27 / 31
ラモスの繁栄
しおりを挟む
「では、あの河はヒドラの毒を洗い流すためにタオ殿が作ったものだと!?」
「うん、そんな感じだね」
バルドの問いかけに、まだ少し眠そうな目を擦りながらタオが答える。
昼過ぎになってやっと起き出して来たタオに確認したところによると、あの河はヒドラの毒を洗い流すためにタオが一晩で作り上げたものらしい。
それによって、穢された土地はもうすっかりきれいになっているとのこと。
河はアケロンの大河から引かれており、ここラモスの近くを通って、再びアケロンの大河に合流しているという。
この河川工事では、増水や雨季の天候不順といった危険もしっかり考慮されており、河川の氾濫による領都、河川周辺地域への被害はほぼあり得ないとは……。
「だから、(ヘラクレスおじさんの時みたいに)後から問題が起きることもないと思うよ。
どうしても邪魔なら元に戻すけど、ボクとしてはうまくできたと思うんだよね」
そんなことを言うタオに、
「と、とんでもない! もちろん、このままで結構です! 大変助かります」
慌ててタオにお礼を言うバルド。
(これは、とんでもない経済効果を産むぞ……)
ラモス領の経済を支えるものの一つに、魔の森で取れる魔物素材がある。
魔の森の魔物には凶悪なものも多く、ある程度の腕のある冒険者でなければ狩りは難しい。
だが、その分、高価で貴重な素材も多く、アケロンの大河を舟で渡り、魔の森での素材採取を試みる冒険者も多い。
だが、ここで一つ問題がある。
それは、魔の森で狩った獲物の運搬方法。
アケロンの大河からラモスまでは馬を飛ばしても数日はかかる。
馬車なら更に時間が必要になるし、これが徒歩ともなればそれ以上。
つまるところ、魔の森で狩った魔物をラモスまで運ぶのが一苦労であるということ。
だが、タオ殿が作られた支流を運河として利用すれば、この問題が一気に解決する。
それどころか、今までであれば運搬の問題で持ち込まれなかった大型魔物の素材も流通するようになるし、ラモスから魔の森まで船で移動できるとなれば、魔の森での採取目的の上級冒険者も増えるだろう。
それによって生み出されるラモスの利益は計り知れない。
(この方は、ご自分のなされた偉業がどれほどのことか、わかっておられるのだろうか……)
朝食のパンに齧りつく目の前の少女を見て、バルドはそんなことを考える。
あれほどの運河をたった一晩で作り上げてしまうなど、これを神の御技と言わずしてなんと言うのか!?
これほどのことをしておいて、ご自分は神ではないと言い張る神経が、既に人のものではないのだが……。
ともあれ、これは我が領にとって大変な幸運だ。
魔の森から領都までの街道を整える。水運を引く。こういった計画は以前にもあった。
だが、それには莫大な予算と時間が必要で、とても一代で完遂できるようなものではないと言われていた。
百年単位の大事業……それを、たった一晩で成し遂げてしまうとは……やはり、この方はKa。
「神じゃないよ」
バルドの前で目玉焼きを突いていたタオが、ふと、そんなことを言う。
「ボクがやったことなんて、時間さえかければ誰でもできることだからね。一日か百年か、それだけの違いだよ」
「いや、それが大きいかと……」
「一日は短くて百年は長い。そんなのは主観の問題で大した違いはないよ。ずっと後の時代になれば、あの運河だって、“バルドさんの時代に作られた”って言われるだけのことだよ」
そんなスケールでものを考えられる事自体が……いや、やめておこう。
タオの前では口に出すか出さないかは関係ないことを思い出し、バルドは強引に自分の思考を打ち切ることにした。
>
あれから数ヶ月。
ラモスの街に魔の森と行き来できる運河ができたという噂を聞いた冒険者が集まり出し、領都は更なる活気に満ちている。
金払いのいい上級冒険者に、高額魔物素材を求める大商人。
それらを相手する店や宿屋も増えた。
また、領主家と冒険者ギルドの共同で管理する水運事業も順調だ。
アケロンの大河近くには素材買取専門の冒険者ギルド出張所も作られ、円滑な魔物素材の流通買取が行われるようになった。
ネメア平原を通る交易路の開通に、アケロンの大河と領都ラモスを結ぶ運河の完成。
いずれも、先代の頃からラモス領が秘密裏に進めていた事業なのだと、他領には伝わっている。
実は、それを行なったのが、街で甘味を食べ歩くたった一人の少女であるなどと、誰が信じるというのか。
ヒドラ討伐直後には、たいへん腕の立つ冒険者の少女が……という噂もあったが、それもほぼ消えている。
領主家、ラモス冒険者ギルドによる情報操作もあるが、何より見た目可愛らしい普通の少女で、冒険者とはいえFランク。
ヒドラ素材の売買は全てラモス冒険者ギルドの管轄であるという話であれば、いつまでもタオに注目する者はいない。
「きっと、何かの間違いだろう」ということで、タオに関する噂もすっかり収まってしまったのが今の現状で……。
「ねぇ、カティ! こっちのクレープもおいしそうだよ」
時折、領主の娘と楽しそうに通りを歩く少女が、今のラモスの繁栄を作り上げたなどとは、誰も思いもよらないのであった。
>
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
何やらエピローグ的な感じになってますが、もう少しだけお話は続きます。
いわゆる、最終決戦ですね。
今しばらく、お付き合いいただけると嬉しいです。
「うん、そんな感じだね」
バルドの問いかけに、まだ少し眠そうな目を擦りながらタオが答える。
昼過ぎになってやっと起き出して来たタオに確認したところによると、あの河はヒドラの毒を洗い流すためにタオが一晩で作り上げたものらしい。
それによって、穢された土地はもうすっかりきれいになっているとのこと。
