12 / 101
本編
12.日香の過去
しおりを挟む
問いかけながら、こっそりと内心で愚痴をこぼす。
(あの神器せいで私はすっぽんになる羽目になったんだから!)
日香は病弱のため、静養も兼ねて離宮で育った――表向きにはそうなっているが、実際は違う。
全ての要因は、最大の秘宝たる始まりの神器にあった。
皇祖緋日皇が創り出した、決して替えの効かない唯一無二の神器。それが日香の誕生に感応し、暴走してしまったのだ。
『皇家の日の女神』という立場にいる日香は、同様の存在である緋日皇に最も近しい。ゆえに、緋日皇の力で創られた神器と共鳴しやすい。生まれたばかりの頃はまだ己の力に目覚めていなかったが、魂の奥深くに眠る本性を神器が感知し、歪んだ形で共鳴を起こしたのだ。
そして、日香と始まりの神器を接近させては危険だということで、密かに皇宮から離された。
教育に関しては皇帝が手配してくれており、聖威師として事情を知る佳良もたびたび様子を見に来てくれたものの、本宮から遠い離宮でのびのびと暮らしていた。
(こーんな性格になったのも離宮暮らしが長かったせいかなぁ。……でも、月香だって一緒に離宮で育ったのにお淑やかだし)
月香まで共に行くことになったのは、双子は魂の結び付きが強固であるため、幼少期は引き離さない方が良いと判断されたからだという。
(せっかく覚醒してもまた神器がおかしくなってさ)
12歳の時、月香と同時に覚醒した日香は、最低限の体力が付いたという理由を付けて皇宮へ戻った。力に目覚めた際、始まりの神器に呼ばれている感覚を抱いたためだ。
神器が日香を求めているのであればと、皇帝や高嶺たちの立ち合いの下で二度目の接触が行われた。完全に覚醒したのだから、もう変な共鳴を起こしはしないのではないかという期待もされていた。
しかし――日香が近付くと、始まりの神器は再び暴れそうになった。待機していた皇帝たちが即座に対処してくれたために事なきを得たが、危ないところだった。
どうやら、覚醒したての天威師はまだ力が安定していないことから、完全に落ち着くまでは歪な共鳴が継続してしまうらしい。
(もっかい離宮に行くこともできなくて、大変だったんだよ)
病がぶり返したことにして再度離宮に退避させようかと考えた皇帝たちだが、それも不可能な状況になっていた。二度目に暴走しかけた際、神器と日香の力が絡まり合い、おかしな繋がりが生まれてしまったためだ。端的に言えば、日香が離れすぎると神器が不安定になってしまうのだ。
近付けば暴走され、離れれば不安定になられる。一体どうしろというのか。
やむを得ず、日香は自身の覚醒を一部の者以外には伏せた上で、療養の名目で皇宮の一角にある宮に引きこもり、力が安定するのを待っていた。神器から近付き過ぎず離れ過ぎない、絶妙な距離にある宮だ。
神器を刺激しないよう、少しずつ安定させていくとすれば数年かかると言われており、実に5年の歳月をかけてついに完了したのが昨日だ。折よく皇帝たちの予定も合ったことから、すぐに神器と三度目の接触をすることになった。
結果――神器は暴走しなかった。あの時の喜びは筆舌に尽くし難い。また、力が盤石になったことで神器との間に絡まり合った繋がりも無事にほどけた。
(昨日は嬉しかったなぁ。高嶺様なんか大喜びして)
心の中で思い出し笑いをしていると、ラウが凛とした面差しを緩めて微笑んだ。
「始まりの神器ならば問題はない。もはやそなたが原因で暴れることはなく、先ほどの不調も志帆叔父上が鎮めて下さった」
ラウの口の端に上った志帆は、皇国皇帝の一人だ。神格は日神。ゆえに、太陽神の力を持つ始まりの神器を御しやすい。日香と始まりの神器がおかしな共鳴や繋がりを起こすたび、志帆が必死になって神器を宥め、暴走を食い止めてくれていた。
「そうですか、良かった。だって……あの神器が無かったら、私たちは地上にいられませんから」
胸を撫で下ろし、日香は呟いた。そうだね、と笑ったティルが窓辺に歩み寄り、外を眺めながら歌うように言う。
「――太古の昔、人と神が分かたれてから遥かな歳月が流れた頃。原初の至高神同士が番われ、二柱の神が顕現された。男神と女神が」
――遥か古の時代、神は天地を行き来し、地上で暮らす人間と共存していた。
人は様々な面で神からの助力や後押しを得ていたが、ある時、神の支援を受けず自分たちの力で世界を作って行きたいと望むようになった。
神々は人間の意思を尊重して天に引き、以後は人の世となった地上への介入を最小限に留めることとした。必要が生じた場合や人間の方から呼びかけて来た場合、寵を与えたい者に個別に働きかける場合などは別として、基本的には神側から人界に干渉することは控えると決めたのだ。
その後、原初の至高神たちは互いに夫婦となって契りを結んだ。金日神と黒闇神、銀月神と白死神が番い、前者は男神を、後者は女神を生み出したのだ。
「二神は恋に落ち、めでたく結ばれて双子の兄妹神を授かった。その兄妹神は全ての至高神の末裔であり、翠月神と緋日神の神格をお持ちであられた」
すらすら紡がれるそれは、太古に遡る皇家と帝家の起源だった。
(あの神器せいで私はすっぽんになる羽目になったんだから!)
日香は病弱のため、静養も兼ねて離宮で育った――表向きにはそうなっているが、実際は違う。
全ての要因は、最大の秘宝たる始まりの神器にあった。
皇祖緋日皇が創り出した、決して替えの効かない唯一無二の神器。それが日香の誕生に感応し、暴走してしまったのだ。
『皇家の日の女神』という立場にいる日香は、同様の存在である緋日皇に最も近しい。ゆえに、緋日皇の力で創られた神器と共鳴しやすい。生まれたばかりの頃はまだ己の力に目覚めていなかったが、魂の奥深くに眠る本性を神器が感知し、歪んだ形で共鳴を起こしたのだ。
そして、日香と始まりの神器を接近させては危険だということで、密かに皇宮から離された。
教育に関しては皇帝が手配してくれており、聖威師として事情を知る佳良もたびたび様子を見に来てくれたものの、本宮から遠い離宮でのびのびと暮らしていた。
(こーんな性格になったのも離宮暮らしが長かったせいかなぁ。……でも、月香だって一緒に離宮で育ったのにお淑やかだし)
月香まで共に行くことになったのは、双子は魂の結び付きが強固であるため、幼少期は引き離さない方が良いと判断されたからだという。
(せっかく覚醒してもまた神器がおかしくなってさ)
12歳の時、月香と同時に覚醒した日香は、最低限の体力が付いたという理由を付けて皇宮へ戻った。力に目覚めた際、始まりの神器に呼ばれている感覚を抱いたためだ。
神器が日香を求めているのであればと、皇帝や高嶺たちの立ち合いの下で二度目の接触が行われた。完全に覚醒したのだから、もう変な共鳴を起こしはしないのではないかという期待もされていた。
しかし――日香が近付くと、始まりの神器は再び暴れそうになった。待機していた皇帝たちが即座に対処してくれたために事なきを得たが、危ないところだった。
どうやら、覚醒したての天威師はまだ力が安定していないことから、完全に落ち着くまでは歪な共鳴が継続してしまうらしい。
(もっかい離宮に行くこともできなくて、大変だったんだよ)
病がぶり返したことにして再度離宮に退避させようかと考えた皇帝たちだが、それも不可能な状況になっていた。二度目に暴走しかけた際、神器と日香の力が絡まり合い、おかしな繋がりが生まれてしまったためだ。端的に言えば、日香が離れすぎると神器が不安定になってしまうのだ。
近付けば暴走され、離れれば不安定になられる。一体どうしろというのか。
やむを得ず、日香は自身の覚醒を一部の者以外には伏せた上で、療養の名目で皇宮の一角にある宮に引きこもり、力が安定するのを待っていた。神器から近付き過ぎず離れ過ぎない、絶妙な距離にある宮だ。
