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街歩き
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『さて、これからどうしようかなぁ』
こっそりと領主のお城を出たタオは、珍しげに立ち並ぶ店や市の屋台を覗いたり、そこを行き交う人々を観察したりしながら、初の街歩きを体験していた。
周囲をぐるっと高い城壁で囲まれたラモスだが、その面積はかなり広い。
カテリーナのいる領主の邸だけでもそれなりの広さなのに、それを囲むように多くの家が立ち並んでいるのだ。
『仙界じゃあ考えられないよね。こんなに家が密集してて、こんなに人がたくさんいて……』
タオの育った仙界は、勿論こことは比べ物にならないほどに広い。
どこまでも続く大地には、多種多様な風光明媚な景色が広がり、仙人たちは各々の好みで好きな場所に己が庵を結び、ある者は修行に励み、ある者は日々怠惰な時を過ごす。
雲に乗れば移動も自由自在だし、縮地の術を用いれば距離など関係ない。
基本的に面倒な人付き合いを嫌う人が多いし、仙術の練功に失敗でもすれば千里四方の被害も馬鹿にならない。
そんな事情もあって、タオの育った仙界には、こんなに多くの人が集まる場所など殆どない。
思い当たるのは天帝の住む紫微宮くらいだ。
そんな訳で、こんなにも人も建物も多い場所に初めて来たタオは、なんとも落ち着かない。
カテリーナの記憶で見たから、知ってはいたんだよ。
それに、東国の下界の様子はたまに千里眼で覗いていたから、人の住む下界がこういうとこだってことも勿論知ってた。
でも、これは……。
百聞は一見に如かずって、こういうことなんだなぁ。
まさか、ここまで五月蝿いとは思わなかったよ。
先程からタオを悩ませているのは、街の喧騒。
物を売り買いする商人とお客のやり取り、街ゆく人たちの話し声。
確かに騒がしいが、それでも我慢できない程ではない。
問題は、心の声の方。
『あぁ、今日も仕事かぁ……行きたくない』
『あの服かわいい! でも、どうせ買えないし、似合わないし……』
『ケッ、買う気がないなら来るなよ!』
『あの男かっこいい! でも、女の趣味は最悪』
人が無意識に放っている気から、相手の考えていることを自然に理解してしまえるタオにとって、この環境は精神衛生上非常によろしくない。
おまけに……。
『おっ、あの黒髪の子、すごくかわいいなぁ』
『東人か? 身なりはいいから奴隷ってことはなさそうだが……娼婦ならありか? どこの店だ?』
『一人かなぁ? 迷子なら声かければ案外ついて来るかも』
『あんな穢れを知らなそうな娘にあんなことをしたり、こんなことをしたり……』
陰陽和合は世の理だけど、流石に気持ち悪い。
これじゃあ、せっかくの下界をちっとも楽しめない。
『う~ん、仕方ない……断ッ』
小さく術を唱えると、途端に今まで聞こえていた声が聞こえなくなる。
うん、うまくいった。
自分の周囲に薄く気の空白地帯を作って、外からの気が流れ込んでこないようにしたから、これで大丈夫。
でも、これやると外からの気を取り込めなくなるから、大周天の修行が滞るんだよねぇ。
まぁ、下界だとそもそも大気に満ちている気の量自体が少ないから、あんまり変わらないかな。
うん、気の修行よりもボクの心の平穏の方が大事だよね。
では、気分を入れ替えて……。
改めて周囲を見渡すと、何やら美味しそうな物がたくさんある。
その中でも、特に香ばしい匂いを放つ屋台にタオは惹きつけられていく。
「おじさん、これもらえる?」
「おう、鉄貨3枚な」
「ん? 鉄貨? ……ごめん、鉄貨というのは金貨何枚分かな?」
(カテリーナの知識の中には、銀貨と金貨しかなかったはずだけど……)
「はぁ? あのなぁ、金貨ってのは鉄貨よりもずっと価値が高い。鉄貨10枚で銅貨1枚、銅貨が10枚で銀貨1枚、銀貨10枚で金貨1枚だ。
……お嬢ちゃん、東人だよなぁ。さては、こっちには来たばかりだな。金は持ってるのか?」
ああ、そういえば、お金の持ち合わせがなかった。
そもそも仙界ではお金なんて使わないから。
「いや、お金は持っていない。玉ならあるんだけど、これで払えるかな?」
腰の巾着から(仙界の)近所の川で拾った綺麗な玉を取り出すと、それを店主に見せる。
「きれいな石だなぁ……う~ん、価値がありそうなのはわかるんだが……すまん、わからん!
