健康優良男子が不健康女子に片思い中です。

法花鳥屋銭丸

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中学編

中三・啓蟄の末候③

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 ペロの熱烈歓迎ペロペロによって顔面ドロドロになったイコは、顔を洗って気を取り直すと、宣言していたとおり俺の部屋を強襲した。

 端から端まで調べつくさなければ気が済まないようで、けれど6畳の部屋にあるものなんか多くない。
 狭い中をコマネズミのようにちょろちょろし(可愛い)押し入れにまで頭を突っ込んだものの(お尻が可愛い)、見つけたいものはなかったらしい。
 ふてくされて制服姿のまま畳へ転がる。

「あーもー面白くないのですよ! 品行方正なお気遣い紳士たぁくんの、おおっぴらにできないあれやこれやをあばきたかったのに! なんにも! 出ない!」
「だから言っただろう、ないって」
「女子の部屋にはないような、エグいエロ本とか期待してたのにぃー」

 ちょっと待て。
 エグいエロってなんだ。
 俺は、畳の上をローラーのようにゴロゴロ転がるイコを眺めながら考える。
 もし俺がそういう趣味を持っていて、そういう雑誌かDVDでも見つかったとしたら、イコは喜んでいる場合じゃないはずだ。
 だって遅かれ早かれ、こいびとである自分の身に降りかかって来るのだから。
 そのへん、わかっているんだろうか。

 たぶんわかってない。

 俺のため息に反応して、イコがローリングをやめ、なに? とこちらに頭をもたげる。カワウソみたいだ可愛い。きゅぅとか鳴きそうだ可愛い。イコが可愛い。

「着替えるから、押し入れの前から足をどかしてくれるか」
「はぁい、失礼いたしました」

 ぴっと膝を曲げて足をどかす反応が、運動嫌いのくせに変に素早くてなおさら小動物みたいだった。あんまり可愛くてかまいたくなるのを抑え、俺は学ランを脱ぎハンガーで長押なげしにかけた。押し入れから着替えを引っ張り出す。
 中に着ていた長袖のTシャツはそのままに青いパーカーを羽織ると「ふわあ」という声がしたので後ろを振り向く。

「どうしたイコ」

 両手をついて起き上がる途中のまま固まっていたイコは(腰への負荷がすごそうだ)、こちらを見ながら小さく声を絞り出した。無理な体勢がこたえるらしい。

「いっ、イケメンの、生着替え……!」

 それは、地獄の底から出たうめきみたいな声まで出して言わなきゃならないことなのかイコ。
 そして最後まではいかないにしても、きわどいところまで触れあった相手の着替えがそんなに嬉しいのだろうか。

 目線を手元に戻し、ベルトを外しながら考える。俺ならどうだろう。イコが目の前で着替え始めたら。
 制服の上着を脱いでブラウス姿になるイコ。首のリボンをほどいて―――。
 だめだ考えるだけで照れてしまう無理だ。

 着替えのジャージを出しズボンを脱げば「グレーのボクサーブリーフ! 立体成型!」と喜びのデスボイス。振り返らずジャージの下をはいて、脱いだ制服を学ランと同じハンガーの、スラックスへかける部分に下げる。

「ごちそうさまでした、締まった素敵なお尻でした、今度生でじっくり見せてね」

 振り返ればいつの間にか正座していたイコがこちらを拝んでいる。俺はその前に座りあぐらをかいた。手を伸ばし、拝む手を掴んで引き寄せる。

「ひゃわ」

 バランスを崩しこちらへ倒れ込んでくるイコを抱え、足の上へ座らせる。小さく細く柔らかな体と、淡く華やかな女の子のにおいがなおさら可愛く思える。なにがなんだか、という表情で目をぱちくりさせているイコの頬にキスを落とせば、ようやく我に返って顔を赤らめた。

「ちょっ、たぁくん! いきなり甘々モードですか!」
「イヤか」
「い、嫌じゃないけど」
「ならいいだろう」

 可愛いおでこ、柔らかなまぶた、よく息ができると感心してしまう鼻。順番にキスをしていき、最後に、赤い唇へくちづける。

「無理に、はしゃがなくていいんだイコ」

 至近距離からのぞき込めば、濃く深い色の瞳へ困惑が浮かぶ。

「不安なのを考えたくないだけかもしれないけど、前みたいにせっぱ詰まるまで押し込めたりなんてしなくていい。なにか、引っかかっている事があるんだろう?」
「うん……」
「教えてくれ」

 クラス分け掲示の前でイコにおぼえた違和感。合格発表の時のように、少し心ここにあらず、という様子が見えた。前みたいに、せっぱ詰まるまで我慢して泣き出したりしないでほしい。聞かせてほしい。
 俺はイコの全部が知りたいんだ。

「選抜クラスなんかに入っちゃって、やっていけるかなあって」
「それだけ実力がついたってことだろう」
「ちょこっとサボればすぐダメになる実力だよー」
「たいていの人間はみんなそうだけどな」

 サボればてきめんに点数へ出る。

「ああもう。進学クラスの中で、ゆるくのんびり過ごすつもりだったのに……!」

 嘆きながら、イコは俺の胸元に頭をこすりつける。お前は猫か可愛い。

「選抜クラスなんか、必死こいて勉強しないときっとついていけないよぅ。私のゆるゆる高校ライフが最初からつまずいたよ!」
「でも最初は、一緒のクラスがいいって言ってくれたじゃないか」
「たぁくんと一緒のクラスならなんとかがまんできるけど、そうじゃないんだもん」
「来年、一緒のクラスになれるようにがんばってみないか? 俺も、奨学金落とさないようにがんばるから。日曜日や試験前は部活がないし、イコと勉強したりして過ごせるはずなんだ」

 奨学金。
 今年の新1年に与えられたのは4枠。2・3年に希望がなかったためいつもより2枠多かったのだという。半分の2枠はアスリートコースの希望者、もう半分は選抜クラスの希望者に与えられる。アスリートコース枠には希望が殺到したが、選抜クラス枠は希望自体が少なく、俺ともう1人はすんなり決まったのだそうだ。

『実力テストの成績、上位1パーセントだったそうですね。それを受けて、午前中の会議に全会一致で決まったと聞いています』

 奨学金申請の結果を聞くために親子で呼ばれた教室で、手続きを教えてくれた事務の人が言っていた。上位1パーセント。新入生200人の中の上位ふたり。すんなり2位だった、と言わなかったのは配慮だったのだろうか。

「奨学金って落ちるの?」
「俺より成績がよかったり、部活で活躍する奴が申請を出したら、そっちが優先される。毎年査定が入るし、不祥事なんかあれば即取り消しだ」
「そっか。たぁくんも大変だ……」

 イコはぎゅうっと俺に抱きついた。

「べそかいたらなぐさめてね?」
「当たり前だ」
「なら、ちょっとがんばってみる」

 どうか、イコの不安が少しでも軽くなりますようにと願いながら、小さな体を抱きしめて、ふわふわの髪に頬ずりをする。
 
「たぁくん」
「どうしたイコ」
「ちゅーがいい」

 俺は愛する腕の中のお姫様に、心からのくちづけを捧げた。
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