かつて世界を救った英雄は、いつの間にか女神にされてやさぐれてました ~世間知らずの修道女が、物理で殴る最強魔術師と共に偽りの神話を暴く~

青山茜

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第1章 偽りの女神

第二十二話 未来への恐れ

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『魔物退治だ!』
 
 その言葉を聞いた私は、テオが突きつけてきた紙へ擦り付けるように顔を近付けた――

 【依頼書】

 難易度ランク D
 期間 受領より一週間
 依頼者 ウーガ・シューベルト・シュライン子爵
 依頼内容 シュラインの街と付近の街道利用者の安全確保の為、シュラインの街周辺の魔物を十体以上討伐する事。討伐の証拠として魔物の体の一部を提出せよ。
 報酬 銀貨十枚+歩合


――私は初めて見る依頼書に目を輝かせる。

「これが……依頼書!」

 魔物退治!
 夢にまで見た冒険への第一歩!
 
 ゴブリンにデーモンベアにアンデット、そしてドラゴン!
 それらを二人と共にバッタバッタと倒していく!
 そして財宝眠るダンジョンを攻略して、知られざる未知の遺跡を探検していると守護者が現れて私達の目の前に!
 
 これぞ、ザ・冒険だ!

 私がそう胸を躍らせていると、アルシアも依頼書を横から覗き見る。
 そして溜息をつくと、テオへジトッとした視線を送る。

「アンタ……これ余りものじゃない」
「仕方ねーだろ! 昨日のあの時間に魔物と戦えるような依頼なんて、こんなもんしか残ってねぇんだからよ!」
「だからってこんなの受けるなんて、バカじゃないの」

 アルシアはうんざりしたような顔をしている。
 これはそんなに良くない依頼なのだろうか。
 私は気になって、アルシアに聞いてみる。

「この依頼は、そんなに悪い依頼なんですか?」

 するとアルシアは溜息を付いた。

「これはこの辺りを治めてるシュライン卿が定期的にギルドへ出す依頼なのよ。難易度もそんなに高くないし報酬も悪くないんだけど、完了報告をする為に、シュライン卿の屋敷へ行かなきゃいけないの」
「え、それって……」
「そう。だから残ってるの。冒険者は領主とか堅苦しいのを嫌うからね」

 その説明を聞いて私は察した。
 依頼の完了報酬するには領主と会わなければならないと。

「あの、もしかして領主様に会う事になるんですか?」
「そうなのよ……。しかも間の悪いことにアイツ教団とベッタリよ。だからいつも聖騎士団をはべらせてる」
「それは……マズイですね」

 それはアルシアにとってかなりマズイ。
 そんな所へ行けば絶対に騒ぎとなるし、最悪捕まるかもしれない。

「それに聞いた所によると、あいつ神官でもないのに教えだ何だと説教してくるらしいわ」
「それについては……私からは何とも言えないですね」

 その話を聞いて、私は思わず苦笑いしてしまった。
 信心深いのは結構だが、無闇矢鱈に説教をするのはいただけない。
 説教をするにも相手への配慮がないと。

 私の苦笑いを見たアルシアは腕を組んだ。
 そして『う~ん』と悩むように首を傾げた。
 
「まぁ……一応受諾者が会えば、それで問題ないはずだから……ッ!」
 そこで、アルシアはハッとした表情を見せた。
 そして、恐る恐ると、テオへ視線を送る。

「……誰の名前で受けたの?」
「ん? アルシアだけど」
「バカなの!?」
「んだよ! いーじゃねぇか!」
「良くないわよ! 面倒な事になるでしょうが!」
「俺はオメーの事を思ってだな!」
「そもそも私はEランク!」
「俺はDランクだから問題ねぇ!」
「大ありよ! よくギルドも認めたわね!」
「そりゃ俺がパーティー登録したからな!」
「はぁぁぁあ!?」
「これで俺達正式にパーティーだぜ!」
「なに勝手にしてるの!?」

 また二人のコントが目の前で始まった。
 私はそれを微笑ましく眺めるが、実際問題アルシアが領主へと会わなければならなくなるのは問題だ。

 テオはアルシアが世界の監視者である事を知らないので、この依頼の問題点に気付けないのだ。
 これはどうするべきか……。

 私はアルシアにどうするか尋ねてみる。

「アルシアさん……どうするんです?」
 するとアルシアは眉をひそめる。
「んん……どうするもこうするも……」
 
 そう唸っていると、テオが平然とした顔で言った。

「もう取り消せねぇだろ」
「分かってるわよそんな事!」
 
 アルシアは怒鳴って手に持っている煙草をテオへ投げつけた。
「アッチィ!」
「アンタは、ほんっとにもう余計なことをしてぇッ!」
 
 煙草がテオの右手に当たった。
 私はそれを見て慌てて駆け寄る。
 
「だっ大丈夫ですか!?」

 私はしゃがんでテオの右手を両手で取り、火傷をしていないか確認する。
 見てみると、どうやら火傷はしていないみたいだ。
 だけど可哀想なので、煙草が当たった所を右手で優しくさすってあげる。

「ホントにもう……」

 流石にやり過ぎです。
 テオさんが可哀想じゃないですか。
 いくらなんでもおふざけが過ぎます。

 そうさすってあげながらチラッと見上げると、テオはほんわかした表情になっていた。
 そしてポロッと言葉を漏らす。

「ミアは優しいな……コイツと違って……」
 それを聞き逃さなかったアルシアはカチンとした表情を見せると、またテオに怒る。
「アンタが怒らすからでしょうが!」

 名コンビだな……。
 
 この二人が居たら本当に退屈しない。
 とても楽しい。
 私はこの二人と一緒に、ずっと冒険者をやりたいなと心の底から思った。

――だが、兎にも角にも現状それは難しい。
 何か考えなければ。
 けれど何も思いつかない。
 どうしようか。

 私は不安のあまり、アルシアへと顔を向けた。
 するとアルシアは私の顔を見て、不安に思っている事を察したのか「はぁ」と溜息をついた。
 
「……貴族の依頼を一度受けたらもう断れないし、やるしかないでしょ」
「でも……」
「私の名前で受けちゃったからには、シュライン卿に会うのは避けられない。腹を括りましょ」

 アルシアはそう言って再び溜息をついた。
 そんな様子をテオは見て、不思議そうに呟く。

「そんな腹をくくるほどのもんか? 面倒なのはわかるけどよ……」

 私はその声を聞いて考える。
 やはりテオにもアルシアの正体を伝えた方が良い。
 テオはわかっていない。
 このままだとすれ違ったまま事が運んでしまう。

 私は意を決して、テオを見上げる。
 
「あの……テオさん」
 するとアルシアが呼び止めた。
「ミア」

 私を呼ぶ声からは、必死さが感じ取られた。
 振り向くと、アルシアが私をジッと見つめている。
 彼女の瞳には、『言わなくていい』という断固とした意志が感じられた。

――けど私は、それは間違っていると思う。

 テオは、まだアルシアが私達から離れようとしているのを知らない。
 だから彼は冒険者として一緒に、ずっと一緒に冒険を出来ると思っている。
 私も、ずっと一緒に居たい。
 一緒に依頼をこなして、一緒に馬鹿みたいに笑って、泣いて……そんな風に冒険したい。

 だけどアルシアは、私達の目の前から姿を消す。
 それは教団から逃げるために、そしてきっと私達を守るために。

 絶対に言わなきゃダメだ。
 アルシアさんが実は世界の監視者だということを。
 実は神の祝福者アルシアだということを。
 そうしなければ、アルシアさんが一人になってしまう。

 大丈夫。
 きっとテオさんなら分かってくれる。
 この人なら『なんじゃそりゃ?』って笑い飛ばすに決まってる。
 ……そう思う。
 
 私は決断した。

 そして、私が左手で掴んでいるテオの右手をギュッと握り締めた。
「来てください」
 そう言ってテオの右手を引っ張り、私は昨日行った路地裏へと歩き出す。
「お、おい!」
 テオは困惑した声を出すが、抵抗せずにそのまま付いて歩いてくる。

「待って!」

 必死に叫ぶように、アルシアの声が飛ぶ。
 同時に、掴んでいる手が少し引っ張られる。

 足が止まった。
 テオも止まっている。

 振り向くと、アルシアが顔を伏せ、テオの左手を両手ですがりつくように掴んでいた。

 その掴む手はまるで抵抗するように、恐れるように、そんな風に見えた。

 伏せた顔へは前髪が垂れ落ちて、その感情を覗き見る事が出来ない。
 
 そして、いつもは余裕たっぷりのはずの彼女の口から……、か細い声が、こぼれる。

「……まって」

 その声は、怯えているように、聞こえた。

 アルシアの、その怯え乞い願うような声と、握る両手。
 テオは、それをジッと見つめていた。

 彼はそんな彼女を見て、何かを感じ取ったのだろうか。
 ゆっくり、優しく諭すように、言葉をかける。

「一緒に来いよ。そこで話を聞いてやる」

 その言葉に、アルシアはうつむいたまま、そっと言った。

「……うん」
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