だが、多分うちの串焼きなんかよりはずっと価値がある。ていうか、多分全然釣りあわねぇぞ。
そうだなぁ、この通りをずっと行った先に冒険者ギルドがある。そこでは珍しい素材の買取もやってるから、そこで金に換えるのがいいと思うぞ。
下手なところに持ち込むと、足元見られて買い叩かれちまうからな」
「わかった。ありがとう」
串焼きは食べ損ねちゃったけど、とりあえずの目的地は決まった。
冒険者ギルド。
魔物の討伐や稀少素材の採取、護衛依頼などを受ける人材派遣業だったかな。
カテリーナの知識だと、領の経済にも大きな影響力を持つし、領兵不足を補う意味でも、冒険者ギルドとの関係維持は領政には必要不可欠とあった。
カテリーナ自身は冒険者ギルドに直接行ったことはないようで、どんな場所かの記憶はないけど、ここを真っ直ぐなら道に迷うこともないだろう。
タオは、さっそく冒険者ギルドへと向かうことにした。
こっそりと領主のお城を出たタオは、珍しげに立ち並ぶ店や市の屋台を覗いたり、そこを行き交う人々を観察したりしながら、初の街歩きを体験していた。
周囲をぐるっと高い城壁で囲まれたラモスだが、その面積はかなり広い。
カテリーナのいる領主の邸だけでもそれなりの広さなのに、それを囲むように多くの家が立ち並んでいるのだ。
『仙界じゃあ考えられないよね。こんなに家が密集してて、こんなに人がたくさんいて……』
タオの育った仙界は、勿論こことは比べ物にならないほどに広い。
どこまでも続く大地には、多種多様な風光明媚な景色が広がり、仙人たちは各々の好みで好きな場所に己が庵を結び、ある者は修行に励み、ある者は日々怠惰な時を過ごす。
雲に乗れば移動も自由自在だし、縮地の術を用いれば距離など関係ない。
基本的に面倒な人付き合いを嫌う人が多いし、仙術の練功に失敗でもすれば千里四方の被害も馬鹿にならない。
そんな事情もあって、タオの育った仙界には、こんなに多くの人が集まる場所など殆どない。
思い当たるのは天帝の住む紫微宮くらいだ。
そんな訳で、こんなにも人も建物も多い場所に初めて来たタオは、なんとも落ち着かない。
カテリーナの記憶で見たから、知ってはいたんだよ。
それに、東国の下界の様子はたまに千里眼で覗いていたから、人の住む下界がこういうとこだってことも勿論知ってた。
でも、これは……。
百聞は一見に如かずって、こういうことなんだなぁ。
まさか、ここまで五月蝿いとは思わなかったよ。
先程からタオを悩ませているのは、街の喧騒。
物を売り買いする商人とお客のやり取り、街ゆく人たちの話し声。
確かに騒がしいが、それでも我慢できない程ではない。
問題は、心の声の方。
『あぁ、今日も仕事かぁ……行きたくない』
『あの服かわいい! でも、どうせ買えないし、似合わないし……』
『ケッ、買う気がないなら来るなよ!』
『あの男かっこいい! でも、女の趣味は最悪』
人が無意識に放っている気から、相手の考えていることを自然に理解してしまえるタオにとって、この環境は精神衛生上非常によろしくない。
おまけに……。
『おっ、あの黒髪の子、すごくかわいいなぁ』
『東人か? 身なりはいいから奴隷ってことはなさそうだが……娼婦ならありか? どこの店だ?』
『一人かなぁ? 迷子なら声かければ案外ついて来るかも』
『あんな穢れを知らなそうな娘にあんなことをしたり、こんなことをしたり……』
陰陽和合は世の理だけど、流石に気持ち悪い。
これじゃあ、せっかくの下界をちっとも楽しめない。
『う~ん、仕方ない……断ッ』
小さく術を唱えると、途端に今まで聞こえていた声が聞こえなくなる。
うん、うまくいった。
自分の周囲に薄く気の空白地帯を作って、外からの気が流れ込んでこないようにしたから、これで大丈夫。
でも、これやると外からの気を取り込めなくなるから、大周天の修行が滞るんだよねぇ。
まぁ、下界だとそもそも大気に満ちている気の量自体が少ないから、あんまり変わらないかな。
うん、気の修行よりもボクの心の平穏の方が大事だよね。
では、気分を入れ替えて……。
改めて周囲を見渡すと、何やら美味しそうな物がたくさんある。
その中でも、特に香ばしい匂いを放つ屋台にタオは惹きつけられていく。
「おじさん、これもらえる?」
「おう、鉄貨3枚な」
「ん? 鉄貨? ……ごめん、鉄貨というのは金貨何枚分かな?」
(カテリーナの知識の中には、銀貨と金貨しかなかったはずだけど……)
「はぁ? あのなぁ、金貨ってのは鉄貨よりもずっと価値が高い。鉄貨10枚で銅貨1枚、銅貨が10枚で銀貨1枚、銀貨10枚で金貨1枚だ。
……お嬢ちゃん、東人だよなぁ。さては、こっちには来たばかりだな。金は持ってるのか?」
ああ、そういえば、お金の持ち合わせがなかった。
そもそも仙界ではお金なんて使わないから。
「いや、お金は持っていない。玉ならあるんだけど、これで払えるかな?」
腰の巾着から(仙界の)近所の川で拾った綺麗な玉を取り出すと、それを店主に見せる。
「きれいな石だなぁ……う~ん、価値がありそうなのはわかるんだが……すまん、わからん!
だが、多分うちの串焼きなんかよりはずっと価値がある。ていうか、多分全然釣りあわねぇぞ。
そうだなぁ、この通りをずっと行った先に冒険者ギルドがある。そこでは珍しい素材の買取もやってるから、そこで金に換えるのがいいと思うぞ。
下手なところに持ち込むと、足元見られて買い叩かれちまうからな」
「わかった。ありがとう」
串焼きは食べ損ねちゃったけど、とりあえずの目的地は決まった。
冒険者ギルド。
魔物の討伐や稀少素材の採取、護衛依頼などを受ける人材派遣業だったかな。
カテリーナの知識だと、領の経済にも大きな影響力を持つし、領兵不足を補う意味でも、冒険者ギルドとの関係維持は領政には必要不可欠とあった。
カテリーナ自身は冒険者ギルドに直接行ったことはないようで、どんな場所かの記憶はないけど、ここを真っ直ぐなら道に迷うこともないだろう。
タオは、さっそく冒険者ギルドへと向かうことにした。
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