健康優良男子が不健康女子に片思い中です。

法花鳥屋銭丸

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中学編

中三・大雪①

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 期末テストも結果が出て、俺の内定だった推薦が確定に変わり、後は終業式を待つばかりとなった。
 イコは永井が志望校を決め落ち着いたためか、一時期の不安定さがなくなったように思う。楽しげな笑い声を耳にするたび、胸の奥がくすぐったくなる。

 まだ天気のいい間にと、イコと2人で学舎へのバス路線を調べて、12月になる前には下見も終わらせた。
 前回と違いこちらの下見では問題も起きなかった。電車と違い乗っている時間が長く、2人で座りながら、他愛ないことをずっと話していた。
 ただひたすらイコは可愛く、俺は幸せ過ぎて時折ぼんやりし、デート(仮)の時間は夢のように過ぎていった。
 幸福な時間というのはとても短い。

「岩並君、岩並君」

 来て早々、鞄も降ろさずイコが俺を呼ぶ。その小さな唇、可愛い声で名を連呼されれば、どんなことだって応じてしまいそうだ。
 壺だの何だのを買わされた、デート商法被害者の浮かれっぷりがわかってしまいそうで怖い。
 平常心、と自分に言い聞かせ、すぐにでれでれになってしまいそうな顔に気合を入れる。

 最近では2人とも、こうして塾へ早めに来て勉強会の相談などをすることが多くなった。去年の今頃とは比べものにならないくらい、一緒の時間を過ごせている。

「どうした世渡」
「岩並君って欲しいものある?」

 イコが欲しい。
 そんなことを口に出せるはずもないので、「いきなりどうした」と問うておく。

「最近とってもお世話になっているから、岩並君へクリスマスプレゼントを贈りたいなと思って。そんなに高い物はあげられないんだけど、何か欲しいものがあればぜひ! 教えてほしいんだ」

 寒い外から来たばかり。ひんやりした空気をまとったまま、イコは俺の返事を待っている。その、冷たい頬に触れ、手のひらで温めてやれる権利が欲しい。もちろん言えないが。

「急に言われても思いつかない」
「がんばって思いついて!」
「まずは鞄降ろしたらどうだ」

 俺の言葉に、素直に鞄や荷物いのちづなを降ろす。最近冷えるようになり厚着し始めたイコは、なんだか冬のむくむくしたスズメのようだ。可愛い。

「ねえねえ岩並君、欲しいもの! ない?」

 イスに座ってこちらを向くと、俺を見上げ小さな手で机をぺちぺち叩く。広げた細い指も白く冷えているようだ。指の間に、俺の指を絡めて温めてやりたい。

「いや、ぱっと出てこない。じゃあ、世渡だったら何が欲しいんだ?」
「ええとですね、それは物じゃなくてもいいのですかっ」

 イコがくれるというのなら、今年は俺からも贈り物ができるということだ。あわよくばプレゼントを選ぶヒントにならないかと思いつつ聞いた俺へ、イコが身を乗り出してきた。目がきらきらしている。

「参考にさせてもらうだけだから、何でもいい」
「岩並君のおっぱい触らせて欲しい!」
「お前は何を言ってるんだ」
「だって胸筋だよ! 触ってるときにぴくぴく動かしてみてほしい!」
「だってって何だ」

 参考にならないにも程がある。

「取りあえず筋肉から離れろ」
「ええ……」

 何でそんなに不満そうなんだ。どうもイコは自分にはあまりないせいか、筋肉への憧れをこじらせているように思う。
 イコは、残念、と呟きうつむいて真剣に考えはじめる。

「私が欲しいもの? 何だろ。健康?」

 切ない。あげられるものなら俺だってあげたい。

「うーん。画伯に絵を描いてもらう?」
「嫌だ」
「カラオケ」
「嫌だ」
「お尻を」
「嫌だ!」

 むうっ、とイコがむくれる。むくれたいのはこっちだ、どうしてピンポイントに苦手なものやためらうものを選ぶんだ。

「岩並君ちょっと出ししぶりすぎじゃないですかね、お金がかからない上に物も減らない、素晴らしいチョイスなのに」
「精神的な負担が大きすぎる。却下だ」
「もう、しかたないなあ」

 まるでこちらがダダをこねているような反応だが、俺はおかしくないはずだ。クリスマスプレゼントに尻とか訳がわからない。
 本気でねだられたら俺はきっと、デート商法の被害者並に、イコに負けて応じてしまうのだろうが、さすがにイコも無理強いはしてこない。

「欲しいもの、思いつきそう?」
「いや」
「そっかあ。いっそ、雑貨屋さんとか回れば思いつくのかなぁ」

 今の時期、世の中はクリスマス一色だ。出かけていけば何か欲しいものが見つかるだろうか。

「なんか不毛な会話してる?」
「知世ちゃん!」

 2人で首をひねっているところに永井が来た。さっさと鞄を降ろし席に座ると、頬杖をつきながらイコへ諭す。

「岩並君に欲しいものがないっていうなら、イコが岩並君にあげたい物にすればいいよ」
「あげたい?」
「着せたい、付けたい、使わせたいでも可」
「使わせたい……?」

 イコの目がきらっとした。なんだか嫌な気がしてきた。それは本当にただのアドバイスなんだろうな永井。悪魔の囁きではないよな!

「ありがとう知世ちゃん! オラわくわくしてきたぞ!」
「どういたしまして。決まったら見せてね」
「うん!」

 そうして2人は同時に俺の顔を見た。

「楽しみだね」
「楽しみ」
「う……」

 どうしよう。

 凄く、不安だ。

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