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第5章
65.帝都は厳戒態勢です
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「ついでに言えば、主任神官はその座から降りて、副主任神官が繰り上がるとか。内定していた四大高位神の使役ももちろん無し。国王も重要事項の決裁権を含む一部権限を、次期国王に割譲することになったみたい。実質的な王権剥奪に近いわね」
(主任は強力な霊威を持っているから、その力を有効活用できるような処遇がなされるかもしれないけれど……凋落してしまったことに変わりはないわよね)
神は人世の自治には原則関わらない。今回も、表向きは主任や国王が自発的に退任ないし権限割譲を申し出たことになっている。だが、天威師を含む神々の不興を買ったためだということは、知る者は知っている。なお、このような形で役職を退任する際は、在任中に知り得た機密を忘却させるか、口外できないようにする措置が取られる。
「わたくしもそのように伺いましたわ。大精霊はどうにか据え置きとなったようですわね」
「ええ。大精霊に関しては、複数の配下を通じて対処はしていたそうだから」
マーカスの留意報告を受けた大精霊は、配下の上級精霊たちにルリエラとシュレッドの監視を命じていた。だが、その配下が強硬派の思想に近く、神格を持つ者は天にいるべきと考えていたため、二人の計画を見て見ぬフリをしたそうだ。
大精霊は定期的に配下たちを呼んで状況を確認していたものの、異変なしという答えを返されていたという。当然配下は処罰され、大精霊も虚報を見抜けなかった責を問われて厳しい叱責を受けた。しかし、最低限の対応を行なってはいたということで、辛うじて降格を免れた。
大精霊が据え置きとなったことについて、マーカスは心から安堵していたという。フレイムも良かったと言って胸を撫で下ろしていた。箔付けの神格を奪われれば、いったんは得た神々からの愛を喪うことを意味する。それは何よりの地獄だからと。
「神官府はしばらく落ち着かなくなるでしょうね。秘奥の神器が暴走したこと、主任を信奉していたルリエラがそれを引き起こしたことは公然の秘密。その直後に、事後処理もそこそこに主任が代わるのだから、建前上は自主的な辞任にしていても、誰だってピンとくるわ」
「主任交代だけでなく、神使選定の件もですわ。フルード様やマーカス様が神使をお選びになられるのではと、皆が期待していますのよ」
「そうね……」
聖威師も神使を選んではどうかというお達しは以前にも出た。その際も神官たちは加熱したものの、当事者たちにその気がないのは一目瞭然だったので、次第に波は引いていった。
だが、フルードとマーカスはもはや天の神となった。最下位の神でも数体の使役を持つものだ。となれば、今度こそ本腰を上げて神使選定に参加するかもしれないと、熱い目が向けられている。
(フルード様……神官たちはこぞってあなたの神使になりたがっています。あなたは本当に、大勢から慕われていたのですよ)
人間の領域から外れた存在である天威師や聖威師が逝去した際は、国葬などは行われない。そもそも、光になって跡形もなく消えてしまうため、遺体が残らない。精々、生前身に付けていた衣や装飾品、愛用品などを一定期間飾って偲ぶくらいだ。
フルードは華美な宝飾品をほとんど付けなかったため、神官府の前に、彼が纏っていた神官衣をババーンとかけている。もちろん、盗難防止の結界を張った上でだ。
(今もそう。あなたの衣を一目見ようと国民が大挙して押し寄せ、周辺道路は封鎖、転移や飛翔も制限がかけられて厳戒態勢が敷かれ、一日中警告音が鳴り響いているほどです……)
一周回ってただの迷惑である。
皇帝たる天威師が民衆の前に出る『お出まし』という行事があるが、神格を持つ聖威師も天威師と同様に崇拝の対象なので、公的な行事で人前に出ると皆が殺到する。それが最後の別れを兼ねた場であればなおさらだ。
(フルード様にお伝えしようかしら。あなたはこんなに皆に惜しまれていますよ、と)
フルードとは交信すれば話すことができる。実際、彼が昇天した後で、アリステルに短い念話が届いたようだ。レシスの神罰について、折を見て遊運命神に取消を願い出てみるという内容だったと聞く。昇天直後でフルードの方もバタバタしているので、今すぐは難しいが、遠くない内に、とのことだった。
ならば、逆にこちらから声を上げることも可能だ。
(けれど、こんな大騒ぎになっていると知れば、きっとお悩みになるわね。律儀な方だから、周辺の迷惑になる行動はお控え下さい! 通路を開けて下さい! とか神託を下ろしそう)