神器を刺激しないよう、少しずつ安定させていくとすれば数年かかると言われており、実に5年の歳月をかけてついに完了したのが昨日だ。折よく皇帝たちの予定も合ったことから、すぐに神器と三度目の接触をすることになった。
結果――神器は暴走しなかった。あの時の喜びは筆舌に尽くし難い。また、力が盤石になったことで神器との間に絡まり合った繋がりも無事にほどけた。
(昨日は嬉しかったなぁ。高嶺様なんか大喜びして)
心の中で思い出し笑いをしていると、ラウが凛とした面差しを緩めて微笑んだ。
「始まりの神器ならば問題はない。もはやそなたが原因で暴れることはなく、先ほどの不調も志帆叔父上が鎮めて下さった」
ラウの口の端に上った志帆は、皇国皇帝の一人だ。神格は日神。ゆえに、太陽神の力を持つ始まりの神器を御しやすい。日香と始まりの神器がおかしな共鳴や繋がりを起こすたび、志帆が必死になって神器を宥め、暴走を食い止めてくれていた。
「そうですか、良かった。だって……あの神器が無かったら、私たちは地上にいられませんから」
胸を撫で下ろし、日香は呟いた。そうだね、と笑ったティルが窓辺に歩み寄り、外を眺めながら歌うように言う。
「――太古の昔、人と神が分かたれてから遥かな歳月が流れた頃。原初の至高神同士が番われ、二柱の神が顕現された。男神と女神が」
――遥か古の時代、神は天地を行き来し、地上で暮らす人間と共存していた。
人は様々な面で神からの助力や後押しを得ていたが、ある時、神の支援を受けず自分たちの力で世界を作って行きたいと望むようになった。
神々は人間の意思を尊重して天に引き、以後は人の世となった地上への介入を最小限に留めることとした。必要が生じた場合や人間の方から呼びかけて来た場合、寵を与えたい者に個別に働きかける場合などは別として、基本的には神側から人界に干渉することは控えると決めたのだ。
その後、原初の至高神たちは互いに夫婦となって契りを結んだ。金日神と黒闇神、銀月神と白死神が番い、前者は男神を、後者は女神を生み出したのだ。
「二神は恋に落ち、めでたく結ばれて双子の兄妹神を授かった。その兄妹神は全ての至高神の末裔であり、翠月神と緋日神の神格をお持ちであられた」
すらすら紡がれるそれは、太古に遡る皇家と帝家の起源だった。
11
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
魔力ゼロの英雄の娘と魔族の秘密
藤原遊
ファンタジー
魔法が支配する世界で、魔力を持たない少女アリア・マーウェラ。彼女は、かつて街を守るために命を落とした英雄的冒険者の両親を持ちながら、その体質ゆえに魔法を使えず、魔道具すら扱えない。しかし、彼女は圧倒的な身体能力と戦闘センスを武器に、ギルドでソロ冒険者として活動していた。街の人々やギルド仲間からは「英雄の娘」として大切にされつつも、「魔力を捨てて進化した次世代型脳筋剣士」と妙な評価を受けている。
そんなある日、アリアは山中で倒れていた謎の魔法使いイアンを助ける。彼は並外れた魔法の才能を持ちながら、孤独な影を背負っていた。やがて二人は冒険の中で信頼を深め、街を脅かす魔王復活を阻止するため、「カギ」を探す旅に出る。
しかしイアンには秘密があった。彼は魔族と人間の混血であり、魔王軍四天王の血を引いていたのだ。その事実が明らかになったとき、アリアは「どんな過去があっても、イアンはイアンだよ」と笑顔で受け入れる。
過去に囚われたイアンと、前を向いて進むアリア。二人の絆が、世界を揺るがす冒険の行方を決める――。シリアスとギャグが織り交ざる、剣と魔法の冒険譚!
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる