76 / 173
中学編
不健康女子の中三・大寒の次候
しおりを挟む誰もが無理するなと言ってくれるけれど、これ幸いと受験中読めなかった本を枕元に積んで読みまくっていたら、なんだかどんどんダメな人になってく気がしてきました。
どうも、小心者です! ちょっと前に熱がひいたものの、ちまたは依然インフル流行中。弱った体がウイルスを拾ったら大惨事と、なかなか家族から登校の許可が降りなかった。でもそれも今日で終わり。明日、月曜日から学校に行ける。
知世ちゃん経由でそう耳にした岩並君は今日、午後から顔を出してくれた。
正直退屈していたからめちゃくちゃ嬉しい。
「午前中、空手の先生の所へ顔を出して、少し体も動かしてきたから汗臭いかもしれない」
なんてことを気にしながら、休んだ間の塾のプリントを届けてくれたのだ。いやあ、なに言ってるんですか、大柄むきむきイケメン男子の汗のにおいとか、ひたすらにご褒美じゃありませんかひゃっほい! 嗅がせろ!
「ありがとう!」
私はプリントを受け取って、ぽすんとベッドへ座る。もう普段着を着ているけれど、「明日から学校に行くんだから、大人しくしていましょうね?」と自分の部屋に軟禁状態なのだ。岩並君はクッションの上にあぐらをかいて落ち着かなさそうにしている。
ベージュのハイネックセーターの裾からちらりと白シャツが出ていて、今日の岩並君もなかなかのお洒落さん。さすが専属スタイリスト烈お姉さん(暴君)がいるだけはある。
これだらしなくなっちゃう人いるよね、「シャツの裾はズボンに入れなさい!」って叱られちゃうタイプ。かく言う私もそうです。
テーブルの上には紅茶とお菓子。ザラメジャリジャリの、私の好きなカステラだ。
「岩並君カステラどうぞ。紅茶はね、信楽高原のお茶なのですよ。貰いものだけど美味しいの!」
「ありがとう、いただきます」
岩並君がお口からジャリジャリ音を出しているのを聞きながら、私はベッドにプリントを広げる。
国語に数学、英語に理科に社会。
「ううーん?」
「どうした」
腕を組んでうなっていると、岩並君がこちらを振り向いた。お口にカステラのカケラが付いておりますよ旦那。超可愛い。
「わかんない」
「なにが」
「数学がピンとこない」
「えっ」
1週間ごろごろしているうちに、数学の勘どころがサビついたらしい。ダメになるの早いな! 自分でもびっくりだ。高校に合格して、安心しすぎてやる気が出ないせいかもしれない。
こんな調子でダメになったら3月の実力テストでは、0点量産機になってしまうのではなかろうか……?
血の気がひく。
「いっ、岩並君!」
私はベッドからしゅるん、と滑り落ちて岩並君の横に座った。手にはもちろん数学のプリントだ。彼に見えるように胸元へ掲げながら、涙目で頼み込む。
ああ神さま仏さま岩並さまお願いです。
「勉強教えて!!」
あとそのお口のカステラ、可愛すぎるのでなんとかしてください。
◇
私は岩並君の足の間でぷるぷるしながら彼の話を聞いている。
頭の上から低い声が降ってきて、屈強な手足が左右にあって、背中からすっぽりとむきむきな体に包まれて、ぽかぽかするし汗のにおいするしもうダメ。
堪らないです、ごちそうさまです、神さまありがとう……! きんにくさいこう。
ただ今幸せに打ち震えております。
集中なんかもちろんできない。
どうして今、岩並君と『親と子の読み聞かせ状態』になっているかというと、私の部屋のテーブルが小さくて、岩並君の体が大きすぎるせいなのだ。
私がテーブルを挟んで彼の前に座ると、岩並君の体が大きすぎて手元が暗くなり。私が彼の隣に座ると、鉛筆握って解説する岩並君の手が大きすぎプリントが見えなくなる。
1階の和室は大きいテーブルだからこんなことは起こらない。私の部屋だからだ。
残念、今日はお勉強なしかあ、とへこんだ私を、岩並君はひょいっと足の間へ座らせた。内側から見るなら、彼の大きな手もプリントを隠さない。
これならはかどりますな! と思ったけれどそんなことはなかった。集中できないよー。鼻血でそうだよー。どうしよう、せっかく岩並君が教えてくれているのに。
落ちつかなくて岩並君の顔を見上げると、「ん? どうした」とこちらを見る目も顔も柔らかくて、甘くて甘くてどうしよう。フェロモンに当てられちゃってそう見えるんだろうか。岩並君がきらきらして紗がかかってて凄いです。
恐ろしい。イケメン恐ろしい。こんなパワーがあるとは……!
