエの場合、神格を得たので特別に同胞枠に入れてもらえるだろう。だがそれは、遊運命神がしゃっきり覚醒してからの話だ。
彼の神が覚醒する兆しを見せたこと、寝起きの悪さについて聞かされた時は、目の前が暗くなりそうだった。せめてもの救いは、エイールとエイリーが目を付けられる可能性はほぼ無いということくらいだ。何しろ運命を司る神、それも最高神に届き得る選ばれし神に疎まれれば終わりだ。しかも悪神である。
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