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邪神が見る夢
☆邪神が見る夢 未来編
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◆◆◆
『ラミ様、どうかなさったのですか?』
こちらを呼ぶ声に、遠い過去へ飛ばしていた意識を引き戻す。
湯気を立てる紅茶に、何種類もの茶菓が並んだ円卓。ラミルファから見て右斜め向かいに座ったフルードが微笑んでいる。
『考え事ですか?』
ラミルファの左斜め向かいに座ったアリステルも笑顔を浮かべた。
『思い出していたのさ。遥か昔のことを』
この子たち――フルードとアリステルが、まだ聖威師として地上にいた頃。今のこの風景を夢見ていた大昔。
『夢がきちんと実現して良かったなぁと思っていたのだよ』
何も知らない者からすれば要領を得ない答えに、フルードとアリステルが顔を見合わせ、仲良く首を傾けている。そして、いそいそと菓子を取り分け始めた。
『兄様は相変わらず塩味の強いものがお好きですね』
『そう言うお前は甘いものばかり取っている』
チーズやクラッカー、チップスなどが好きなアリステルと、フィナンシェやクッキー、マフィンなど甘い菓子を好むフルード。軽快な口調で掛け合う兄弟には、かつてあった途方もないぎごちなさも、断崖絶壁より深い亀裂も、欠片も残っていない。
『ラミ様、果物を召し上がられるでしょう』
取り皿を持ったフルードに合わせ、アリステルが一口大に切られたフルーツをひょいひょいとその皿の上に乗せる。フルードは兄が乗せやすいよう、皿をそっと差し出している。息の合った動きに、ラミルファは口元を綻ばせた。もう誰に憚ることもなく、大切な者たちの秘め名を口にする。
『ふふ。ありがとう、ヴェーゼ、セイン』
ここは天界にあるラミルファの領域だ。この子たちが昇天してから、既に悠久の時が流れている。最初は互いを肉親とすら認識していなかったレシス兄弟は、永き時の中で少しずつ少しずつ距離を縮め、ようやく本当の兄弟になった。
そこに辿り着くまで、ラミルファは決して無理強いをせず、この兄弟が自ずと雪解けを迎えるよう、影に日向に尽力しながら、根気よくその日を待った。
ついに夢が叶い、初めてこの子たちと三名で茶を飲んだのは、もう随分と前のことだ。あの時の歓喜の記憶は、きっと永遠にこの魂に刻まれ続ける。
フルードが目を輝かせて口を開いた。
『ラミ様、聞いて下さい。この前、お兄様の領域に咲いた銀木犀をいただいたのです』
『ふぅん』
ラミルファはにこやかに相槌を打ちながら、フルードの言うお兄様……すなわちフレイムのことは器用に意識の外に放り捨てて、一口紅茶を飲む。骸骨の姿は飲食には適していないので、白髪灰緑眼の人型に変化していた。フルードとアリステルはこの姿が好きだと言ってくれる。なので、茶会でない日もこの姿を取ることが多い。
『銀木犀は兄様が好きなので、先ほどこちらに伺う前に、兄様の神域に寄ってお持ちしました。そうしたら兄様が――』
ああ、幸せだなぁ。
嬉しそうに兄のことを話すフルードと、弟を温かな目で見ているアリステル。二名を眺めながら、ラミルファは幸福に満たされて破顔した。
遠い遠い昔に抱いていた夢は、きちんと実現した。だから何も心配は要らない。あの頃の自分に、そう言ってやりたい。
そんなことを思いながら、ラミルファは、今目の前にいるフルードの言葉を聞く。
同時に、遥か昔のあの頃――もう過去のものとなった当時の出来事も思い出しながら、再び微笑んだ。
『ラミ様、どうかなさったのですか?』
こちらを呼ぶ声に、遠い過去へ飛ばしていた意識を引き戻す。
湯気を立てる紅茶に、何種類もの茶菓が並んだ円卓。ラミルファから見て右斜め向かいに座ったフルードが微笑んでいる。
『考え事ですか?』
ラミルファの左斜め向かいに座ったアリステルも笑顔を浮かべた。
『思い出していたのさ。遥か昔のことを』
この子たち――フルードとアリステルが、まだ聖威師として地上にいた頃。今のこの風景を夢見ていた大昔。
『夢がきちんと実現して良かったなぁと思っていたのだよ』
何も知らない者からすれば要領を得ない答えに、フルードとアリステルが顔を見合わせ、仲良く首を傾けている。そして、いそいそと菓子を取り分け始めた。
『兄様は相変わらず塩味の強いものがお好きですね』
『そう言うお前は甘いものばかり取っている』
チーズやクラッカー、チップスなどが好きなアリステルと、フィナンシェやクッキー、マフィンなど甘い菓子を好むフルード。軽快な口調で掛け合う兄弟には、かつてあった途方もないぎごちなさも、断崖絶壁より深い亀裂も、欠片も残っていない。
『ラミ様、果物を召し上がられるでしょう』
取り皿を持ったフルードに合わせ、アリステルが一口大に切られたフルーツをひょいひょいとその皿の上に乗せる。フルードは兄が乗せやすいよう、皿をそっと差し出している。息の合った動きに、ラミルファは口元を綻ばせた。もう誰に憚ることもなく、大切な者たちの秘め名を口にする。
『ふふ。ありがとう、ヴェーゼ、セイン』
ここは天界にあるラミルファの領域だ。この子たちが昇天してから、既に悠久の時が流れている。最初は互いを肉親とすら認識していなかったレシス兄弟は、永き時の中で少しずつ少しずつ距離を縮め、ようやく本当の兄弟になった。
そこに辿り着くまで、ラミルファは決して無理強いをせず、この兄弟が自ずと雪解けを迎えるよう、影に日向に尽力しながら、根気よくその日を待った。
ついに夢が叶い、初めてこの子たちと三名で茶を飲んだのは、もう随分と前のことだ。あの時の歓喜の記憶は、きっと永遠にこの魂に刻まれ続ける。
フルードが目を輝かせて口を開いた。
『ラミ様、聞いて下さい。この前、お兄様の領域に咲いた銀木犀をいただいたのです』
『ふぅん』
ラミルファはにこやかに相槌を打ちながら、フルードの言うお兄様……すなわちフレイムのことは器用に意識の外に放り捨てて、一口紅茶を飲む。骸骨の姿は飲食には適していないので、白髪灰緑眼の人型に変化していた。フルードとアリステルはこの姿が好きだと言ってくれる。なので、茶会でない日もこの姿を取ることが多い。
『銀木犀は兄様が好きなので、先ほどこちらに伺う前に、兄様の神域に寄ってお持ちしました。そうしたら兄様が――』
ああ、幸せだなぁ。
嬉しそうに兄のことを話すフルードと、弟を温かな目で見ているアリステル。二名を眺めながら、ラミルファは幸福に満たされて破顔した。
遠い遠い昔に抱いていた夢は、きちんと実現した。だから何も心配は要らない。あの頃の自分に、そう言ってやりたい。
そんなことを思いながら、ラミルファは、今目の前にいるフルードの言葉を聞く。
同時に、遥か昔のあの頃――もう過去のものとなった当時の出来事も思い出しながら、再び微笑んだ。
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