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中学編
中三・立春の次候③
しおりを挟む最近気付いたことがある。
俺はどうやら、イコが飲食しているのを見るのが好きらしい。
確かにイコは食べるときの所作がきれいだし、口をもぐもぐさせているのは小動物みたいで大変可愛いが、そうではなく、イコが元気でいることを実感できるからじゃないかと思う。
痩せて小さく体の弱いイコ。
すぐ体調を崩すイコが、それでも今は大丈夫だと思えるバロメーターとして、俺は飲食の様子を無意識に観察しているんだろう。
なんだか世の中には人にものを食べさせたがる性癖の持ち主がいるようだが、俺は誓ってそうではないと言える。
イコの動く唇から目が離せなかったり、ちらりと見える舌や歯にかじられたいなんて思うことはあったとしても、飲食と違うところでもそう思うのだから、これはやっぱり性癖とは違うだろう。
違うと思いたい。
俺はほうじ茶を飲んで、1度思考をリセットする。
おでんに豚の角煮、焼きトウモロコシ。トレイの上はイコが喜びそうなものをと買ってきた出店の食べ物が乗っている。
ご当地グルメ屋台が大人気だったが、イコを待たせたくなくて、狭い選択肢から選んだものだ。
角煮を食べてみる。結構美味しい。
イコはうっかり大きな玉コンニャクを1口で食べ、リスかハムスターのように頬を膨らませ、延々もぐもぐと咀嚼していた。
もぐもぐもぐもぐ。
可愛い。可愛い。ほっぺをつつきたい。連れて帰って飼いたい。
ようやく飲み込めた後、ふーとため息をついてこちらを見上げる。
「岩並君は」
そこまで言って、汚れてもいないのに気になるのか、口の端を指でぬぐう。それに見とれていた俺は、イコの質問に落ちついて応じる心構えができなかった。
「生足好き?」
「!?」
反射的に口の中の角煮を丸呑みする。
「なんだいきなり」
「さっきの女の子たち、寒いのに生足のひと何人かいたから。いいなーって思って」
「イコは生足出したいのか」
「違うよう、寒い日に生足出してもお腹壊さない丈夫さが羨ましいのですよ!」
ああ。確かにイコなら体を壊してしまうだろう。同じ年頃の女の子と同じことができないのは可哀想だな、なんて思っていたら。
「で? 岩並君は生足派? ソックス派でもニーソは別口、ストッキングにタイツ勢、派生で網タイツ派とガーター派がですねぇ」
「何でそんなに鼻息荒いんだお前」
「いいから答えるー!」
どう答えても変態のそしりを受けかねない危うい質問だ。いつか一緒にコタツへ入っていたとき、こちらの足をかすめていった細く滑らかなイコの生足を想い出し、体温が上がる。
「すっ」
「す?」
「好きなコの足なら……なんでもいい」
なんだか照れくさくて尻すぼみになる。でも正直なところだ。
イコの壊れてしまいそうに小さな膝や、痩せて細い足、折れそうな足首。そのすべてに触れたいと思う気持ちは変わらない。
誰よりイコが好きだと思う。
「うわあ赤面したー!」
「イコが言わせるからだろう!」
「つまり岩並君はなんでもアリと」
「やめろ人聞き悪い!」
「私は生足見るの好きだよー。むちむち! 体育とか最高だよね、男女ともに魅惑の太ももが」
「もう捕まってしまえ」
お前はどこのおっさんだ。
「ほら、餅巾着あったぞ」
「これ1個しかないけどいいの?」
「好きな物を食べればいい。角煮は?」
「すごい塊だよね、1口だけくださいな」
紙の深皿に乗っている角煮は、俺が少し食べても減ったようには見えないでかさだ。イコは箸で小さく取り、からしをつけて食べる。
「ん、美味しい! もうとろけちゃった」
「まだまだあるからいっぱい食べろ」
「ありがとう。美味しいし楽しいし、地域文化祭ってよいですな!」
「ああ。みんなすごいな、大作ばっかりだ。キャラメルの箱で作った帆船とか。何箱使ったんだろう」
「あんなに食べたら虫歯になりそうだよね。私はやっぱりお雛様がよかったな」
イコはお茶を一服して呟いた。確かに1番時間をかけて見ていた場所だ。
「うちは寧楽雛なんだ。一刀彫りのお雛様。ちっちゃくて可愛いんだけど、着物とかぜんぶ木に描かれてるだけだから、ちゃんと着物を着てるお雛様に憧れてたの。最近の、糊でガチガチになってる着物のお雛様じゃなくて、昔の、ふくふくした柔らかい着物を着てるお雛様! 岩並君のおうちは、どんなお雛様?」
「うちのは怖い」
のっぺりした白い顔。少し開いた口にお歯黒をした細かい歯。
乱れた髪、薄汚れ黒ずんだ宝冠。
昔は毎年飾られていたが、あまりに怖くて俺はその間中、近付かなかった。見たらうなされた。
古い人形は苦手だ。
「ふうん。見てみたいなあ」
「イコは人形好きだな、あの呪文みたいな」
「タイニー・ベッツィー・〇ッコール!」
「それとか」
イコの部屋には長い名前をした幼い女の子の人形が何体かと、着物を着た和風の人形が飾られている。
全体的に洋風な雰囲気の部屋の中で、本棚の一角に座った着物の人形と、その回りだけが和風の飾り付けがなされているのだ。
幼い女の子の人形はといえば、どれもが手作りの服を着てポーズを決めて飾られていた。可愛い格好で澄ましているときもあるが、この間見たときは熊のぬいぐるみにスコップ片手に勝負を挑んでいた。ねじり鉢巻きで。
大変イコらしいと思う。
「岩並君はお人形嫌い?」
「イコの部屋のは可愛いと思う。でも古い人形は……。呪われそうだ」
「そっかあ。岩並君のおうち、もうお雛様出さないの?」
「最近は出してない。姉さんも20才過ぎたし」
「いくつになっても女の子は女の子だよ岩並君」
「女の子」
あれはそんな可愛らしいものじゃない。俺は気を取り直してイコに再び食事を勧める。
「ほら、さめないうちに食べろ。トウモロコシは?」
「それは最後にするー」
「デザートは食べ終わったら、一緒に見に行こう」
「うん。ねえ、岩並君チョコ好き? ここで売ってるかな」
「嫌いじゃない。出店は、そうだな、チョコバナナがあった」
「それはチョコよりバナナが主では」
いやでも一応チョコスイーツかな、と首をかしげる。細い首。ああ、頭がポロッと取れそうだ。
「まあ食べてからだな。コンニャク好きだろうイコ、ぜんぶ食べたらいい」
「ありがとう」
再び箸を手にしたイコは、耐えられないとばかりに吹き出す。
「どうした」
「だって、さっきからやたら熱心に食べろって言うから。岩並君は私を太らせて売るの? それとも食べちゃうの?」
食べるところないよ、なんて楽しげに冗談を言うイコに、見抜かれたみたいで居心地が悪くて、黙って大根を食べる。
食べてるところを見て安心したい。たくさん食べさせ元気にさせたい。イコの体を大事にしたい。だからつい勧めてしまう。
それに。
イコにかじりつきたい衝動に駆られたり、その細い指を食べてしまいたいと思ったり。食べるところがないなんて、とんだ誤解だ、イコ。
いつだって俺はお前に飢えている。
可愛くて、愛しくて、触れずにはいられない。
イコ。
俺の大事な、大好きな女の子。
愉快そうにこちらを見つめる、この深く深く濃い眼差しに、俺はいつでも焦がれている。
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