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領都ラモスの長い一夜が明けた。
突然押し寄せる蟹の大群との死闘、神の戦い、大女神の降臨……そのどれをとっても、吟遊詩人が語り継ぐに値する歴史的大事件。
しかも、それだけの戦いであったにも関わらず、街の犠牲者はゼロ。
それもまた、大女神ヘラの起こした奇蹟。
戦いが終わって、気が抜けたようにその場に座り込む者。
死んだはずの自分が五体満足でいる状況に、何が起きたのかもわからず混乱する者。
そんな仲間の姿に、涙を流して感謝を捧げる者。
太陽が東の空を明るく照らし出す様子に、この戦いは本当に終わったのだと、兵士、冒険者たちの間に安堵の感情が広がっていく。
「皆、よく戦ってくれた! あとの片付けは他の者に任せ、まずは休んでくれ!」
そんな戦場に、領主バルドの声が響き渡る。
バルドもまた、安堵していた。
ヒドラ襲来に始まる一連の事件も、これでやっと方が付いた。
まさか、その原因が先祖であるヘラクレス神様と他の神とのいざこざにあったとは……。
おまけに、そのいざこざを収めるために、ヘラ様がこの地に降臨なさるなどとは、思いもよらなかった。
それにしても、あのタオ殿がまさかヘラ様とも面識のある方だったとは……。
その力のほどは、アンドレから聞いてはいたが……巨大な東方の龍を使役し、悪霊の群れを焼き尽くす様は、まさに神話に語られる神々のようであった。
実際、降臨なされたヘラ様は、迷惑をかけたとタオ殿に頭を下げられたのだ。
神話でも、非常にプライドの高い女神であると語られるあのヘラ様がだ。
正直なところ、もしこの街にタオ殿がいなかったとしたら、ヘラ様がこの街にここまでしてくださったかどうか……。
案外、ご自分の眷属神の感情を優先して、この街を滅ぼすことを黙認されたのではないだろうか……?
そんなことを考えつつタオの方を見れば、カティやレイア嬢と蟹の食べ方について何やら話している。
そんないつもと変わらない様子に、肩の力が抜ける。
まぁ、タオ殿はタオ殿だな。
「皆が十分に休んだら、そのあとは祝勝会だ! 幸い、大量の蟹が手に入ったからな!
化け蟹の肉は美味いと聞く。皆も楽しみにしてくれ!
蔵の酒も解放するぞ! 皆、心ゆくまで呑んでくれ!」
「「「うおぉぉ~~~!!!」」」
こうして、一連の事件は幕を閉じた。
その夜の祝勝会の蟹祭りは、大いに盛り上がったという。
西方では定番の蟹のリゾットやパスタ、レモンとオリーブで味付けした蟹のグリルだけでなく、蟹の小籠包や蟹チャーハン、はては蟹しゃぶや蟹クリームコロッケまで……。
そこには、おそらく東方の、見たことも聞いたこともない珍しい料理も数多く並んだという。
それらの幾つかは、そのままラモスの名物料理として定着し、領都を訪れる者の舌を楽しませたという。
大量に手に入った蟹の外殻は、カテリーナ謹製の解体道具によって高級防具へと姿を変え、街の経済を大いに潤すことになる。
水運によって大量高速輸送が可能になった上に、今ではその運河で事故や魔物による被害は一切起こらない。
カルキノスが、ヘラの指示を守って運河を守っているから。
後に、その功績によりカルキノスは運河を守る土地神として、ラモスの民から一定の信仰を得ることになる。
信仰といえば、もう一つ。
あの戦い以降、ラモスの地は大女神ヘラ降臨の地として、聖地の一つに数えられるようになった。
さらに言えば、ラモス領を治めるラモス家は確かに英雄神ヘラクレスの血を引く一族であると、誰も疑わなくなった。
神々を祖に持つと言って権威付けする統治者は多いが、その全てが真実とは限らない。
そんな中で、ラモス家は本物だと、あの事件をきっかけに周辺諸国に認知されたのだ。
それによって、ラモス領の目を見張る発展を目にしながらも、ラモス領に攻め入ろうと考える領主はほとんど現れなかった。
そもそもの話、運河を使う北側、ネメア平原を挟む西側からの進軍については、ラモス領は一兵の兵を置かずとも、その全てが凶悪な魔物の手によって阻まれてしまうのだ。
その上、領主を筆頭に精強を誇るラモス軍に、ラモスを活動拠点とする高ランク冒険者たちまでいる。
現ラモス冒険者ギルドマスターは領主の息子だし、副ギルド長はその妻。しかも、その2人は揃ってSランク冒険者でもある。
さらに言えば、領主の娘が代表を務めるカティ工房の武具は、他の武具とは一線を画す性能を誇っている。
ラモス領を敵に回すということは、それらの武器防具も手に入らないということ。
これもあって、名を馳せた将軍や騎士ほど、ラモス攻略には難色を示す。
結果、これほどの発展を遂げながらも、どこからも侵略を受けることなく、ラモスの街は大いに栄えたという。
そんな賑わう通りの片隅で、楽しそうにお菓子を食べ歩く東方人の少女を時折見かけることもあるが、それを特に気にかける者はいなかったという。
>
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
一応、ここまでで一旦完結となります。
続きは、今後の状況次第ということで。
仙人の話は大好物で、でも、意外に少なくて……。
タオももっと色々な場所を見て歩きたいだろうし……。
お気に入り、いいね評価などいただけましたら、たいへん励みになります。
いいねのハート、お気に入りは下です。
ともあれ、ここまでありがとうございました!
