すっぽんじゃなくて太陽の女神です

土広真丘

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本編

21.秘密の神託

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 続いて、表情を引き締めた白珠が皆を見回した。

「これから行うことは数多くあります。宗基息女及び宗基家への対処、怒れる神々の慰撫いぶ、日香のお披露目、始まりの神器の修復、太祖への神器承認申請」

 最後の項目に、日香はげんなりと溜め息を吐いた。

(そうそう、初代様に神器を見せなきゃいけないんだよね)

 始まりの神器が限界に達していることは祖神たちも承知の上だ。それもあり、少し前に神器の状態を直に確認したいという神託が降りた。帝祖翠月神より内々に下された託宣であり、現時点では天威師しか知らぬことだ。
 日香の顔色から内心を読んだように、白珠が小さく首肯した。

「翠月帝様――いや、もう翠月神様か――が、神器が保たぬと判断なされば、その時点で天威師は全員強制送還されるでしょう」

 そうなれば全てが終わりだ。天威師は天に還るだけだが、人間と地上が完全に詰みとなる。日香はごくりと唾を飲み込んでから返した。

「乗り切る方法はございます。……私が、翠月神様に異論を挟ませぬくらいの精度で始まりの神器を完全復活させ、復活後の神器を見せればいいのです。そうすれば帝祖様も何も言えません」

 日香の力の安定がぎりぎりとはいえ間に合ったのだから、これでもまだ十分に幸運な方だ。もしも間に合わなければ神器を復元することは叶わず、もはやこれまでという状況になっていただろう。

(私は絶対に失敗できない)
「日香、自分を追い込んではいけない。私たちが共にいる。一人で抱え込む必要はない」

 顔色を取り戻した秀峰が静かに語りかけて来た。聞く者の心を落ち着かせる声は、遭難者に道を指し示す北の極星のようだ。

「そうよ、それに翠月神様と共に緋日神様もおいで下さるのでしょう。翠月神様が厳しい判定を下そうとしても、きっと宥めて下さるわ」
「いざとなれば天威師が総出で泣き落としでも何でもすればいい。日香一人だけが頑張ることはない」

 月香と高嶺が言い、白珠が真面目な表情で首を傾げた。

「万一の際は一緒に泣いて下さるよう、今の内から密かに緋日神様に頼んでおくべきかもしれません」

 本気か冗談か判別できない言葉に、ラウとティルがくすっと相好を崩した。

「さすれば翠月神様はこちらを無下にはならさないでしょう。至高神は同族を鍾愛しょうあいします。日香が最低限だけ神器を修復してくれれば、後は私たちが頑張れば良いのです」

 日香一人で背負い込むことはないのだと、皆が暗に告げている。ティルがレイティを見た。

「神器をお見せする際は、日香が緋日神様を勧請して、翠月神様はリラ叔父上か俺が勧請するんですよね?」
「ああ。お前とリラは翠月神様と同じく、帝家に属する月神だからな。彼の御方を最も勧請しやすい」

 ミレニアム帝国の二番目の皇帝にしてレイティの弟、アドルフ。彼の秘め名がリラだ。なお、帝国三番目の皇帝は、アドルフの双子妹クルーセラ・サナである。

「相談してどちらが勧請するか決めておけ」
「分かりましたー」

 へらりと首肯するティルに、気負った様子は欠片も見られない。高嶺と同じく誕生直後に覚醒し、その瞬間から天威師としての務めを果たして来た風格が自然に表れているようだった。
 志帆が白珠とレイティに向けて言った。

「宗基家の娘を自白させることは私が行います。一位貴族の娘であり天威師を名乗っているわけですから、通常の尋問官ではなく皇家が行った方が良いでしょう」

 その台詞を聞いた秀峰が微かに安堵の様相を浮かべ、白珠が首肯する。

「頼みますよ。宗基家の娘が至高神の神器を取り込むに至った経緯や目的を洗い出さねば。娘の口ぶりでは、当主たる父親が関わっているようですが」

 過去視ができれば早いのだが、天威師は能力の使用に幾重いくえもの制限をかけられている上、至高神の神器が関与している事案では上手く過去を視通せない。神格を抑えている状態では、至高神の力が関わることに対しては未来視や過去視などが上手くできないのだ。
 皇家と帝家に生まれた子が天威師であるか否か、本人が覚醒するまで見極められないのもそれが理由である。天威師もまた至高神であるからだ。

「神々の鎮火は、天威師たちに割り振ります」

 大怪我を伴う神鎮めに我が子たちを行かせたくないと思っても、それは許されない。神鎮めは天威師が行う最重要にして最優先の務めであり、必須の使命となる。
 自身の役目をこなさない天威師は地上にいる資格を喪う。そこに老若男女の別はない。赤子であろうと老人であろうと、天威師として目覚めた瞬間から同じ責務を背負い同じ務めをこなすのだ。

 皇宮の片隅で息を潜めていた日香の場合、始まりの神器が反応しない遠方の神鎮めを中心に割り当てられて来た。日香が近付いても離れても暴走しそうになっていた神器だが、離れることに関しては短時間であれば許容範囲だったのだ。
 紅日皇女として公表されれば、今までに内密に遂行して来た公務の実績も明かされる予定だ。

「日香。かねてより連絡している通り、神器の修復は三日後の日の出と共に行います。それまでは精神を休めておきなさい。極力そなたの公務は入れぬようにしましょう」
「ありがとうございます、お義母様」

 日香が頷いた、その時だった。
 ズン、と全身に不可視の衝撃がかかる。ぞわりと肌が粟立ち、爪の先から頭頂までが総毛だった。圧倒的、絶対的という陳腐な言葉では表現しきれない絶次元の力が圧し掛かる。
 だが、それは決してこちらを傷付けることはない――むしろどこまでも愛し慈しんでくれる。
 玄い鱗と皓い羽根が室内に溢れ、星空をひっくり返したかのように虹の光が煌めいた。

(あっ)

 日香は息を呑んだ。これは大いなる神からの召し出しだ。

「お祖父様とお祖母様がお呼びですね」

 ラウが呟き、白珠が表情を引き締める。

「祖神のお召しは最優先事項。すぐに伺候しこうせねば」
「行こう、日香」

 高嶺が微笑んで手を差し出す。

「はい、高嶺様」

 頷き、日香はその手を取った。
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