健康優良男子が不健康女子に片思い中です。

法花鳥屋銭丸

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中学編

中三・立冬の次候①

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 最近早めに塾へ着くようにしているのは宿題をするため、というのはもちろん建前で、本当は、イコが少し早く来ていないか気になるからだ。
 イコが早く着いていれば、少しだけ一緒にいられる時間が増える。もしかしたら、2人きりで話せる時間があるかもしれない。
 そう思い今日も早めに町支部校へ着くと、職員室から伊井先生が顔をのぞかせ手招きした。

「岩並、ちょうどいいとこ来たな。話聞かせてくれ」

 挨拶する前にいきなり要件を伝えられ、いぶかしみながら職員室へ入ると、伊井先生のイスにちょこなんとイコが座っていた。

 膝を揃え、その上に両手を置いて行儀良く座っているのだが、足だけぷらん、と小さく揺れている。伊井先生用のイスのため、足が床に付かずにいるのだ。可愛い。
 イコはこちらに気付くと挨拶代わりにこちらへにっこりした。可愛い過ぎて困る。崩れそうになる顔を維持するべく気合をいれながら、微笑み返して視線を先生へ向ける。

「岩並、学舎の推薦取れそうか」
「期末テストも考慮されるので確定ではないですが、一応、内定の話は出てます」

 空いていたイスを勧められ、ついでにごま煎餅の袋を放られて、落とさぬように受け取りながら答える。

「そっか、そりゃそうだろうな。岩並が推薦ダメなら誰がいいんだって話だもんな」

 伊井先生は立ったまま腕を組み、参考書でぎちぎちの棚へ寄りかかった。そのままあごでイコを示す。

「でだ、そこにいる奴が学舎の専願を受けるわけだが」
「えっ」

 ばき、とごま煎餅が手の中で割れた。

「試験日は岩並が推薦で1月15日、専願の世渡が翌日の16日だな。一緒に高校の場所やバス停なんかを見に行っとくといい」
「えっ」
「岩並君、よろしくね!」
「えっ」

 言葉が頭に入って来ない。

「世渡、学舎受けるのか!?」
「うん」
「なんで」
「推薦以外では試験日が1番早い私立の進学校だから」
「!?」

 なんだその理由! 混乱のあまり、救いを求めて伊井先生へ視線を向ける。

「世渡が受験シーズンずっと寝込まないでいられる保証がないだろ? なるべく早く決めておきたいっていう、親御さんの意向だな。本当は推薦が1番早いんだけどなぁ」
「出席日数足りないから推薦は無理だよう」
「だよな」

 顔を見合わせてうなずく2人。
 俺はどんどん不安になってきて、座っているイスのキャスターを動かしイコの前へ行く。

「そんな決め方でいいのか世渡」
「学舎なら3教科で合格圏内だっていうし」
「県内で1番厳しい高校だぞ?」

 俺の問いに苦笑いしたのは先生だった。

「厳しいのは校則な。別に肉体的に無理させるわけじゃない。大体だ、岩並。考えてみろ。この世渡に、校則違反なんてやんちゃする体力あると思うか?」
「それは……そうかもしれませんけど」
「制服だけじゃなくて、コートも靴も指定なんだよね! 選ぶの悩まなくていいよね」
「ほらこんなだし」

 な? と言われても、すぐには納得できない。イコと学舎が結びつかない。大丈夫なのか? 本当に?
 俺の困惑に先生がため息をついた。

「あのな、『学舎の推薦が難しい』のは、中学校から推薦者を送り出しにくいってことなんだよ。校内首位の成績で内申点も高い人間は、まず県一けんいち狙いなの。学舎行かないの。お前みたいに絶対学舎行きたいって奴の方が珍しいの。わかるか?」

 県一。県立第一高等学校のことだ。ここは県内の高校ランキングで不動の1位を誇る。学舎とは対照的な自由な校風で、制服もない。

「首位の人間が学舎に行きたがらなければ、中学校は推薦者を用意できない。よって推薦入試の希望者も減る。それが『受ける前から狭き門』の学舎の実態だな」

 学舎の推薦条件は、『校内成績上位1%、高い内申点、学舎を熱望する理由がある生徒』だ。確かに満たせない場合もあるだろう。

「あそこは自校のブランド化が上手いんだよ。設立経緯も格好いいし、県内でマイナースポーツやってる人間には聖地で通ってる。スポーツ以外がんばらなくて偏差値届かなかった人間には、高嶺の花だってのも確かだ。他じゃ珍しい部活を餌に成績優秀者を集めて『文武両道』とか言ってるけど、実際のところ進学校ランクだけ見れば、世渡でも手が届くからなあ」

 伊井先生いわく。

 無茶な条件の推薦は、学舎が『文武両道』を体現するような、学校のイメージを支えるエースをとるための枠。専願で高い学費を払える一般生徒を早々と確保し、併願は許さず一般入試はないも同然。
 併願希望者から受験料をかき集めるような商売が必要ないのは、入学金その他が他より高いだけでなく、県史と関係の深い成り立ちにより県財界から寄付金が多く寄せられるから。他の学校にはないような部活動の環境も、その金が支えている。

「このご時世に『うちに来たいとはっきり言えない奴はいらない!』なんて格好つけられるのも、金に不自由してないせいだろ」
「先生待って岩並君死にそうな顔してるから!」

 イコは先生を制すと、俺の両手に手を絡めて見上げてくる。小さな手の感触が、動揺した俺の心をゆっくり静める。

「ずっと憧れの学校だったんだもんね岩並君。学舎で空手やりたかったんだよね? なんかごめんね、私なんかが気軽に受けるの決めちゃって」
「いや、世渡が学舎ってイメージがなかったから、驚いただけだ。確かに、部活に興味のない人間には学舎もただの進学校だよな」

 ゆるく頭を振って気分を切り替え、心配そうに見上げてくるイコに笑って見せる。そうだ、2人とも受かったなら、同じ学校に通えるのだ。イコと一緒に高校生活が送れる。

「専願も面接はあるんだろう? 志望理由は大丈夫か? 俺も今度練習しないといけないんだ」
「うーん?」

 俺の手を握ったままイコは首をかしげた。

「早く決まって楽ちんだからって、言っちゃ駄目?」
「それ口に出したら一発で落ちるぞ世渡」
「まあ世渡は得意の作文能力で、気位が高い学舎も喜ぶような理由を考えるだろ」
「―――伊井先生、学舎嫌いですか」

 長年の憧れを壊され、少々恨みがましくなってしまうのは勘弁して欲しい。

「まあ、なあ。そうだな」

 俺の質問に歯切れ悪く応じた先生は、組んでいた手をほどき、俺たち2人の頭を同時にぽんぽん、となでる。

「俺の妹が弓道目当てで学舎行ってさ、親が3年間でたんまりふんだくられたんだ。岩並も世渡も、合格したら、こころよく学舎に送り出してくれる親に感謝しろよ」

 そうして、優しく笑う。

「まずはちゃんと受かろうな。面接の練習も付き合ってやるからさ!」

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