突然押し寄せる蟹の大群との死闘、神の戦い、大女神の降臨……そのどれをとっても、吟遊詩人が語り継ぐに値する歴史的大事件。
しかも、それだけの戦いであったにも関わらず、街の犠牲者はゼロ。
それもまた、大女神ヘラの起こした奇蹟。
戦いが終わって、気が抜けたようにその場に座り込む者。
死んだはずの自分が五体満足でいる状況に、何が起きたのかもわからず混乱する者。
そんな仲間の姿に、涙を流して感謝を捧げる者。
太陽が東の空を明るく照らし出す様子に、この戦いは本当に終わったのだと、兵士、冒険者たちの間に安堵の感情が広がっていく。
「皆、よく戦ってくれた! あとの片付けは他の者に任せ、まずは休んでくれ!」
そんな戦場に、領主バルドの声が響き渡る。
バルドもまた、安堵していた。
ヒドラ襲来に始まる一連の事件も、これでやっと方が付いた。
まさか、その原因が先祖であるヘラクレス神様と他の神とのいざこざにあったとは……。
おまけに、そのいざこざを収めるために、ヘラ様がこの地に降臨なさるなどとは、思いもよらなかった。
それにしても、あのタオ殿がまさかヘラ様とも面識のある方だったとは……。
その力のほどは、アンドレから聞いてはいたが……巨大な東方の龍を使役し、悪霊の群れを焼き尽くす様は、まさに神話に語られる神々のようであった。
実際、降臨なされたヘラ様は、迷惑をかけたとタオ殿に頭を下げられたのだ。
神話でも、非常にプライドの高い女神であると語られるあのヘラ様がだ。
正直なところ、もしこの街にタオ殿がいなかったとしたら、ヘラ様がこの街にここまでしてくださったかどうか……。
案外、ご自分の眷属神の感情を優先して、この街を滅ぼすことを黙認されたのではないだろうか……?
そんなことを考えつつタオの方を見れば、カティやレイア嬢と蟹の食べ方について何やら話している。
そんないつもと変わらない様子に、肩の力が抜ける。
まぁ、タオ殿はタオ殿だな。
「皆が十分に休んだら、そのあとは祝勝会だ! 幸い、大量の蟹が手に入ったからな!
化け蟹の肉は美味いと聞く。皆も楽しみにしてくれ!
蔵の酒も解放するぞ! 皆、心ゆくまで呑んでくれ!」
「「「うおぉぉ~~~!!!」」」
こうして、一連の事件は幕を閉じた。
その夜の祝勝会の蟹祭りは、大いに盛り上がったという。
西方では定番の蟹のリゾットやパスタ、レモンとオリーブで味付けした蟹のグリルだけでなく、蟹の小籠包や蟹チャーハン、はては蟹しゃぶや蟹クリームコロッケまで……。
そこには、おそらく東方の、見たことも聞いたこともない珍しい料理も数多く並んだという。
それらの幾つかは、そのままラモスの名物料理として定着し、領都を訪れる者の舌を楽しませたという。
大量に手に入った蟹の外殻は、カテリーナ謹製の解体道具によって高級防具へと姿を変え、街の経済を大いに潤すことになる。
水運によって大量高速輸送が可能になった上に、今ではその運河で事故や魔物による被害は一切起こらない。
カルキノスが、ヘラの指示を守って運河を守っているから。
後に、その功績によりカルキノスは運河を守る土地神として、ラモスの民から一定の信仰を得ることになる。
信仰といえば、もう一つ。
あの戦い以降、ラモスの地は大女神ヘラ降臨の地として、聖地の一つに数えられるようになった。
さらに言えば、ラモス領を治めるラモス家は確かに英雄神ヘラクレスの血を引く一族であると、誰も疑わなくなった。
神々を祖に持つと言って権威付けする統治者は多いが、その全てが真実とは限らない。
そんな中で、ラモス家は本物だと、あの事件をきっかけに周辺諸国に認知されたのだ。
それによって、ラモス領の目を見張る発展を目にしながらも、ラモス領に攻め入ろうと考える領主はほとんど現れなかった。
そもそもの話、運河を使う北側、ネメア平原を挟む西側からの進軍については、ラモス領は一兵の兵を置かずとも、その全てが凶悪な魔物の手によって阻まれてしまうのだ。
その上、領主を筆頭に精強を誇るラモス軍に、ラモスを活動拠点とする高ランク冒険者たちまでいる。
現ラモス冒険者ギルドマスターは領主の息子だし、副ギルド長はその妻。しかも、その2人は揃ってSランク冒険者でもある。
さらに言えば、領主の娘が代表を務めるカティ工房の武具は、他の武具とは一線を画す性能を誇っている。
ラモス領を敵に回すということは、それらの武器防具も手に入らないということ。
これもあって、名を馳せた将軍や騎士ほど、ラモス攻略には難色を示す。
結果、これほどの発展を遂げながらも、どこからも侵略を受けることなく、ラモスの街は大いに栄えたという。
そんな賑わう通りの片隅で、楽しそうにお菓子を食べ歩く東方人の少女を時折見かけることもあるが、それを特に気にかける者はいなかったという。
>
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
一応、ここまでで一旦完結となります。
続きは、今後の状況次第ということで。
仙人の話は大好物で、でも、意外に少なくて……。
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ともあれ、ここまでありがとうございました!
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