神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました

土広真丘

文字の大きさ
403 / 601
第5章

65.帝都は厳戒態勢です

しおりを挟む
「ついでに言えば、主任神官はその座から降りて、副主任神官が繰り上がるとか。内定していた四大高位神の使役ももちろん無し。国王も重要事項の決裁権を含む一部権限を、次期国王に割譲かつじょうすることになったみたい。実質的な王権剥奪に近いわね」
(主任は強力な霊威を持っているから、その力を有効活用できるような処遇がなされるかもしれないけれど……凋落してしまったことに変わりはないわよね)

 神は人世の自治には原則関わらない。今回も、表向きは主任や国王が自発的に退任ないし権限割譲を申し出たことになっている。だが、天威師を含む神々の不興を買ったためだということは、知る者は知っている。なお、このような形で役職を退任する際は、在任中に知り得た機密を忘却させるか、口外できないようにする措置が取られる。

「わたくしもそのように伺いましたわ。大精霊はどうにか据え置きとなったようですわね」
「ええ。大精霊に関しては、複数の配下を通じて対処はしていたそうだから」

 マーカスの留意報告を受けた大精霊は、配下の上級精霊たちにルリエラとシュレッドの監視を命じていた。だが、その配下が強硬派の思想に近く、神格を持つ者は天にいるべきと考えていたため、二人の計画を見て見ぬフリをしたそうだ。

 大精霊は定期的に配下たちを呼んで状況を確認していたものの、異変なしという答えを返されていたという。当然配下は処罰され、大精霊も虚報を見抜けなかった責を問われて厳しい叱責を受けた。しかし、最低限の対応を行なってはいたということで、辛うじて降格を免れた。

 大精霊が据え置きとなったことについて、マーカスは心から安堵していたという。フレイムも良かったと言って胸を撫で下ろしていた。箔付けの神格を奪われれば、いったんは得た神々からの愛を喪うことを意味する。それは何よりの地獄だからと。

「神官府はしばらく落ち着かなくなるでしょうね。秘奥の神器が暴走したこと、主任を信奉していたルリエラがそれを引き起こしたことは公然の秘密。その直後に、事後処理もそこそこに主任が代わるのだから、建前上は自主的な辞任にしていても、誰だってピンとくるわ」
「主任交代だけでなく、神使選定の件もですわ。フルード様やマーカス様が神使をお選びになられるのではと、皆が期待していますのよ」
「そうね……」

 聖威師も神使を選んではどうかというお達しは以前にも出た。その際も神官たちは加熱ヒートアップしたものの、当事者たちにその気がないのは一目瞭然だったので、次第に波は引いていった。

 だが、フルードとマーカスはもはや天の神となった。最下位の神でも数体の使役を持つものだ。となれば、今度こそ本腰を上げて神使選定に参加するかもしれないと、熱い目が向けられている。

(フルード様……神官たちはこぞってあなたの神使になりたがっています。あなたは本当に、大勢から慕われていたのですよ)

 人間の領域から外れた存在である天威師や聖威師が逝去した際は、国葬などは行われない。そもそも、光になって跡形もなく消えてしまうため、遺体が残らない。精々、生前身に付けていた衣や装飾品、愛用品などを一定期間飾って偲ぶくらいだ。

 フルードは華美な宝飾品をほとんど付けなかったため、神官府の前に、彼が纏っていた神官衣をババーンとかけている。もちろん、盗難防止の結界を張った上でだ。

(今もそう。あなたの衣を一目見ようと国民が大挙して押し寄せ、周辺道路は封鎖、転移や飛翔も制限がかけられて厳戒態勢が敷かれ、一日中警告音が鳴り響いているほどです……)

 一周回ってただの迷惑である。
 皇帝たる天威師が民衆の前に出る『お出まし』という行事があるが、神格を持つ聖威師も天威師と同様に崇拝の対象なので、公的な行事で人前に出ると皆が殺到する。それが最後の別れを兼ねた場であればなおさらだ。

(フルード様にお伝えしようかしら。あなたはこんなに皆に惜しまれていますよ、と)

 フルードとは交信すれば話すことができる。実際、彼が昇天した後で、アリステルに短い念話が届いたようだ。レシスの神罰について、折を見て遊運命神に取消を願い出てみるという内容だったと聞く。昇天直後でフルードの方もバタバタしているので、今すぐは難しいが、遠くない内に、とのことだった。
 ならば、逆にこちらから声を上げることも可能だ。

(けれど、こんな大騒ぎになっていると知れば、きっとお悩みになるわね。律儀な方だから、周辺の迷惑になる行動はお控え下さい! 通路を開けて下さい! とか神託を下ろしそう)

 そんな神託、前代未聞である。
 天界に行ってまで胃を痛めて欲しくないので、このことはしばらく言わないでおこうと決めるアマーリエだった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

結婚十年目の夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。彼は「送り間違えた」というけれど、それはそれで問題なのでは?

ぽんた
恋愛
レミ・マカリスター侯爵夫人は、夫と政略結婚をして十周年。侯爵夫人として、義父母の介護や領地経営その他もろもろを完ぺきにこなしている。そんなある日、王都に住む夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。義弟を通じ、夫を追求するも夫は「送り間違えた。ほんとうは金を送れというメモを送りたかった」という。レミは、心から思った。「それはそれで問題なのでは?」、と。そして、彼女の夫にたいするざまぁがはじまる。 ※ハッピーエンド確約。ざまぁあり。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。

婚約破棄から50年後

あんど もあ
ファンタジー
王立学園の卒業パーティーで、王子が婚約者に婚約破棄を宣言した。王子は真に愛する女性と結ばれ、めでたしめでたし。 そして50年後、王子の孫の王子は、婚約破棄された女性の孫と婚約する事に。そこで明かされた婚約破棄の真実とは。

侯爵令嬢ソフィアの結婚

今野綾
恋愛
ソフィアは希少なグリーンアイを持つヴィンセントと結婚したが、これは金が欲しいソフィアの父の思惑と高い爵位が欲しいヴィンセントの思惑が一致したからに過ぎない そもそもヴィンセントには美しい恋人がいる 美男美女と名高いヴィンセントとその恋人は身分に大きな差があるために結婚することは叶わないのだ その事をソフィアも耳にしており、この結婚が形ばかりのものであることを知っていた 結婚して早々、ソフィアは実家から連れてきた侍女夫婦とあばら家に住むように言われて… 表紙はかなさんです✨ ありがとうございます😊 2024.07.05

幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。

灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。 曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。 婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。 前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。

ローザリンデの第二の人生

梨丸
恋愛
伯爵令嬢、ローザリンデの夫はいつも彼女より仕事を優先させ、彼女を無碍にしている。 彼には今はもういない想い人がいた。 私と結婚したことにいい思いをしていないことは知っていた。 けれど、私の命が懸かっていた時でさえも、彼の精神は変わらなかった。 あなたが愛してくれないのなら、私は勝手に幸せになります。 吹っ切れたローザリンデは自分自身の幸せのために動くことにした。 ※投稿してから、誤字脱字などの修正やわかりにくい部分の補足をすることがあります。(話の筋は変わらないのでご安心ください。) 1/10 HOTランキング3位、ありがとうございます。

なぜ、私に関係あるのかしら?

シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」 彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。 そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。 「…レオンハルト・トレヴァントだ」 非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。 そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。 「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」 この判断によって、どうなるかなども考えずに… ※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。 ※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、 ※ 画像はAIにて作成しております

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

処理中です...