すっぽんじゃなくて太陽の女神です

土広真丘

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番外編-焔の神器とフルード編-

16.おまけ―焔の神器に関する、天威師と聖威師の悩ましい談話 後編―

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「家の中で両親から虐待されていた期間は、まだ分からぬこともない。閉鎖環境の中での出来事だからな。だが、買い出しなどの使い走りもさせられていたようなのに、近隣の者や店の者は、あの子の様子に違和感を覚えなかったということか」
「もっとおかしいのは徴を出して神官になった後だよぉ。神官府の面々も気付かなかったとか変だよね。言動を制限する霊具を付けられてたから助けを求められなかった、って言うけどさー。口や筆記、身振りが使えなくても、何か変だってのは分かるじゃん?」

 ティルの追随に、オーネリアが賛同した。

「私も同様に思います。些細な態度や仕草、反応、目付き、雰囲気、不自然に痩せた体……察する要素は幾らでもあったはず。なのに、誰一人あの子の異常を察知できなかった。私たちの間でも、不可解だと疑問視する声が上がっております」
「フルードを執拗に付け狙う、正体不明の何かが関わっている気がするな。フルードが決して助けられぬよう、救われぬよう、周囲の目を眩ませていたのではないか」
「フルードが絶望から脱するための要素を、ことごとく排除しているように思います。選ばれし神に見初められるという奇跡が起こらなければ、あの子はその檻に囚われたまま、永劫に救われることはなかったでしょう」

 ラウと高嶺が発した言葉に、卓を囲む者たちが一様に憂いげな表情を浮かべる。もちろん日香もだ。ライナスが思案げに宙を見る。

「そして、荒神の勘を持つ焔神様が、別の御自身を顕現させて常時守護せねばフルードを守り切れぬと判断された。一体あの子を付け狙うモノは何なのか。その正体によっては、冗談抜きで焔の神器が……正焔神様が真の神格を出されるか転化なさりかねない」

 あのトンデモ神器ならやる。根拠のない確信が、全員の胸にあった。かつて白死神にさえ匙を投げさせたというぶっ飛び高位神とやらにも匹敵する奴だ、アレは。フルードを守るためならばどんなことでもするだろう。

「フルードを狙う何かの正体については、こちらでも調査してみます。話を聞いた天界の神々もお調べ下さっているようですし、手がかりだけでも掴めると良いのですが」
「アリステルの方はどうなのだろう。あの子もフルードと似たような環境で育って来た。でも、あの子の方にはフルードのような危難は起こっていないのだよね?」

 佳良の言葉を受け、当波がライナスに尋ねた。

「今のところはフルードのみだ。あの子たちが地上に戻ってからまだ日が浅いから、今後どのようになっていくかは分からないが。とはいえ、アリステルを指導した邪神様も、焔神様のような危機感は抱かれておられなかったようだ」

 アリステルを指南した一の邪神もまた、生来の荒神だ。焔神と同じ直感を持つ。アリステルにもフルードと同じ脅威が迫っていれば、察して対策を講じていたはずだ。だが、彼にはそのような勘は降りて来なかったという。

「あの子たち兄弟が二人とも標的にされるのであれば、レシスの家系か血筋に伝わる何かが要因かもしれません。しかし、このままフルードの方だけが狙われ続けたとすれば、家や血は関係なく個人として目を付けられている可能性も浮上するかと」
「だが、フルードが怨恨を買うとは思えない。あの子の性格から考えても、生育環境から考えてもだ。恨みを買うようなことを行う余裕すら無い境遇だっただろう」

 考えても、今この場では答えは分からない。そのことは皆が承知している。日香は嘆息した。

「聖威や天威で視ても真相が見通せないから、高位の神が関与してることは確実なんだけどねー。とにかくフルード君に、焔の神器を抑えてねって念押ししとくよ。真の神格を出させないようにするのはもちろん、転化もさせないでって」

 そんなことをすれば、地上に最高神や至高神が降臨している状況になる。天威師か聖威師が正規の手段で勧請したわけでもないのにそのような事態になれば、天界も超天もひっくり返る大騒ぎだ。これはヤバすぎるということで、フルードは焔の神器もろとも強制昇天になってしまうだろう。

「やはりフルードに託すしかないか……」

 秀峰が半ば諦めたような声音でまとめた。列席している皆がそうするしかないという顔で頷く。最初からこの結論に達することは分かっていた。

(義兄様、フルード君への追加指導、力入れてやるんだろうなー)

 冷たい紅茶をすすりながら考えていると、これ以上この話題を続けても進展はないと見なした皆は、話を変えることにしたようだった。
 ひとまず気分を切り替え、楽しく歓談しようという雰囲気になった時。

《大変です! 先ほど、ごく短時間ですが、全国規模の広域で異常事態が発生したもようです!》

 神官府から泡を食った声で念話が入った。顔付きを変じさせた佳良がすぐさま聞き返す。

《異常事態とは? 荒れ神ですか、神器ですか?》
《それも不明なのです。何でも、各国全域の貝が一斉にマドレーヌになり、かと思えばすぐに元の貝に戻ったと……!》

 全員がズコッとコケた。

《原因も発生源も全てが不明なのです。また、ある砂浜ではフルード様が頭を抱え、嘘です冗談です今の無し、元通りにして下さいお兄様、と叫んでいる姿が目撃されたとの情報も入っており……一体何が起きたのでしょうか!?》
「「…………」」

 誰も答えられない中、不意に絶大な力が世界を席巻した。紅碧の聖威だ。指定した事象に関する記憶と情報を一括で削除する力が込められている。同時に念話の向こうの気配が変わった。

《……ん? 私は今、何の連絡をしていたのでしょうか。何か緊急報告が来たように思ったのですが。だが、念話の履歴も残っていないし、気のせいだったのか……。大変申し訳ございません、何か手違いをしてしまったようです》
《ああ、そう……別に良いけど》

 当波が呟く。どうやら貝のマドレーヌ変身事件は歴史から抹消されたようだ。再度陳謝し、念話が切れた。記憶を保持している日香たちは、そろりと視線を絡め合わせる。はっきりとした確証までは無くとも、ピンと来る予感があった。今話題にしてたぶっ飛び神器が何かやらかしたっぽくない? と。

 そして、悟る。これから色々な意味でドタバタ劇が多発しそうだと。

 フルードの周辺で起こる様々な騒動は、まだ開幕したばかりだった。
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