枯れたおばあちゃんでも女性ホルモンドバドバ出るでしょうなこれは。病み上がりにはキッツいです。もう私ほんとに。
「排卵しそう……」
「イコはいつからニワトリになったんだ。これ、そんなに難しくないぞ」
「コケッコ!」
集中できない原因は他にもある。ときどき頭がムズムズするのだ。
私の髪はくせっ毛だから、きっと岩並君のあごをくすぐっているに違いない。だから本日何度目かのムズムズの後、「ほっかむりでもしようか?」と訊いたけど、大丈夫だからと却下された。
「ほっかむりしてる人間を足の間に座らせて教えるなんて、笑いすぎて勉強にならないだろうから止めてくれ」
確かに絵ヅラがひどい。鏡を見たら私だってきっと笑う。
「ごめんね岩並君。くすぐったいでしょう、私くせっ毛だから」
「そうだな、ふわふわしてるな」
岩並君の手が頭に触れた。
大きくってあったかい手が、優しく何度も髪をすきながら頭をなでる。気持ちいい。これ好き。嬉しい。生きものを可愛がり慣れてる魔法の手だ。
熱が出た日もこうしてくれた。
あれはどこまでが現実なのか、なにが夢なのかまで覚えていないけれど、眠るまで一緒にいてくれた。
岩並君はそのまま私に訊いてくる。
「イコはなにか、欲しいものないか?」
「健康」
「あげられたらいいんだけどな」
「どうしたの岩並君?」
見上げると、私の頭をひとなでして思案顔になる。
「来月、誕生日だろう」
「覚えててくれたのですか! マメだね」
「ふとんの日でニートの日だろう? 忘れにくい日だな」
語呂合わせ最強説きましたー! 印象強いよね語呂合わせ。
私は岩並君が端午の節句産まれということにびっくりしましたよ。そりゃあすくすく育つはずだよね? 五月人形もびっくりの体格です。
私は体ごとふりむく。バランスが取れなくて、岩並君のセーターを掴んでしまった。うう胸板広い……。最高!
「ごめん」
「いい。どうした?」
「欲しいものじゃなくて、お願いでもいいですか」
「何かあるのか?」
「町の地域文化祭、2月だよね。岩並君のおばあちゃんのお皿、さんまとレモンの文房具載せて出品されるんでしょう? 見に行きたいんだけど、行ったことないの。岩並君、連れてってくれる?」
岩並君は目をぱちくりさせると、嬉しそうに笑った。
「わかった。ばあちゃんも喜ぶな、ありがとうイコ」
「こちらこそ。連れてってね、約束ね?」
「了解」
岩並君は、彼のセーターを掴んでいる私の手を取り、当たり前のように指を絡める。
「あ……」
指の間を、岩並君の長くて太い指がかすめていく感覚にゾクゾクする。自分の下唇が震えたのがわかった。
「どうした?」
とろり、とろり。甘いはちみつ入り紅茶の瞳で、岩並君が私を見下ろす。きっと私の顔は今真っ赤になってる。
「なんでもないっ!」
慌てて私は横を向いた。岩並君が忍び笑いをする。ひどいイケメンだな!
一瞬、たまらなくキスが欲しくなったなんて、恥ずかしくって誰にも言えない。
私の片手は、まだ岩並君と指を絡めたままだ。
これって恋人つなぎっていうんじゃないのかな岩並君。
いいの? いいのかな。
それなら。
もうちょっとこの手、ほどかないでいてね。
ねえ、岩並君。
0
あなたにおすすめの小説
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
診察室の午後<菜の花の丘編>その1
スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。
そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。
「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。
時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。
多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。
この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。
※医学描写はすべて架空です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる