健康優良男子が不健康女子に片思い中です。

法花鳥屋銭丸

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高校編

不健康女子の高一・清明の末候①

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 明るくて目が覚めた。
 春の陽光はカーテンの隙間から私の部屋をまばゆく照らし、もっと横になっていたいのに、二度寝することを許してくれない。体がだるくて億劫おっくうだ。

 今日は土曜日。
 学舎は日曜と祝日しか休みがないので、みんないつも通り登校する。普通授業ではなく、苦手克服の集中講座だ。そろそろ、たぁくんと駅で待ち合わせているはずの時間になる。

 昨日、高校でははじめて倒れた。
 ただひたすら横になっている以外できなくて、昼も夜もご飯抜き。まだ起き上がろうとすると昨日の余韻が残っていてくらくらするけれど、今は普通にお腹がすいている。体調がそれほど悪くない証拠だ。
 主治医の先生もママも口を揃えて、今回は顔色がそう悪くない、長く寝込まなくてすむかもしれないと言った。来週には学校に行けるだろうか。

 いつもなら、たぁくんと待ち合わせをして、そろそろ改札を通っている。他愛ないことを話しながらホームで手をつなぎ、電車を待つのだ。
 電車に乗れば私はたぁくんにかばわれながら、コバンザメみたいに彼にひっついて満員電車に耐える。
 学校の最寄り駅で降り、階段は危ないから遠回りでもエレベーターを使う。乗り込めば、儀式みたいに毎朝恒例になってしまった―――くちづけの時間。

 ベッドの中、寝返りを右にうって膝を抱える。

 昨日も会った。
 廊下で倒れたところを抱き上げて運んでくれた。
 春休みもたくさん会ったし、入学式あたりから毎朝一緒に登校しているのだ。
 だからおかしい。

 たぁくんに会えなくて寂しい、なんて。

 これウザくないか私。昨日まで毎朝会っておきながら寂しいってどういうことだ。ウザウザ伊予いよちゃんじゃありませんかウザい!
 いたたまれなくてうなっていると、マナーモードのままだったスマホが枕元で震えた。引き寄せて見る。

 たぁくんからのLINE。画像? 何だろ。タップしてみれば、体中、小さな白い花びらにまみれたペロちゃんが、鼻先からアップで写っている。ご満悦、という顔だ。
 可愛い。今朝の散歩のペロちゃんだろうか。花びらが小さいから、ユキヤナギかコデマリの花……? 植え込みに突っ込んだのかな。
 いちいち返信せずにすむようにだろう、たぁくんからのLINEはペロちゃんの画像だけ。でも、こうして待ち合わせの時間、一緒に居るはずの時に送ってきてくれたことが嬉しい。

 早くよくなれ、待ってるから。
 そう言われた気がして、寂しさが溶けていく。
 もっと見ていたいけど、スマホを見つめ続けるのもしんどくなってきたので、枕の横に置く。

 無理に返事はしない。

 スマホを買ってもらってから、自分が実は筆無精なのがわかった。スマホデビューからしばらく、返事を考えて悩んでいるうちに送信する時をのがしてしまって結局送れない、なんてことを繰り返したのだ。

 返事できなかったり遅くなったりしてごめん、と春休み中、私の部屋ここでの勉強会が終わってから言うと、たぁくんは腕の中に私をすっぽり抱きこんだまま笑った。
 顔は見えないけれど、おさえた笑い声と振動が伝わってくる。

「イコは国語が得意だから、文章やニュアンスのことを考えすぎて、自分で返信しにくくしているんじゃないか?」
「ううっ、心当たりしかない……」

 私は自分の胸をおさえて、たぁくんの胸に背中から寄りかかった。頭になじみのくすぐったさ。今はもう、これがたぁくんからのくちづけだと知っている。

「返事ができないとか遅れるとか、そんなことでイコが俺に申し訳なさそうにしなくていい。返事が大変なら、なくても構わないんだ」
「またそうやって甘やかすぅー」
「こんなこと、甘やかす内に入らないさ」

 低い声が背中から私の体の中に響く。大きな手が私の髪をすいてゆっくり頭をなでた。その手がとても優しくて、大好きだ、と言われている気分になる。指先に耳の端を愛おしげになぞられて、くすぐったいのに気持ちいい。
 もっと触れて欲しい。

「普段なら、既読がつけば読んでくれたって嬉しくなるし、つかなきゃ忙しいとわかる。イコの具合が悪いときは、既読がつけば読める状態なんだと安心するし、つかなきゃそれどころじゃないんだなって思うだけだ。字のやりとりって、普通そういうものじゃないか?」

 優しいキスが頭の上へ、照れちゃうくらい何度も何度も降ってくる。

「俺がどれだけお前を好きなのか、ちゃんとわかっていないだろう、イコ」
「そう、かな……」

 頭に頬が寄せられる。

「イコが好きだ」

 耳元に、ため息のように大好きな声が降ってくる。もう何度目だろう。たくさん、たくさん、好きだと言われているのに、何度目だって嬉しくて、照れてしまう。

「中一の春からずっと、イコが塾を休んでいれば心配で、来ていれば会えて嬉しくて、ひたすらイコの姿を目で追ってた。ようやく、こうしてイコを腕の中へ抱えて、何度でも大好きだって伝えられるようになったんだ。返事がどうだなんてことで、イコを嫌いになったりしない」

 淡々と、真っ直ぐ好意を伝えられて、なんにも言えなくなる。自分を抱きしめる腕に手を添えたら、独り言みたいな呟きが聞こえた。

「俺がどれだけイコが好きなのか、どうやったら伝わるだろうな……」

 それからしばらく、どちらも何も言わないままで、私はたぁくんの腕の中、彼の心臓の音を聞いていた。

 強い鼓動、広い胸板、柔らかく私を抱えるがっしりした腕、私をなでる長い指。
 私は彼の記憶ごと、自分の膝を抱きしめなおして目を閉じる。
 思い出せば出すほど、早く会いたくなる。

 たぁくん。
 大好きな男の子。
 大きくてあったかくて、目元涼やか凛々しいお顔に、優しい表情を浮かべて私を見るひと。
 紅茶色の眼差しは、もうこれ以上ないくらいはちみつたっぷり甘々で、視線だけで私の胸の奥をくすぐる。

 ねえ、たぁくん。
 たぁくんがあんまり甘やかすから、私、1日たぁくんに会えなくなるだけで、寂しくなっちゃうようになったよ。困ったなあ。

 だってさ。部活も始まって、たぁくんと私、これから別行動がどんどん増えていくんだよ?
でもやっぱり、声が聞きたいし触れていたいの。ウザウザ伊予いよちゃんになっても、嫌な顔したりしない?

 毎朝のキスがないだけで、こんなに胸がすーすーするんだね。
 たぁくんも、同じですか?
 体の調子がよくなったら、たぁくんとキスがしたいです。もうタコさんマウスになっちゃうくらい、たくさんたくさんしようね。

 ねぇ、たぁくん。
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