狼になれなかったルゥ

長雨弥生

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後編

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 そのとき、お母さんキツネもルゥを追いかけてこの山に来ていました。お母さんキツネは近くにいた狼に、震える声で尋ねました。

「あの、もし、ルゥを知りませんか……?」

 狼はお母さんキツネの方をちらと見ると、にやにや笑ってドンと突き飛ばしてしまいました。

「きゃっ!」

 地面に倒れたお母さんキツネは、鋭い声でコ──ン!と鳴きました。それがお母さんキツネの精一杯の威嚇だったのです。狼は立ち上がったお母さんキツネを、何度も突き飛ばしました。

「お母さん!」

 ウォンがお母さんキツネを見つけました。お母さんキツネはウォンを見つけるなり、狼たちを蹴散らして一目散に抱き締めました。盃が床に転がって、お酒が地面に吸われて、全部なくなってしまいました。

「馬鹿っ! まったく、アンタって子は……」

 お母さんキツネはルゥを無事な姿で見つけて安心し、ぽろぽろと涙をこぼしました。ウォンが抱き締め返そうとした、その時でした。

「ウォン! そのよそ者をやっつけな!」

 グーでした。

「狼なら、そのキツネを追っ払うんだよ! できないなら、群れから出てお行き!」

 グーはそう言って、ウォンをじっと見つめました。ウォンは前掛けを引きちぎるように外し、お母さんキツネを抱き締め返しました。そうして、グーに向かって威嚇しました。

「ギャウ! ギャウ!」

「アオーン!」
 グーはひと際高い声で鳴きました。

 ルゥとお母さんキツネはわき目も振らずに山を下りました。狼たちは、追ってはきませんでした。

 それからルゥは、お母さんキツネや周りの言うことをよく聞くようになりました。なんてったって、ルゥはこの群れの一員だからです。ルゥは今でもあの時のことを思い出して、どきどきします。もしもあの時一人前の狼になっていたら、どうなっていたことかしら。美味しいリンゴはきっと、食べれなかったことでしょう。

 だからルゥは一人前の狼よりも、見習いキツネの方がずっと良いと思うのでした。
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