河はアケロンの大河から引かれており、ここラモスの近くを通って、再びアケロンの大河に合流しているという。
この河川工事では、増水や雨季の天候不順といった危険もしっかり考慮されており、河川の氾濫による領都、河川周辺地域への被害はほぼあり得ないとは……。
「だから、(ヘラクレスおじさんの時みたいに)後から問題が起きることもないと思うよ。
どうしても邪魔なら元に戻すけど、ボクとしてはうまくできたと思うんだよね」
そんなことを言うタオに、
「と、とんでもない! もちろん、このままで結構です! 大変助かります」
慌ててタオにお礼を言うバルド。
(これは、とんでもない経済効果を産むぞ……)
ラモス領の経済を支えるものの一つに、魔の森で取れる魔物素材がある。
魔の森の魔物には凶悪なものも多く、ある程度の腕のある冒険者でなければ狩りは難しい。
だが、その分、高価で貴重な素材も多く、アケロンの大河を舟で渡り、魔の森での素材採取を試みる冒険者も多い。
だが、ここで一つ問題がある。
それは、魔の森で狩った獲物の運搬方法。
アケロンの大河からラモスまでは馬を飛ばしても数日はかかる。
馬車なら更に時間が必要になるし、これが徒歩ともなればそれ以上。
つまるところ、魔の森で狩った魔物をラモスまで運ぶのが一苦労であるということ。
だが、タオ殿が作られた支流を運河として利用すれば、この問題が一気に解決する。
それどころか、今までであれば運搬の問題で持ち込まれなかった大型魔物の素材も流通するようになるし、ラモスから魔の森まで船で移動できるとなれば、魔の森での採取目的の上級冒険者も増えるだろう。
それによって生み出されるラモスの利益は計り知れない。
(この方は、ご自分のなされた偉業がどれほどのことか、わかっておられるのだろうか……)
朝食のパンに齧りつく目の前の少女を見て、バルドはそんなことを考える。
あれほどの運河をたった一晩で作り上げてしまうなど、これを神の御技と言わずしてなんと言うのか!?
これほどのことをしておいて、ご自分は神ではないと言い張る神経が、既に人のものではないのだが……。
ともあれ、これは我が領にとって大変な幸運だ。
魔の森から領都までの街道を整える。水運を引く。こういった計画は以前にもあった。
だが、それには莫大な予算と時間が必要で、とても一代で完遂できるようなものではないと言われていた。
百年単位の大事業……それを、たった一晩で成し遂げてしまうとは……やはり、この方はKa。
「神じゃないよ」
バルドの前で目玉焼きを突いていたタオが、ふと、そんなことを言う。
「ボクがやったことなんて、時間さえかければ誰でもできることだからね。一日か百年か、それだけの違いだよ」
「いや、それが大きいかと……」
「一日は短くて百年は長い。そんなのは主観の問題で大した違いはないよ。ずっと後の時代になれば、あの運河だって、“バルドさんの時代に作られた”って言われるだけのことだよ」
そんなスケールでものを考えられる事自体が……いや、やめておこう。
タオの前では口に出すか出さないかは関係ないことを思い出し、バルドは強引に自分の思考を打ち切ることにした。
>
あれから数ヶ月。
ラモスの街に魔の森と行き来できる運河ができたという噂を聞いた冒険者が集まり出し、領都は更なる活気に満ちている。
金払いのいい上級冒険者に、高額魔物素材を求める大商人。
それらを相手する店や宿屋も増えた。
また、領主家と冒険者ギルドの共同で管理する水運事業も順調だ。
アケロンの大河近くには素材買取専門の冒険者ギルド出張所も作られ、円滑な魔物素材の流通買取が行われるようになった。
ネメア平原を通る交易路の開通に、アケロンの大河と領都ラモスを結ぶ運河の完成。
いずれも、先代の頃からラモス領が秘密裏に進めていた事業なのだと、他領には伝わっている。
実は、それを行なったのが、街で甘味を食べ歩くたった一人の少女であるなどと、誰が信じるというのか。
ヒドラ討伐直後には、たいへん腕の立つ冒険者の少女が……という噂もあったが、それもほぼ消えている。
領主家、ラモス冒険者ギルドによる情報操作もあるが、何より見た目可愛らしい普通の少女で、冒険者とはいえFランク。
ヒドラ素材の売買は全てラモス冒険者ギルドの管轄であるという話であれば、いつまでもタオに注目する者はいない。
「きっと、何かの間違いだろう」ということで、タオに関する噂もすっかり収まってしまったのが今の現状で……。
「ねぇ、カティ! こっちのクレープもおいしそうだよ」
時折、領主の娘と楽しそうに通りを歩く少女が、今のラモスの繁栄を作り上げたなどとは、誰も思いもよらないのであった。
>
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
何やらエピローグ的な感じになってますが、もう少しだけお話は続きます。
いわゆる、最終決戦ですね。
今しばらく、お付き合いいただけると嬉しいです。
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
裏切り者達に復讐を…S級ハンターによる最恐育成計画
みっちゃん
ファンタジー
100年前、異世界の扉が開き、ハンターと呼ばれる者達が魔物達と戦う近未来日本
そんな世界で暮らすS級ハンターの
真田優斗(さなだゆうと)は異世界の地にて、仲間に裏切られ、見捨てられた
少女の名はE級ハンターの"ハルナ•ネネ"を拾う。
昔の自分と重なった真田優斗はハルナ•ネネを拾って彼女に問いかける。
「俺達のギルドに入りませんか?」
この物語は最弱のE級が最強のS級になり、裏切った者達に復讐物語である。
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる