不定期∶王道無糖

加速・D・歩

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本編

61 彼女を助けて──

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「おー、派手にやってんなあ」
「ええっと、あの方はどちら様?」

 アタシの妹レイラを助ける為にクロくんの仲間であるリジュちゃんとヴァルシュさんで彼女が捕まってるという建物に乗り込んだわ。隠れつつも建物内に居る使用人や警備を眠らせたり隙を見て移動し最上部に着きましたわ。

『よ』
『っ、って! なんでクロくんが居るのよ、貴方今日試合でしょ?!』

 部屋に乗り込もうと機会を伺ってたら後ろから声がしてビックリして見ると今日試合してる筈のクロくんだったわ。

『わーい! ご主人様一緒に行くのぉ?』
『主もう終わったのか?』

『ん、まーな。ほっといてもまあ何とかやるだろ。』
『『?』』

 リジュちゃん達と同様に首を傾げつつクロくんの言ってる事にハテナを浮かべる。とにかく今は何にしても早くアタシはレイラを助けたい! だから……

『あの部屋にレイラが居るはず。乗り込むわよ!』
『うんっ!』

 アタシのスキルを使いつつ大きな扉を開け入る。広く昼間なのに薄暗い部屋の中、大きな水槽があってそこにはずーっと会いたかったレイラが力なく漂っていた。

『かなり酷い目に遭ったみたいですね』
『腕が無いね、痛そう』
『そんな、レイラ……うう』

 両腕は無いし、綺麗だった鱗も剥がれて無残な扱いを受けてる妹を見てアタシはもっと早くに来れればと悔やむけど、彼女の意識はまだある。はやく病院に連れてかないと! 今度は何をしてでも助ける! と改めて気合を入れる。

『ご主人様何見てるのー?』
『ん、外。ほらアイツらが試合やってるだろ?』
『あ、カゲさん頑張ってますね』

 アタシが決意した時に気が抜ける会話、それが冒頭に繋がるわ。
 

 外が見える窓を見るとカゲさんというクロくんの弟さんが戦ってるのが見えた。アタシはレイラを助ける為に準備しつつも観ると試合相手は──え、

「おー、派手にやってんなあ」
「ええっと、あの方はどちら様?」

「んー? 俺?」
「え? え、?」

 アタシがクロくんに《化かし》でか弱い女の子の姿にした、そのまんまの子がそのカゲさんって方と激しい戦いをしてた。
 え、でも現にクロくんはアタシの目の前にいるし……意味が分からないわ!


「「侵入者だー! であえであえ!!!!」」

 ドタドタと足音がこっちに来るのが分かる。ヤバいわ!

「そういや、このレイラって水から出してもいいの?」
「ええ、一応彼女自身が水の膜を出せますから……でも怪我してるし、」
「ん、分かった。とりあえずここから脱出するぞ! ついて来い」
「「はーい!」」

 水槽からレイラを出してクロくんが意識の無い彼女を抱きかかえると窓を割って飛び出る! ビックリしてるとリジュちゃん達が続いて飛び出してアタシも窓というかヴァルシュさんが壁をも破壊して飛び出たのに続く。

 最上階から飛び降りたから結構な高さ──アタシはすかさず、《マジック》で地面を柔らかくして着地したわ。

「わーい! ポヨンポヨン♪」
「跳ねる床で喜ぶなんておこちゃまですね」
「むうー!」

 上を見上げると壊れた壁から兵士達が覗き見てた。まさかそこから落ちるなんて思いもよらなかったのでしょうね。アタシは意識のないレイラに《マジック》をかけて気休めに保護する。腕がなくなってるのもどうしようかと思ってると。アタシたちを見て数人駆け寄ってきましたわ。クロくんの知り合いみたいね。

「クロくんっ! その方は? 怪我がひどいわ」
「ん、コイツの腕治る?」
「んん、そうね……できなくは無いけど場所と色んな物が足りないわ、何処かちゃんとした場所で──」
「あの、クロくん。そちらの方は?」
「あー、こっちがソユラ。聖女やってる。んで、こっちはアーニャ、怪盗だってさ」

 雑に紹介されましたわ。それにしても聖女様なのですね。

「アタシの妹レイラを治して欲しいの! お金は、多額でもどうにかして──」
「大丈夫よ、とりあえず腕は一時的に魔法で仮を作って……酷いわね、ここもんん、ここね。《ターンオーバー》うん。よし、じゃあ治療できる所に運ぶわよ! クロくん、手伝って」
「アイアイサー!」

 その瞬間、目の前の風景が変わってどこかの建物の中に居たわ。ソユラ様は気にしてないのか、レイラを移動させて白い部屋に連れてく。クロくんもそこに入ったからアタシも──

「アーニャさんは外で待ってても良いのよ?」
「お姉ちゃん……」
「レイラが心配だから、横で見守ってるわ」
「なら、彼女の手を持っててあげて」
「ええ」

 仮の手を持ち逆の腕から、ソユラ様とクロくんが治す治療を始めた。

「んー、まぁ僕のコレでも使って媒体にしてよ」
「そうね、……これなら出来そう。《アートィフィシャルアーム》」

 レイラの肩からマナ製の腕が生えてくる。それは傷つけられる前の彼女の腕、手、爪先まで遜色のない出来で、彼女も手を握ったり、指先をバラバラに動かして確認してる。

「すごい! おねぇちゃんすごいよ!」
「ええ、本当ね……っ」

 もう片方の腕も同じく生えて、体の鱗も綺麗に治ったわ。少し疲れてた彼女は寝てたんだけど目が覚めた彼女は捕まる前の姿に戻ってて嬉しくてつい抱き合う。




「レイラ……良かった」
「おねえちゃん、わたし……あれ、涙が……」

 キラキラと、レイラの宝石に生成された涙が落ちていく。人魚族は素敵な歌声と嬉しい時に流れる涙の宝石が有名なせいで昔から乱獲される種族だった。
 だから、アタシの祖母が何処かの海でレイラを託されたらしくて、祖母もすぐに亡くなっちゃったから詳細が分からないんだけどアタシの妹として育てられたわ。

 人魚の涙が一人歩きしたせいで、こうやって虐待……暴力を振るって泣かせて宝石を作ろうとする者達が居る。だけど、人魚の涙は彼女たちが嬉しい時に流す涙が水晶化して出来るもの。ただの石ではなくマナも含まれてるから魔石に分類されるらしいわ。だから一部の研究者は人魚は亜人種ではなく魔族と分類し、海に出た船の乗組員を誘惑して海に引きずり殺すなんて噂すらたてた。

 こうして、人魚は人目のつかない深海に近い海に住み他種族と関わることがなくなってたんだけど、祖母に何故レイラを渡したのか……人間じゃなくてもこうやって彼女を傷つける者は沢山いたというのに。


 でも、クロくんに会えたおかげで……ソユラ様にレイラの怪我を回復してもらえる。そうじゃなきゃアタシ1人では解決も彼女の回復も出来なかった、と思う。




「あの、本当にありがとうございました!」
「本当にお金、必要ないの……?」
「大丈夫よ」
「でもアタシ達も何か役に立てることは……」
「んじゃ、魔王討伐に参加する?」
「「え?」」


 レイラの体の欠損部分を普通に治療できたとして、多額のお金が必要だと思うんだけど、ソユラ様からは「いらないわ」と言われでも、アタシ達に何か出来ることは……? と聞くとクロくんが「魔王討伐」って、3人で驚いてしまったわ。

「あと、次行くところにレイラが必要なんだよね」
「私、ですか……?」
「うん。海底神殿ってのがこの街の海の底にあるんだけど行かないと行けないんだ。で、キミの、……協力が必要なんだ。」
「わ、が、頑張りまひゅ……!」

「・・・」


 クロくんがレイラの両手を取り、ジッと見つめながらそういうから彼女が緊張しながらも頭を縦に何度も振る。それをソユラ様が……大丈夫かしら険しい表情をしてたけど……

 こうして私達も魔王討伐パーティーに入る事になったわ。人生何があるか分からないわね。



+メモ
人魚族…一応亜人種の方。元々は海の上の方に住んで岩場とかで日光を浴びたり、仲間同士で歌を歌いあったりしていた。
本を書く者や吟遊詩人から人気ではあるもののそのせいで、デマが流れ始める。人魚の肉を食べると不老不死、彼らの涙は宝石、恋をすれば泡となって消える。
そのせいで、いっとき金儲けの為に乱獲され不必要に殺される事になった。その為、人けのない海や深海などに住むようになった。

セイレーン…魔物の方、こっちが歌を聴かせて海に引きずり込む方。元々人魚体ではなくハーピィと同じく鳥だった。が、色々あって人魚の姿も登場し、人魚族からはものすごい嫌われている。


《ターンオーバー》皮膚再生
《アートィフィシャルアーム》マナ製の義手今回はクロくんが媒体を渡してる。

(⁠.⁠ ⁠❛⁠ ⁠ᴗ⁠ ⁠❛⁠.⁠)多忙からの別の話を書いてて更新止まってたけどまたちまちまやっていくと思います。
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