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番外編 -焔神フレイムとフルード編-
優しいだけでは㊳
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語る鬼神の眼差しは優しい。とても悪神には見えないほどに。
『けれども、生まれ落ちた先の過酷な環境のせいで、ヴェーゼの魂はまた傷付きに傷付いていた。だから心配で心配で……厳重にあの子を抱え込んでしまったの。聖威師としての心技体を完成させるまでは、不確定要素は極力取り除きたくて、あの子の素性と情報は一部の悪神以外には伏せていたわ』
そう言い、鬼神は再度頭を下げた。艶めかしい所作と共に、射干玉の髪が波打って揺れる。
『狼神様と焔神様へのお伝えが遅くなったことについて、心からお詫びします』
フレイムは天を仰いだ。
『それがこれまでの経緯ですか……』
こちらにも準備や段取りがある。できればあらかじめ一部の情報だけでも共有しておいて欲しかったが……もう過ぎたことだ。終わった過去よりも、現在の対応と今後の方針の方が重要である。
『大事なのは今後どうするかです。セインは実兄の生存を知りませんから、伝え方から考えなくてはいけません。あなたの愛し子……アリステルの方はどうなんです。彼はどこまで把握してるんですか?』
『まだ何も知らないわ。自分が両親だと思っている男女が実は叔父夫婦だということも、実の弟の存在も、何も。けれども、近いうちに全て伝えるつもりでいるわ』
『全てとは、神の愛娘と称されたレシスの先祖についてもですか?』
『ええ、そのつもりよ』
『そうですか。では兄弟で情報が偏らないよう、セインにも祖先のことを教えておいた方がいいですね』
あの子がもう少し大きくなってからと思っていたが、今話すならばそれはそれでいいだろう。
『後は……アリステルの性格などについて知っておきたいんですが。サーシャという少年を命がけで守ろうとしたことから、優しさや情は持っているように思いました。一方で、虐待者に復讐すると宣言してもいる。彼の気質や思考はどんな感じなんですかね?』
『一度胸襟を開いて受け入れた者にはどこまでも優しいわ。前世の気質も健在で、恐ろしい姿の悪神を恐れたりもしない。ただ、サーシャの方が怖がるのよ。弟が怖がって泣けば、ヴェーゼも心配して心を痛めるから、今の私は極力この姿でいるようにしているわ』
鬼神が自分の胸に手を当てた。彼女が異形の本性に戻らないのはそれが理由だったのだ。
『アリステルに前世の記憶はあるんですか?』
『ええ。少し前に思い出したようよ。聖威師の修行が終わった頃にね。前世で私と邂逅した時のこともちゃんと思い出してくれたわ』
嬉しそうに答えた鬼神だが、ふと真面目な表情になって続ける。
『それから、ここからが重要なの。私の愛し子であるヴェーゼは悪神よ。悪神に相応しい、冷たく厳しい物言いをすることも多いわ。あと、神だから同胞には優しいけれども、神以外で害になると判断した相手には一切の情がないの。当波と同じくらいかしら』
『そりゃ厳しいですね』
フレイムは思わず呟いた。
当波は穏和な皇国人の容姿で生まれたものの、内面の気質は圧倒的に帝国人寄りだ。一位貴族と大公家は代々通婚を重ねているため、身の内には両国の血を汲んでいる。
加えて、僅か1歳で雷神に見初められた鬼才であるため、人間として生きた記憶がない。ゆえに、その精神は純粋な神に限りなく近い。言い換えれば、人間らしい情が非常に薄い。
身内である者――つまり神格を持つ者に対しては常に穏やかで慈愛深いが、神ではない者に対しては態度も気配も激変する。特に歯向かう者には芥子粒ほどの情け容赦もない。
その当波とタメを張るというのは相当だ。
『といっても、それほど心配は要らないと思うわ。フルードも神だから、ヴェーゼにとって身内枠に入るはずよ。例えすぐに実弟と思うことが難しくても、大事な同胞だとは認識するはずだから、最低限の親交は温められるでしょう』
『確かにそうですが……まずはセインに事情を話さなくては。兄弟そろって修行が終わった以上、今後は二人とも神官府に戻って互いと関わっていくことになるんですから』
狼神と視線を合わせて頷き合ったフレイムは、今後どう動くかを高速で検討し始めた。
『鬼神様、アリステルに関わる情報をもっと詳しく、可能な限り教えて下さい。こっちもセインについての質問には、答えられる範囲で全部答えますから』
『ええ、もちろん。そのために来たのだもの。遅くなったとはいえ、今後はきちんと連携を取るわ。邪神様もお呼びするわね』
鬼神がすぐに首肯した。邪神とはもちろん一の邪神のことだろう。一の邪神は禍神の分け身にして御子神の一柱。正式な神格は葬邪神である。なお、フレイムが取っ組み合いの喧嘩をした末の邪神は、骸邪神が正式な神格だ。神にも個体差があるため、同じ邪神でも一柱一柱微妙に神格が異なる。
フレイムは顎に手を当てて思案しつつ、ウロウロと左右に歩く。
(かなり想定外の事態になっちまったぜ。うーん……どうすっかなー)
そして、鬼神と狼神、呼び出しに応じてやって来た一の邪神と共に、大至急で今後の打ち合わせと情報のすり合わせを始めたのだった。
『けれども、生まれ落ちた先の過酷な環境のせいで、ヴェーゼの魂はまた傷付きに傷付いていた。だから心配で心配で……厳重にあの子を抱え込んでしまったの。聖威師としての心技体を完成させるまでは、不確定要素は極力取り除きたくて、あの子の素性と情報は一部の悪神以外には伏せていたわ』
そう言い、鬼神は再度頭を下げた。艶めかしい所作と共に、射干玉の髪が波打って揺れる。
『狼神様と焔神様へのお伝えが遅くなったことについて、心からお詫びします』
フレイムは天を仰いだ。
『それがこれまでの経緯ですか……』
こちらにも準備や段取りがある。できればあらかじめ一部の情報だけでも共有しておいて欲しかったが……もう過ぎたことだ。終わった過去よりも、現在の対応と今後の方針の方が重要である。
『大事なのは今後どうするかです。セインは実兄の生存を知りませんから、伝え方から考えなくてはいけません。あなたの愛し子……アリステルの方はどうなんです。彼はどこまで把握してるんですか?』
『まだ何も知らないわ。自分が両親だと思っている男女が実は叔父夫婦だということも、実の弟の存在も、何も。けれども、近いうちに全て伝えるつもりでいるわ』
『全てとは、神の愛娘と称されたレシスの先祖についてもですか?』
『ええ、そのつもりよ』
『そうですか。では兄弟で情報が偏らないよう、セインにも祖先のことを教えておいた方がいいですね』
あの子がもう少し大きくなってからと思っていたが、今話すならばそれはそれでいいだろう。
『後は……アリステルの性格などについて知っておきたいんですが。サーシャという少年を命がけで守ろうとしたことから、優しさや情は持っているように思いました。一方で、虐待者に復讐すると宣言してもいる。彼の気質や思考はどんな感じなんですかね?』
『一度胸襟を開いて受け入れた者にはどこまでも優しいわ。前世の気質も健在で、恐ろしい姿の悪神を恐れたりもしない。ただ、サーシャの方が怖がるのよ。弟が怖がって泣けば、ヴェーゼも心配して心を痛めるから、今の私は極力この姿でいるようにしているわ』
鬼神が自分の胸に手を当てた。彼女が異形の本性に戻らないのはそれが理由だったのだ。
『アリステルに前世の記憶はあるんですか?』
『ええ。少し前に思い出したようよ。聖威師の修行が終わった頃にね。前世で私と邂逅した時のこともちゃんと思い出してくれたわ』
嬉しそうに答えた鬼神だが、ふと真面目な表情になって続ける。
『それから、ここからが重要なの。私の愛し子であるヴェーゼは悪神よ。悪神に相応しい、冷たく厳しい物言いをすることも多いわ。あと、神だから同胞には優しいけれども、神以外で害になると判断した相手には一切の情がないの。当波と同じくらいかしら』
『そりゃ厳しいですね』
フレイムは思わず呟いた。
当波は穏和な皇国人の容姿で生まれたものの、内面の気質は圧倒的に帝国人寄りだ。一位貴族と大公家は代々通婚を重ねているため、身の内には両国の血を汲んでいる。
加えて、僅か1歳で雷神に見初められた鬼才であるため、人間として生きた記憶がない。ゆえに、その精神は純粋な神に限りなく近い。言い換えれば、人間らしい情が非常に薄い。
身内である者――つまり神格を持つ者に対しては常に穏やかで慈愛深いが、神ではない者に対しては態度も気配も激変する。特に歯向かう者には芥子粒ほどの情け容赦もない。
その当波とタメを張るというのは相当だ。
『といっても、それほど心配は要らないと思うわ。フルードも神だから、ヴェーゼにとって身内枠に入るはずよ。例えすぐに実弟と思うことが難しくても、大事な同胞だとは認識するはずだから、最低限の親交は温められるでしょう』
『確かにそうですが……まずはセインに事情を話さなくては。兄弟そろって修行が終わった以上、今後は二人とも神官府に戻って互いと関わっていくことになるんですから』
狼神と視線を合わせて頷き合ったフレイムは、今後どう動くかを高速で検討し始めた。
『鬼神様、アリステルに関わる情報をもっと詳しく、可能な限り教えて下さい。こっちもセインについての質問には、答えられる範囲で全部答えますから』
『ええ、もちろん。そのために来たのだもの。遅くなったとはいえ、今後はきちんと連携を取るわ。邪神様もお呼びするわね』
鬼神がすぐに首肯した。邪神とはもちろん一の邪神のことだろう。一の邪神は禍神の分け身にして御子神の一柱。正式な神格は葬邪神である。なお、フレイムが取っ組み合いの喧嘩をした末の邪神は、骸邪神が正式な神格だ。神にも個体差があるため、同じ邪神でも一柱一柱微妙に神格が異なる。
フレイムは顎に手を当てて思案しつつ、ウロウロと左右に歩く。
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