健康優良男子が不健康女子に片思い中です。

法花鳥屋銭丸

文字の大きさ
57 / 173
中学編

不健康女子の中三・冬至の初候

しおりを挟む
 
 電気は回復したけれど、立ち往生する車で麻痺した道路網のせいで、職員が集まらないから塾はお休み、と伊井先生から電話があった。

「ごめんね先生、あの後、無事着いた連絡入れなくて」
『便りがないのがよい便り、ってな。岩並もいたし、心配はしてなかったよ』
「先生はあの後おうち帰れた?」
『いや、塾で1泊した』

 軽く言われてびっくりする。

「ええ!? ご飯は?」
『大人を舐めるなよ? 災害対策に、車へ非常食や寝袋、着替えを積んどくのは常識だろう』
「うわあ」

 出た。出ましたよ伊井先生の常識。

 フレンドリーで優しくて、人畜無害な見た目をしているからわかりにくいけど、伊井先生は超意識高い系である。お世話になって7年目の私が言うのだから間違いない。

 伊井先生の「常識だろう」を聞かされた堂料先生がよく梅干し食べたミッ〇ィーみたいな口をしていて、「それ常識じゃなくて理想っスよ」と言いたいのをこらえてるんだろうなー、と私は密かに思っている。
 堂料先生、授業の仕方から何から伊井先生に教わって、伊井先生のこと凄く尊敬してるから反論できないんだよね。

「明日は講習ある?」
『その予定。ダメなら早めに連絡回すから』
「うん、わかりました。じゃあ先生も今日お休みかな。お疲れさま、やっとおうち帰れるね」
『どうもご丁寧に。連絡回し終えたら、入浴施設フロでも行ってゆっくりするよ。世渡は風邪ひかないように気を付けろ』
「はぁい。ではー、失礼しまーす」

 電話を切る。
 まだ朝方と言ってもいい時刻。昨日からのあれやこれやで興奮しているのか、特に用事もないのになんだかわくわくしている。

 昨日泊まった岩並君のおうちは広くて大きかった。農家へのお泊まりははじめてだ。来たときは暗くてわからなかったあれこれが、夜が明けてみればはっきり見えて、そこで過ごしているだけで楽しかった。

 凝った彫刻の欄間らんま障子しょうじの下半分が上にスライドする雪見障子ゆきみしょうじ、木の大きな1枚板で作られたふすま。和風建築の博物館にいるようでテンションがあがるあがる。
 でも、私が岩並君のおうちのような、昔ながらの家で暮らすのは無理かもしれない。

 だって夜の廊下がめっちゃ寒かったんだよう! あんまり寒くて膀胱炎になるかと思った。
 いや、トイレ行くだけだからと薄着に裸足で油断していた私も悪いんですよ? でも紙がないとか思わないじゃないか! トイレ使う前に気付いてよかった。そこだけは幸運。

 予備を見つけてもはるかかなたの棚の上。どうしようもなくなって、岩並君にSOSを出した。
 こうなることがわかっていた訳じゃないだろうけど、岩並君は何かあれば起こしてもいいと言ってくれていたから、SOSも出しやすかったのだ。

 しっかりしたいなあと思っても、結局頼っちゃうんだよね。こういうところ、早急に改善が必要です。

 お部屋で声を掛けたらすぐ返事が来て、しばらくごそごそ音がしたと思ったら、ちゃんと上着を着て動く準備万端な岩並君が出てきてくれた。
 私の姿を見て薄着に驚き、お部屋のストーブの前へ当たらせてくれる。優しい。着ていたフリースやおっきなスリッパを装備させてもらって寒さがましになる。

 着ていたフリースですよ奥さん、イケメンのぬくもりですよ! 「金出すからかわれ!」とか、岩並君ファンが知ったら言うのでは? かわってあげられないけど。

 ストーブ付けて起きてたらしい岩並君、きっと夜食を食べてたんだろうな。匂いからしてスルメなんだよね、スルメを火であぶって食べるとかそんな岩並君、カップ酒が似合いそうなことして。
 将来の酒豪確実でしょう。

 そんな酒豪の卵にトイレットペーパーを付けてもらって、入れ違いにトイレへ駆け込む。我慢も限界でした、間に合ってよかった。ほっとひと息ついた時。

 ゴッ!!

「!?」

 ものすごい打撃音がした。硬いものが勢いよくぶつかる音。なんだなんだ。用事を終えてトイレを出れば、岩並君が額を撫でている。
 寝ぼけたらしい。

 またですか! 指ぱっくんのことといい、岩並君最近眠れないんだろうか、悩み事でもあるのかな……。役に立ちたいのはやまやまですが、スペック高い岩並君の悩み事なんて私の手に負えない可能性が大きいんだよね。
 でも、いっぱいお世話になってるから、なんとかしてあげたいと、思う。

「うん、決めた」

 たくさんお世話になってるし、岩並君が喜んでくれる事を考えてみよう。
 何がいいかな。


 ◇


「知らない」
「あっさり!」

 東京から帰ってきた知世ちゃんが、土産片手に遊びに来てくれた。帝都ホテルのチョコを摘まみながら、お互いの近況報告会を開く。

 知世ちゃんは帝都ホテルから一歩も出ずに勉強していたらしい。家族でレストランに行くときも、1人だけルームサービス。
 じれて怒りだした知世ちゃんパパに。

『受験生をこんなとこに連れてきて喜ぶと思ってんの? 帝都ホテルに泊まって、それで何? レストランは綺麗な夜景でも見えるとこなの? 連れてって今度は家族を口説くの? 愛人喜ばすノリで家族を連れ回してどうするつもりなの? 受験生を喜ばしたいなら、合格祈願のお守りでも買ってこいよクズが!!』

 知世ちゃんの怒りが炸裂。猫をかぶるどころか口汚さをかくさないスタンスに変更したらしい。

「こっちの方が楽だから。もうはじめからこうしていればよかった」

 知世ちゃんパパはクリスマスに汚名返上どころか『愛人は喜ばせても家族は喜ばせないクズ』の汚名が増えた。合掌。

「で? あんたはどうなの、ワニあげた?」
「ワニが髪飾りになったよ」

 今付けているものと、ガラスのフタがついた銀のアクセサリーボックスに入れている、アイリッシュクロッシェのパッチン留めを見せる。

 知世ちゃんはしばらくアクセサリーボックスの方をじっと見つめていたが、眉間にしわを寄せた顔を上げて言う。

「この件に関してのコメントは差し控えさせていただきます」
「ええー……」

 なにそれ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

『続・聖パラダイス病院』

菊池昭仁
現代文学
『聖パラダイス病院』の続編です。こんな病院なら入院生活も悪くはありません。

診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。 そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。 「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。 時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。 多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。 この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。 ※医学描写はすべて架空です。

処理中です...