そんな神託、前代未聞である。
天界に行ってまで胃を痛めて欲しくないので、このことはしばらく言わないでおこうと決めるアマーリエだった。
(主任は強力な霊威を持っているから、その力を有効活用できるような処遇がなされるかもしれないけれど……凋落してしまったことに変わりはないわよね)
神は人世の自治には原則関わらない。今回も、表向きは主任や国王が自発的に退任ないし権限割譲を申し出たことになっている。だが、天威師を含む神々の不興を買ったためだということは、知る者は知っている。なお、このような形で役職を退任する際は、在任中に知り得た機密を忘却させるか、口外できないようにする措置が取られる。
「わたくしもそのように伺いましたわ。大精霊はどうにか据え置きとなったようですわね」
「ええ。大精霊に関しては、複数の配下を通じて対処はしていたそうだから」
マーカスの留意報告を受けた大精霊は、配下の上級精霊たちにルリエラとシュレッドの監視を命じていた。だが、その配下が強硬派の思想に近く、神格を持つ者は天にいるべきと考えていたため、二人の計画を見て見ぬフリをしたそうだ。
大精霊は定期的に配下たちを呼んで状況を確認していたものの、異変なしという答えを返されていたという。当然配下は処罰され、大精霊も虚報を見抜けなかった責を問われて厳しい叱責を受けた。しかし、最低限の対応を行なってはいたということで、辛うじて降格を免れた。
大精霊が据え置きとなったことについて、マーカスは心から安堵していたという。フレイムも良かったと言って胸を撫で下ろしていた。箔付けの神格を奪われれば、いったんは得た神々からの愛を喪うことを意味する。それは何よりの地獄だからと。
「神官府はしばらく落ち着かなくなるでしょうね。秘奥の神器が暴走したこと、主任を信奉していたルリエラがそれを引き起こしたことは公然の秘密。その直後に、事後処理もそこそこに主任が代わるのだから、建前上は自主的な辞任にしていても、誰だってピンとくるわ」
「主任交代だけでなく、神使選定の件もですわ。フルード様やマーカス様が神使をお選びになられるのではと、皆が期待していますのよ」
「そうね……」
聖威師も神使を選んではどうかというお達しは以前にも出た。その際も神官たちは加熱したものの、当事者たちにその気がないのは一目瞭然だったので、次第に波は引いていった。
だが、フルードとマーカスはもはや天の神となった。最下位の神でも数体の使役を持つものだ。となれば、今度こそ本腰を上げて神使選定に参加するかもしれないと、熱い目が向けられている。
(フルード様……神官たちはこぞってあなたの神使になりたがっています。あなたは本当に、大勢から慕われていたのですよ)
人間の領域から外れた存在である天威師や聖威師が逝去した際は、国葬などは行われない。そもそも、光になって跡形もなく消えてしまうため、遺体が残らない。精々、生前身に付けていた衣や装飾品、愛用品などを一定期間飾って偲ぶくらいだ。
フルードは華美な宝飾品をほとんど付けなかったため、神官府の前に、彼が纏っていた神官衣をババーンとかけている。もちろん、盗難防止の結界を張った上でだ。
(今もそう。あなたの衣を一目見ようと国民が大挙して押し寄せ、周辺道路は封鎖、転移や飛翔も制限がかけられて厳戒態勢が敷かれ、一日中警告音が鳴り響いているほどです……)
一周回ってただの迷惑である。
皇帝たる天威師が民衆の前に出る『お出まし』という行事があるが、神格を持つ聖威師も天威師と同様に崇拝の対象なので、公的な行事で人前に出ると皆が殺到する。それが最後の別れを兼ねた場であればなおさらだ。
(フルード様にお伝えしようかしら。あなたはこんなに皆に惜しまれていますよ、と)
フルードとは交信すれば話すことができる。実際、彼が昇天した後で、アリステルに短い念話が届いたようだ。レシスの神罰について、折を見て遊運命神に取消を願い出てみるという内容だったと聞く。昇天直後でフルードの方もバタバタしているので、今すぐは難しいが、遠くない内に、とのことだった。
ならば、逆にこちらから声を上げることも可能だ。
(けれど、こんな大騒ぎになっていると知れば、きっとお悩みになるわね。律儀な方だから、周辺の迷惑になる行動はお控え下さい! 通路を開けて下さい! とか神託を下ろしそう)
そんな神託、前代未聞である。
天界に行ってまで胃を痛めて欲しくないので、このことはしばらく言わないでおこうと決めるアマーリエだった。
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